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1章 異世界起床編
第7話 新興都市レスト
しおりを挟む「まずは、地理のお勉強からですかねー?」
ルリアは木製の小棚から、地図を取り出し、テーブルに広げる。
「ここが、新興都市レスト。今いる場所だよ? えーっと……」
「あぁ、レイジ=クライです」
「レイちゃんは、この街の事もぜぇんぜん覚えてないんだよねぇ?」
「……はいそうです。色々教えて下さい。」
いきなりのレイちゃん呼びに一瞬困惑したが、気にせず続けることにした。
ここでツッコミを入れても逆に面倒なことになりそうだという直観で……。
「えーっとこの街はねぇ、まだまだ出来て間もない街なんだよねー。だから他の都市と比べても規模は小さめだから街もここだけだし、総称してレストって呼んでるよ。出来たのは、三~四〇年前くらいだったかなぁ。確かそんくらいだったはずだよ」
三~四〇年となると、ほとんど自分の年齢と大差無いことに気づき、「本当に、新しい街なんですね」と呟く。
「もっともーっと大きな都市が、北と南にあるんだけどー、ちょーっと距離があってねー。冒険者や商人たちが、中継地点用の街として興したのがきっかけの街だから、冒険者や商人がたくさんいるしバザーなんかもよく開かれてるよー。街の地図あげるから後で行ってみたらー?」
そう言うと、丸めた羊皮紙をぽいっとカウンターに出される。
手に取り広げてみると、ギルドを中心に街の様子が細かく描かれている。
これは後でじっくりと見てみよう、そう思い無意識にカバンにしまおうとするが完全な手ぶらであることに気づき、仕方がなくきれいに折りたたんで服のポケットにしまうことにする。
「後で暇ができたら寄ってみます。ありがとうございます」
「いいよいいよー。どーせギルドで無料で配ってるやつだし。失くしちゃったらまた取りに来たらいいよー」
ギルド職員とは思えない発言に思わず力が抜ける。
そんな様子を気にする素振りもなく、ルリアは続ける。
「そんでねー、ギルドが何をしているかというと、簡単にまとめれば三つかな」
三本の指を立てて、それを頬に当てながらルリアは続ける。
「一つ目は、冒険者へのクエストの発注。あそこに掲示板が並んでるでしょ? あそこに、冒険者向けの一般人には少しむずかしい依頼がかかってるんだー。二つ目は、酒場の運営。クエストの仲介料だけじゃ、なかなか厳しいからねー」
「酒場の運営というのは、基本ギルドが運営しているもの、なんですか?」
「基本的には個人運営がほとんどだよー。ただ、だいたいの人がギルドに所属はしてるけどねー」
「所属……?」
「まぁそのへんは追々必要になったら説明するよー。店を立ち上げるつもりなら、先に説明するけどぉ?」
確かに今は不要な情報かと感じ、そうですねまた追々、と返事をする。
「そんでそんでー、三つ目が一般的な仕事の斡旋だよ。これが一番レイちゃんに必要なんじゃないかなーって思うんだけど、当たってる?」
両肘をついて頬杖をつきながら、にへにへとした笑みを浮かべながら聞いてくる。当たってはいるが、なぜこんなにも煽られているような気分になるのだろうか。
「そうですね……。ひとまずは日雇いでもいいので、お金を稼ぎたいです」
「そんじゃあの端の方にある掲示板からやってみたい仕事の紙を取って、私に提出してくれたら手続きオッケーだよ。申請とか確認とかはこっちでやるからー。あ、ちなみに初めて斡旋を受ける人が仕事を受けると、依頼料の半額をギルドが負担することになってるからー、新人はむしろ歓迎されるんでー安心してくださいねー」
なるほど、賢いやり方だと感じる。
一度仕事に来てもらった人のほうが融通が利く分、慣れていない人を採用するメリットを与える事で、仕事を循環させているのか。
「でも、それでギルド側は儲かるんですか?」
「もっちろん、貰うものは貰ってるからねー。だから受付の仕事も結構割がいいんだよー? その分競争率も高いけど」
親指と人差し指の先をくっつけるジェスチャーを取るルリア。
そんな中、なぜコイツが採用されたのか。
それはこの際置いておくとして、なるほど。
ギルドは庶民の生活の中にも、当たり前のモノとして存在するようだ。
「だいたい最低限のことは分かったかなー? 分かったならギルド会員登録をするから、この用紙に名前とか住んでるとことか、必要事項をお書下さーい」
こちらの返事を待たずにルリアは再び小棚から新しい羊皮紙を取り出しテーブルに置くと、トントンと人差し指で用紙を叩く。
カウンターに置かれている、炭色をした筆記具を手に取り用紙と向き合うが、困ったことに『書きたくても書けない項目』がいくつかある。
名前と年齢は書けるとして、住所不定・生まれた国不定となればどうすれば良いのか。
ルリアに聞いてみようとも思ったが、ひとまずは『住所:無し』『生まれた国:記憶喪失により不明』と書いてみる。
突き返されたらその時改めよう。
そう考え、そのまま用紙の向きを変えてスッと突き返す。
「書けましたけど、これで大丈夫ですか?」
「えーっと、どれどれ……って、記憶喪失なのはわかりますけど、住所無しって、まじですか?」
今度は呆れた顔でため息まじりに言われる。
「記憶がないので、どこに帰っていいかも分からないですから」
「あー、それもそーですね。どうしましょうかー。記憶がない人の登録なんてしたことないですし」
『おい、記憶が無くても大丈夫じゃなかったのか』と喉の先まで出かけたが、ギリギリの所で抑える。
「―――あ」
ルリアの口角が上がり、意地の悪い笑みをこちらに向けてくる。
恐らく、碌でもない提案に違いないと思ったが、他に縋るモノの無い俺は仕方なく続く言葉を待つ。
「いいことおもいつきましたよ。私の家の隣に小さな屋根付きの馬小屋があるんですけどー、ちょーっと私のお手伝いをするだけで、タダで住まわせてあげてもいいですよ?」
小悪魔ようなその笑みに悪寒が走る。
一体、ちょっとの手伝いとは、何なのだろうか……。
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