紡ぐ者

haruyama81@gmail.com

文字の大きさ
73 / 117
【第15章 太陽が沈む時】

第2節 黒の呪縛

しおりを挟む
「何……あれ……」
「あれは"黒の呪縛"だ。黒い炎を使って相手に呪いをかける際などに見られる。よかったなぁ。滅多に見れないからな。」
美桜はディファラスのほうを向くと、猛烈な衝動にかられる。
「……す。」
「うん?」
「殺す!」
美桜は殺意に満ちた表情でディファラスに薙刀を振り下ろす。
「おっと危ない。」
ディファラスは槍で薙刀を受け止める。
「そうかっかするな。せっかくの美しい顔が台無しだ。」
「あんたにそんなこと言われる筋合いはないわよ!」
美桜は槍を払うと薙刀をディファラスに突き出す。
「そら!」
ディファラスは薙刀を弾いて地面に落とす。続け様に美桜の胸ぐらを掴む。
「…っ離せ!」
「おいおい暴れるな。」
青がディファラスに噛みつく。しかし、ディファラスは青の背中に立っていた。
「ええいちょこまかと!」
青は尻尾で掴もうとするがディファラスは青の真下に移動すると、下から槍で突き上げる。
「ぐぁっ?!」
青は美桜の中に戻る。
「さぁて、どうする?その薙刀で抵抗するか?それとも、あいつを治療して2人で戦うか?」
ディファラスは玖羽を指差す。美桜はディファラスを睨む。
「不意打ちなんか卑怯な真似はしない。これはハンデだ。格下の相手をひたすらにいたぶるのは面白くないだろ?」
ディファラスは腕を組んで平然と話す。
「その慢心は今後に響くわよ。」
美桜は玖羽を治療する。
「うぇ……いろんなとこから血が出て気持ち悪い。」
「そう言ってる場合じゃないわよ。」
美桜はディファラスとロビンを指差す。
「ロビンに巻き付いてるのって、あいつか?」
「そう。」
「あ~、めんどくせ。俺が予期した最悪の事態じゃねえか……」
玖羽は立ち上がって短剣をディファラスに向ける。
「まっ、黒幕が戻ってきたんだからここで潰すチャンスだな。」
美桜が玖羽の肩を掴む。
「あいつは魔法で空間に干渉できる。攻撃は当たらない可能性が高いわ。その上瞬間移動?みたいなこともしてくる。」
「はぁ?チートかよ?!」
「ただ、瞬間移動?をしたときに違和感があるの。少し時間を稼げる?」
「対人戦は得意だが、そんなチート性能の奴とは長く戦えねえぞ。……やるだけやるけどな。」
玖羽はディファラスに向かって地面を蹴り上げる。
「へぇ、真っ向から来るのか。そういうの、嫌いじゃないぜ。」
「はいはいそうですか。そのうるせえ口を閉じてやるよ!」
玖羽は短剣を逆手に持って、ディファラスに突き出す。
「なっ?!どこにいった!」
「ここだ。」
玖羽の背後からディファラスが話しかける。玖羽は咄嗟に距離をとる。
(はあっ……?今なんで避けれたんだ?俺との距離はほとんどなかっただろ。反応が速いなんてレベルじゃないぞ!本当に瞬間移動しているのか?)
(やっぱり瞬間移動している……でも、違和感はある。何が変なの?)
美桜は2人の周りを観察するが、特に変わったところはない。
「何ボサッとしてるんだ?」
ディファラスは玖羽を突き飛ばす。
「ボサッとしてねえよ。ただ、お前の突破法を考えてただけだ。」
「ほう?突破法か。是非聞かせてもらいたい。」
「敵に自分の作戦を教える馬鹿がいるか?」
「ふっ、確かにそうだな。なら、見せてもらおうか。」
ディファラスは玖羽に接近して槍を突き出す。玖羽は短剣で槍を弾く。
「単純な攻撃は俺には通用しないぜ。」
「ならこれはどうだ?」
ディファラスは背後に移動すると、同じように槍を突き出す。
「背後に回っただ……」
玖羽は前方からの攻撃に反応する。
「ほう……これを避けるか。中々やるな。」
(今何が起きた?槍が前から出てきた?)
玖羽は非常に困惑した様子だ。
「ちっ……お前の魔法か?」
「あぁ、空間に干渉すれば可能だ。実に便利だ。」
「つまり、お前の攻撃はどこにいようが当たるってわけか。中々に面倒くさいことしてくれるな。」
「だが、あれを避けれたのはお前が初めてだ。大体の奴はあれで死ぬんだがな。」
「ふん……対人戦だけが俺の取り柄だからな。あれぐらいで死んだら顔が立たねえ。」
「………。」
美桜は2人の戦闘を遠くから観察している。
(玖羽……めちゃくちゃ残念なお知らせだけど、あいつは本気じゃない。遊んでる。ただこちらが苦戦するのを楽しんでいるだけ。)
ディファラスは槍を構える。
「お遊びはそろそろ終わりにしよう。ニグレード様がお目覚めになるかもしれないからな。」
「へぇ……。ならおまえが逃げるのを阻止してやるよ。」
玖羽は美桜に目配せする。
(早く……背後からグサッと!)
「おいおい……そんな不意打ちなんかせずに真っ向から来たらどうだ?」
玖羽はディファラスが美桜に話している隙を狙う。
「おっと、本命はこっちか。」
ディファラスは玖羽の攻撃を受け止める。
「やれ、美桜!」
美桜は薙刀をディファラスの背中目掛けて突き出す。ディファラスが美桜に視線を向けた隙に、玖羽は短剣を逆手に持ってディファラスの腹部に目掛けて腕を振る。
「ぐっ………?!」
「がはっ?!」
3人の足下に赤い液体が広がる。玖羽の腹部に薙刀、美桜の腹部に短剣が突き刺さる。2人は後ろに下がり、地面に膝をつく。
「何……を?」
「空間をイジっただけだ。殺せると思ったか?残念だったな。それがお前ら限界だ。」
ディファラスは笑顔で美桜に話しかける。
「あんた……本当に……人間なの?」
「俺はれっきとした人間だ。」
「この……悪魔が、ゲホッ……ゲホッ!」
美桜は口を手で覆う。手の隙間から血が垂れる。
「おいおい……もう喋らないほうが良いんじゃないのか?」
ディファラスは玖羽に近づく。
「それで。お前の作戦はなんだったんだ?ただのハッタリか?」
玖羽は呼吸を整える。
「………………だ…。」
「ん?」
「んなわけ………ねえ……だろ!」
玖羽はディファラスを見上げる。ディファラスの胸に短剣が刺さる。
「これがお前の作戦か?とんだ無謀だな。」
「はなから……お前を……倒すつもり……なんか……ねえよ。傷を……負わ…せれれば………十分だ。」
玖羽は力を振り絞るようにして話す。
「なるほど。だが、その作戦は俺の前には全くの無意味なものだ。」
ディファラスは短剣を引き抜く。すると、除々に傷口が塞がっていく。
「傷が……再生……している?」
「ほら、もう元通りだ。」
胸の傷はすぐに消えてしまった。
「治療魔法じゃない……でも、あんたの瞬間移動とさっきの治療は、同じ魔法を使っているわ。」
美桜は力を振り絞って立ち上がる。
「ほう、言ってみろ。」
「あんたは……時間を操ってるんでしょ?」
「……は……はは……お前……何を………言って……」
「ふん。その通りだ。まさか、これだけの情報で気づくとはな。」
「あんたの体に感じた違和感……それは、魔力の変化よ。」
「具体的には?」
「さっき治療した時、あんたの傷が治るだけじゃなくて魔力も回復していたのよ。魔力を回復するなんて……人間ができる技じゃない。そして、今の状態のあんたを……私は知っている。」
ディファラスは腕を組む。
「今のあんたは……結界内に入ってきた時と、全く同じ状態なのよ!」
「確かにな。今の俺の魔力量は、その時と同じだな。でも、それだけでは断定できないのでは?」
美桜は息を荒くする。傷が痛むようだ。
「それだけじゃない。あんたらを観察していた時、あることに気づいたのよ。」
「あることとは?」
ディファラスは威圧するように鋭い視線を向ける。
「あんたが移動してる痕跡があるのよ。地面に。」
ディファラスは地面を見る。地面には魔力痕が残っていた。
「これは……俺の失態だな。」
ディファラスは頭をかく。
「しかし、素晴らしい観察力だ。敵でなければ是非勧誘したかったな。」
ディファラスは美桜に近づく。手を肩に当てると、美桜の怪我を治療する。
「……なんの真似?」
美桜はディファラスを警戒する。
「俺の魔法を見切ったご褒美だ。それに……」
ディファラスはロビンのほうを見る。
「ニグレード様が目覚める。」
ロビンの体に巻き付いていた黒い炎がロビンの体に吸収されていく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...