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1章 異世界起床編

第10話 市場

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 お腹も膨れ、人心地ついた俺はしばらく子馬が干し草を食べる様子をぼーっと眺めて休息していた。

 時計は無い為、だいたいの感覚ではあるが小一時間か二時間くらいだろうか。
 そのくらい経ってから、俺は重い腰を上げ、地図と預かった銅貨を持って、指定された店に向かうことにした。

 市場やバザーは、街の南側に位置しているらしく、先程通ってきた噴水のある十字路を、そのまま南に抜けると、市場がある通りの端に出るらしい。

 お尻についた土埃を払いながら敷地の外に出る。
 子馬が尻尾を振りながらこちらを見つめている。
 見送ってくれているような気持ちになり手を振ってみると、ブルルンと小さく鳴いてくれた。

 市場に近づくと、段々と人々の喧騒が大きくなってくる。
 街を囲っている高い壁が近くに見えてくる頃には、たくさんの人で賑わう活気のある市場の様子が目に入ってきた。

 どこかで楽団のような団体が演奏でもしているのか、愉快で軽快な音楽が聞こえてくる。
 まるで某動画サイトで聞いたことの有る、ケルト音楽のようだ。

 なんとも耳心地が良い。
 思わず足を止めて聞いていたくなるが、今はそうもしていられない。

 市場には布で出来たシャツを着ているだけの生活感のある格好をした人や、子連れの人から冒険者風の人まで多岐に渡っており、また様々な種族が入り乱れていた。
 
 猫耳をはやしている女性や大柄のクマのような男、背は小さいが立派なヒゲを生やし大きなハンマーを背中に背負ったドワーフのような男性、中には三十センチくらいの妖精のようなものまでいる。

 いかにもファンタジーといった風景で、漫画やアニメの中でしか見た事のない光景に、思わず心が踊る。

 先程まで途方に暮れ少し落ち込んでいた自分もいたが、に憧れていた自分も確かにいたようで、思わず口角が上がりそうになるのを我慢する。

 流石にニヤニヤしながら市場を歩いていたら、どころではない不審者っぷりになってしまう。

 俺は誤魔化すように地図を眼前に広げ、改めて目的の店の位置を確認する。
 ルリア曰く、市場の西端から少し歩いた壁側にある『オキト―菜家』という店らしい。菜家というからには、野菜を売っているお店だろうか。

 目的の場所に近づくにつれて歩幅を狭め、壁側にある店を1件ずつ丁寧に眺めながらしばらく歩いていく。

 すると、鼻の下と顎に立派なヒゲを蓄え、何故か目をつむり、腕を組んであぐらを組む一人のドワーフ風の男性が目に入ってくる。
 その店の看板に目をやると、目的の文字列が書かれていた。

 店は絨毯のような敷物と、砂漠が舞台の映画でよく見るような布タープのみで構成されており、絨毯の上には多くの木箱とその箱に詰められた多く野菜が並んでいた。
 素人目ではあるが、どの野菜も新鮮そうで美味しそうではあった。

 少し野菜を眺めてから、中央にどっしりと座り込んでいる店主に声をかける。

「あのー、すみません。スープに合う野菜を探しているんですけど」

「……」

 返事がない。聞こえなかったのだろうかと思い、再度声をかける。

「あのー、スープに合う野菜を探しているんですけど、どれがいいでしょうか」

 すると片目だけパチッとひらき、店主と目が合う。そして店主は無言のまま手を木箱に伸ばすと、素早い手付きでいくつかの野菜を手に取り革袋につめる。

 そして「じゅうペリンだ」と低く渋い声で一言だけ呟き、革袋をこちらに突き出してくる。

 同時にもう片方の手も伸ばし、そちらは手のひらを向けている。
 恐らく金を手のひらに乗せろという意味だろう。

 俺は急な展開に焦りながらもいちペリンが銅貨一枚と推測し、銅貨を十枚手に取り「これで足りますか」と尋ねながら店主の手のひらへと乗せた。

「……ちょうどだ。それから袋はサービスだ。次からはもってこい」

 そう言って皮袋ごと手渡してくれる。
 そして銅貨を懐にしまい込むと、再び腕を組み目をつむって黙り込んでしまった。

 なんとも寡黙な商売人だと感じながらもどうもと小さく頭を下げてから、その場を後にすると後ろから「また来な」と声をかけられた。
 なんとも渋い男である。

 そんなこんなで当初の目的は果たすことが出来た。

 折角なので、市場の反対側まで歩いてからルリアの家に戻ることにする。
 途中何か美味しそうなものがあれば、残った銅貨で買ってもいいかもしれない。
 まだ銅貨は十枚程度は残っていたので、のんびり散策を始めることにした。

 歩きながら市場の様子を観察していると、主に食品を取り扱う店が多かったが、キレイな宝飾品を売っている店・骨董品屋・服飾屋などもあり、冒険者向けの武器や防具を売っている店もあった。

 また漂ってくる香ばしい匂いの誘惑に負け、焼き鳥のような串物を買って食べたが、とてもジューシーで美味しかった。
 銅貨の枚数は七枚に減ってしまったが後悔はなかった。
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