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【第7章 追憶を求める者】
追憶ーその3
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「ん……ん?」
アリスが目を覚ますと辺りは雪に包まれていた。しかし寒さは感じない。道を歩く人は自分に気づいていない。まるで現実味がなく、不思議な感じがする。
「ここは、どこ?」
アリスは立ち上がって辺りを散策する。ベンチに新聞が置いてあるのをみつける。
「何々……12月5日……今日って3日だよね?……これ、いつの新聞?」
アリスは歩いてくる人に聞いてみるが返事が返ってこない。それどころか、誰もアリスのことに目をくれない。
「誰も……私が見えてないの?」
アリスは少し寂しさを感じる。それでも、雪の中を歩いて進む。道中、街並みを見ながら歩いている。
(なんだろう……少し、懐かしい気がする。でも私は、こんな光景知らない。)
アリスは頭がパンクしそうになるがなんとかこらえる。
「あれ?ここって、さっきまで私がいた場所だよね?戻ってきたの?」
アリスは街の一角の廃墟の前に立っている。
(さっきより綺麗になってる?気のせいかな…)
アリスは廃墟に入る。
ギィ……
「うわぁ……けほっ……やっぱりホコリがすごい……」
ドアを開けると付着していたホコリが空中に舞う。アリスは少し咳き込む。鼻と口を袖で覆う。
「これで少しはましになるといいけど……」
アリスは廃墟の中を進む。先程いた場所と構造は同じようだ。というか同じ建物だ。しかし、先程まで見たものはなにもない。アリスは部屋の中で1冊のノートを見つける。
「これ……さっき見た日記だ。中は、破れてない。」
アリスは日記を読む。
「11月25日。今日は特に異常はない。いつものような平和な日常だ。この生活がいつまでも続くことを願ってる。」
パラッ…
「11月26日。今日は雨が降っている。だから家で子どもちと過ごすことにする。外に出られないのは悲しいけど、子どもたちと一緒にいられるだけで私は幸せだ。」
パラッ…
「11月27日。今日は晴れ。絶好のピクニック日和。子どもたちとピクニックに行く。子どもたちも楽しんでいた。私にとっては子どもたちの笑顔が癒やしだ。」
パラッ…
「11月28日。今日は曇り。なんだか嫌な予感がする。この胸騒ぎは夫も感じてるはず。何も起こらないことを願うことしかできない。」
パラッ…
「11月29日。今日も嫌な感じがする。街中を歩くと、誰かに狙われている感じがする。だから今日は早めに家に帰った。ただの気のせいで終わるといいけど…」
アリスは日記から怪しさを感じる。
(このまま読み続けていいの?)
アリスは自分の心の声に惑わされずに日記を読み続ける。
「11月30日。今日で11月が終わる。明日から12月。あの子の誕生日が近い。今年はどうやって祝ってあげようか考えないと。大変だけど……この考えてる時間が一番楽しい。あの子の笑っている顔を想像するだけで笑いが込み上げてくる。」
パラッ…
「12月1日。今日から12月。昨日よりずっと冷え込んだ気がする。だけどあの子の誕生日のことを考えていたら、寒さなんて関係ない。この調子だと明日も考えないといけないかも。」
アリスは途端にページをめくるのが怖くなった。拍子にノートを落とす。ノートに汚れがつく。
「あ、汚しちゃった。まいっか。」
アリスは汚れを気にせず、日記を読み続ける。
「12月2日。今日はすごい吹雪だ。外に出ると瞬く間に雪に包まれてしまう。こんな日は、暖炉の前で本を読むのに尽きる。昨日の時点であの子の誕生日のことは決まった。夫にも話してある。でも……少し心配。11月から続く胸騒ぎがまだ残ってる。」
パラッ…
「12月3日。今日は昨日の天気が嘘みたいな晴天だ。でも……それと同時に不安を感じる。まるで……嵐の前の静けさのような……」
パラッ…
「12月4日。なんだろう。不安だ。なぜかは分からない。でも不安で仕方がない。長年の経験?それとも勘?どちらにせよ胸騒ぎが今まで以上にする。明日はあの子の誕生日だというのに……」
パラッ…
「12月5日。今日は………の誕生日。今日で5歳。来年からは学校に通うようになる。共にいる時間が減ってしまうのは少し寂しい。けど、………には必要なことだから仕方ない。」
不自然にも一部が切り取られている。アリスは背中に何かが這い登ってくるような気持ち悪くて、不気味な感じがした。
パラッ…
「12……日。に………げ……て……」
「いや!」
アリスは日記を落とす。日記には"赤い文字"で「にげて」と書かれていた。それはまるで、誰かに伝えているかのような書き方だった。筆跡がかなり不安定だ。
「え?」
日記の下に1枚の写真が落ちている。アリスは写真を拾おうとするが、手が恐怖で震えている。震えながらも写真をめくると、それは家族の集合写真だった。
「この子………私に似てる……」
アリスの顔から血の気が引いていく。それと同時に意識が安定しなくなってきた。
(眠っちゃ……だ……め…)
アリスは意識を失う。
「おはよう、アリス。よく眠れた?」
アリスは体を起こす。
「ママ……おはよう……ううん、あんまり眠れてない。」
「そう……じゃあ、あと少し寝てもいいよ。」
「うん、ありがとう。」
アリスはベッドに入り、眠る準備をする。
アリスが眠ってからかなりの時間が経った。
「んん…?マ…マ?いる?」
しかし返事がない。
「下にいるの?」
アリスはベッドから出て1階に向かう。
「キャア!なに……これ……」
1階ではアリスの両親が瀕死の状態で倒れていた。
「何があったの?ってなにこれ?!」
2階からアリスの姉が降りてくる。床には日記が開いて置いてあり、「に………げ……て……」と書いてある。
「2人共……早く……にげて……」
母親は最後の力を振り絞って喋る。
「ディファラスに……気をつけ……て…」
母親は意識を失う。
「行くよ!ここにいたら危険!」
姉はアリスの手を引っ張って連れ出す。アリスは遠くなる自分の家をずっと見ていた。
「何……今の?」
アリスは意識が戻るが恐怖で足がすくんで立ち上がれない。
「昔の……記憶?なんで……」
アリスは辺りを見ると2階への階段を見つける。
「とにかく探さないと……止まっている場合じゃない。」
アリスは階段を登り、2階へと進む。2階は書斎のような場所だった。
「いっぱい本がある……何かあるといいけど…」
アリスは本を手にとって一冊ずつ読むがボロボロで内容は分からない。
ピラッ
「写真?」
アリスは本に挟まっていた1枚の写真を見つける。汚れていて、何が写っているかは分からない。
「流石に散らばり過ぎじゃない?どれくらい放置されてるんだか……」
アリスは床に散乱する本を避けながら部屋を漁る。
「ん?このノート……」
アリスは1冊のノートを手にとる。
「この汚れ……かなり古いものね。」
アリスはノートを開く。どうやら日記のようだ。しかしボロボロで内容は"完全には"読めない。
ドサッ
アリスは床に座り込む。日記の内容はすでに"わかっている"。文字を当てはめてみると、自分が先程見た日記と重なるのだ。しかし最後のページに何かが書いてある。そして懐からもう1枚の写真を取り出す。
「この真ん中の子………私だよ……」
アリスの目には涙が浮かんでいた。
「つまりここは………私の……家?」
(ディファラスに……気をつけ……て…)
アリスは母親の言葉を思い出す。
「戻らないと……」
アリスは立ち上がる。その時、頭に無数の声が響く。
「おめでとう。」「こっち来て。」「ありがとう。」「もっと笑って。」「お母さんがいるよ。」「だから……」
「やめて!」
アリスは頭を抱えて苦痛の声をあげる。しかし声はやまない。
「あなたとはずっと一緒。」「来年からは学校に通うんだよ。」「いい子にしててね。」「これをあなたにあげるね。」
「に………げ……て。」
アリスは無数の声の中で1つだけ"記憶にない声"を聞いた。
「悪いがお前たちには死んでもらう。まあこれも運命だと思ったらいい。じゃあな。」
アリスの頭に怒りが込み上げてくる。同時に悲しみが溢れる。
「お母さんと………お父さんは………なんの理由もなしに………殺されたの?」
アリスは泣き叫びたい気分だった。
「どうして……」
「どうして……」
「どうして……」
「どうして……どうして……こんなの……理不尽だよ……」
アリスは涙が止まらなかった。頭に記憶が蘇る。
「うっ……頭が……割れそう……」
アリスは意識を失ってしまう。
「ディファラスに気をつけて!」
アリスはロビンに必死になって伝える。
「ディファ…ラス?なにそれ?」
「わかんないけど……とにかく!気をつけて!」
「お、おう……」
ロビンはアリスから視線を逸らす。
(圧がすごい……)
ガシャン!
ガーネットがティートレーを落とす。
「目が覚めたの?!体は大丈夫?おかしいところはない?」
ガーネットはアリスに飛びつき体調を聞く。
「だ、大丈夫……ちょっと寒いけど……」
ガーネットはアリスに布をかける。
「お前は廃墟で何をしてたんだ?」
「……廃墟ね……見た目はそうだもんね。」
アリスはロビンのほうに寄る。
「私は……自分の家にいたの。」
4人は反応するが、ガーネットだけは反応しない。
「家だと?あの廃墟が?」
「そう、中を調べて……この写真を見つけたの。」
アリスは見つけた写真を取り出す。
「真ん中にいるのは……お前か?」
「たぶん……」
アリスは立ち上がり、ルアーザの前まで行く。
「あなたに伝えておきたいことがあります。」
「言ってみろ。」
「あの場所は危険です。」
「どういうことだ?」
ルアーザは疑問に思う。
「あの場所は空間が歪んでいます。その影響で、私は過去に飛ばされました。」
「過…去?」
ロビンは開いた口が塞がらない。
「空間が歪んでいる、か。そのようなことは無かったはずだが……カーザス!」
「ここに。」
「あの廃墟のあらゆるデータを調べろ。何か異常があったらすぐに報告しろ。」
「かしこまりました。」
カーザスは姿を消す。
「そなたは過去で……何を見た?」
「日記です。母が書いた。」
「日記の最後には"赤い文字"で「にげて」と書いてありました。」
ルアーザは足を組む。
「他には?過去じゃなくてもいい。空間が歪めば、何かしらの幻影を見ているかもしれない。」
「そうですね………夢を見ました。……母が死ぬ間際の夢です。」
「………。」
「母はそのとき、「ディファラスに気をつけて」と言い残しました。おそらく両親を殺した犯人のことだと思います。」
「ディファラス……先程から聞いていたが……そのような名前は聞いたことがない。少し待て、調べてみる。」
ルアーザは立ち上がると、後ろにある大きな本棚から"ディファラス"という名を調べる。
「取込み中か?」
「うぉ?!いつからいた?」
「先程だ。」
ロビンの真横にカーザスが現れる。ルアーザは本を閉じる。
「その名前は過去の記録にも載っていない。ただ……」
ルアーザは少し顔を曇らせる。
「200年程前に、ある男が"竜の女を探していた"という記録があった。」
「竜の女?」
「私にも内容は理解できない。だが、現状とは関係ないだろう。」
「ではカーザス。報告を受けよう。」
カーザスは前に出る。
「こちらを。異常が見つかりました。あの廃墟全体に魔法が仕組まれています。」
「魔法?空間の異常じゃないのか?」
「この魔法は"空間を歪ませる魔法"です。それと間違えたのかと。」
ルアーザは報告書を手にとって考える。
「空間を歪ませる魔法……聞いたことがない。歴史上でも、そのような魔法は前例がない。それを使った者は只者ではない。私と同格か……それ以上か……会わないことには分からないがな。」
ルアーザはカーザスを元の場所に戻らせる。
「私はその男が両親にむかって言った言葉を夢で聞きました。」
「なんと言っていた?」
「「悪いがお前たちには死んでもらう。まあこれも運命だと思ったらいい。じゃあな。」
「あと、お前たちの子どもには手を出さない。子どもを殺す主義じゃない。だが、その子どもが大人になったときは……分からないがな。」と。」
「遠回しに、"大人になったら殺す"と言っているな。」
しばらく沈黙が続く。
「なんだそいつは?なんの理由もなしに……殺したのか?無茶苦茶だろ……」
ロビンは拳を握りしめる。
「おちつけ、うるさいぞ。」
九尾がロビンに話しかける。
「なんでお前はいっつも急に出てくるんだ?」
「そんなことよりもその男……俺の記憶に少しばかり残っているな。」
「どんなやつなの!?」
アリスが九尾に噛みつくように聞く。
「奴には闇雲に近づくな。奴は異様なオーラを放っていた。あのとき刺激していたら、今の俺がいたかどうか……」
「奴はよく、運命と口にしていたな。」
「運命……」
ロビンは街中で出会った男の言葉を思い出す。
「だがこの世には運命を探求するやつがわんさかいる。そいつらは軒並み、"狂っている"がな。」
九尾は嫌そうな顔をする。
「くそ……思い出しただけで胸糞悪い。」
九尾は刀に戻る。
「こいつってほんとに気分屋だな。」
ロビンは少し呆れる。
「疲れたな。」
ロビンは部屋のベッドに寝転がる。日はすでに落ちており、夜の帳が下りてくる。
「冬って早いな……」
「そうよね~。」
「そうだな………うん……ん?」
ロビンが左を見るとアリスが頬杖をついて寝転んでいた。
「なんでいるんだよ?!てかお前、俺ん家にも自然に入っくるよな!」
「いいじゃん、幼馴染みでしょ。」
「そういう問題じゃねえ!流石に一線を越え過ぎだ!」
ロビンはいつものようにムキになるが、すぐに落ち着く。
「珍しいね~すぐに冷静になるなんて。」
「なんか怒る気が失せた……」
ロビンはぐてーっとする。アリスも真似をするようにぐてーっとする。アリスはロビンのほうに転がる。
「なんか……距離、近くないか?」
「普通普通、気にしない気にしない。」
アリスはやけにテンションが高い。
「……お前……悲しいんだろ?」
「あはは、そんなわけないよ~……そんなわけない。うん、そんなわけ………そんな……わけ……」
アリスの目から涙が溢れる。
「悲しくないわけ………ないよ……」
アリスは涙を拭う。ロビンはアリスの手を握る。
「人と手を繋ぐって……こんなに温まるものだっけ?」
「いや知らん。」
「そういうところはいつも通りね。」
アリスに少しだけ笑みが戻る。
「やっぱりお前は笑ってるほうがいいぜ。」
「そう……だよね!」
アリスはロビンに抱きつく。
「うわっ!急になんだ?!」
アリスを剥がそうとするが全く動かない。
「離れないよ~♪寝るときも一緒だよ~♪」
「頼むから離れてくれ。風呂入りたい。」
「じゃあ私も入る。」
「お前は早く自分の部屋に戻れ!」
「え~」
アリスはニヤニヤしながら部屋に戻る。
(なーに考えてんだか……)
ロビンはアリスの考えてることが分からない。
「………。」
凜はロビンの部屋を気づかれないように覗いていた。
(あの2人は本当に仲がいいですね~。どうにかして密室に閉じ込められないかな~。なーんて、そんなことできるわけないか……)
凜は悪いことを考えながらホワホワしていた。しかしロビンには気づかれている。
(次から次へと……)
ロビンは浴室へ向かう。
ヒュオォォ……
1人の男がビッグベンの上に立っている。雪が振り始める。
「雪………」
男の手のひらに雪が舞い落ちる。手に触れるとすぐに消えてしまう。
「脆く儚いものだな。まるで人のようだ。」
男からは哀愁が漂うが、その目には殺意がこもっていた。
「そろそろだな。あの日のような絶望を与えてやる。」
男が力をいれると、背中から黒い翼が生える。
「9年前のように、この街を……"業火"で包み込む。」
「だが……今じゃない。」
男は夜の闇へと飛び去る。その姿はまるで、吸血鬼のようだった。
「お前は本当に俺のベッドで寝るつもりか?」
「じゃなきゃここにいないでしょ。」
アリスはロビンのベッドを寝転がって占領している。
「一緒に寝てくれるなら避けてあげる。」
「てめぇ……」
ロビンは額に手を当てて困り果てる。なんとかしてどかそうとするが、アリスは意地でも動かないつもりだ。
(こいつこんなにしつこかったっけ?)
「お前……意地でも避けないつもりか?」
「うん、一緒に寝るって言うまで避けないよ♪」
「そうかそうか、それならこっちにも奥の手というものがあるんだが、其の辺は周知の事実かな?」
「へ?」
ロビンはアリスを抱きかかえる。
「え?!あ……待ってぇ!」
ロビンはアリスをソファに降ろす。
「お前ぐらいなら抱きかかえるのは余裕だぜ。そんじゃ俺は寝まーす。」
ロビンはベッドに入る。横を見たらアリスも入っていた。
「なんでお前はこういうときの動きはめちゃくちゃ速いんだよ?!」
「ふっふっふ……この程度で私を止められると思った?」
「それに……八岐大蛇の討伐の時に一緒に寝たじゃない。何を今更嫌がってるの~?」
アリスはロビンの頬をつつく。
「それは関係ねえ。シンプルに狭いんだよ。」
「ならくっついて寝ましょ。そうすれば温かいしスペースも開くしで一石二鳥でしょ。」
「俺は1人で寝たいって言ってんだよ。」
2人が言い争いをしていると、時間がどんどん過ぎていく。
「おいもうこんな時間じゃねえか。もういい、寝るぞ。」
ロビンは毛布を首元までかける。
ギュッ
「なにしてんの?」
アリスがロビンにくっつく。
「どう?あったかい?」
「いや冷てえよ。どんだけ体が冷えてんだよ。」
アリスの体はかなり冷たくなっておりまるで氷のようだった。
「ねえ……ロビンに1つだけ聞きたいの。」
「はぁ……なんだよ?簡単なやつにしてくれ……」
「キスってどんな感覚なのかな?」
「は?」
ロビンは目を丸くする。
「お前、自分がとんでもない発言してることに気づいてる?」
「あれ?そうなの?」
(こいつ純粋過ぎない?ちょっと心配だわ。)
「普通するか?幼馴染みの男にそんな話。」
「そういうの分かんない。」
「お前の知識ってほとんど魔法関連だよな。」
「てへっ♪」
「てへじゃねえ!」
ロビンはアリスにツッコミをいれる。アリスの顔を見ると、あることに気づく。
「お前………わかって聞いてるだろ?」
「あ、バレた。」
アリスはロビンの目を見ながらニヤける。
12月4日
「おはよう、よく眠れたかい?」
「全然。アリスに邪魔された。」
ロビンは眠そうに目を擦る。口からはよだれが垂れている。
「顔洗ってくる。」
ロビンは部屋に戻る。
ガチャ…
「「………。」」
ガチャ…
(何してんの?!ほんとに何してんの?!)
部屋でアリスが体を曲げて、ストレッチのようなものをしていた。
「なんで部屋から出るの?入ってきてよ。」
「お前は何してんだ?」
「見てわかるでしょ。ストレッチよ。」
「普通風呂上がりとかにするものじゃないのか?」
「昨日は時間がなかったから……」
ロビンは洗面所に向かう。
(あいつは昨日、ここに来ることしか考えてなかったんだろうな……)
ロビンは顔を洗いながらそんなことを考えていた。
「今日は猛吹雪だな。どうする?」
「そうだね……ここって訓練施設などはあるかい?」
「小さいが、一応ある。好きに使ってくれて構わない。」
「僕は刀を磨いたり、鍛錬をするよ。」
春蘭はカーザスに訓練施設まで案内してもらう。
「凜はどうするんだ?」
「私はちょっと調べものが……」
「調べもの?」
「その………何かいい音楽はないかなーって。」
凜はヘッドホンを取り出すと、少し恥ずかしそうにする。
「ここ最近、自由な時間が無かったもんな。そうゆうのもあっていいかもな。」
凜は部屋に戻る。
「さてと……お前はどうするんだ?って……なーに悪い顔してんだ?」
アリスは何かを企んでいる。
「…何するつもりだ?」
「さあね~。でもロビンは喜ぶと思うよ~。」
「?」
ロビンの頭上にハテナマークが浮かぶ。
ロビンはアリスの部屋に連れ込まれる。
「まじで何するつもり?」
「ふふふ♪」
アリスはロビンの顔を両手で掴む。そして顔をロビンに近づける。
「え?!おい待て!血迷うな!」
アリスの目を見ると本気だった。
(これって積みなの?)
しかし、アリスは途中でやめる。
「え?」
「ふう……いざやるとなると、少し恥ずかしいわね。」
(まじでやるきだったのこいつ?!)
ロビンはアリスがこちらを見ていない隙に部屋から逃げようとする。
ガタ
(あれ?)
ドアが開かない。カギがかけられている。
「逃さないよ?」
ロビンは初めてアリスに対して恐怖心を覚える。
「そんなにしたいかキスが?!」
「だって気になるもん!」
アリスは目を輝かせながら言う。
「お前、好奇心で動いてるだろ!」
「そうだよ!それ以外何があるの?!」
ロビンは少し引く。
コンコン
「あのー、少し静かにしていただけますか?朝からイチャつくのは仲が良くていいですけど、もう少しボリュームを下げてもらったほうがいいですよ。」
「え?凜?いつからいたんだ?」
「つい先程からです。」
「悪いな。たぶんあと少しでアリスを止められると思う。」
(いやどゆこと?)
「わかってくれたならいいですよ。」
凜は部屋の前から離れる。
「……というわけだ。静かにしてくれ。」
「えー、つまんないの。」
アリスはベッドに飛び乗る。
「じゃあこっち来て。」
「今度は何する気?!」
「さあ?何をするんでしょうねぇ~。」
アリスは再び悪い顔をする。ロビンはアリスの横に座る。
「あらあら、かかったわね!」
ロビンはアリスに押し倒される。
「え?え?え?」
「さあこれで本当に逃げられないわよ。」
アリスはロビンに顔を近づける。
「や、やめろぉー!」
その日、ロビンの断末魔が支部の近隣に響いたという。
アリスが目を覚ますと辺りは雪に包まれていた。しかし寒さは感じない。道を歩く人は自分に気づいていない。まるで現実味がなく、不思議な感じがする。
「ここは、どこ?」
アリスは立ち上がって辺りを散策する。ベンチに新聞が置いてあるのをみつける。
「何々……12月5日……今日って3日だよね?……これ、いつの新聞?」
アリスは歩いてくる人に聞いてみるが返事が返ってこない。それどころか、誰もアリスのことに目をくれない。
「誰も……私が見えてないの?」
アリスは少し寂しさを感じる。それでも、雪の中を歩いて進む。道中、街並みを見ながら歩いている。
(なんだろう……少し、懐かしい気がする。でも私は、こんな光景知らない。)
アリスは頭がパンクしそうになるがなんとかこらえる。
「あれ?ここって、さっきまで私がいた場所だよね?戻ってきたの?」
アリスは街の一角の廃墟の前に立っている。
(さっきより綺麗になってる?気のせいかな…)
アリスは廃墟に入る。
ギィ……
「うわぁ……けほっ……やっぱりホコリがすごい……」
ドアを開けると付着していたホコリが空中に舞う。アリスは少し咳き込む。鼻と口を袖で覆う。
「これで少しはましになるといいけど……」
アリスは廃墟の中を進む。先程いた場所と構造は同じようだ。というか同じ建物だ。しかし、先程まで見たものはなにもない。アリスは部屋の中で1冊のノートを見つける。
「これ……さっき見た日記だ。中は、破れてない。」
アリスは日記を読む。
「11月25日。今日は特に異常はない。いつものような平和な日常だ。この生活がいつまでも続くことを願ってる。」
パラッ…
「11月26日。今日は雨が降っている。だから家で子どもちと過ごすことにする。外に出られないのは悲しいけど、子どもたちと一緒にいられるだけで私は幸せだ。」
パラッ…
「11月27日。今日は晴れ。絶好のピクニック日和。子どもたちとピクニックに行く。子どもたちも楽しんでいた。私にとっては子どもたちの笑顔が癒やしだ。」
パラッ…
「11月28日。今日は曇り。なんだか嫌な予感がする。この胸騒ぎは夫も感じてるはず。何も起こらないことを願うことしかできない。」
パラッ…
「11月29日。今日も嫌な感じがする。街中を歩くと、誰かに狙われている感じがする。だから今日は早めに家に帰った。ただの気のせいで終わるといいけど…」
アリスは日記から怪しさを感じる。
(このまま読み続けていいの?)
アリスは自分の心の声に惑わされずに日記を読み続ける。
「11月30日。今日で11月が終わる。明日から12月。あの子の誕生日が近い。今年はどうやって祝ってあげようか考えないと。大変だけど……この考えてる時間が一番楽しい。あの子の笑っている顔を想像するだけで笑いが込み上げてくる。」
パラッ…
「12月1日。今日から12月。昨日よりずっと冷え込んだ気がする。だけどあの子の誕生日のことを考えていたら、寒さなんて関係ない。この調子だと明日も考えないといけないかも。」
アリスは途端にページをめくるのが怖くなった。拍子にノートを落とす。ノートに汚れがつく。
「あ、汚しちゃった。まいっか。」
アリスは汚れを気にせず、日記を読み続ける。
「12月2日。今日はすごい吹雪だ。外に出ると瞬く間に雪に包まれてしまう。こんな日は、暖炉の前で本を読むのに尽きる。昨日の時点であの子の誕生日のことは決まった。夫にも話してある。でも……少し心配。11月から続く胸騒ぎがまだ残ってる。」
パラッ…
「12月3日。今日は昨日の天気が嘘みたいな晴天だ。でも……それと同時に不安を感じる。まるで……嵐の前の静けさのような……」
パラッ…
「12月4日。なんだろう。不安だ。なぜかは分からない。でも不安で仕方がない。長年の経験?それとも勘?どちらにせよ胸騒ぎが今まで以上にする。明日はあの子の誕生日だというのに……」
パラッ…
「12月5日。今日は………の誕生日。今日で5歳。来年からは学校に通うようになる。共にいる時間が減ってしまうのは少し寂しい。けど、………には必要なことだから仕方ない。」
不自然にも一部が切り取られている。アリスは背中に何かが這い登ってくるような気持ち悪くて、不気味な感じがした。
パラッ…
「12……日。に………げ……て……」
「いや!」
アリスは日記を落とす。日記には"赤い文字"で「にげて」と書かれていた。それはまるで、誰かに伝えているかのような書き方だった。筆跡がかなり不安定だ。
「え?」
日記の下に1枚の写真が落ちている。アリスは写真を拾おうとするが、手が恐怖で震えている。震えながらも写真をめくると、それは家族の集合写真だった。
「この子………私に似てる……」
アリスの顔から血の気が引いていく。それと同時に意識が安定しなくなってきた。
(眠っちゃ……だ……め…)
アリスは意識を失う。
「おはよう、アリス。よく眠れた?」
アリスは体を起こす。
「ママ……おはよう……ううん、あんまり眠れてない。」
「そう……じゃあ、あと少し寝てもいいよ。」
「うん、ありがとう。」
アリスはベッドに入り、眠る準備をする。
アリスが眠ってからかなりの時間が経った。
「んん…?マ…マ?いる?」
しかし返事がない。
「下にいるの?」
アリスはベッドから出て1階に向かう。
「キャア!なに……これ……」
1階ではアリスの両親が瀕死の状態で倒れていた。
「何があったの?ってなにこれ?!」
2階からアリスの姉が降りてくる。床には日記が開いて置いてあり、「に………げ……て……」と書いてある。
「2人共……早く……にげて……」
母親は最後の力を振り絞って喋る。
「ディファラスに……気をつけ……て…」
母親は意識を失う。
「行くよ!ここにいたら危険!」
姉はアリスの手を引っ張って連れ出す。アリスは遠くなる自分の家をずっと見ていた。
「何……今の?」
アリスは意識が戻るが恐怖で足がすくんで立ち上がれない。
「昔の……記憶?なんで……」
アリスは辺りを見ると2階への階段を見つける。
「とにかく探さないと……止まっている場合じゃない。」
アリスは階段を登り、2階へと進む。2階は書斎のような場所だった。
「いっぱい本がある……何かあるといいけど…」
アリスは本を手にとって一冊ずつ読むがボロボロで内容は分からない。
ピラッ
「写真?」
アリスは本に挟まっていた1枚の写真を見つける。汚れていて、何が写っているかは分からない。
「流石に散らばり過ぎじゃない?どれくらい放置されてるんだか……」
アリスは床に散乱する本を避けながら部屋を漁る。
「ん?このノート……」
アリスは1冊のノートを手にとる。
「この汚れ……かなり古いものね。」
アリスはノートを開く。どうやら日記のようだ。しかしボロボロで内容は"完全には"読めない。
ドサッ
アリスは床に座り込む。日記の内容はすでに"わかっている"。文字を当てはめてみると、自分が先程見た日記と重なるのだ。しかし最後のページに何かが書いてある。そして懐からもう1枚の写真を取り出す。
「この真ん中の子………私だよ……」
アリスの目には涙が浮かんでいた。
「つまりここは………私の……家?」
(ディファラスに……気をつけ……て…)
アリスは母親の言葉を思い出す。
「戻らないと……」
アリスは立ち上がる。その時、頭に無数の声が響く。
「おめでとう。」「こっち来て。」「ありがとう。」「もっと笑って。」「お母さんがいるよ。」「だから……」
「やめて!」
アリスは頭を抱えて苦痛の声をあげる。しかし声はやまない。
「あなたとはずっと一緒。」「来年からは学校に通うんだよ。」「いい子にしててね。」「これをあなたにあげるね。」
「に………げ……て。」
アリスは無数の声の中で1つだけ"記憶にない声"を聞いた。
「悪いがお前たちには死んでもらう。まあこれも運命だと思ったらいい。じゃあな。」
アリスの頭に怒りが込み上げてくる。同時に悲しみが溢れる。
「お母さんと………お父さんは………なんの理由もなしに………殺されたの?」
アリスは泣き叫びたい気分だった。
「どうして……」
「どうして……」
「どうして……」
「どうして……どうして……こんなの……理不尽だよ……」
アリスは涙が止まらなかった。頭に記憶が蘇る。
「うっ……頭が……割れそう……」
アリスは意識を失ってしまう。
「ディファラスに気をつけて!」
アリスはロビンに必死になって伝える。
「ディファ…ラス?なにそれ?」
「わかんないけど……とにかく!気をつけて!」
「お、おう……」
ロビンはアリスから視線を逸らす。
(圧がすごい……)
ガシャン!
ガーネットがティートレーを落とす。
「目が覚めたの?!体は大丈夫?おかしいところはない?」
ガーネットはアリスに飛びつき体調を聞く。
「だ、大丈夫……ちょっと寒いけど……」
ガーネットはアリスに布をかける。
「お前は廃墟で何をしてたんだ?」
「……廃墟ね……見た目はそうだもんね。」
アリスはロビンのほうに寄る。
「私は……自分の家にいたの。」
4人は反応するが、ガーネットだけは反応しない。
「家だと?あの廃墟が?」
「そう、中を調べて……この写真を見つけたの。」
アリスは見つけた写真を取り出す。
「真ん中にいるのは……お前か?」
「たぶん……」
アリスは立ち上がり、ルアーザの前まで行く。
「あなたに伝えておきたいことがあります。」
「言ってみろ。」
「あの場所は危険です。」
「どういうことだ?」
ルアーザは疑問に思う。
「あの場所は空間が歪んでいます。その影響で、私は過去に飛ばされました。」
「過…去?」
ロビンは開いた口が塞がらない。
「空間が歪んでいる、か。そのようなことは無かったはずだが……カーザス!」
「ここに。」
「あの廃墟のあらゆるデータを調べろ。何か異常があったらすぐに報告しろ。」
「かしこまりました。」
カーザスは姿を消す。
「そなたは過去で……何を見た?」
「日記です。母が書いた。」
「日記の最後には"赤い文字"で「にげて」と書いてありました。」
ルアーザは足を組む。
「他には?過去じゃなくてもいい。空間が歪めば、何かしらの幻影を見ているかもしれない。」
「そうですね………夢を見ました。……母が死ぬ間際の夢です。」
「………。」
「母はそのとき、「ディファラスに気をつけて」と言い残しました。おそらく両親を殺した犯人のことだと思います。」
「ディファラス……先程から聞いていたが……そのような名前は聞いたことがない。少し待て、調べてみる。」
ルアーザは立ち上がると、後ろにある大きな本棚から"ディファラス"という名を調べる。
「取込み中か?」
「うぉ?!いつからいた?」
「先程だ。」
ロビンの真横にカーザスが現れる。ルアーザは本を閉じる。
「その名前は過去の記録にも載っていない。ただ……」
ルアーザは少し顔を曇らせる。
「200年程前に、ある男が"竜の女を探していた"という記録があった。」
「竜の女?」
「私にも内容は理解できない。だが、現状とは関係ないだろう。」
「ではカーザス。報告を受けよう。」
カーザスは前に出る。
「こちらを。異常が見つかりました。あの廃墟全体に魔法が仕組まれています。」
「魔法?空間の異常じゃないのか?」
「この魔法は"空間を歪ませる魔法"です。それと間違えたのかと。」
ルアーザは報告書を手にとって考える。
「空間を歪ませる魔法……聞いたことがない。歴史上でも、そのような魔法は前例がない。それを使った者は只者ではない。私と同格か……それ以上か……会わないことには分からないがな。」
ルアーザはカーザスを元の場所に戻らせる。
「私はその男が両親にむかって言った言葉を夢で聞きました。」
「なんと言っていた?」
「「悪いがお前たちには死んでもらう。まあこれも運命だと思ったらいい。じゃあな。」
「あと、お前たちの子どもには手を出さない。子どもを殺す主義じゃない。だが、その子どもが大人になったときは……分からないがな。」と。」
「遠回しに、"大人になったら殺す"と言っているな。」
しばらく沈黙が続く。
「なんだそいつは?なんの理由もなしに……殺したのか?無茶苦茶だろ……」
ロビンは拳を握りしめる。
「おちつけ、うるさいぞ。」
九尾がロビンに話しかける。
「なんでお前はいっつも急に出てくるんだ?」
「そんなことよりもその男……俺の記憶に少しばかり残っているな。」
「どんなやつなの!?」
アリスが九尾に噛みつくように聞く。
「奴には闇雲に近づくな。奴は異様なオーラを放っていた。あのとき刺激していたら、今の俺がいたかどうか……」
「奴はよく、運命と口にしていたな。」
「運命……」
ロビンは街中で出会った男の言葉を思い出す。
「だがこの世には運命を探求するやつがわんさかいる。そいつらは軒並み、"狂っている"がな。」
九尾は嫌そうな顔をする。
「くそ……思い出しただけで胸糞悪い。」
九尾は刀に戻る。
「こいつってほんとに気分屋だな。」
ロビンは少し呆れる。
「疲れたな。」
ロビンは部屋のベッドに寝転がる。日はすでに落ちており、夜の帳が下りてくる。
「冬って早いな……」
「そうよね~。」
「そうだな………うん……ん?」
ロビンが左を見るとアリスが頬杖をついて寝転んでいた。
「なんでいるんだよ?!てかお前、俺ん家にも自然に入っくるよな!」
「いいじゃん、幼馴染みでしょ。」
「そういう問題じゃねえ!流石に一線を越え過ぎだ!」
ロビンはいつものようにムキになるが、すぐに落ち着く。
「珍しいね~すぐに冷静になるなんて。」
「なんか怒る気が失せた……」
ロビンはぐてーっとする。アリスも真似をするようにぐてーっとする。アリスはロビンのほうに転がる。
「なんか……距離、近くないか?」
「普通普通、気にしない気にしない。」
アリスはやけにテンションが高い。
「……お前……悲しいんだろ?」
「あはは、そんなわけないよ~……そんなわけない。うん、そんなわけ………そんな……わけ……」
アリスの目から涙が溢れる。
「悲しくないわけ………ないよ……」
アリスは涙を拭う。ロビンはアリスの手を握る。
「人と手を繋ぐって……こんなに温まるものだっけ?」
「いや知らん。」
「そういうところはいつも通りね。」
アリスに少しだけ笑みが戻る。
「やっぱりお前は笑ってるほうがいいぜ。」
「そう……だよね!」
アリスはロビンに抱きつく。
「うわっ!急になんだ?!」
アリスを剥がそうとするが全く動かない。
「離れないよ~♪寝るときも一緒だよ~♪」
「頼むから離れてくれ。風呂入りたい。」
「じゃあ私も入る。」
「お前は早く自分の部屋に戻れ!」
「え~」
アリスはニヤニヤしながら部屋に戻る。
(なーに考えてんだか……)
ロビンはアリスの考えてることが分からない。
「………。」
凜はロビンの部屋を気づかれないように覗いていた。
(あの2人は本当に仲がいいですね~。どうにかして密室に閉じ込められないかな~。なーんて、そんなことできるわけないか……)
凜は悪いことを考えながらホワホワしていた。しかしロビンには気づかれている。
(次から次へと……)
ロビンは浴室へ向かう。
ヒュオォォ……
1人の男がビッグベンの上に立っている。雪が振り始める。
「雪………」
男の手のひらに雪が舞い落ちる。手に触れるとすぐに消えてしまう。
「脆く儚いものだな。まるで人のようだ。」
男からは哀愁が漂うが、その目には殺意がこもっていた。
「そろそろだな。あの日のような絶望を与えてやる。」
男が力をいれると、背中から黒い翼が生える。
「9年前のように、この街を……"業火"で包み込む。」
「だが……今じゃない。」
男は夜の闇へと飛び去る。その姿はまるで、吸血鬼のようだった。
「お前は本当に俺のベッドで寝るつもりか?」
「じゃなきゃここにいないでしょ。」
アリスはロビンのベッドを寝転がって占領している。
「一緒に寝てくれるなら避けてあげる。」
「てめぇ……」
ロビンは額に手を当てて困り果てる。なんとかしてどかそうとするが、アリスは意地でも動かないつもりだ。
(こいつこんなにしつこかったっけ?)
「お前……意地でも避けないつもりか?」
「うん、一緒に寝るって言うまで避けないよ♪」
「そうかそうか、それならこっちにも奥の手というものがあるんだが、其の辺は周知の事実かな?」
「へ?」
ロビンはアリスを抱きかかえる。
「え?!あ……待ってぇ!」
ロビンはアリスをソファに降ろす。
「お前ぐらいなら抱きかかえるのは余裕だぜ。そんじゃ俺は寝まーす。」
ロビンはベッドに入る。横を見たらアリスも入っていた。
「なんでお前はこういうときの動きはめちゃくちゃ速いんだよ?!」
「ふっふっふ……この程度で私を止められると思った?」
「それに……八岐大蛇の討伐の時に一緒に寝たじゃない。何を今更嫌がってるの~?」
アリスはロビンの頬をつつく。
「それは関係ねえ。シンプルに狭いんだよ。」
「ならくっついて寝ましょ。そうすれば温かいしスペースも開くしで一石二鳥でしょ。」
「俺は1人で寝たいって言ってんだよ。」
2人が言い争いをしていると、時間がどんどん過ぎていく。
「おいもうこんな時間じゃねえか。もういい、寝るぞ。」
ロビンは毛布を首元までかける。
ギュッ
「なにしてんの?」
アリスがロビンにくっつく。
「どう?あったかい?」
「いや冷てえよ。どんだけ体が冷えてんだよ。」
アリスの体はかなり冷たくなっておりまるで氷のようだった。
「ねえ……ロビンに1つだけ聞きたいの。」
「はぁ……なんだよ?簡単なやつにしてくれ……」
「キスってどんな感覚なのかな?」
「は?」
ロビンは目を丸くする。
「お前、自分がとんでもない発言してることに気づいてる?」
「あれ?そうなの?」
(こいつ純粋過ぎない?ちょっと心配だわ。)
「普通するか?幼馴染みの男にそんな話。」
「そういうの分かんない。」
「お前の知識ってほとんど魔法関連だよな。」
「てへっ♪」
「てへじゃねえ!」
ロビンはアリスにツッコミをいれる。アリスの顔を見ると、あることに気づく。
「お前………わかって聞いてるだろ?」
「あ、バレた。」
アリスはロビンの目を見ながらニヤける。
12月4日
「おはよう、よく眠れたかい?」
「全然。アリスに邪魔された。」
ロビンは眠そうに目を擦る。口からはよだれが垂れている。
「顔洗ってくる。」
ロビンは部屋に戻る。
ガチャ…
「「………。」」
ガチャ…
(何してんの?!ほんとに何してんの?!)
部屋でアリスが体を曲げて、ストレッチのようなものをしていた。
「なんで部屋から出るの?入ってきてよ。」
「お前は何してんだ?」
「見てわかるでしょ。ストレッチよ。」
「普通風呂上がりとかにするものじゃないのか?」
「昨日は時間がなかったから……」
ロビンは洗面所に向かう。
(あいつは昨日、ここに来ることしか考えてなかったんだろうな……)
ロビンは顔を洗いながらそんなことを考えていた。
「今日は猛吹雪だな。どうする?」
「そうだね……ここって訓練施設などはあるかい?」
「小さいが、一応ある。好きに使ってくれて構わない。」
「僕は刀を磨いたり、鍛錬をするよ。」
春蘭はカーザスに訓練施設まで案内してもらう。
「凜はどうするんだ?」
「私はちょっと調べものが……」
「調べもの?」
「その………何かいい音楽はないかなーって。」
凜はヘッドホンを取り出すと、少し恥ずかしそうにする。
「ここ最近、自由な時間が無かったもんな。そうゆうのもあっていいかもな。」
凜は部屋に戻る。
「さてと……お前はどうするんだ?って……なーに悪い顔してんだ?」
アリスは何かを企んでいる。
「…何するつもりだ?」
「さあね~。でもロビンは喜ぶと思うよ~。」
「?」
ロビンの頭上にハテナマークが浮かぶ。
ロビンはアリスの部屋に連れ込まれる。
「まじで何するつもり?」
「ふふふ♪」
アリスはロビンの顔を両手で掴む。そして顔をロビンに近づける。
「え?!おい待て!血迷うな!」
アリスの目を見ると本気だった。
(これって積みなの?)
しかし、アリスは途中でやめる。
「え?」
「ふう……いざやるとなると、少し恥ずかしいわね。」
(まじでやるきだったのこいつ?!)
ロビンはアリスがこちらを見ていない隙に部屋から逃げようとする。
ガタ
(あれ?)
ドアが開かない。カギがかけられている。
「逃さないよ?」
ロビンは初めてアリスに対して恐怖心を覚える。
「そんなにしたいかキスが?!」
「だって気になるもん!」
アリスは目を輝かせながら言う。
「お前、好奇心で動いてるだろ!」
「そうだよ!それ以外何があるの?!」
ロビンは少し引く。
コンコン
「あのー、少し静かにしていただけますか?朝からイチャつくのは仲が良くていいですけど、もう少しボリュームを下げてもらったほうがいいですよ。」
「え?凜?いつからいたんだ?」
「つい先程からです。」
「悪いな。たぶんあと少しでアリスを止められると思う。」
(いやどゆこと?)
「わかってくれたならいいですよ。」
凜は部屋の前から離れる。
「……というわけだ。静かにしてくれ。」
「えー、つまんないの。」
アリスはベッドに飛び乗る。
「じゃあこっち来て。」
「今度は何する気?!」
「さあ?何をするんでしょうねぇ~。」
アリスは再び悪い顔をする。ロビンはアリスの横に座る。
「あらあら、かかったわね!」
ロビンはアリスに押し倒される。
「え?え?え?」
「さあこれで本当に逃げられないわよ。」
アリスはロビンに顔を近づける。
「や、やめろぉー!」
その日、ロビンの断末魔が支部の近隣に響いたという。
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