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【第5章 八岐大蛇討伐戦線】
第1節 緊急招集
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ロビンは時計を見る。時計は11時を指していた。
「あと1時間で昼食にするぞ。」
「わかったわ。」
アリスはロビンの声に返事をする。ロビンの横に歩み寄る。
「観測って意外と暇ですね。」
「これを何日も続ける観測隊ってすげえな。」
アリスはロビンの話に頷きながら、数値を記入する。
「やっぱり数値が不安定てすね。」
アリスの記入した数値を見ると、不安定に上昇と減少を繰り返している。
「数値がやけに高くなってるな。それに減少したときも極端に低い。」
「何が原因なんだ?」
「あれ?」
アリスが違和感を感じる。
「どうした?」
「魔力の流れが変です。」
「変?濃度がじゃないのか?」
ロビンは地に手を付ける。手に魔力の流れを感じたが、複雑な動きをしている。
「変だな、こんな複雑な流れは経験がないぞ。」
「こんなに変なら観測隊が気付けないのはおかしい気がするが…」
「もしかしたら、"私たちだから"気付けたんじゃない?」
「なんで"俺たちだから"なの?」
ロビンは首を傾げる。
「ほら、私たちってイギリス人じゃない。観測隊は全員日本人だから。」
「そういえば団長も言ってたな。イギリスと日本の魔力は違うって。」
「常に日本の魔力を見てきた観測隊に分からないことも、イギリス人の俺たちならわかるってことか。」
アーロンドが自分たちに依頼したのに納得する。
「もう報告する?」
「いや、昼までは調べてみよう。もう少し何か見つかるかもしれない。」
ロビン達は観測を再開する。
15時頃 大魔統制会本部 会議室…
「神宮寺 春蘭様、早世 疾風様がお越しになりました。」
従者の女性がアーロンドに伝える。その直後に春蘭と疾風が会議室に入ってくる。2人は椅子に腰掛け、アーロンドに問いかける。
「一体何があった?緊急事態と聞いたが。」
「その話は役者が揃ってからにしましょう。」
アーロンドは冷静に返す。
「疾風、轍はどこだ?」
轍の姿を見かけない春蘭が疑問に思い、疾風に聞いてみる。
「あいつは仕事があって来れないみたいだ。」
「やっぱ轍は忙しいね。」
2人は机に置いてあるコーヒーを飲みながら会話をする。
「白倉 純連《しらくら すみれ》様がお越しになりました。」
2人は入り口のほうを見る。1人の女性が会議室に入ってくる。
「やっほー、2人共。」
「お前も呼ばれていたのか。」
「ええ、まあ事情は把握してないけど。」
「それは僕たちも同じだ。」
白倉 純連。春蘭と疾風の同期にして中学からの親友。魔道士ではあるが表立って活動することはない。しかしその実力が認められ、今は本部の情報機関に所属している天級魔道士だ。
「近々再会するのはわかってたが、まさかこんなところで再会するとはな。」
「そう?私はわかってたよ。」
「どういうことだ?」
疾風は純連に問う。春蘭が口を挟む。
「忘れたのか?純連がIQ150の天才だということを。」
「それに私は本部の情報機関に所属している。内部の騒ぎや行動から近々会議が開かれて招集がされるのは予想できた。」
「だからこの会議の内容はわからなくても、開かれた理由はわかる。」
「どんな理由だ?」
疾風が純連に聞く。純連は少しそっぽを向いてから口を開く。
「魔力濃度の異常化の原因がわかったのよ。おそらく議題は異変の解決策の議決だと思うわ。」
春蘭は室内を見渡す。気づけばたくさんの魔道士が集まっていた。
「招集されたのは重要な機関に所属している者だけのようだ。」
ゴオォォォン!
アーロンドの従者が大鐘を鳴らす。会議が始まる合図だ。
「これより、魔力濃度の異常化についての原因の公表と、その解決策の議決を行う。各々、自分たちの席につくように。」
3人は自分たちの席に戻る。他の者たちも席につく。
「まず皆様に卓上にある資料を見ていただきたいです。」
全員、資料を開き目を通す。その資料には周波数のグラフが記されていた。
「そのグラフは島根県出雲市の山中で検知された"謎の周波数"のグラフです。観測者によると周波数のした方角から"異質な気配"を感じたとのことです。」
アーロンドはグラフについて説明する。
(観測者……ロビンたちのことか。後で本人達に聞いてみよう。)
春蘭はアーロンドのほうを見て、質問をする。
「団長。口を挟みますが、結局原因は何だというのですか?」
疾風も「そうだそうだ」と言わんばかりに頷く。
「物事には順序というものがあります。少々お待ち下さい。」
アーロンドは丁寧に言い返す。
「しかしこのグラフは魔力濃度の異常化とは直接的な関係はありません。」
(直接的な関係はない?なら原因はなんだ?)
疾風は疑問に思い、口に出したくなるが純連に止められる。
「原因は"何者かが魔力を悪用した"からです。」
室内は緊張に包まれる。アーロンドは続けて説明する。
「何者かが魔力を使用する。これにより魔力が減り魔力濃度が下がる。しかしそこに水が流れるように魔力が流れ込んできて濃度が急上昇する。これが異常化の原因です。」
室内は沈黙に包まれた。皆々、顔を斜め下に降ろし考えごとをする。
(団長の仰ることは異常化の原因としては最も筋が通っている。だけど犯人は何に魔力を使用しているの?)
(島根県……出雲市……山の中……そして、魔力の大量消費。)
(まさか……いや、そんなことがあるわけ…でも一応…)
純連は立ち上がりアーロンドに自分の結論を発表する。
「私の推測に過ぎませんが……犯人は何か強力な魔獣を復活させようとしているのてはないでしょうか。」
アーロンドは背を向ける。
「どういうことだ?強力な魔獣の復活だと?あの近辺にそんなのいたか?」
疾風は顎に手を当てて考えるが何も浮かばない。
「素晴らしい……実に素晴らしい推測だ。」
全員の視線がアーロンドに向けられる。
「先日、私もあなたと同じ結論に辿り着きました。しかしそのときはまだ確定とはなりませんでした。」
「しかし!もはやそれは確定と言ってよいでしょう。」
アーロンドは室内の中央に立つ。
「犯人は何を復活させようとしているんだ?全く心当たりがないんだが。」
疾風はさっぱり分からないようだ。
「おや?お忘れですか?いるじゃありませんか。神話にのみ存在する"伝説の魔獣"が。」
「神話……神話………ッッ!」
疾風は何かに気づき、息を飲む。それと同時に額に汗をかく。
「八岐大蛇か?」
疾風は恐る恐る発言する。
「おそらくその可能性が高いでしょう。」
室内がざわめきだす。
「八岐大蛇……神話でしか語られない伝説の魔獣。そんなものが本当に存在するのか?」
「でもこの状況では実在するのはほぼ確実だと思うわ。そう考えれば今までの異変は全て、"災厄の前兆"と捉えることができる。」
春蘭は唾を飲む。アーロンドは机に巻物を置いて開く。
「この巻物には八岐大蛇に関する情報が書いてあります。復活の前触れとして"近辺の魔力の急激な変化"が見られる、と記されています。」
「チッ、ここまで来たらもう確定じゃねえかよ。」
疾風は軽く舌打ちをする。アーロンドは自分の席に戻る。
「八岐大蛇は近々復活する。それまでに各々、最善を尽くせるよう準備しなさい。これから始まるのは今までのような任務ではない。」
「"神話の怪物"との………"戦争"です。」
少し前 早世屋敷……
ロビンとアリスは早世屋敷に戻る。朝から観測をしていてかなり疲れていた。
「一応できる範囲で観測して提出したが……あれで足りるか?」
ロビンは独り言を言いながら客間に向かう。
「あれ?春蘭と疾風がいない?」
部屋には雫だけがいた。
「雫、2人はどこにいったの?」
「旦那様と疾風様は本部から招集があったみたいで、今は本部にいますよ。」
「招集があったのはいつ頃だ?」
「つい先程ですね。」
ロビンたちも先程、観測結果を提出したばかりだ。
「まさか、あの観測結果が影響しているのか?」
「時間からしてその可能性が高いですね。」
「観測結果?」
2人の会話に雫が不思議そうに参加する。
「午前中に観測してたんだ。さっきその結果を本部に提出した。もしかしたらそれが原因で招集がだされたのかと思って。」
雫が側による。
「お疲れでしょう、シャワーで体を綺麗にしてはどうですか?」
ロビンとアリスは顔を見合わせる。
「俺先でいいか?」
「私もシャワー浴びたい。」
2人は睨み合う。
「しゃーねぇ、ジャンケンで決めるか。」
「望むところよ。」
「最初はグ~、」
「ジャ~ンケン、」
「「ポン!」」
ロビンはパー、アリスはチョキをだす。
「私の勝ち、お先に~。」
アリスは意気揚々と浴場に向かう。ロビンは撃沈する。雫は背中を撫でて慰める。数分後にアリスが浴場から出てきた。
シャワー中…
シャーー
「………。」
ロビンはシャワーを浴びながら考えごとをしていた。
(あの結果で何がわかったんだ?招集をだすほとのものだから相当重要なことなんだろう。)
ロビンは考えることをやめる。
浴場から出ると春蘭と疾風が帰っていた。後ろに知らない女性を連れている。
「えっと、どちら様?」
「ん?あぁロビンか。彼女は白倉 純連。僕の親友だよ。」
「よろしくね~。」
春蘭がこちらに近づいてくる。ロビンの耳元で話す。
「君に1つ聞きたいことがある。」
「…なんだ?」
春蘭は真剣な顔で話しかける。
「君たちの観測結果に"委悉な気配"と記されていたが、あれはどういう感じなんだ?」
「あぁそれか……あれは観測中のことなんだが……」
「なあアリス。」
「どうしたの?」
アリスがロビンの側による。
「こっちから変な気配がしないか?」
アリスは念を集中させてみる。
「確かに、言われてみれば感じるかも。」
「でもこれは、"魔獣の気配じゃない"。ましてや"人間のものでもない"。」
ロビンは気配のする方に向かおうとするが、本能的に躊躇ってしまう。
「どうしたの?」
アリスが心配そうに話しかける。
「いや、大丈夫だ。ただ、あっちに向かおうとすると体が無意識に進むのを拒絶するんだ。」
アリスはこのことを紙にメモする。
「そんなことが……」
春蘭は深く考え込む。
「魔獣でもなければ人間でもない。他の動物ということわ?」
「そういえば……」
ロビンは何かを思い出す。
「山の中にいるとき、動物を一匹も見なかったんだよな。小さい虫も見なかった。」
「そうだろ、アリス。」
「うん。」
いつの間にかアリスも話に参加していた。
「明らかに不自然だな。動物と遭わないのはまだしも、山の中で虫一匹にも遭遇しないのはどう考えてもおかしい。」
「もう1ついいか?」
ロビンは話を割って喋る。
「言ってみて。」
「山の空気が妙に重かったんだ。」
「それは私も感じました。」
春蘭と疾風は部屋の真ん中に立つ。
「みんなに先程の会議の内容を話す。心して聞いてくれ。」
ロビンとアリスは唾を飲む。
「ここではだめだ。場所を変えるぞ。」
疾風は建物の奥へと進む。ロビンたちは疾風について行く。
日本支部…
「ここは?」
ロビンたちは拠点のような場所に来ていた。
「ここは大魔統制会日本支部だ。ここは主に轍が管理している。一応俺が最高管理者だが、まあ俺がいなくても轍1人で問題なく回るんだよな。」
疾風たちは日本支部の会議室に向かう。
「ここで話そう。春蘭、続きを。」
「今日の会議の内容は、魔力濃度の異常化の原因の公表と解決策を決めることだった。」
「まず原因だが、これは何者かが強力な魔獣を復活させようとしていたからだ。魔力を集めて魔獣に使うことで、周辺の魔力濃度が低くなる。しかし魔力が減った場所に他のところから魔力が流れ込む。それにより魔力濃度が急激に上昇する。これが原因だ。」
「なるほどな。これなら異常を起こしたのにも納得だ。」
ロビンの中に疑問が生まれる。
「じゃあその何者かは何を復活させようとしているんだ?」
「「「八岐大蛇。」」」
春蘭、疾風、純連の3人は口を揃えて言う。
「や、八岐大蛇ってあの神話にしか出てこないあの?」
「その通りだ。」
少し怯えながら聞くアリスに即答で返す疾風。
「八岐大蛇……神話にのみ出てくる怪物だ。そんなやつを相手にするのは流石に御免だぜ。」
「まあ会議中に舌打ちをするほどだったからね。」
「どんだけ嫌なんだ……」
疾風は「少し待て」と言って部屋を出る。少ししてパソコンを持って戻ってくる。
「今回の作戦はこんなかんじだ。」
疾風はパソコンを開き文字を打ち始める。
「春蘭、サークルのメンバーには連絡したか?」
「ああ。もうしたよ。」
「なら話が早い。」
「明日、ロビンとアリス、そしてサークルメンバーのうち2人が山の中で周波数の発生源を探す。その間俺たちは団長が来るまで八岐大蛇討伐に向けて準備を進める。団長が来たら団長の指示に従う。」
「団長が来たら空に信号弾を撃つ。それを合図に戻ってきてくれ。」
「わかった。」
ロビンは椅子に座る。
「そいやぁ俺たちの観測結果は問題なかったのか?」
「特に問題はないよ。むしろ完璧な資料だった。」
「ならよかったぜ。」
ロビンはニィッと笑う。
「明日は早い。今日は早く寝ることを忘れるな。」
ロビンたちは早世屋敷に戻る。
「あと1時間で昼食にするぞ。」
「わかったわ。」
アリスはロビンの声に返事をする。ロビンの横に歩み寄る。
「観測って意外と暇ですね。」
「これを何日も続ける観測隊ってすげえな。」
アリスはロビンの話に頷きながら、数値を記入する。
「やっぱり数値が不安定てすね。」
アリスの記入した数値を見ると、不安定に上昇と減少を繰り返している。
「数値がやけに高くなってるな。それに減少したときも極端に低い。」
「何が原因なんだ?」
「あれ?」
アリスが違和感を感じる。
「どうした?」
「魔力の流れが変です。」
「変?濃度がじゃないのか?」
ロビンは地に手を付ける。手に魔力の流れを感じたが、複雑な動きをしている。
「変だな、こんな複雑な流れは経験がないぞ。」
「こんなに変なら観測隊が気付けないのはおかしい気がするが…」
「もしかしたら、"私たちだから"気付けたんじゃない?」
「なんで"俺たちだから"なの?」
ロビンは首を傾げる。
「ほら、私たちってイギリス人じゃない。観測隊は全員日本人だから。」
「そういえば団長も言ってたな。イギリスと日本の魔力は違うって。」
「常に日本の魔力を見てきた観測隊に分からないことも、イギリス人の俺たちならわかるってことか。」
アーロンドが自分たちに依頼したのに納得する。
「もう報告する?」
「いや、昼までは調べてみよう。もう少し何か見つかるかもしれない。」
ロビン達は観測を再開する。
15時頃 大魔統制会本部 会議室…
「神宮寺 春蘭様、早世 疾風様がお越しになりました。」
従者の女性がアーロンドに伝える。その直後に春蘭と疾風が会議室に入ってくる。2人は椅子に腰掛け、アーロンドに問いかける。
「一体何があった?緊急事態と聞いたが。」
「その話は役者が揃ってからにしましょう。」
アーロンドは冷静に返す。
「疾風、轍はどこだ?」
轍の姿を見かけない春蘭が疑問に思い、疾風に聞いてみる。
「あいつは仕事があって来れないみたいだ。」
「やっぱ轍は忙しいね。」
2人は机に置いてあるコーヒーを飲みながら会話をする。
「白倉 純連《しらくら すみれ》様がお越しになりました。」
2人は入り口のほうを見る。1人の女性が会議室に入ってくる。
「やっほー、2人共。」
「お前も呼ばれていたのか。」
「ええ、まあ事情は把握してないけど。」
「それは僕たちも同じだ。」
白倉 純連。春蘭と疾風の同期にして中学からの親友。魔道士ではあるが表立って活動することはない。しかしその実力が認められ、今は本部の情報機関に所属している天級魔道士だ。
「近々再会するのはわかってたが、まさかこんなところで再会するとはな。」
「そう?私はわかってたよ。」
「どういうことだ?」
疾風は純連に問う。春蘭が口を挟む。
「忘れたのか?純連がIQ150の天才だということを。」
「それに私は本部の情報機関に所属している。内部の騒ぎや行動から近々会議が開かれて招集がされるのは予想できた。」
「だからこの会議の内容はわからなくても、開かれた理由はわかる。」
「どんな理由だ?」
疾風が純連に聞く。純連は少しそっぽを向いてから口を開く。
「魔力濃度の異常化の原因がわかったのよ。おそらく議題は異変の解決策の議決だと思うわ。」
春蘭は室内を見渡す。気づけばたくさんの魔道士が集まっていた。
「招集されたのは重要な機関に所属している者だけのようだ。」
ゴオォォォン!
アーロンドの従者が大鐘を鳴らす。会議が始まる合図だ。
「これより、魔力濃度の異常化についての原因の公表と、その解決策の議決を行う。各々、自分たちの席につくように。」
3人は自分たちの席に戻る。他の者たちも席につく。
「まず皆様に卓上にある資料を見ていただきたいです。」
全員、資料を開き目を通す。その資料には周波数のグラフが記されていた。
「そのグラフは島根県出雲市の山中で検知された"謎の周波数"のグラフです。観測者によると周波数のした方角から"異質な気配"を感じたとのことです。」
アーロンドはグラフについて説明する。
(観測者……ロビンたちのことか。後で本人達に聞いてみよう。)
春蘭はアーロンドのほうを見て、質問をする。
「団長。口を挟みますが、結局原因は何だというのですか?」
疾風も「そうだそうだ」と言わんばかりに頷く。
「物事には順序というものがあります。少々お待ち下さい。」
アーロンドは丁寧に言い返す。
「しかしこのグラフは魔力濃度の異常化とは直接的な関係はありません。」
(直接的な関係はない?なら原因はなんだ?)
疾風は疑問に思い、口に出したくなるが純連に止められる。
「原因は"何者かが魔力を悪用した"からです。」
室内は緊張に包まれる。アーロンドは続けて説明する。
「何者かが魔力を使用する。これにより魔力が減り魔力濃度が下がる。しかしそこに水が流れるように魔力が流れ込んできて濃度が急上昇する。これが異常化の原因です。」
室内は沈黙に包まれた。皆々、顔を斜め下に降ろし考えごとをする。
(団長の仰ることは異常化の原因としては最も筋が通っている。だけど犯人は何に魔力を使用しているの?)
(島根県……出雲市……山の中……そして、魔力の大量消費。)
(まさか……いや、そんなことがあるわけ…でも一応…)
純連は立ち上がりアーロンドに自分の結論を発表する。
「私の推測に過ぎませんが……犯人は何か強力な魔獣を復活させようとしているのてはないでしょうか。」
アーロンドは背を向ける。
「どういうことだ?強力な魔獣の復活だと?あの近辺にそんなのいたか?」
疾風は顎に手を当てて考えるが何も浮かばない。
「素晴らしい……実に素晴らしい推測だ。」
全員の視線がアーロンドに向けられる。
「先日、私もあなたと同じ結論に辿り着きました。しかしそのときはまだ確定とはなりませんでした。」
「しかし!もはやそれは確定と言ってよいでしょう。」
アーロンドは室内の中央に立つ。
「犯人は何を復活させようとしているんだ?全く心当たりがないんだが。」
疾風はさっぱり分からないようだ。
「おや?お忘れですか?いるじゃありませんか。神話にのみ存在する"伝説の魔獣"が。」
「神話……神話………ッッ!」
疾風は何かに気づき、息を飲む。それと同時に額に汗をかく。
「八岐大蛇か?」
疾風は恐る恐る発言する。
「おそらくその可能性が高いでしょう。」
室内がざわめきだす。
「八岐大蛇……神話でしか語られない伝説の魔獣。そんなものが本当に存在するのか?」
「でもこの状況では実在するのはほぼ確実だと思うわ。そう考えれば今までの異変は全て、"災厄の前兆"と捉えることができる。」
春蘭は唾を飲む。アーロンドは机に巻物を置いて開く。
「この巻物には八岐大蛇に関する情報が書いてあります。復活の前触れとして"近辺の魔力の急激な変化"が見られる、と記されています。」
「チッ、ここまで来たらもう確定じゃねえかよ。」
疾風は軽く舌打ちをする。アーロンドは自分の席に戻る。
「八岐大蛇は近々復活する。それまでに各々、最善を尽くせるよう準備しなさい。これから始まるのは今までのような任務ではない。」
「"神話の怪物"との………"戦争"です。」
少し前 早世屋敷……
ロビンとアリスは早世屋敷に戻る。朝から観測をしていてかなり疲れていた。
「一応できる範囲で観測して提出したが……あれで足りるか?」
ロビンは独り言を言いながら客間に向かう。
「あれ?春蘭と疾風がいない?」
部屋には雫だけがいた。
「雫、2人はどこにいったの?」
「旦那様と疾風様は本部から招集があったみたいで、今は本部にいますよ。」
「招集があったのはいつ頃だ?」
「つい先程ですね。」
ロビンたちも先程、観測結果を提出したばかりだ。
「まさか、あの観測結果が影響しているのか?」
「時間からしてその可能性が高いですね。」
「観測結果?」
2人の会話に雫が不思議そうに参加する。
「午前中に観測してたんだ。さっきその結果を本部に提出した。もしかしたらそれが原因で招集がだされたのかと思って。」
雫が側による。
「お疲れでしょう、シャワーで体を綺麗にしてはどうですか?」
ロビンとアリスは顔を見合わせる。
「俺先でいいか?」
「私もシャワー浴びたい。」
2人は睨み合う。
「しゃーねぇ、ジャンケンで決めるか。」
「望むところよ。」
「最初はグ~、」
「ジャ~ンケン、」
「「ポン!」」
ロビンはパー、アリスはチョキをだす。
「私の勝ち、お先に~。」
アリスは意気揚々と浴場に向かう。ロビンは撃沈する。雫は背中を撫でて慰める。数分後にアリスが浴場から出てきた。
シャワー中…
シャーー
「………。」
ロビンはシャワーを浴びながら考えごとをしていた。
(あの結果で何がわかったんだ?招集をだすほとのものだから相当重要なことなんだろう。)
ロビンは考えることをやめる。
浴場から出ると春蘭と疾風が帰っていた。後ろに知らない女性を連れている。
「えっと、どちら様?」
「ん?あぁロビンか。彼女は白倉 純連。僕の親友だよ。」
「よろしくね~。」
春蘭がこちらに近づいてくる。ロビンの耳元で話す。
「君に1つ聞きたいことがある。」
「…なんだ?」
春蘭は真剣な顔で話しかける。
「君たちの観測結果に"委悉な気配"と記されていたが、あれはどういう感じなんだ?」
「あぁそれか……あれは観測中のことなんだが……」
「なあアリス。」
「どうしたの?」
アリスがロビンの側による。
「こっちから変な気配がしないか?」
アリスは念を集中させてみる。
「確かに、言われてみれば感じるかも。」
「でもこれは、"魔獣の気配じゃない"。ましてや"人間のものでもない"。」
ロビンは気配のする方に向かおうとするが、本能的に躊躇ってしまう。
「どうしたの?」
アリスが心配そうに話しかける。
「いや、大丈夫だ。ただ、あっちに向かおうとすると体が無意識に進むのを拒絶するんだ。」
アリスはこのことを紙にメモする。
「そんなことが……」
春蘭は深く考え込む。
「魔獣でもなければ人間でもない。他の動物ということわ?」
「そういえば……」
ロビンは何かを思い出す。
「山の中にいるとき、動物を一匹も見なかったんだよな。小さい虫も見なかった。」
「そうだろ、アリス。」
「うん。」
いつの間にかアリスも話に参加していた。
「明らかに不自然だな。動物と遭わないのはまだしも、山の中で虫一匹にも遭遇しないのはどう考えてもおかしい。」
「もう1ついいか?」
ロビンは話を割って喋る。
「言ってみて。」
「山の空気が妙に重かったんだ。」
「それは私も感じました。」
春蘭と疾風は部屋の真ん中に立つ。
「みんなに先程の会議の内容を話す。心して聞いてくれ。」
ロビンとアリスは唾を飲む。
「ここではだめだ。場所を変えるぞ。」
疾風は建物の奥へと進む。ロビンたちは疾風について行く。
日本支部…
「ここは?」
ロビンたちは拠点のような場所に来ていた。
「ここは大魔統制会日本支部だ。ここは主に轍が管理している。一応俺が最高管理者だが、まあ俺がいなくても轍1人で問題なく回るんだよな。」
疾風たちは日本支部の会議室に向かう。
「ここで話そう。春蘭、続きを。」
「今日の会議の内容は、魔力濃度の異常化の原因の公表と解決策を決めることだった。」
「まず原因だが、これは何者かが強力な魔獣を復活させようとしていたからだ。魔力を集めて魔獣に使うことで、周辺の魔力濃度が低くなる。しかし魔力が減った場所に他のところから魔力が流れ込む。それにより魔力濃度が急激に上昇する。これが原因だ。」
「なるほどな。これなら異常を起こしたのにも納得だ。」
ロビンの中に疑問が生まれる。
「じゃあその何者かは何を復活させようとしているんだ?」
「「「八岐大蛇。」」」
春蘭、疾風、純連の3人は口を揃えて言う。
「や、八岐大蛇ってあの神話にしか出てこないあの?」
「その通りだ。」
少し怯えながら聞くアリスに即答で返す疾風。
「八岐大蛇……神話にのみ出てくる怪物だ。そんなやつを相手にするのは流石に御免だぜ。」
「まあ会議中に舌打ちをするほどだったからね。」
「どんだけ嫌なんだ……」
疾風は「少し待て」と言って部屋を出る。少ししてパソコンを持って戻ってくる。
「今回の作戦はこんなかんじだ。」
疾風はパソコンを開き文字を打ち始める。
「春蘭、サークルのメンバーには連絡したか?」
「ああ。もうしたよ。」
「なら話が早い。」
「明日、ロビンとアリス、そしてサークルメンバーのうち2人が山の中で周波数の発生源を探す。その間俺たちは団長が来るまで八岐大蛇討伐に向けて準備を進める。団長が来たら団長の指示に従う。」
「団長が来たら空に信号弾を撃つ。それを合図に戻ってきてくれ。」
「わかった。」
ロビンは椅子に座る。
「そいやぁ俺たちの観測結果は問題なかったのか?」
「特に問題はないよ。むしろ完璧な資料だった。」
「ならよかったぜ。」
ロビンはニィッと笑う。
「明日は早い。今日は早く寝ることを忘れるな。」
ロビンたちは早世屋敷に戻る。
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