悪役令嬢とドラゴン王子

杏仁豆腐

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第3章 逃走 

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――数日の月日が過ぎた。


もうルクは次の目的地に言っているのだろうか。
私は国王の命により未だこの部屋に留置されたままだった。
ただ、客人として侍女を付けてくれるというまるで要人の扱いを受けているのだ。
帝国の姫では無い私をここまで手厚くもてなしてくれるなんてと思いながら日々を送っていた。


「エリーザ姫、ご昼食がご用意できました」


城に仕える侍女がそう私に話しかけてきた。
何度も『わたくしはもう姫ではない』と言っているのに一向にそれを直そうとはしなかった。
本当に他国の姫を扱うような礼儀正しさ。
私はもう否定することを止めていた。


「有難う御座います。此処でお食事を、ですわよね?」
「はい……誠に申し訳ございません。国王殿下のご命令なのです。本当は天気が良いのでお外でお食事をされた方がご気分も良くなると思うのですが……」


良いのです、私は侍女にそう言った。
私が帝国の反逆者だという立場が変わったわけではないのだ。
下手に外に出して逃げ出すことを考えての処置なのだろう。

そう思いながら運ばれてきた料理を口にした。
この国の食べ物はどれも美味しかった。
恐らくいい土や肥料が良いのであろう。
それに大陸の中でも貿易が盛んな国だ。珍しい物もここでは手に入る。

食事を済ませると私はソファに座り大きなガラス張りの窓の外を眺めた。
綺麗に済んだ青色の空。それに白く大きな雲がゆらゆらと優雅に揺れながらゆっくりと風に流されていく。


「わたくしもあの雲のように優雅に風に揺られて行きたい……」
「ならば、その夢、叶えてやろうか?」
「……っ!?」


私の呟きに誰かの声が返って来た。私は驚いて辺りを見回した。
しかし誰もいない。空耳だったのかと思って再び窓の外に視線を戻すとそこにルクが立っていた。
驚いた私はソファから立ち上がて窓のに向かって歩いた。


「どうして……? 次の場所へ向かったのではなかったのですか!?」
「其方は私の妻、妃として迎えると言っているではないか。其方をおいて出るなど、私には出来ぬ」
「でも…わたくしは……」
「ここを出よう、エリーザ」
「………」


ルクが窓の向こう側で私に向かって手を差し伸べて来た。
その手を取りたい、ルクと一緒に行きたい。
でも……でも……。


「エリーザ様。殿下がお呼びで御座います。王の間へお越しください」
「え……!?」


振り返るとそこには侍女が立っていた。
私は再び窓の外を見たが先程までいたルクが姿を消していた。
あれは幻だったの? 
確かにあそこにルクが居た気がしたのに……。


「……今、参ります」


私はスカートの裾を少しあげて侍女の後ろをついて王の間に向かった。
どんな沙汰が下されるのだろうか。
私は一体どうなってしまうだろうか、そんなことが頭の中でぐるぐると回っていた。





―――王の間。

「エリーザ。すまない。其方の父君と話をしたが相手は一向に話を訊こうとせなんだ。儂の力不足、すまない。もう間もなく其方を迎えに使者がこちらに到着するであろう。其方を引き渡すことになってしまった。申し訳ない、エリーザ」


膝まずく私に向かって国王は寂しげな声でそう告げた。
はやり私の運命は変わらなかった。
一時の時間を与えられた自由。
数日間だったけれど自分の心の整理が出来たことだけでも国王には感謝。


「陛下、お心を痛めないでください。わたくしは大丈夫です。色々と有難う御座いました」
「エリーザ……済まぬ」


国王はそう言って立ち上がり王の間を立ち去った。
私が使者に連れていかれるのを見るのが辛いと言っていた。
それだけでも国王には感謝だ。


私は応接間に再び戻り帝国の使者が到着するのを待っていた。すると……。


「エリーザ、行こう」
「え……?」

また声が聞こえた。
俯いていた私はふと顔を上げ窓の外を見ると、そこにはやはり先程見たルクの姿があった。


「ルク…様」
「さぁ、早くっ。時間がないのだ」
「ルク様っ!」


私はスカートの裾を挙げて窓の所へ駆け寄って窓を開けると空中に浮かぶルクが私の手を取って空に飛んだ。
凄い風と白い雲が顔に当たって息苦しい。
初めて空を飛んだ。
下を見ると小さな建物と粒くらいの民たちの姿が見える。
どんどん城が小さく遠くに遠くに……。


「初めての空の旅はどうだ、エリーザ」
「ルク様っ。息苦しいです」
「はっはっは、そうか。済まぬ、もう少しの辛抱だ」


笑いながらルクはスピードを上げた。
顔にかかる風に我慢できずぎゅっと目を瞑る。
落ちないようにルクの手をしっかり握りしめていた。
暫く空を飛んだ後、森の中に入り地に足が付いた。


「怖かった……」


私は声に出してそう言った。
それを聞いていたルクが笑いながら私の頭を優しく撫でてくれた。
初めての経験…空を飛ぶという事、空を自由に飛ぶ鳥たちはこのような風景を見ていたのだろうか。
私はルクと再び旅に出ることになった……私を庇ってくれていたエルドランド王国から逃走してしまったのだ。
また一つ私に罪が重なってしまった事を私と隣でにこやかに笑うルクはまだ知らなかった……。
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