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【第7章 追憶を求める者】
第3節 焔を顕現せし悪魔
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ズーン………
ロビンはぐったりしている。
「な、なにがあったんですか?」
「地獄だった。アリスに好き放題された。」
ロビンは半泣き状態だった。
「それはそれは、さぞ辛かったでしょう。紅茶飲みますか?」
「うん、飲む。」
凜は紅茶を淹れる。
「何があったのか教えてもらうことはできますか?」
「……あいつに、体の至る所のツボを押された!」
「ツボ……を?」
「痛い……」
ロビンは体を気にしながら話す。
「まあ、何かいいことが起こるかもしれませんよ?」
「そうだといいけど。いてて…」
ロビンは立ち上がると外に向かう。
「止んでる……」
外は吹雪が止み、日差しが街を照らしていた。ロビンは街中を歩くことにした。
ザク…ザク
「少し深いな。歩きづらい。」
ロビンは雪を手ですくう。ふわふわとした柔らかい雪だ。
「脆いものでも、集まれば形を保つことができる。ども…」
「それよりも強大な力が加われば、すぐに壊れてしまう。」
ロビンは雪を握る。雪は手からこぼれ落ちる。
「まるで………人のようだな。」
ロビンは空を見上げる。刀から九尾が出てくる。
「どうした?怖いのか?」
「何がだ?」
「運命だよ。貴様は運命の分岐に立っていると言われただろう。お前は"悲惨な運命"を選びそうで怖がっているのではないのか?」
ロビンは刀を持つ。
「まさかな……そんなことでビビっているようじゃあ、魔道士なんかやってねえよ。」
「ふっ、それもそうか。」
九尾は刀に戻る。
「雪だ。」
雪が振り始める。ロビンは建物の軒下で雪を凌ぐ。
「なあ九尾。」
「なんだ?」
「雪って………綺麗だな。」
ロンドンの街にしばらく雪が降り続いた。
「結構降ったな。」
雪が止むとロビンは軒下から出てくる。小一時間ほど足止めされた。
「さっさと戻るか。寒くて仕方ねえ。」
ロビンは支部へと向かう。
ゴツン!
「痛った!」
「It hurts!(痛い!)」
ロビンは曲がり角で1人の男性とぶつかる。
「いてて……すまん、大丈夫か?」
ロビンは手を差し伸べる。
「What's your name?(あなたの名前は?)」
「ロビン・アポローヌ。」
「……ロビン……アポローヌ?お前……ロビンか?!」
「へ?」
男はロビンの手を握る。ロビンは戸惑う。
「俺のこと、憶えてないのか?ガラミア・ヒース。」
「いや、記憶にないんだが……」
「まじか?!じゃあお前が俺を危機から救ってくれたことも憶えてないのか?!」
ロビンはキョトンとする。そのような記憶は全くないからだ。
「まじでそんな記憶ないんだけど。」
「困ったな……そうだ!時間はあるか?」
「結構持て余してるぞ。」
「ならついて来てくれ。」
ロビンはガラミアに手を引っ張られて、どこかに向かう。
「着いたぞ。ここに見覚えはあるか?少しでもあるといいんだが…」
連れてこられたのは廃れた建物だった。
「ここは……学校か?」
「そうだ。昔、俺たちはここに通ってたんだ。まあ今は廃校になってるがな。」
「どうだ?何か思い出せそうか?」
ロビンは何かを思い出せそうな気がしたが、何も浮かばなかった。
「駄目だ。何も思い出せない。」
「これでも駄目か………なら"あれ"しかないのか?」
「"あれ"?」
「ついて来い。」
ロビンはガラミアの後ろを追う。
「これは憶えてるか?」
ついて行った先には大きな木が立っていた。
「これってなんの木だ?」
「さあな。ガキの頃のことだから憶えてないぜ。」
ガラミアは木に触れる。
「俺たちはよくこの下で遊んだんだ。あの頃は楽しかったな…」
ガラミアは懐かしそうに木を見上げる。
「今ではこんなふうに枯れちまったが……あの頃の思い出は今でも俺の中に残ってる。」
ロビンは木を見て回る。
「ん?」
裏側に何か文字が彫られている。
「これ……誰が彫ったんだ?」
ガラミアは文字を見るが分からないようだ。
「こんなのがあったなんて……気づかなかったぞ。」
ロビンは文字を指でなぞる。
(お前が正しいと思う行いをしろ。それが、お前の運命だ。決して、運命に翻弄されることがないように。)
「この木って何百年も前からあるんだよな~。こういうのってなんか不思議だよな?」
「なんで?」
「なんでって……そりゃあ、なんでもだろ。」
ロビンはえぇ…という顔をする。
「そんじゃ、つきあわせて悪いな。」
「まあ暇つぶしにはなったな。」
2人は手を交わして互いの道に進む。
「ん?」
ロビンは裏路地に入っていく女性の姿が見えた。
(なんだ?)
ロビンは裏路地に入る。進むと左右に道が分かれていた。
(どっちだ?)
右を向くと女性が手招きしていた。
「待て!」
ロビンは追いかける。追いかけた先は行き止まりだった。
「っっ!」
追いかけていた女性は体が半透明だった。
「まさか……幽霊?!」
驚いているロビンに女性が近づき、耳元で何かを囁く。女性は囁くと消えてしまった。
(運命に翻弄されるな。今みたいな。)
ロビンは唖然とする。
「なんだったんだ……今の……」
ロビンは訳が分からない。スマホを見ると、時間は正午に差し掛かろうとしていた。ロビンはイギリス支部に向かう。
「あ、おかえり。」
支部に戻るとアリスが掃除をしていた。
「何してんの?」
「見たらわかるでしょ、掃除してるの。」
アリスは三角巾を被ってエプロンをつけながら床を箒ではく。
「なんで掃除してんだ?」
「ん~暇だから?」
「暇だからって……」
ロビンはなんとも言えない表情をする。外が吹雪いてきた。
「危ねえー、早く戻ってこれてよかったぜ。」
ロビンは部屋に戻る。アリスは窓の外を見る。
「今日は大荒れになる予報じゃなかったのに……」
アリスは少し不安になる。
(天気が不安定なのは当たり前だけど……だけど、なんだろう………この胸騒ぎは……)
「暇だ。」
ロビンはヘッドに上半身を乗せて寝転がる。ロビンは飛行機の中で春蘭から手帳を受け取ったのを思い出す。
「そういえば、これって何なんだ?」
ロビンは手帳を開く。中には電話番号らしきものが書かれていた。
(まさか……)
ロビンは書かれていた番号に電話をかける。
「ん?ロビン?」
「まじででた。」
「何か文句ある?」
「いやないけど………」
(直接口で伝えてくれよー!)
ロビンは心の中で叫んだ。
「暇で電話かけてみたが……体調は大丈夫か?」
「一応ね。いつ倒れるか分からないけど。」
「ほんとに気をつけろよ。しばらくは雫の側にいたほうがいいんじゃないか?」
ロビンは美桜を心配する。
「ええ、近くにいるわ。というか監視されてる。自由に動けない。」
「それは心中察するぜ。」
「切っていい?雫が執拗に寝かせようとしてくるのだけど…」
「ああ、ゆっくり寝てな。回復するまではな。」
電話が切れる。ロビンは何か虚しい気持ちになった。
「さっきの俺……何考えてたんだろ。」
ロビンは窓の外を見ながら1人呟いていた。
夜……
ロビンは部屋のベッドに入り、就寝の準備に入る。隣にはアリスが寝転んでいる。
「お前なぁ……1人で寝れるだろ……」
「だって寒いもん。」
ロビンはため息を付く。
「俺だって寒いけど1人で寝てるんだよ。」
「まあまあ、そう頑固にならずに。」
アリスは起き上がって紅茶を飲む。
「そういえば明日、何かすることある?」
「明日?」
「そう明日。」
「………。」
(あ…)
明日は12月5日。アリスの誕生日だ。
(やべー!何も考えてねえ!)
ロビンは頭を抱える。
(焦ってる焦ってる。なくてもいいけどね。)
アリスは隠れて笑う。だんだんと夜が更けていく。
12月5日
ドタドタドタ!
「なんだ……朝から?」
部屋の外が騒がしい。アリスも目を覚ます。
バン!
ガーネットが勢いよくドアを開ける。
「今起きたばっかり………とりあえず着替えて出てきて!」
「え?え?」
ロビンは状況が理解できない。アリスは着替えを持って浴室に向かう。
(あいつ……行動が早いな。)
「何があった?」
「話は後。ついて来て。」
2人はガーネットについて行く。
「来たか。」
「ほんとに何があったんだ?」
「火災よ。」
ガーネットは少し俯きながら答える。頭が痛そうだ。
「体調が悪いのか?」
「いや……昔のことを思い出しただけ。」
その言葉を聞いて、ロビンはものすごく嫌な予感がした。
「まさか、な………」
「そのまさかの可能性があるけど?」
建物の中は沈黙に包まれた。
ボンッ!
「なんだ今の爆発音?!」
「聞いて。今から火災の現場に向かう。道中……はぐれないように。」
「分かりづらい場所にあるのか?」
「そうじゃないの。ただ…すごく、危険な気がする。」
春蘭は凜に何かを手渡す。
「凜はここで待っててくれ。僕との通信が切れたら応援を呼ぶように。」
凜は頷く。
「これは?」
4人は火災の現場につく。目の前の建物がごうごうと燃えている。しかし炎が不自然だ。
「これ……魔法で作られた炎か?!」
「その可能性が高いわ。じゃないとこんな炎にはならない。」
炎はかすかに紫がかった魔力を帯びている。
「火災が起きてからまだそんなに時間は経ってない。」
「なら犯人はまだ近くにいるか……」
4人は辺りを警戒する。不気味な沈黙が辺りを包む。
「下!」
4人の足元に魔法陣が現れ、炎が噴き出す。
「おっとぉー?思ったより反応いいな。」
建物の上に1人の男が空から降り立つ。
「誰だ!」
「……ヴァンパイア!」
男は黒い翼を広げる。
「あれ?今俺ってそう呼ばれてるのか?もう一捻り欲しかったな。」
ヴァンパイアは余裕そうな態度をとる。ガーネットは槍を取り出してヴァンパイアにむける。
「その余裕を崩してやろうか?」
「あぁ?あー、お前あのときの女か。9年でこんなに変わるもんか?」
ヴァンパイアは嘲笑うかのような表情を浮かべる。
「ちっ、貴様……」
ガーネットは地面を強く踏み込み、ヴァンパイアに向かって槍で突く。
「おっと、槍の精度が下がったか?」
ヴァンパイアには簡単に避けられる。
「ちなみに俺たちもいることを忘れるな。」
ロビンは背後から斬りかかる。
「喰らうかよ!」
ヴァンパイアは体を捻り、ロビンの脇腹を狙う。ヴァンパイアの翼に氷が当たる。
「ちっ、あいつか…」
ヴァンパイアはアリスのほうを見る。
「やっぱり後衛から潰すべきか?」
ヴァンパイアは建物の壁を蹴り、アリスに一気に接近する。
「させない。」
ガーネットが行く手を阻む。ヴァンパイアは地面に着地する。
「やっぱ4対1はキツイか。なら……」
ヴァンパイアは手に炎を纏わせる。
(炎を纏った?)
「気をつけて。来る!」
ヴァンパイアは手を前方へ突き出す。それと同時に前方へと炎が放たれる。
「マズイ!」
春蘭とガーネットは左右へ避ける。炎は建物へと燃え移る。
「なんて火力だ。まともに喰らうとひとたまりもないぞ。」
「ふむ、これも駄目か。なら、これはとうだ?」
ヴァンパイアは炎を放つ。
「またか!」
しかし炎は放たれたあと、ヴァンパイアのもとに戻っていく。先程よりも少し炎が長くなっている。
(なんだ?炎が変だ。)
「これは避けられるか?」
ヴァンパイアは炎をムチのようにしならせる。
ズガガガンッ!
炎が建物を燃やしながら破壊する。瓦礫がロビンに降り注ぐ。
「やべっ…」
ロビンは瓦礫に埋もれる。
「まず1人……だがお前を殺す気はない。他は知らん。」
ヴァンパイアは炎のムチを消す。
「なんだそれは……魔法か?」
「そうだが、何か変か?」
「まあ冥土の土産に聞かせてやるよ。これは魔法を操る魔法だ。」
(魔法を操る魔法……聞いたことない。)
「まあこれを使えるのは、歴史上では俺だけだからな。知らなくて当然だ。死ぬ前に知識が1つ増えて良かったなぁ。まあ死ぬから意味ないが。」
ヴァンパイアは馬鹿にするように笑う。
「どうやら君を、放置するわけにはいかないようだ。」
春蘭は魔纏を発動する。
(あ?なんだあれ。魔力を纏った?)
春蘭の斬撃がヴァンパイアの体に傷を与える。
「くっ……」
(速い……俺が反応し遅れた、だと?)
春蘭はすぐさま次の攻撃の体勢に入る。
「中々の速さだ。しかし俺に武器がないのは少しハンデな気もするが……」
「持っていない君が悪いだろう?」
「持っていない、か。俺の能力をもう忘れたか?」
「まさか……」
ヴァンパイアは炎を自身の前に生み出す。そしてその炎に手を突っ込む。
「能力を応用すれば武器を作り出すことなど造作もない。」
手を引き抜くと炎で作られた剣が握られていた。
(あの剣はマズイ!)
ガーネットは剣を破壊しようと槍をむける。
「そう簡単に破壊させるとでも?」
ヴァンパイアがガーネットの腹部を柄で殴る。
「うぐっ……」
「どけっ。」
ガーネットの動きが止まったところを蹴り飛ばす。
「うあっ!」
ガーネットの脇腹に瓦礫の木片が突き刺さる。アリスは魔法で反撃する。
「あぁ、そうか。まだお前がいたのか。行け、サラマンダー。」
ヴァンパイアは魔法陣から炎を纏ったトカゲを召喚する。
「な、サラマンダーだと?!」
「俺の使い魔だ。おい、とことん遊んでやれ。飽きたら食っていい。」
シュルルル
サラマンダーは舌で口周りを舐める。
「え、え?」
アリスは迫力に怯える。
「普通のやつより2回りぐらいでかい特大サイズだ。人1人ぐらいならペロリといけるだろう。」
ヴァンパイアは剣を春蘭にむける。
「さぁて、タイマンといくか。」
春蘭の首を冷や汗がつたう。
(あの剣はマズイな。)
春蘭は刀を両手で強く握る。
ガキイィン!
2人の刀と剣がぶつかり合う。
「お前の腕前……中々だな。」
「その余裕はいつまで続くかな?!」
春蘭は力を込めて一気に勝負をつけにいく。
「そう簡単にやられるかよ!」
しかしヴァンパイアは巧みな身のこなしで攻撃の間を縫う。
「まるで君は蛇か何かか?」
「くくくっ、よく言われるぜ。」
「しかし、俺とやり合ってばかりでいいのか?」
「何?」
ヴァンパイアはアリスのほうを指差す。
「こっちこないで!」
アリスが壁際に追い詰められている。
(アリス……!)
春蘭はアリスのもとに急ぐ。ヴァンパイアはその隙を逃さない。行く手を阻む。
「仲間が優先か?残念だが、ここから先は俺を殺さないと行けないぜ。」
「なら……さっさと殺す。」
春蘭は斬りつける。
「それはもう見た。」
ヴァンパイアは春蘭の上を反転して飛び越える。
(ッ!なんて適応力だ!)
ヴァンパイアの剣が春蘭の左腕に傷をつける。
「あー避けられた。かすっただけか。」
(危なかった。あと少し遅れていたら腕が飛んでいた。)
「…っ……アリス!」
ガーネットは木片から体を離すとサラマンダーの首に槍を突き刺す。しかし、太すぎて致命傷にならない。サラマンダーは頭を大きく振り、ガーネットを振り落とす。ガーネットは先程の怪我のせいで腕に思うように力が入らない。
(だめ……体が……思うように……動か……ない)
ガーネットの呼吸が荒い。脇腹からの出血は続いている。
「大丈夫?!」
「大…丈夫、って言いたいけど……この怪我……だと……そう簡単には……いかないかも……しれない。」
「聞いて。サラマンダーは……強力な……魔獣よ。倒すなら……氷が有効。」
「私は……怪我を治す。1人で……できる限り…持ち堪えてほしい。」
アリスは静かに頷く。サラマンダーの纏う炎が勢いを増す。さっきのガーネットの攻撃で怒ったようだ。
「持ち堪えるぐらいなら……なんとかなるかな。」
アリスは魔法を唱え、氷を作り出す。氷はサラマンダー目掛けて飛んでいく。サラマンダーは尻尾を使って攻撃を防ぐ。
(知能があるの?)
サラマンダーが尻尾をこちらに叩きつける。衝撃で辺りに炎が飛び散る。
「意外と避けられ…」
サラマンダーは尻尾を横に薙ぎ払う。
「うっ?!」
アリスは尻尾に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「アリス!」
「他人の心配してる場合か?」
ヴァンパイアの剣が春蘭の頬をかする。
(駄目だ。こいつの攻撃が激し過ぎる。)
春蘭はヴァンパイアの攻撃を凌ぐので手一杯だ。
「………。」
「起きろ。」
「うっ……ん?」
ロビンは瓦礫の下敷きになっている。
「動けそうか?」
ロビンは腕を動かす。
「いけそうだ。」
「いくぞ。」
ドンッ!
「あぁ?」
ロビンは瓦礫の中から飛び出す。刀からは九尾が出てきている。
「春蘭!大丈夫か?!」
「僕の……心配は……するな!君は……アリスを……助けろ!」
春蘭はヴァンパイアと鍔迫り合いをしている。アリスにサラマンダーが口を開けて近寄る。
「待て!」
ロビンはサラマンダーの足を斬る。皮膚が厚くてあまり傷がつかないが、意識を逸らすことはできた。
「お前の相手は俺だ!」
ロビンは刀をサラマンダーにむける。サラマンダーは口を開けて威嚇する。
グラララァ!
ロビンは全く動じない。
「でかいけど、八岐大蛇に比べればなんてこと無いな。」
ロビンはサラマンダーの腹の下に潜り込む。サラマンダーは手足を使って追い払おうとする。
「そんなにノロノロしてちゃあ当たらねえよ!」
ロビンは魔纏を使い、右前足を斬り落とす。
「気をつけて!すぐに回復するよ!」
アリスが後方から魔法で支援する。
「こいつの弱点ってどこだ?」
「心臓を刺せ。魔獣討伐の基本だろ。」
ロビンは心臓を探す。
(どこだ?って、絶対あれだろ。)
ロビンの目の前にはオレンジに光る丸い部分があった。しかしサラマンダーが怒っており上手く狙えそうにない。
「アリス!こいつの動きを止めるぞ!」
「どうやって?」
「お前、拘束魔法は使えるか?」
「簡単なものなら使えるよ。」
「それでいい。」
ロビンはアリスに作戦を伝える。ロビンはサラマンダーに向かって走る。サラマンダーは舌を出しながら口を開けて突進してくる。
「今だ!」
アリスは魔法を唱える。サラマンダーの首に魔法でできた紐が巻き付き、動きを止める。サラマンダーは紐を千切ろうとする。
「隙ありなんだよ!」
ロビンはサラマンダーの腹部に潜り込み、心臓目掛けて刀を突き刺す。サラマンダーは断末魔をあげて塵となった。
「よし、春蘭を助けるぞ!」
「う、うん!その前にガーネットの治療を。」
アリスはガーネットのもとに、ロビンは春蘭のもとに向かう。
ガキイィン!ガンッ!
春蘭とヴァンパイアは激しいぶつかり合いを続けている。
「ちっ、とっととくたばれよ。面倒だぞ。」
「それはこっちのセリフなんだが。」
2人は鍔迫り合いをしながら睨み合う。
「応援に来たぞ!」
「サラマンダーを殺ったか。失うのは惜しいがまあいい、"時間稼ぎ"にはなった。」
ヴァンパイアは春蘭から離れる。
「2人同時にかかってこい。そのほうがフェアだろ?」
「僕1人の相手をするのにも手一杯だった気がするけど?」
「うるせえ。」
ヴァンパイアは2人を斬りつける。
「いくぞ。」
「おうよ!」
2人はヴァンパイアに左右から攻撃を仕掛ける。
ガキン!ガキイィン!
「くそっ!いつの間に……」
ヴァンパイアはもう1つ剣を作り出した。
「これで文句ねぇだろ。」
ヴァンパイアは2人に攻撃を行う。
「こいつマジか!」
ヴァンパイアは2人の攻撃を2本の剣で受け流す。
「こいつ、さっきよりも動きが……」
春蘭が刀を弾かれてのけぞった隙をヴァンパイアは見逃さない。
ドンッ!
ヴァンパイアは春蘭を遠くに突き飛ばす。
「春蘭!」
春蘭は親指を立てる。
「何が問題ないだ。大有りだろ。」
ロビンはヴァンパイアのほうを見る。ヴァンパイアは剣を消していた。
「やっと対面で話ができるな。」
ヴァンパイアは不敵な笑みを浮かべながらロビンに話しかける。
「お前は何が目的だ!」
ロビンは刀をヴァンパイアにむける。その言葉には怒りが込められていた。
「何って……お前を探すことだが?」
「俺を探す?なんのために?」
「なんのためにって……言えるわけねえな。言ってもすぐに忘れるからな。」
ヴァンパイアは鋭い目線を向ける。
「それよりも、早く"あの力"を見せろ。」
「"あの力"?」
「あれ?知らねえのか。まあ知られてないほうが楽、か。」
ヴァンパイアは斧を作リ出す。
「お前を殺す気はないが、抵抗するなら痛めつける。」
ロビンは恐ろしい殺気を感じる。
「それがお前の本性か。」
「バレたか……少し昔話をしよう。あの男が戻ってくるまでな。」
ヴァンパイアは空を見る。
「あれは何年前のことだったか。もう憶えてないが…」
ヴァンパイアの表情は少し悲しそうに感じた。
「俺を元々、"普通の人間"だった。しかしある日を境にして、俺は"半獣"へと堕ちた。」
ロビンはキョトンとする。
「なんでそうなったか気になってるなぁ。」
「俺には友人も恋人も信頼できる仲間もいた。だけど、全てお前ら人間に奪われた。」
ヴァンパイアの言葉に怒りがこもる。
「俺はその日から決めた。"半獣"に堕ちて、人間を皆殺しにすると!」
「だからって、関係ねえ人を巻き込むな!」
「黙れ!貴様に何がわかる!」
ヴァンパイアが叫ぶと、後ろにあった建物が突如として爆発する。
「くそっ……話すべきじゃなかったな。」
「お前を捕獲したら、この街の人間は皆殺しだ。」
ヴァンパイアの魔力が先程よりも濃ゆくなった。
「お前は今まで、何人の関係ない人を殺した!」
「そんなこと知ったこっちゃねえ!人間は皆殺しにする。そう決めてんだよ!」
ロビンとヴァンパイアは激しくぶつかり合う。
(こいつは……"恨み"で動いてるのか……)
「だからって、許さないが…」
ロビンは小声で呟く。
「九尾。"あれ"はできるか?」
「"あれ"とは?」
「八岐大蛇のときに使った"あれ"だ。」
「なんだ憑依のことか。」
九尾はロビンの体を包み込む。ロビンの体に狐のような特徴が現れる。
(これって憑依って言うのか。)
「なんだあれは?狐を纏った?」
ヴァンパイアハ不思議そうに見ながら警戒している。
(こういうものは大体ろくでもねえものだ。舐めてかかると痛い目を見る。)
ヴァンパイアは斧に力を込めて思い切り振り下ろす。
ドンッ!
斧が地面につくと凄まじい衝撃が辺りを襲う。しかし、憑依状態のロビンにはなんの影響もない。
ガンッ!
「お前は絶対に許さねえ……ここで必ず仕留める!」
「人間風情が……調子にのるな!」
ヴァンパイアは斧を大きく振る。ロビンはのけぞる。
「この一撃で、辺り一帯を吹き飛ばしてやるよ!」
「やめろ!」
ヴァンパイアは魔力を込めた斧を地面にむかって投げ飛ばそうとする。
ザクッ!
「かはっ…」
ガーネットがヴァンパイアの背後から槍を突き刺す。槍は胸元から突き出ている。
「貴……様…」
ヴァンパイアは体勢を崩す。斧が消える。
「これがお前の最期だ。今度こそ確実に殺す。」
「やってみろよ。」
ヴァンパイアはガーネットを刺激する。
「お前は俺を殺せない。この街ごと消し飛ぶんだからな。」
「くそっ……ロビン!トドメを!」
ロビンはヴァンパイアの首を斬り飛ばそうとする。ヴァンパイアは口角を上げる。
「雑魚が。」
ヴァンパイアは魔力を解き放つ。
「うっ?!」
ロビンとガーネットは吹き飛ばされる。辺りに魔力が漂う。
「おいどうした?俺を殺すんじゃなかったのか?」
ヴァンパイアの威圧が先程よりも強大になる。
「こいつは……まだ何か隠してたのか。」
「これは私も知らない。」
「こっからが本気の俺ってやつだな。……すぐに壊れてくれるなよ?」
ヴァンパイアの周りに炎が作られる。炎は矢のようにこちらに降り注ぐ。
「くっ……数が多すぎる!」
ロビンは避けるので必死だったが、ガーネットは徐々に距離を詰める。ヴァンパイアの喉目掛けて槍を突き出す。
「おいおい、狙いがバレバレだぞ。」
ヴァンパイアは剣を作り、ガーネットの槍を弾く。
「そういえば、まだこれを使ってなかったなあ!」
ヴァンパイアは剣を振り、炎の刃を放つ。炎の刃は建物を豆腐のように切断する。
「この化物め!」
ガーネットは刃を躱しながらヴァンパイアに接近する。ロビンも反対からヴァンパイアに近づく。
(あいつが"あの力"を見せる気配がないな。なら……)
「2人同時か……なら、これはどうだ!」
ヴァンパイアは全方位に大量の刃を放つ。ロビンは刃をもろに受ける。
(ヤバい……)
「あれ?」
ロビンは無傷だった。ガーネットは刃を躱す。しかし数が多い。
(あいつ……炎関連なら何も効かないのか?ならこっちの女をやるしかねえ。)
ヴァンパイアは刃を放とうとする。
「させねえ!」
ロビンはヴァンパイアの首を斬ろうとする。
「てめぇの相手をする気はねえ。とっとと失せな。」
ヴァンパイアはロビンの剣を受け流すと、ロビンは蹴り飛ばす。
「さてと……いつまで邪魔するつもりだ?」
「お前が死ぬまで。」
「ちっ、面倒くさ。」
ヴァンパイアは空中に無数の剣を作り出す。
「これでくたばりやがれ。」
剣は刃を放つ。ガーネットは防御魔法を使い、防ぎながらヴァンパイアに近づく。
「爆ぜろ!」
ヴァンパイアは魔法を使い爆発を起こす。
「ケホッケホッ!爆発を起こすなんて……無茶苦茶過ぎるでしょ!」
煙が晴れると剣が飛んでくる。ガーネットはギリギリで躱す。
「まだまだ剣は残ってるぜ!」
無数の剣がガーネット目掛けて飛んでくる。
「くっ……この!」
ガーネットは剣を避けるので手一杯だ。
「まだ終わりじゃないぞ。」
剣は急に動きを止めると、刃を放つ。
(マズイ!囲まれて……)
ザシュッ!
「くっ……」
ガーネットは刃を避けようとしたが、体勢を崩して地面に打ち付けられる。
(この感じ……マズイ……)
「これで逃げられねえぞ。」
ガーネットは立ち上がれない。右足が切られている。
「まだ諦めてない。」
ガーネットは飛行魔法を使う。
「それがまだあったな。でも魔力が尽きたらそこで終わりだ。」
ザクッ!
「ッ?!」
ロビンがヴァンパイアの羽を斬り落とす。
「おい……何してくれてんだ。この悪魔が。」
ロビンの目には殺意がこもっていた。
「いいぜその目だ!」
ヴァンパイアの闘争心が刺激される。
「俺ととことん殺り合おうぜ!」
ガーネットは不意打ちを狙う。
「不意打ちなんか使わずによぅ、真っ向からかかってこいよ!」
ヴァンパイアはガーネットを地面に叩きつける。ガーネットは怯まず立ち向かう。
「おいおい、しぶとすぎだろ。嫌われるぜ?」
「お前にそんなことを言われる筋合いはない。」
ガーネットから魔力が溢れ出ている。
(あぁん?何をする気だ?)
ガーネットの槍に魔力が集まる。ロビンはヴァンパイアの動きを止めようと刀で斬りつける。
「おっと?急にどうした?捨て身の特効か?」
「そんなわけあるかよ!」
ロビンはヴァンパイアの翼に深い傷を与える。
(くっ……こいつ!)
ヴァンパイアはロビンを振り払う。ガーネットはその隙を逃さない。魔力がこもった槍をヴァンパイア目掛けて投げつける。
「ッ!」
槍がヴァンパイアの体に突き刺さる。
「ぐがっ!」
ヴァンパイアはバランスを崩し、地面に落下する。
「今よ!」
ロビンはヴァンパイアの首に刀を当てる。切れ込みが入る。
「消えろ……この街と共に!」
ヴァンパイアは魔力を放つ。
「ロビン!逃げろ!」
九尾が警告する。しかし、ロビンは何かに吹き飛ばされる。
(え……?)
ロビンは壁に打ち付けられて気絶する。
「何をしたの?!」
「お前が知る意味なんかねえ。ここで街ごと吹っ飛ぶんだからな。」
辺りで何かが爆発する音が聞こえる。1つではなく、幾つもだ。
「何を……」
ガーネットは喋る前に爆発に巻き込まれる。
ヴァンパイアは空から街を見下ろす。
「この景色……9年前のあの日のようだ。」
この日ロンドンの街は、再び業火に包まれた。
ロビンはぐったりしている。
「な、なにがあったんですか?」
「地獄だった。アリスに好き放題された。」
ロビンは半泣き状態だった。
「それはそれは、さぞ辛かったでしょう。紅茶飲みますか?」
「うん、飲む。」
凜は紅茶を淹れる。
「何があったのか教えてもらうことはできますか?」
「……あいつに、体の至る所のツボを押された!」
「ツボ……を?」
「痛い……」
ロビンは体を気にしながら話す。
「まあ、何かいいことが起こるかもしれませんよ?」
「そうだといいけど。いてて…」
ロビンは立ち上がると外に向かう。
「止んでる……」
外は吹雪が止み、日差しが街を照らしていた。ロビンは街中を歩くことにした。
ザク…ザク
「少し深いな。歩きづらい。」
ロビンは雪を手ですくう。ふわふわとした柔らかい雪だ。
「脆いものでも、集まれば形を保つことができる。ども…」
「それよりも強大な力が加われば、すぐに壊れてしまう。」
ロビンは雪を握る。雪は手からこぼれ落ちる。
「まるで………人のようだな。」
ロビンは空を見上げる。刀から九尾が出てくる。
「どうした?怖いのか?」
「何がだ?」
「運命だよ。貴様は運命の分岐に立っていると言われただろう。お前は"悲惨な運命"を選びそうで怖がっているのではないのか?」
ロビンは刀を持つ。
「まさかな……そんなことでビビっているようじゃあ、魔道士なんかやってねえよ。」
「ふっ、それもそうか。」
九尾は刀に戻る。
「雪だ。」
雪が振り始める。ロビンは建物の軒下で雪を凌ぐ。
「なあ九尾。」
「なんだ?」
「雪って………綺麗だな。」
ロンドンの街にしばらく雪が降り続いた。
「結構降ったな。」
雪が止むとロビンは軒下から出てくる。小一時間ほど足止めされた。
「さっさと戻るか。寒くて仕方ねえ。」
ロビンは支部へと向かう。
ゴツン!
「痛った!」
「It hurts!(痛い!)」
ロビンは曲がり角で1人の男性とぶつかる。
「いてて……すまん、大丈夫か?」
ロビンは手を差し伸べる。
「What's your name?(あなたの名前は?)」
「ロビン・アポローヌ。」
「……ロビン……アポローヌ?お前……ロビンか?!」
「へ?」
男はロビンの手を握る。ロビンは戸惑う。
「俺のこと、憶えてないのか?ガラミア・ヒース。」
「いや、記憶にないんだが……」
「まじか?!じゃあお前が俺を危機から救ってくれたことも憶えてないのか?!」
ロビンはキョトンとする。そのような記憶は全くないからだ。
「まじでそんな記憶ないんだけど。」
「困ったな……そうだ!時間はあるか?」
「結構持て余してるぞ。」
「ならついて来てくれ。」
ロビンはガラミアに手を引っ張られて、どこかに向かう。
「着いたぞ。ここに見覚えはあるか?少しでもあるといいんだが…」
連れてこられたのは廃れた建物だった。
「ここは……学校か?」
「そうだ。昔、俺たちはここに通ってたんだ。まあ今は廃校になってるがな。」
「どうだ?何か思い出せそうか?」
ロビンは何かを思い出せそうな気がしたが、何も浮かばなかった。
「駄目だ。何も思い出せない。」
「これでも駄目か………なら"あれ"しかないのか?」
「"あれ"?」
「ついて来い。」
ロビンはガラミアの後ろを追う。
「これは憶えてるか?」
ついて行った先には大きな木が立っていた。
「これってなんの木だ?」
「さあな。ガキの頃のことだから憶えてないぜ。」
ガラミアは木に触れる。
「俺たちはよくこの下で遊んだんだ。あの頃は楽しかったな…」
ガラミアは懐かしそうに木を見上げる。
「今ではこんなふうに枯れちまったが……あの頃の思い出は今でも俺の中に残ってる。」
ロビンは木を見て回る。
「ん?」
裏側に何か文字が彫られている。
「これ……誰が彫ったんだ?」
ガラミアは文字を見るが分からないようだ。
「こんなのがあったなんて……気づかなかったぞ。」
ロビンは文字を指でなぞる。
(お前が正しいと思う行いをしろ。それが、お前の運命だ。決して、運命に翻弄されることがないように。)
「この木って何百年も前からあるんだよな~。こういうのってなんか不思議だよな?」
「なんで?」
「なんでって……そりゃあ、なんでもだろ。」
ロビンはえぇ…という顔をする。
「そんじゃ、つきあわせて悪いな。」
「まあ暇つぶしにはなったな。」
2人は手を交わして互いの道に進む。
「ん?」
ロビンは裏路地に入っていく女性の姿が見えた。
(なんだ?)
ロビンは裏路地に入る。進むと左右に道が分かれていた。
(どっちだ?)
右を向くと女性が手招きしていた。
「待て!」
ロビンは追いかける。追いかけた先は行き止まりだった。
「っっ!」
追いかけていた女性は体が半透明だった。
「まさか……幽霊?!」
驚いているロビンに女性が近づき、耳元で何かを囁く。女性は囁くと消えてしまった。
(運命に翻弄されるな。今みたいな。)
ロビンは唖然とする。
「なんだったんだ……今の……」
ロビンは訳が分からない。スマホを見ると、時間は正午に差し掛かろうとしていた。ロビンはイギリス支部に向かう。
「あ、おかえり。」
支部に戻るとアリスが掃除をしていた。
「何してんの?」
「見たらわかるでしょ、掃除してるの。」
アリスは三角巾を被ってエプロンをつけながら床を箒ではく。
「なんで掃除してんだ?」
「ん~暇だから?」
「暇だからって……」
ロビンはなんとも言えない表情をする。外が吹雪いてきた。
「危ねえー、早く戻ってこれてよかったぜ。」
ロビンは部屋に戻る。アリスは窓の外を見る。
「今日は大荒れになる予報じゃなかったのに……」
アリスは少し不安になる。
(天気が不安定なのは当たり前だけど……だけど、なんだろう………この胸騒ぎは……)
「暇だ。」
ロビンはヘッドに上半身を乗せて寝転がる。ロビンは飛行機の中で春蘭から手帳を受け取ったのを思い出す。
「そういえば、これって何なんだ?」
ロビンは手帳を開く。中には電話番号らしきものが書かれていた。
(まさか……)
ロビンは書かれていた番号に電話をかける。
「ん?ロビン?」
「まじででた。」
「何か文句ある?」
「いやないけど………」
(直接口で伝えてくれよー!)
ロビンは心の中で叫んだ。
「暇で電話かけてみたが……体調は大丈夫か?」
「一応ね。いつ倒れるか分からないけど。」
「ほんとに気をつけろよ。しばらくは雫の側にいたほうがいいんじゃないか?」
ロビンは美桜を心配する。
「ええ、近くにいるわ。というか監視されてる。自由に動けない。」
「それは心中察するぜ。」
「切っていい?雫が執拗に寝かせようとしてくるのだけど…」
「ああ、ゆっくり寝てな。回復するまではな。」
電話が切れる。ロビンは何か虚しい気持ちになった。
「さっきの俺……何考えてたんだろ。」
ロビンは窓の外を見ながら1人呟いていた。
夜……
ロビンは部屋のベッドに入り、就寝の準備に入る。隣にはアリスが寝転んでいる。
「お前なぁ……1人で寝れるだろ……」
「だって寒いもん。」
ロビンはため息を付く。
「俺だって寒いけど1人で寝てるんだよ。」
「まあまあ、そう頑固にならずに。」
アリスは起き上がって紅茶を飲む。
「そういえば明日、何かすることある?」
「明日?」
「そう明日。」
「………。」
(あ…)
明日は12月5日。アリスの誕生日だ。
(やべー!何も考えてねえ!)
ロビンは頭を抱える。
(焦ってる焦ってる。なくてもいいけどね。)
アリスは隠れて笑う。だんだんと夜が更けていく。
12月5日
ドタドタドタ!
「なんだ……朝から?」
部屋の外が騒がしい。アリスも目を覚ます。
バン!
ガーネットが勢いよくドアを開ける。
「今起きたばっかり………とりあえず着替えて出てきて!」
「え?え?」
ロビンは状況が理解できない。アリスは着替えを持って浴室に向かう。
(あいつ……行動が早いな。)
「何があった?」
「話は後。ついて来て。」
2人はガーネットについて行く。
「来たか。」
「ほんとに何があったんだ?」
「火災よ。」
ガーネットは少し俯きながら答える。頭が痛そうだ。
「体調が悪いのか?」
「いや……昔のことを思い出しただけ。」
その言葉を聞いて、ロビンはものすごく嫌な予感がした。
「まさか、な………」
「そのまさかの可能性があるけど?」
建物の中は沈黙に包まれた。
ボンッ!
「なんだ今の爆発音?!」
「聞いて。今から火災の現場に向かう。道中……はぐれないように。」
「分かりづらい場所にあるのか?」
「そうじゃないの。ただ…すごく、危険な気がする。」
春蘭は凜に何かを手渡す。
「凜はここで待っててくれ。僕との通信が切れたら応援を呼ぶように。」
凜は頷く。
「これは?」
4人は火災の現場につく。目の前の建物がごうごうと燃えている。しかし炎が不自然だ。
「これ……魔法で作られた炎か?!」
「その可能性が高いわ。じゃないとこんな炎にはならない。」
炎はかすかに紫がかった魔力を帯びている。
「火災が起きてからまだそんなに時間は経ってない。」
「なら犯人はまだ近くにいるか……」
4人は辺りを警戒する。不気味な沈黙が辺りを包む。
「下!」
4人の足元に魔法陣が現れ、炎が噴き出す。
「おっとぉー?思ったより反応いいな。」
建物の上に1人の男が空から降り立つ。
「誰だ!」
「……ヴァンパイア!」
男は黒い翼を広げる。
「あれ?今俺ってそう呼ばれてるのか?もう一捻り欲しかったな。」
ヴァンパイアは余裕そうな態度をとる。ガーネットは槍を取り出してヴァンパイアにむける。
「その余裕を崩してやろうか?」
「あぁ?あー、お前あのときの女か。9年でこんなに変わるもんか?」
ヴァンパイアは嘲笑うかのような表情を浮かべる。
「ちっ、貴様……」
ガーネットは地面を強く踏み込み、ヴァンパイアに向かって槍で突く。
「おっと、槍の精度が下がったか?」
ヴァンパイアには簡単に避けられる。
「ちなみに俺たちもいることを忘れるな。」
ロビンは背後から斬りかかる。
「喰らうかよ!」
ヴァンパイアは体を捻り、ロビンの脇腹を狙う。ヴァンパイアの翼に氷が当たる。
「ちっ、あいつか…」
ヴァンパイアはアリスのほうを見る。
「やっぱり後衛から潰すべきか?」
ヴァンパイアは建物の壁を蹴り、アリスに一気に接近する。
「させない。」
ガーネットが行く手を阻む。ヴァンパイアは地面に着地する。
「やっぱ4対1はキツイか。なら……」
ヴァンパイアは手に炎を纏わせる。
(炎を纏った?)
「気をつけて。来る!」
ヴァンパイアは手を前方へ突き出す。それと同時に前方へと炎が放たれる。
「マズイ!」
春蘭とガーネットは左右へ避ける。炎は建物へと燃え移る。
「なんて火力だ。まともに喰らうとひとたまりもないぞ。」
「ふむ、これも駄目か。なら、これはとうだ?」
ヴァンパイアは炎を放つ。
「またか!」
しかし炎は放たれたあと、ヴァンパイアのもとに戻っていく。先程よりも少し炎が長くなっている。
(なんだ?炎が変だ。)
「これは避けられるか?」
ヴァンパイアは炎をムチのようにしならせる。
ズガガガンッ!
炎が建物を燃やしながら破壊する。瓦礫がロビンに降り注ぐ。
「やべっ…」
ロビンは瓦礫に埋もれる。
「まず1人……だがお前を殺す気はない。他は知らん。」
ヴァンパイアは炎のムチを消す。
「なんだそれは……魔法か?」
「そうだが、何か変か?」
「まあ冥土の土産に聞かせてやるよ。これは魔法を操る魔法だ。」
(魔法を操る魔法……聞いたことない。)
「まあこれを使えるのは、歴史上では俺だけだからな。知らなくて当然だ。死ぬ前に知識が1つ増えて良かったなぁ。まあ死ぬから意味ないが。」
ヴァンパイアは馬鹿にするように笑う。
「どうやら君を、放置するわけにはいかないようだ。」
春蘭は魔纏を発動する。
(あ?なんだあれ。魔力を纏った?)
春蘭の斬撃がヴァンパイアの体に傷を与える。
「くっ……」
(速い……俺が反応し遅れた、だと?)
春蘭はすぐさま次の攻撃の体勢に入る。
「中々の速さだ。しかし俺に武器がないのは少しハンデな気もするが……」
「持っていない君が悪いだろう?」
「持っていない、か。俺の能力をもう忘れたか?」
「まさか……」
ヴァンパイアは炎を自身の前に生み出す。そしてその炎に手を突っ込む。
「能力を応用すれば武器を作り出すことなど造作もない。」
手を引き抜くと炎で作られた剣が握られていた。
(あの剣はマズイ!)
ガーネットは剣を破壊しようと槍をむける。
「そう簡単に破壊させるとでも?」
ヴァンパイアがガーネットの腹部を柄で殴る。
「うぐっ……」
「どけっ。」
ガーネットの動きが止まったところを蹴り飛ばす。
「うあっ!」
ガーネットの脇腹に瓦礫の木片が突き刺さる。アリスは魔法で反撃する。
「あぁ、そうか。まだお前がいたのか。行け、サラマンダー。」
ヴァンパイアは魔法陣から炎を纏ったトカゲを召喚する。
「な、サラマンダーだと?!」
「俺の使い魔だ。おい、とことん遊んでやれ。飽きたら食っていい。」
シュルルル
サラマンダーは舌で口周りを舐める。
「え、え?」
アリスは迫力に怯える。
「普通のやつより2回りぐらいでかい特大サイズだ。人1人ぐらいならペロリといけるだろう。」
ヴァンパイアは剣を春蘭にむける。
「さぁて、タイマンといくか。」
春蘭の首を冷や汗がつたう。
(あの剣はマズイな。)
春蘭は刀を両手で強く握る。
ガキイィン!
2人の刀と剣がぶつかり合う。
「お前の腕前……中々だな。」
「その余裕はいつまで続くかな?!」
春蘭は力を込めて一気に勝負をつけにいく。
「そう簡単にやられるかよ!」
しかしヴァンパイアは巧みな身のこなしで攻撃の間を縫う。
「まるで君は蛇か何かか?」
「くくくっ、よく言われるぜ。」
「しかし、俺とやり合ってばかりでいいのか?」
「何?」
ヴァンパイアはアリスのほうを指差す。
「こっちこないで!」
アリスが壁際に追い詰められている。
(アリス……!)
春蘭はアリスのもとに急ぐ。ヴァンパイアはその隙を逃さない。行く手を阻む。
「仲間が優先か?残念だが、ここから先は俺を殺さないと行けないぜ。」
「なら……さっさと殺す。」
春蘭は斬りつける。
「それはもう見た。」
ヴァンパイアは春蘭の上を反転して飛び越える。
(ッ!なんて適応力だ!)
ヴァンパイアの剣が春蘭の左腕に傷をつける。
「あー避けられた。かすっただけか。」
(危なかった。あと少し遅れていたら腕が飛んでいた。)
「…っ……アリス!」
ガーネットは木片から体を離すとサラマンダーの首に槍を突き刺す。しかし、太すぎて致命傷にならない。サラマンダーは頭を大きく振り、ガーネットを振り落とす。ガーネットは先程の怪我のせいで腕に思うように力が入らない。
(だめ……体が……思うように……動か……ない)
ガーネットの呼吸が荒い。脇腹からの出血は続いている。
「大丈夫?!」
「大…丈夫、って言いたいけど……この怪我……だと……そう簡単には……いかないかも……しれない。」
「聞いて。サラマンダーは……強力な……魔獣よ。倒すなら……氷が有効。」
「私は……怪我を治す。1人で……できる限り…持ち堪えてほしい。」
アリスは静かに頷く。サラマンダーの纏う炎が勢いを増す。さっきのガーネットの攻撃で怒ったようだ。
「持ち堪えるぐらいなら……なんとかなるかな。」
アリスは魔法を唱え、氷を作り出す。氷はサラマンダー目掛けて飛んでいく。サラマンダーは尻尾を使って攻撃を防ぐ。
(知能があるの?)
サラマンダーが尻尾をこちらに叩きつける。衝撃で辺りに炎が飛び散る。
「意外と避けられ…」
サラマンダーは尻尾を横に薙ぎ払う。
「うっ?!」
アリスは尻尾に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「アリス!」
「他人の心配してる場合か?」
ヴァンパイアの剣が春蘭の頬をかする。
(駄目だ。こいつの攻撃が激し過ぎる。)
春蘭はヴァンパイアの攻撃を凌ぐので手一杯だ。
「………。」
「起きろ。」
「うっ……ん?」
ロビンは瓦礫の下敷きになっている。
「動けそうか?」
ロビンは腕を動かす。
「いけそうだ。」
「いくぞ。」
ドンッ!
「あぁ?」
ロビンは瓦礫の中から飛び出す。刀からは九尾が出てきている。
「春蘭!大丈夫か?!」
「僕の……心配は……するな!君は……アリスを……助けろ!」
春蘭はヴァンパイアと鍔迫り合いをしている。アリスにサラマンダーが口を開けて近寄る。
「待て!」
ロビンはサラマンダーの足を斬る。皮膚が厚くてあまり傷がつかないが、意識を逸らすことはできた。
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ロビンは刀をサラマンダーにむける。サラマンダーは口を開けて威嚇する。
グラララァ!
ロビンは全く動じない。
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ロビンはサラマンダーの腹部に潜り込み、心臓目掛けて刀を突き刺す。サラマンダーは断末魔をあげて塵となった。
「よし、春蘭を助けるぞ!」
「う、うん!その前にガーネットの治療を。」
アリスはガーネットのもとに、ロビンは春蘭のもとに向かう。
ガキイィン!ガンッ!
春蘭とヴァンパイアは激しいぶつかり合いを続けている。
「ちっ、とっととくたばれよ。面倒だぞ。」
「それはこっちのセリフなんだが。」
2人は鍔迫り合いをしながら睨み合う。
「応援に来たぞ!」
「サラマンダーを殺ったか。失うのは惜しいがまあいい、"時間稼ぎ"にはなった。」
ヴァンパイアは春蘭から離れる。
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「うるせえ。」
ヴァンパイアは2人を斬りつける。
「いくぞ。」
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2人はヴァンパイアに左右から攻撃を仕掛ける。
ガキン!ガキイィン!
「くそっ!いつの間に……」
ヴァンパイアはもう1つ剣を作り出した。
「これで文句ねぇだろ。」
ヴァンパイアは2人に攻撃を行う。
「こいつマジか!」
ヴァンパイアは2人の攻撃を2本の剣で受け流す。
「こいつ、さっきよりも動きが……」
春蘭が刀を弾かれてのけぞった隙をヴァンパイアは見逃さない。
ドンッ!
ヴァンパイアは春蘭を遠くに突き飛ばす。
「春蘭!」
春蘭は親指を立てる。
「何が問題ないだ。大有りだろ。」
ロビンはヴァンパイアのほうを見る。ヴァンパイアは剣を消していた。
「やっと対面で話ができるな。」
ヴァンパイアは不敵な笑みを浮かべながらロビンに話しかける。
「お前は何が目的だ!」
ロビンは刀をヴァンパイアにむける。その言葉には怒りが込められていた。
「何って……お前を探すことだが?」
「俺を探す?なんのために?」
「なんのためにって……言えるわけねえな。言ってもすぐに忘れるからな。」
ヴァンパイアは鋭い目線を向ける。
「それよりも、早く"あの力"を見せろ。」
「"あの力"?」
「あれ?知らねえのか。まあ知られてないほうが楽、か。」
ヴァンパイアは斧を作リ出す。
「お前を殺す気はないが、抵抗するなら痛めつける。」
ロビンは恐ろしい殺気を感じる。
「それがお前の本性か。」
「バレたか……少し昔話をしよう。あの男が戻ってくるまでな。」
ヴァンパイアは空を見る。
「あれは何年前のことだったか。もう憶えてないが…」
ヴァンパイアの表情は少し悲しそうに感じた。
「俺を元々、"普通の人間"だった。しかしある日を境にして、俺は"半獣"へと堕ちた。」
ロビンはキョトンとする。
「なんでそうなったか気になってるなぁ。」
「俺には友人も恋人も信頼できる仲間もいた。だけど、全てお前ら人間に奪われた。」
ヴァンパイアの言葉に怒りがこもる。
「俺はその日から決めた。"半獣"に堕ちて、人間を皆殺しにすると!」
「だからって、関係ねえ人を巻き込むな!」
「黙れ!貴様に何がわかる!」
ヴァンパイアが叫ぶと、後ろにあった建物が突如として爆発する。
「くそっ……話すべきじゃなかったな。」
「お前を捕獲したら、この街の人間は皆殺しだ。」
ヴァンパイアの魔力が先程よりも濃ゆくなった。
「お前は今まで、何人の関係ない人を殺した!」
「そんなこと知ったこっちゃねえ!人間は皆殺しにする。そう決めてんだよ!」
ロビンとヴァンパイアは激しくぶつかり合う。
(こいつは……"恨み"で動いてるのか……)
「だからって、許さないが…」
ロビンは小声で呟く。
「九尾。"あれ"はできるか?」
「"あれ"とは?」
「八岐大蛇のときに使った"あれ"だ。」
「なんだ憑依のことか。」
九尾はロビンの体を包み込む。ロビンの体に狐のような特徴が現れる。
(これって憑依って言うのか。)
「なんだあれは?狐を纏った?」
ヴァンパイアハ不思議そうに見ながら警戒している。
(こういうものは大体ろくでもねえものだ。舐めてかかると痛い目を見る。)
ヴァンパイアは斧に力を込めて思い切り振り下ろす。
ドンッ!
斧が地面につくと凄まじい衝撃が辺りを襲う。しかし、憑依状態のロビンにはなんの影響もない。
ガンッ!
「お前は絶対に許さねえ……ここで必ず仕留める!」
「人間風情が……調子にのるな!」
ヴァンパイアは斧を大きく振る。ロビンはのけぞる。
「この一撃で、辺り一帯を吹き飛ばしてやるよ!」
「やめろ!」
ヴァンパイアは魔力を込めた斧を地面にむかって投げ飛ばそうとする。
ザクッ!
「かはっ…」
ガーネットがヴァンパイアの背後から槍を突き刺す。槍は胸元から突き出ている。
「貴……様…」
ヴァンパイアは体勢を崩す。斧が消える。
「これがお前の最期だ。今度こそ確実に殺す。」
「やってみろよ。」
ヴァンパイアはガーネットを刺激する。
「お前は俺を殺せない。この街ごと消し飛ぶんだからな。」
「くそっ……ロビン!トドメを!」
ロビンはヴァンパイアの首を斬り飛ばそうとする。ヴァンパイアは口角を上げる。
「雑魚が。」
ヴァンパイアは魔力を解き放つ。
「うっ?!」
ロビンとガーネットは吹き飛ばされる。辺りに魔力が漂う。
「おいどうした?俺を殺すんじゃなかったのか?」
ヴァンパイアの威圧が先程よりも強大になる。
「こいつは……まだ何か隠してたのか。」
「これは私も知らない。」
「こっからが本気の俺ってやつだな。……すぐに壊れてくれるなよ?」
ヴァンパイアの周りに炎が作られる。炎は矢のようにこちらに降り注ぐ。
「くっ……数が多すぎる!」
ロビンは避けるので必死だったが、ガーネットは徐々に距離を詰める。ヴァンパイアの喉目掛けて槍を突き出す。
「おいおい、狙いがバレバレだぞ。」
ヴァンパイアは剣を作り、ガーネットの槍を弾く。
「そういえば、まだこれを使ってなかったなあ!」
ヴァンパイアは剣を振り、炎の刃を放つ。炎の刃は建物を豆腐のように切断する。
「この化物め!」
ガーネットは刃を躱しながらヴァンパイアに接近する。ロビンも反対からヴァンパイアに近づく。
(あいつが"あの力"を見せる気配がないな。なら……)
「2人同時か……なら、これはどうだ!」
ヴァンパイアは全方位に大量の刃を放つ。ロビンは刃をもろに受ける。
(ヤバい……)
「あれ?」
ロビンは無傷だった。ガーネットは刃を躱す。しかし数が多い。
(あいつ……炎関連なら何も効かないのか?ならこっちの女をやるしかねえ。)
ヴァンパイアは刃を放とうとする。
「させねえ!」
ロビンはヴァンパイアの首を斬ろうとする。
「てめぇの相手をする気はねえ。とっとと失せな。」
ヴァンパイアはロビンの剣を受け流すと、ロビンは蹴り飛ばす。
「さてと……いつまで邪魔するつもりだ?」
「お前が死ぬまで。」
「ちっ、面倒くさ。」
ヴァンパイアは空中に無数の剣を作り出す。
「これでくたばりやがれ。」
剣は刃を放つ。ガーネットは防御魔法を使い、防ぎながらヴァンパイアに近づく。
「爆ぜろ!」
ヴァンパイアは魔法を使い爆発を起こす。
「ケホッケホッ!爆発を起こすなんて……無茶苦茶過ぎるでしょ!」
煙が晴れると剣が飛んでくる。ガーネットはギリギリで躱す。
「まだまだ剣は残ってるぜ!」
無数の剣がガーネット目掛けて飛んでくる。
「くっ……この!」
ガーネットは剣を避けるので手一杯だ。
「まだ終わりじゃないぞ。」
剣は急に動きを止めると、刃を放つ。
(マズイ!囲まれて……)
ザシュッ!
「くっ……」
ガーネットは刃を避けようとしたが、体勢を崩して地面に打ち付けられる。
(この感じ……マズイ……)
「これで逃げられねえぞ。」
ガーネットは立ち上がれない。右足が切られている。
「まだ諦めてない。」
ガーネットは飛行魔法を使う。
「それがまだあったな。でも魔力が尽きたらそこで終わりだ。」
ザクッ!
「ッ?!」
ロビンがヴァンパイアの羽を斬り落とす。
「おい……何してくれてんだ。この悪魔が。」
ロビンの目には殺意がこもっていた。
「いいぜその目だ!」
ヴァンパイアの闘争心が刺激される。
「俺ととことん殺り合おうぜ!」
ガーネットは不意打ちを狙う。
「不意打ちなんか使わずによぅ、真っ向からかかってこいよ!」
ヴァンパイアはガーネットを地面に叩きつける。ガーネットは怯まず立ち向かう。
「おいおい、しぶとすぎだろ。嫌われるぜ?」
「お前にそんなことを言われる筋合いはない。」
ガーネットから魔力が溢れ出ている。
(あぁん?何をする気だ?)
ガーネットの槍に魔力が集まる。ロビンはヴァンパイアの動きを止めようと刀で斬りつける。
「おっと?急にどうした?捨て身の特効か?」
「そんなわけあるかよ!」
ロビンはヴァンパイアの翼に深い傷を与える。
(くっ……こいつ!)
ヴァンパイアはロビンを振り払う。ガーネットはその隙を逃さない。魔力がこもった槍をヴァンパイア目掛けて投げつける。
「ッ!」
槍がヴァンパイアの体に突き刺さる。
「ぐがっ!」
ヴァンパイアはバランスを崩し、地面に落下する。
「今よ!」
ロビンはヴァンパイアの首に刀を当てる。切れ込みが入る。
「消えろ……この街と共に!」
ヴァンパイアは魔力を放つ。
「ロビン!逃げろ!」
九尾が警告する。しかし、ロビンは何かに吹き飛ばされる。
(え……?)
ロビンは壁に打ち付けられて気絶する。
「何をしたの?!」
「お前が知る意味なんかねえ。ここで街ごと吹っ飛ぶんだからな。」
辺りで何かが爆発する音が聞こえる。1つではなく、幾つもだ。
「何を……」
ガーネットは喋る前に爆発に巻き込まれる。
ヴァンパイアは空から街を見下ろす。
「この景色……9年前のあの日のようだ。」
この日ロンドンの街は、再び業火に包まれた。
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弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
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