紡ぐ者

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【間章 祝杯の海水浴】

第1節 予想外のサプライズ

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モゾモゾ
布団の中からロビンは顔を出す。
「喉痛い。歌いすぎた。」
隣の布団にはアリスが寝ている。
「んっ……ふあぁぅあ…」
アリスが目を覚ます。
「あれ?もう起きてたの……おはよう…」
眠そうな目をこすっている。アリスは頭を押さえる。
「頭痛い。二日酔いだ。」
「そりゃあんだけ飲んでたらな。」
アリスは昨日の宴会で少なくとも酒瓶2、3本のお酒を飲んでいる。しかも度数がかなり高いものだ。二日酔いになって当然といえる。
「団長が読んでるわよ。」
美桜が入口から声をかける。
「お前は起きるのが早いな。」
「あんたたちが寝過ぎなんじゃない?」
美桜は少しニヤけている。なにか嬉しいことがあったのだろう。ロビンは着替えるとアーロンドの下に向かう。

「来たぞ。」
「来ましたね。早速ですがあなたに問います。」
「夏と言えば?」
「スイ…」
「そう、海ですよね。」
「話を……」
アーロンドはロビンが話す前に新たな質問をする。
「海と言えば?」
「……海水浴」
「じゃあ海水浴をするなら?」
「南国。」
「というわけで沖縄に行きます。」
「……は?」
ロビンは突然過ぎて唖然とする。
「今日のうちに準備をしておくこと。みんなにも伝えておいてください。」

「どうだった?」
「お前がニヤけてる理由がなんとなくだがわかった。」
「ほんとになんで?頭痛いから手短にお願い。」
ロビンはあぐらをかく。
「明日、沖縄に向かうらしい。理由は分からん。今日のうちに準備しとけと。」
「バカンスでもしに行くの?」
アリスの言葉に納得する。
「確かに、そうかもな。海水浴とか言ってたし。」
「だったら早く用意しようよ。」
アリスが服に手を伸ばす。
「ちょっと待て。着替えるなら俺は部屋から出るぞ。」
「・・・」
「ふんっ!」
「なんでドロップキック?!」
ロビンは美桜に廊下に蹴り出される。

「おまたせ~待った~?」
「長くね?着替えるだけだろ?」
「仕方ないじゃ~ん。決まらなかったんだから。」
「じゃあどこ行こう?やっぱり…海に行くから水着買いに行く?」
「俺に言われてもな。まあ結局水着は買わないといけないから、早めに終わらしたほうがいいのか。」
「よし決まり。それじゃあしゅっぱ~つ!」
2人はアリスに続くように屋敷を出る。

「う~ん…これもいいけど、こっちも捨てがたい。」
「いつまで悩んでるの?流石に早く決めましょ。」
「あと5分!いや10分!」
「はぁ…」
美桜は溜息をつく。デパートについてからアリスは水着選びに1時間近くの時間を費やしている。
「どうせロビンも終わってないから。」
「……会計済ませてくるわ。」
「ああ、待ってぇ~!」
待てと懇願するアリスをガン無視で美桜はレジへと向かう。

「……決まらん。」
ロビンは水着選びに悩んでいた。
(いや適当でいいんだよ?なんでこんなに選ぶのに時間かかってるの?)
「いや……アリスはもっとかかるか。」
ロビンは適当に目に入ったものを1つとるとレジへと向かう。
「ん?」
「あ、」
レジ袋を持った美桜と八合わせる。
「早いな。アリスは?」
「まだ。あまりにも長いからさっさと済ませてきたわ。」
「案の定だな。」
「そういうあんたは今から会計?」
「そうだけど。」
「あんたも大概ね。まあとっとと済ましてきなさい。」
美桜はデパートの休憩スペースに向かう。
「あいつらが早いのか俺が遅いのか……どっちなんだ?」
ロビンは変な疑問を抱えながらレジへと向かう。

「決まったよ~。」
アリスが満面の笑みを浮かべて出てくる。
「やっとかぁ……」
「遅い……」
「ごめんて。」
2人はソファでぐったりしていた。
「さ、起きておきて。昼食取りに行こ。」
「お前は元気だなぁ……」
2人はアリスに起こされ、昼食を摂りに飲食店を探しに行く。

「ここでいい?」
「なんで激辛カレー専門店に入ろうとしてんの?」
「いいじゃん、たまには。」
2人はアリスに引っ張られるようにして入店する。店内に入るとスパイスの匂いが鼻に突き刺さる。
「うぅ…思ったよりきついかも。」
「このくらいなら問題ないわ。」
「右に同じく。」
3人は1番奥の席に座る。
「入りたいと言ってたやつがなんで匂いでやられてるんだよ。」
「思ったよりきつかった。」
美桜はメニューをとる。
「どれにする?辛さは?」
「アリスは勿論激辛でしょ?」
「なんでー?私死ぬよ?」
「死にそうになったら私が呼び起こすわ。」
「早くしようぜ。俺はもう決まったぞ。」
3人はメニューを決めて注文する。

「集まってくれたことに感謝しよう。」
「緊急と聞いたからね。集まらない選択肢はない。」
「いや私がいるからこれてるんですよ?!」
「ええ、その通りよ。帰国したら最上級のディナーを奢るわ。」
「相変わらずだな。もう少し出費を抑えたらどうだ?」
「彼女には十二分に頑張ってもらってる。これくらいの見返りは普通だと思うけど?」
2人の女性と1人の男性が話をしている。アーロンドは自分の席に座り、招集した人物を待っている。
「あいつはこないのか?」
「いえ、おそらく来るでしょう。」
するとアーロンドの予想通り、扉が開き1人の男が入ってくる。男は天垣 時雨だった。
「これで全員ですね。」
「天垣か…まあこのメンバーだからそうなるか。」
「久しいな。お前も集められているということは重要なことなのだろう。」
「その通りです。これは大魔統制会が長年、追い続けたものでもあります。」
「長年、か……"あれ"のことか?」
女性は先程とは全く違う雰囲気で問う。
「そう、"あれ"です。」
「また現れたのか?」
「新報告ですよ。」
「「「「!!」」」」
ドンッ!
「新種だと?……どこに現れた?」
天垣は机を叩いて立ち上がり、アーロンドに場所を聞く。
「島根県の出雲市です。」
「なん……だと?」
「それは本当か?あの付近では八岐大蛇が出現していたはずだ。まさか……2つの襲撃があったのか?」
「いいえ。どうやら目的は八岐大蛇の復活だったようですね。1名が遭遇し重症を負いました。」
「しかし妖刀の加護により戦線に復帰、八岐大蛇討伐に大きく貢献してくれました。」
「それならよかったが……」
天垣は落ち着きを取り戻す。
「こんなことを聞くのはあれだが……お前は何か、心にくるものがあるんじゃないか?」
天垣は女性の後ろに立っている女性に聞く。
「少なからず感じております。あの忌々しい記憶が脳裏に蘇ってくる所蔵です。」
「"焔の日"のことか?」
「ええ、そうです。9年前、ロンドンで起きたあの凄惨な事件。1日たりとも忘れたことは御座いません。」
男性は下を向く。
「あの事件の犯人はすでに判明している。"コードネーム ヴァンパイア"。未だに奴の尻尾を掴むことはできていない。」
「そして今回の報告。目撃者の情報から"コードネーム 人狼"として新たに重要調査項目に追加します。」
4人は承諾する。

「お待ちを。少々お時間をもらえませんか?お話したいことがあります。」
「私は構わないわ。よろしいですか?」
「ええ、行ってきなさい。」
女性はアーロンドの前に立つ。
「お時間ありがとうございます。単刀直入にお聞きしますが……この者たちを"憶えていますか?"」
アーロンドは2枚の写真を見せる。その写真にはロビンとアリスが写っていた。女性は写真を手に取る。
「ふふっ……憶えているわ、忘れるわけない。」
女性は写真を指でなぞる。
「最後に顔を合わせたのはいつだったかしら……」
「そうですよね。特にアリス君はあなたの……」
「それ以上言う必要はないわ。話は終わり?」
「ええ、ありがとうございます。」
女性は軽く頭を下げ、部屋を出る。
「ふぅ…」
アーロンドは溜息をつく。
「いずれ彼女と2人は再会する。」
「その時、運命の歯車は再び動き出すことでしょう。」
「しかしそれは、残酷な運命の始まりでもある。」
「私は……それを見届けることしかできませんが……」
アーロンドはグラスにワインを注ぐと一口で飲み干した。
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