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犯人探求編
59.レオの夢
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「うちの家で祝祭を祝いたい?うん、アリオンならいいよ。でも、イヴリン姉さまがやたらアリオンのことに興味持っていたけど、大丈夫?」
イヴリン。レオの姉にして、生徒会書記。品があり私の悪口も言わない淑女の中の淑女ではあるが、同性同士の結婚・出産に執念を燃やしていた。つまり、私に子宮を作りたいのだろう。子宮を作って私がアウレリウスと子作りできるようにするつもりなのだろう。くそ、私たちはそういう仲ではないと誤解を解きたいが、宿泊はリスクが大きいか!
「・・・えと、アバラの家はどうかな?」
「ええで!!でも、地方やで珍しい風習があるんやけどええ?」
「珍しい風習?」
「そそ、男は全員裸になって、雪の中ぶつかり合うっていう風習。おチビは怪我人やから免除の可能性はあるけど、免除じゃなかった場合は左足の包帯だけ見逃してもらえるかもしれんなあ」
アバラ・・・?お前、そんな因習村に住んでるのか・・・?
これは、私は子宮を作られるか裸で雪の上をたたずむかの二択なのか!?そんな最悪な二択聞いたことないぞ!?
なお私は学生時代は学園に一人残っていた。図書館をはじめ、すべての道具が使いたい放題だったので楽しい時期ではあったが、アウレリウスは絶対に認めないだろう。
「冬季休暇のお話ですか?アリオン君、帰る宛に困って・・・?」
「あれ、副会長さんやん!!お久しぶりです!!」
「アバラ君、うちの兄の名誉回復を頑張ってくれてると聞いて、今日はお礼に来たんですよ。身内の僕では誰も耳を傾けてはくれないでしょうから、本当に助かっております」
弟のロージは廊下で三人で喋っていた私たちに近づき、頭を下げた。そして話題に加わる。
「おかげさまで、最近は兄の噂がプラスになり始めてきたんですよ。紫紺の森や夜間の外出禁止。ローゼルアリオンの決めたルールのおかげで、守られていたことも多かったのかもしれないと」
「紫紺の森と夜間外出禁止は、復活するんですか?」
「いえ、誘拐の犯人を捕らえたことによって、もう安全という教授陣の判断が下されたそうです」
いや、犯人が捕まったからと言って仲間がいないとも限らないんだ。随分雑な判断だな。
「それで冬期休暇のお話をされていたんですよね?でしたらうちはいかがでしょうか」
ありがとうなロージ。お前から誘われるのが一番禁忌中の禁忌なんだよ。
そう、それは私にとって実質的な実家帰りということになるからだ。そして、私のこの容姿は幼いころの容姿だ。つまり、実の両親に見られたが最後、私の正体は看破される。やっと死んでくれた息子が蘇ってやってきたら、どうなるだろうか。十中八九殺される。
宿泊先は、ベッドからなるべく動かなくても顰蹙の買わない場所がいい。それか、私をおぶってくれる人がいる場所。
体を動かさずにさえいれば消費魔力も少なくできるし、本当は嫌だが麻酔代わりの闇魔法を止めれば更に消費魔力は減らせる。故に、あまり魔力供給については考えないでおこう。
どうする、どうすればいい?
私に残された選択肢は、
①アウレリウスと王宮へ行って淫欲の限りを尽くす
②マラカイと魔塔に行ってトラウマ殺人現場で過ごす
③レオの家に行って子宮を作られる
④アバラの因習村で真冬に裸で過ごす
⑤弟についていき、実の両親に殺される
以上五つの中から一つを選択せねばならない。
「②・・・が一番・・・マシ・・・かなあ・・・・・」
「どうしたんおチビ!?目が死んどるよ!?星辰の祝祭前にテンションそんな下がる奴初めて見たよ!?」
「アリオン君、別にうちの両親は怖い人ではありませんよ?アリオン君を決して食べたりなんてしませんし」
自分が殺された現場で寝泊まりか・・・。嫌だな・・・。でも他の選択肢より幾分マシかな・・・。そうして私たちがワイワイと喋っていると、更に別の人間がやってくる。
「おーおー、お前らこんな廊下の道中で何を盛り上がってんだ?」
「ロギルジョー!」
ロギルジョーは私たちに近づき、話に加わる。凄いな、大人数が盛り上がってたら、話題を合わせるのが面倒だから、私は絶対に輪に入ろうとは思わないぞ。陽キャって本当に勇気あるな。
「ふーん、アリオンが休暇先に困ってる、ねえ?ならうちはどうだ?ま、まあお前が嫌がるなら別にいいけど。あくまで提案っていう奴で、誘ってるわけじゃねぇけどな?」
ロギルジョーは照れ隠ししながら、クイクイと手を動かした。
ロギルジョーの家。つまりは王宮である。それすなわち、アウレリウスの誘いと行先は一緒ということだ。何の意味もないだろうが。
・・・いや、待て。
ロギルジョーの誘いに乗るということは、だ。
王宮に行くというアウレリウスの誘いを了承しつつ、体の関係は受け流せるということにならないか?これは、今までで一番良い選択肢かもしれない。
「よし、ロギルジョー!!乗った!!」
「そうこなくっちゃな!!別に、友人を招くのが初めてで嬉しいってわけじゃないんだからな!!」
ロギルジョーの貴賓となればロギルジョーが客室を用意してくれるということになる。
ただ、これは下手したら私が第二王子派とみられるだろう行動ではあるものの、しかし学友と押し通せばいいこと、またこの前の事件で第二王子派に有利になることを起こしたときにアウレリウスはその点は気にしていなかったこと。
つまり、最適解はロギルジョーなのである!!今度こそ王宮でこいつのスキャンダルを掴んで、メディアに売り込んでやる!!醜態を晒せ、我が息子の政敵・第二王子め!!
「ところで王宮内は記録用器具の持ち込みっていいのかな?」
「まあ、節度ある使用だったらいいんじゃないか?ひょっとして俺と遊ぶ時間を記録しようとしているのか?」
「うん、ロギルジョーの面白写真を沢山撮りたいなあって!」
よし、これで自然とパパラッチが出来る。アウレリウス、私はお前の為なら汚い行為だって出来るのだ。
キーンコーン
「あ、鐘が鳴りましたね。では僕は二年生の棟へ戻ります。皆さんも授業に遅れないように気を付けてくださいね」
そうしてロージとは別れ、またアバラとロギルジョーも別の教室へ向かっていった。私が今から取った授業は魔法生物学。教室は広い空間ではあるが、窓には格子が付けられており、日の光をまばらに遮っている。魔法生物学では魔法生物を実際に触ることもあるのだ。故に、過去には暴れて窓を突き破り、逃げていったものも少なくないらしい。
「今日は僕とレオなんだね。アバラは別の授業なのか」
「ああ、アリオンはこの授業は今日が初めて?実はね、アバラは教授の神経を逆なでしちゃったから、出禁になっちゃったんだ」
教授の神経を逆なで?
私は学生時代は魔法生物学を取っていなかったため教授に詳しくないが、そんな神経質な人なのか。どうせ学び直すなら過去に取らなかったものを取った方が面白いとの判断だが、面倒な教授はもうドレイヴンとジェルドでこりごりだ。
「レオは動物が好きなの?」
「そういうアリオンは好きなの?予想では嫌いな感じがするかな」
「まあ、確かにあまり得意ではないかな。動物から学べる事は少なくないとはいえ、だったら他の学問をやった方が旨味があるし」
レオは無言で私を見る。やがて、視線を戻し正面を見始めた。
「アリオンは、性善説と性悪説、どっち派かな?」
「・・・突然何の質問?まあ、僕は性善説派かな」
「そっか、だったらアリオンは心から優しい人なんだね」
動物が好きかという会話をしていたのに、突然性善説・性悪説の話が始まった。私は静かにレオの続きの言葉を待つ。
「この二択、生まれながら良い心を持っている人間は性善説、悪い心を持っている人間は性悪説を選ぶっていう持論があるんだ。だって自分が良い人間だって思っていなければ他人の善は信じないし、悪人って思ってなければ他人を悪とは思わないでしょ?」
「まあ、それはそうだね。自分を優しい人と思い込んでいる人が自分の悪に気が付いていないこともあると思うし、逆もあると思うから一概には決めつけられないけれど」
「僕は性悪説の立場なんだ。生まれながら人間はみんな未熟だよね。自分のことしか考えられない。優しい人間っていうのは、他人のことを考えて他人に優しくできる人間のこと。だったら人にやさしくできる能力を持っていない赤子は悪に属する。動物たちも」
そこでようやく動物という単語が出てくる。私は相槌だけで話の続きを促した。
「動物は、自分が生きるために自分のことしか考えない。他の個体のことを考えたとしても、それは番か子孫か。結局自分の利益か自分の仲間のことしか考えられない。故に動物もまた悪になる」
「でも主人がいる犬とかは、利益がないのに尽くしてくれるよね?」
「そう、人間によって手懐けられたとき、動物は自分の利益を越えて、他者を思いやる心が出てくることがある。それがもし下心からくるものだとしても、やがては本当の思いやりに発展する。悪が善へと昇華された瞬間なんだ」
変わった思考回路だ。しかし私は静かに頭で反芻する。一方レオは席に座ったまま私に向き直る。その表情は決意に満ちていた。
「アリオン、政治の世界には自分のことしか考えない悪がとても多いんだ。けれど、誰かが手を入れることで、良い方向へと導ける」
「レオは政治の参入を目指しているの?」
「うん、沢山勉強して沢山経験を積んで、いずれは宰相になって、殿下の手助けがしたいんだ。みんなが幸せになれる国を作ろうとしている、あのお方の」
レオは小さく拳を握る。
「それで調教の学習のために、ここに?」
「もちろんそういう意図もあるんだけど、いやいや、綺麗ごとだけでは政治は出来ないからね。動物っていうのは意外と話のタネになるんだよ。お偉いさんほど魔法動物をペットに飼ってるし」
侯爵家というカードを使えば、宰相は遠い夢ではない。けれど、そういうことではないのだろう。実力でつかみ取りたいのだ。
「そういうアリオンは政治の世界に興味はない?もしアリオンが一緒に来てくれるなら、百人力だよ!特にアリオンは殿下と親交があるから、悪い話じゃないと思うんだけど」
「あはは・・・、考えとくよ」
言えない。既に政治の世界は経験済みなんて。それも大失敗して殺されたなんて。とはいえ私と違って論理的に相手に伝えようとしているレオのことだ。きっと彼なら大成する予感がある。
それにしてもレオは私を公平に批判すれど悪口を言わないし、上昇志向もある。性格だって問題はない。ふむ。アウレリウスも、女性より男性の方がというようなことを言っていた。
「あー・・・、そういえば会長、婚約者の座が空いてるって言ってたなあ・・・。誰が選ばれるんだろうなあ・・・」
チラッチラっと私はレオのほうを見た。丁度いい、姉であるイヴリン嬢も、弟がそういう方向性なら背中を押してくれるだろう。
「そうだね。アリオンが王妃になってくれれば、僕らは連携して国を動かせると思うんだ。うん、アリオンは王妃、僕は宰相。お互いに夢をかなえようね!!約束だよ?」
・・・ん?今、勝手に人の夢を捏造された・・・?
訂正しようとしたその瞬間、教授が現れる。緑色のドレスを着た、巻いた茶髪のマダムだ。レオは口を閉じて前を見た。待て待て待て、このタイミングでこの話を流したら、完全に確定事項になってしまうだろうが!!
イヴリン。レオの姉にして、生徒会書記。品があり私の悪口も言わない淑女の中の淑女ではあるが、同性同士の結婚・出産に執念を燃やしていた。つまり、私に子宮を作りたいのだろう。子宮を作って私がアウレリウスと子作りできるようにするつもりなのだろう。くそ、私たちはそういう仲ではないと誤解を解きたいが、宿泊はリスクが大きいか!
「・・・えと、アバラの家はどうかな?」
「ええで!!でも、地方やで珍しい風習があるんやけどええ?」
「珍しい風習?」
「そそ、男は全員裸になって、雪の中ぶつかり合うっていう風習。おチビは怪我人やから免除の可能性はあるけど、免除じゃなかった場合は左足の包帯だけ見逃してもらえるかもしれんなあ」
アバラ・・・?お前、そんな因習村に住んでるのか・・・?
これは、私は子宮を作られるか裸で雪の上をたたずむかの二択なのか!?そんな最悪な二択聞いたことないぞ!?
なお私は学生時代は学園に一人残っていた。図書館をはじめ、すべての道具が使いたい放題だったので楽しい時期ではあったが、アウレリウスは絶対に認めないだろう。
「冬季休暇のお話ですか?アリオン君、帰る宛に困って・・・?」
「あれ、副会長さんやん!!お久しぶりです!!」
「アバラ君、うちの兄の名誉回復を頑張ってくれてると聞いて、今日はお礼に来たんですよ。身内の僕では誰も耳を傾けてはくれないでしょうから、本当に助かっております」
弟のロージは廊下で三人で喋っていた私たちに近づき、頭を下げた。そして話題に加わる。
「おかげさまで、最近は兄の噂がプラスになり始めてきたんですよ。紫紺の森や夜間の外出禁止。ローゼルアリオンの決めたルールのおかげで、守られていたことも多かったのかもしれないと」
「紫紺の森と夜間外出禁止は、復活するんですか?」
「いえ、誘拐の犯人を捕らえたことによって、もう安全という教授陣の判断が下されたそうです」
いや、犯人が捕まったからと言って仲間がいないとも限らないんだ。随分雑な判断だな。
「それで冬期休暇のお話をされていたんですよね?でしたらうちはいかがでしょうか」
ありがとうなロージ。お前から誘われるのが一番禁忌中の禁忌なんだよ。
そう、それは私にとって実質的な実家帰りということになるからだ。そして、私のこの容姿は幼いころの容姿だ。つまり、実の両親に見られたが最後、私の正体は看破される。やっと死んでくれた息子が蘇ってやってきたら、どうなるだろうか。十中八九殺される。
宿泊先は、ベッドからなるべく動かなくても顰蹙の買わない場所がいい。それか、私をおぶってくれる人がいる場所。
体を動かさずにさえいれば消費魔力も少なくできるし、本当は嫌だが麻酔代わりの闇魔法を止めれば更に消費魔力は減らせる。故に、あまり魔力供給については考えないでおこう。
どうする、どうすればいい?
私に残された選択肢は、
①アウレリウスと王宮へ行って淫欲の限りを尽くす
②マラカイと魔塔に行ってトラウマ殺人現場で過ごす
③レオの家に行って子宮を作られる
④アバラの因習村で真冬に裸で過ごす
⑤弟についていき、実の両親に殺される
以上五つの中から一つを選択せねばならない。
「②・・・が一番・・・マシ・・・かなあ・・・・・」
「どうしたんおチビ!?目が死んどるよ!?星辰の祝祭前にテンションそんな下がる奴初めて見たよ!?」
「アリオン君、別にうちの両親は怖い人ではありませんよ?アリオン君を決して食べたりなんてしませんし」
自分が殺された現場で寝泊まりか・・・。嫌だな・・・。でも他の選択肢より幾分マシかな・・・。そうして私たちがワイワイと喋っていると、更に別の人間がやってくる。
「おーおー、お前らこんな廊下の道中で何を盛り上がってんだ?」
「ロギルジョー!」
ロギルジョーは私たちに近づき、話に加わる。凄いな、大人数が盛り上がってたら、話題を合わせるのが面倒だから、私は絶対に輪に入ろうとは思わないぞ。陽キャって本当に勇気あるな。
「ふーん、アリオンが休暇先に困ってる、ねえ?ならうちはどうだ?ま、まあお前が嫌がるなら別にいいけど。あくまで提案っていう奴で、誘ってるわけじゃねぇけどな?」
ロギルジョーは照れ隠ししながら、クイクイと手を動かした。
ロギルジョーの家。つまりは王宮である。それすなわち、アウレリウスの誘いと行先は一緒ということだ。何の意味もないだろうが。
・・・いや、待て。
ロギルジョーの誘いに乗るということは、だ。
王宮に行くというアウレリウスの誘いを了承しつつ、体の関係は受け流せるということにならないか?これは、今までで一番良い選択肢かもしれない。
「よし、ロギルジョー!!乗った!!」
「そうこなくっちゃな!!別に、友人を招くのが初めてで嬉しいってわけじゃないんだからな!!」
ロギルジョーの貴賓となればロギルジョーが客室を用意してくれるということになる。
ただ、これは下手したら私が第二王子派とみられるだろう行動ではあるものの、しかし学友と押し通せばいいこと、またこの前の事件で第二王子派に有利になることを起こしたときにアウレリウスはその点は気にしていなかったこと。
つまり、最適解はロギルジョーなのである!!今度こそ王宮でこいつのスキャンダルを掴んで、メディアに売り込んでやる!!醜態を晒せ、我が息子の政敵・第二王子め!!
「ところで王宮内は記録用器具の持ち込みっていいのかな?」
「まあ、節度ある使用だったらいいんじゃないか?ひょっとして俺と遊ぶ時間を記録しようとしているのか?」
「うん、ロギルジョーの面白写真を沢山撮りたいなあって!」
よし、これで自然とパパラッチが出来る。アウレリウス、私はお前の為なら汚い行為だって出来るのだ。
キーンコーン
「あ、鐘が鳴りましたね。では僕は二年生の棟へ戻ります。皆さんも授業に遅れないように気を付けてくださいね」
そうしてロージとは別れ、またアバラとロギルジョーも別の教室へ向かっていった。私が今から取った授業は魔法生物学。教室は広い空間ではあるが、窓には格子が付けられており、日の光をまばらに遮っている。魔法生物学では魔法生物を実際に触ることもあるのだ。故に、過去には暴れて窓を突き破り、逃げていったものも少なくないらしい。
「今日は僕とレオなんだね。アバラは別の授業なのか」
「ああ、アリオンはこの授業は今日が初めて?実はね、アバラは教授の神経を逆なでしちゃったから、出禁になっちゃったんだ」
教授の神経を逆なで?
私は学生時代は魔法生物学を取っていなかったため教授に詳しくないが、そんな神経質な人なのか。どうせ学び直すなら過去に取らなかったものを取った方が面白いとの判断だが、面倒な教授はもうドレイヴンとジェルドでこりごりだ。
「レオは動物が好きなの?」
「そういうアリオンは好きなの?予想では嫌いな感じがするかな」
「まあ、確かにあまり得意ではないかな。動物から学べる事は少なくないとはいえ、だったら他の学問をやった方が旨味があるし」
レオは無言で私を見る。やがて、視線を戻し正面を見始めた。
「アリオンは、性善説と性悪説、どっち派かな?」
「・・・突然何の質問?まあ、僕は性善説派かな」
「そっか、だったらアリオンは心から優しい人なんだね」
動物が好きかという会話をしていたのに、突然性善説・性悪説の話が始まった。私は静かにレオの続きの言葉を待つ。
「この二択、生まれながら良い心を持っている人間は性善説、悪い心を持っている人間は性悪説を選ぶっていう持論があるんだ。だって自分が良い人間だって思っていなければ他人の善は信じないし、悪人って思ってなければ他人を悪とは思わないでしょ?」
「まあ、それはそうだね。自分を優しい人と思い込んでいる人が自分の悪に気が付いていないこともあると思うし、逆もあると思うから一概には決めつけられないけれど」
「僕は性悪説の立場なんだ。生まれながら人間はみんな未熟だよね。自分のことしか考えられない。優しい人間っていうのは、他人のことを考えて他人に優しくできる人間のこと。だったら人にやさしくできる能力を持っていない赤子は悪に属する。動物たちも」
そこでようやく動物という単語が出てくる。私は相槌だけで話の続きを促した。
「動物は、自分が生きるために自分のことしか考えない。他の個体のことを考えたとしても、それは番か子孫か。結局自分の利益か自分の仲間のことしか考えられない。故に動物もまた悪になる」
「でも主人がいる犬とかは、利益がないのに尽くしてくれるよね?」
「そう、人間によって手懐けられたとき、動物は自分の利益を越えて、他者を思いやる心が出てくることがある。それがもし下心からくるものだとしても、やがては本当の思いやりに発展する。悪が善へと昇華された瞬間なんだ」
変わった思考回路だ。しかし私は静かに頭で反芻する。一方レオは席に座ったまま私に向き直る。その表情は決意に満ちていた。
「アリオン、政治の世界には自分のことしか考えない悪がとても多いんだ。けれど、誰かが手を入れることで、良い方向へと導ける」
「レオは政治の参入を目指しているの?」
「うん、沢山勉強して沢山経験を積んで、いずれは宰相になって、殿下の手助けがしたいんだ。みんなが幸せになれる国を作ろうとしている、あのお方の」
レオは小さく拳を握る。
「それで調教の学習のために、ここに?」
「もちろんそういう意図もあるんだけど、いやいや、綺麗ごとだけでは政治は出来ないからね。動物っていうのは意外と話のタネになるんだよ。お偉いさんほど魔法動物をペットに飼ってるし」
侯爵家というカードを使えば、宰相は遠い夢ではない。けれど、そういうことではないのだろう。実力でつかみ取りたいのだ。
「そういうアリオンは政治の世界に興味はない?もしアリオンが一緒に来てくれるなら、百人力だよ!特にアリオンは殿下と親交があるから、悪い話じゃないと思うんだけど」
「あはは・・・、考えとくよ」
言えない。既に政治の世界は経験済みなんて。それも大失敗して殺されたなんて。とはいえ私と違って論理的に相手に伝えようとしているレオのことだ。きっと彼なら大成する予感がある。
それにしてもレオは私を公平に批判すれど悪口を言わないし、上昇志向もある。性格だって問題はない。ふむ。アウレリウスも、女性より男性の方がというようなことを言っていた。
「あー・・・、そういえば会長、婚約者の座が空いてるって言ってたなあ・・・。誰が選ばれるんだろうなあ・・・」
チラッチラっと私はレオのほうを見た。丁度いい、姉であるイヴリン嬢も、弟がそういう方向性なら背中を押してくれるだろう。
「そうだね。アリオンが王妃になってくれれば、僕らは連携して国を動かせると思うんだ。うん、アリオンは王妃、僕は宰相。お互いに夢をかなえようね!!約束だよ?」
・・・ん?今、勝手に人の夢を捏造された・・・?
訂正しようとしたその瞬間、教授が現れる。緑色のドレスを着た、巻いた茶髪のマダムだ。レオは口を閉じて前を見た。待て待て待て、このタイミングでこの話を流したら、完全に確定事項になってしまうだろうが!!
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