霧崎海風佐は戯れる

葉隠一

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鉄道は走り続けた

4.

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 当然、何の答えもない。それはそうだ。このお話に、時計の店の人は出てこない。返事かあるはずは無いのだ。私はそれを承知で声を発したのだ。本来、私の声はこの世界の誰にも届くはずは無いし、返事が返ってくることは無い。私の役割とは、そういうものである。

 だから私は、ここで語らせてもらいたいのだ。私は続けて言葉を発していく。

「この後、彼はお祭りへ行き、少し辛く寂しい想いをする。そこから幻想の世界へ旅立ってしまう。そして、それは夢であったことに気付く。目が覚めてから、現実に起こったことを知る。揺れる心を抱えて家路を急ぐ。そんなところ」

 私の目の前には変わらない時計の店が映る。

「彼が幻想の世界を旅するきっかけは、あなたではないの?」

 私は店の中にお邪魔することにした。窓や壁はするっと通り抜けさせてもらった。

「この物語を書いた人は、とても独特な文章を書く。意味を探るのがとても困難なものもあった。意図したものが何かはわからないものもあった。でも、この後の彼の旅路については、共感できる部分がいくつかあった。夢の不思議さが非常にうまく表れている。夢というのは思い出すだけでも一苦労だ。それをここまで鮮明に描けることは素晴らしい。もっとも、これは私の主観だ。作者がそんなことを意図していない可能性だってある」

 私は店の中を歩きながら呟く。

「彼が鉄道に乗りながら見る情景には、それまえ彼が経験してきたことがポツポツと出てくる。鉄道も、彼が母親に語った友人の家の情景から出て来たものでしょう?」

 私は店の一角、建物の一部でありながら、宇宙へ繋がる穴の様になっている場所で、一人呟く。

「これが私の感想。物語の裏を少しだけ想像した感想文。だから、ここからは今まで以上に私個人の想いを述べる。

 この物語の主人公の彼だけど、彼の家に牛乳が配達されていなかったよね。彼はそれをお母さんに『取りに行ってくる』と言ったけれど、彼にとって、それはとても嫌なことだっと思う。何故かと言われると答えに窮してしまう。私ならそう感じるのではないか、というところだ。

 彼のこれまでを振り返ってみる。学校で辛い思いをし、活版所で辛い思いをし、家で少しだけ安心を得た。そして『牛乳が無い』という事態で心が揺れる。お祭りに行くことで心が晴れそうだと感じるけど、行く途中で辛い思いをしてしまった。そして、お祭りの場でも辛かった。ここで、彼の限界に達してしまったのではないだろうか?

 そこであなたは、彼がこの後も生きていけるように旅に出した。

 彼が見た情景の後に『しあわせ』と言うものに向かって行けるように。

 そうじゃない?

 この一日の内に現れていないことも、今までの彼の人生で何処かに現れ、気に留めた幾つかの出来事が夢の中に現れたのでは?

 それらを結び合わせ、現実のどうにもならない困難を生き抜くための方法を彼自身に見つけ出させたのではない?

 彼が目覚めた後、凶報と吉報が相次いで飛び込んできた。この後、どうなるのかは、私にも計り知れない」
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