紡ぐ者

haruyama81@gmail.com

文字の大きさ
7 / 117
【第1章 幼馴染み】

第6節 魔纏《まてん》

しおりを挟む
 ロビンとアリスは男にお礼を言う。
「助かったぜ。ありがとう。」
「ありがとうございます。」
「いやいや、先輩としての責務を全うしただけさ。」
男は謙虚する。
「そういえばまだ名前を言ってなかったね。僕の名前は村崎 樫茂《むらさき かしも》。階級は仙級だ。よろしく頼むよ。」
「俺はロビン・アポローヌだ。」
「私はアリス・クローヴァーです。」
「いい名前だね。君たちは幼馴染みかい?」
「まあ、そういうところですね。」
樫茂の質問にアリスが答える。
「それじゃ状況を教えてくれないかい?」
「たしか、1時過ぎくらいに観測員から連絡が入りました。」
「私が駅についたのはだいたい15分後ですね。」
「そこから少し持ちこたえてロビンに救援を頼んだのは1時40分くらいですね。」
「なるほど。」
樫茂は顎に手を当てる。
「後のことは僕に任せてくれ。君たちは帰って休むといい。」
「いえ、仕事なので最後までやりますよ。」
「でも君たちは負傷している。先輩として負傷した後輩に仕事を任せるわけにはいかない。」
「わかりました。ありがとうございます。」
「ありがとう。」
2人はお礼を言い、その場を離れた。

 家に帰る途中、スマホにメールが届く。送り主は昨日の人物だ。
「どうやら今日、東京駅に魔獣が現れたみたいだね。悪いが集合場所を本部の集会所に返させてもらう。時間は前と同じ18時だよ。」
「もし疲れているのなら少し遅れても構わない。」
まるでこちらの行動を知っているようなメッセージだ。
「なんで昼のことを知ってるんだ?」
疑問に思うロビンだが昼間の疲れで帰ることしか考えていない。ロビンは足を引きずりながら家へと向かった。

帰宅後…
 ロビンはシャワーを浴びている。肋骨を骨折したがアリスの治療魔法ですぐに回復した。特に違和感はない。

シャワーを終え部屋に戻りソファに寝転ぶ。現在の時間は2時半を過ぎたくらいだ。
「疲れたーーー。」
ロビンは気づいたら眠ってしまっていた。


「ロビン。」
「ロビン。」
「起きなさい、ロビン。」

「!!!」
ロビンは目を覚ます。時間は5時を過ぎていた。
「やべっ、寝坊するとこだった。」
ロビンは急いで着替え集会所へと向かう。

大魔統制会集会所……
 ロビンは集会所で飲み物を飲みながら待っていた。疲れた体に染み渡る。
「君がロビン君かな?」
突然後ろから声をかけられた。見るとそこには1人の男が立っていた。
「ん?そうだけど。」
「君がそうか、会えて嬉しいよ。」
「僕は神宮寺 春蘭《じんぐうじ しゅん》。気軽に春蘭と呼んでくれ。」
「ロビン・アポローヌだ。よろしく、春蘭。」
2人は握手をする。
「さて、会ってそうそうだが食事にしよう。着いてきて。」
「何処でも食べるんだ?」
「君の要望に答えて寿司を食べに行くよ。」
ロビンはそんなやりとりを思い出した。

寿司屋前……
「なぁ。」
「ん?なんだい?まさか不満だった?」
「いや、別に不満はないけど……ここって街一番の高級寿司店だよな?」
「うん、そうだよ。それがどうかしたかい?」
「人に奢るために来るような場所じゃない気が…。」
「遠慮しなくていい。お金ならいくらでもある。」
「お前は金持ちのお坊ちゃまか。」
「まあ、そんなところかな。」
ロビンのツッコミに即座に返答する春蘭。

店内に入るとこの店のシャリの独特な匂いがする。
「へいらっしゃい。」
「大将。予約した神宮寺だ。」
「あいよ。あちらの席だ。」
2人は大将が指さした席に座る。
「何を注文する?」
「そうだな。大将、おすすめは?」
「今日は大トロとウニだな。」
「んじゃ、この海鮮まとめ1を1つ。」
「僕も同じもの。」
「あいよ。」
注文し終えると春蘭がロビンに話しかける。
「さて、寿司が来るまで話をしよう。」
「その前にお前が何者か教えてくれよ。」
「君は冷静だね。」
「改めて自己紹介しよう。僕は神宮寺 春蘭。君と同じ魔道士だ。階級は伏せさせてもらう。」
「なんで?」
「僕の階級を公にすると少々面倒なんだ。」
「なるほど。俺はロビン・アポローヌ。階級は中級。」
「自己紹介も終わったし本題に…」
「へい、おまち。」
大将が寿司を持ってきた。
「お、きたきた。ありがとう。」
大将は調理場に戻る。
「本題に入ろう。」
「君を呼んだのには理由がある。」
「そりゃ理由もなきゃ呼ばねえだろ。」
「それもそうか。」
ロビンに指摘され頭をかく。
「1つ質問させてもらう。君は魔纏を知ってるかい?」
「魔…纏?」
「体の一部やものに魔力を纏わせることだ。駅前での戦いで君は使用したはずだ。」
「聞いた感じたそれっぽいことをした気が…ってなんでそのこと知ってんだよ!?」
「本部でそのことが耳に入ってね。」
「君は魔纏を知らないということは意図して使ったわけではないか。戦闘中何かしたかい?」
ロビンは考え込む。
「確か……魔獣を攻撃するとき、"拳に魔力を集中させた"気がする。」
「君はどこで魔力を一点に集中させる方法を知ったんだ?」
「いや、感覚でやった。」
「何?」
春蘭は顎に手を当てる。
「それは今日初めて出来たことか?」
「そうだな、今日が初めてだ。」
「なるほど。この件は僕にはわからない。」
「え?」
「君の話を聞く限り矛盾がある。」
「矛盾?」
ロビンは首を傾げる。
「まず魔力を集中させること。君はこれを感覚で行った。」
「君は魔道士になってからそれほど年月は経ってないはずだ。」
「因みに魔道士なって何年経った?」
「2年。」
「そのぐらいか。僕の知る限りでは2年で魔纏を使えるようになった魔道士はいない。」
「僕は魔纏を使えるようになるまで6年かかった。」
「そんなに?!」
ロビンは驚く。
「こんなものさ平均で5~7年。遅くて10年だ。」
「大分話が脱線したね。君を呼んだ理由は君の武器を見させてもらうためだ。」
「いやさっきの本題じゃねえのかよ。」
「さっきのは今日知ったことだからね。」
「はいはい。これが俺の武器だ。」
ロビンは春蘭に自分の手袋を見せる。
「これか。これは確か入団した際に支給されるものだったはず。」
「そうだ。自分に何があってるのかわかんねえからずっと使ってる。」
「よくこれで上級と戦ってたね。」
「でもこの感じ…君にはあっていないようだ。」
「やっぱそうか。」
ロビンは頷く。
「よし、決まった。明日、君の新しい武器を決めに行こう。」
「どこに?」
「僕の故郷さ。」
春蘭は口角を上げる。
「今更言うけど……この話ここでして大丈夫だった?」
「さあ。わからない。」
ロビンは唖然とする。

「あー美味かった。」
「やっぱりここの寿司はいつ食べても美味しいね。」
2人は店をあとにする。

「悪いな、着いてきてもらって。」
「別に問題ないよ。それじゃ、明日迎えに来るから。」
「わかった。また明日。」
「うん。また明日。」
春蘭は夜闇へと消えていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...