悪役令嬢とドラゴン王子

杏仁豆腐

文字の大きさ
29 / 34
第7章 故郷

3

しおりを挟む
朝ご飯を済ませていよいよ出発の時。
私は部屋を出て入り口へ向かって歩いていた。
ルクの故郷がどのような場所なのかを想像しながら。
屋敷の入り口には既にルクが待っていた。
私を見ると微笑んでくれていた。


「準備はよいか?」


ルクが優しい声でそう訊ねた。
私は、はい、と答えた。


「では、参ろうか」


伯爵に礼を行って屋敷の外へ出た。
今日も空が青く美しい。
小鳥たちが囀りながらまるで私たちの出発を応援しているかのように聞こえた。
国境までは馬車を使って移動。
伯爵が用意してくれていた馬車の中で私はルクに訊ねた。


「ルク様の故郷ってどんなところなんでしょう」
「またその話か? 随分と興味があるんだな」
「あら、私同じことを質問してましたか?」
「ああ、これで2度目かな。そうだなぁ~、民たちは皆活気づいているぞ。それにドラゴンになれるのは前にも話した通り一部の貴族や王族のみ。血筋が関係しているんだ。あとは、魔法が使えるものも限られている。あとは他の国とそんなに変りはしない。ただ……」


ルクが話を濁した。
何だろう、私はルクの顔を見つめた。
ルクは私に笑顔を見せながら続きを話した。


「ただ、其方のいたヨ―ルリアン帝国とは疎遠なのだ。あの国は他国に比べ閉鎖的でな。私たち竜族を認めようとはしない。敵対心があるわけではないのだがな。其方が城に幽閉された時は流石の私も必死で大変だったのだ」


そ、そんなことが……。
帝国が他国との交流に対して閉鎖的であったことはルクと色々な国へ行って思っていたことだったけれど、そこまでだとは思わなかった。
しかし、確かに私は竜族の事は知らないこと。
ヨ―ルリアン帝国の第一王女だった私がルクの故郷へ行っても問題ないのだろうか。
少し心配になってしまった。


「私がドラギウス国へ行っても、ルク様のご迷惑にはならないのでしょうか。私は国から追放され、それからその罪が無実だったことが証明されて、今また身分としては第一王女だと思います。そんな人間を連れ出したとなればルク様にご迷惑をお掛けすることになるかと」
「うむ。その辺はどうにかせねばならない。いずれ其方の国王にも接見を求めるつもりだ。ただ今は私の父君、母君に其方を紹介する方が先決なのだよ。言ったであろう? 私はただ旅をしている訳じゃないのだ。私に相応しい伴侶を探していると」
「確かに……私なんかで宜しいのでしょうか」
「問題ない。其方は堂々としていればよいのだ。何も心配することはないのだから」


はい、私はそう答えた。
馬車は国境付近に向かって走り出している。
その中で時折揺れる中で私はルクを見つめた。
ルクは優しく微笑み返し、私の手を取りぎゅっと握りしめてくれた。
私はルクの暖かな手のぬくもりを感じながら握り返した。もう、あとには引き返せない。
何れは帝国へ行き、お父様やお兄様にこの婚儀のお許しを得ねばならない。
私はそう思いながらずっとルクの事を見つめていた。
国境付近に着き、馬車を降りると、目の前には森が見える。

「さ、出発だ」
「はい、ルク様」

手を握りしめながら馬車を後にして私たちは森の中へ入って行った。

しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

冤罪で婚約破棄したくせに……今さらもう遅いです。

水垣するめ
恋愛
主人公サラ・ゴーマン公爵令嬢は第一王子のマイケル・フェネルと婚約していた。 しかしある日突然、サラはマイケルから婚約破棄される。 マイケルの隣には男爵家のララがくっついていて、「サラに脅された!」とマイケルに訴えていた。 当然冤罪だった。 以前ララに対して「あまり婚約しているマイケルに近づくのはやめたほうがいい」と忠告したのを、ララは「脅された!」と改変していた。 証拠は無い。 しかしマイケルはララの言葉を信じた。 マイケルは学園でサラを罪人として晒しあげる。 そしてサラの言い分を聞かずに一方的に婚約破棄を宣言した。 もちろん、ララの言い分は全て嘘だったため、後に冤罪が発覚することになりマイケルは周囲から非難される……。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

婚約破棄までの七日間

たぬきち25番
恋愛
突然、乙女ゲームの中の悪役令嬢ロゼッタに転生したことに気付いた私。しかも、気付いたのが婚約破棄の七日前!! 七日前って、どうすればいいの?!  ※少しだけ内容を変更いたしました!! ※他サイト様でも掲載始めました!

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

5年経っても軽率に故郷に戻っては駄目!

158
恋愛
伯爵令嬢であるオリビアは、この世界が前世でやった乙女ゲームの世界であることに気づく。このまま学園に入学してしまうと、死亡エンドの可能性があるため学園に入学する前に家出することにした。婚約者もさらっとスルーして、早や5年。結局誰ルートを主人公は選んだのかしらと軽率にも故郷に舞い戻ってしまい・・・ 2話完結を目指してます!

処理中です...