紡ぐ者

haruyama81@gmail.com

文字の大きさ
74 / 117
【第15章 太陽が沈む時】

第3節 黒き太陽の誕生

しおりを挟む
 ロビンはゆっくりと立ち上がる。遺跡を覆っていた結界が消える。ロビンの髪が少しずつ漆黒に染まっていく。
「ニグレード様。おはようございます。」
ディファラスは地面に膝をついて頭を低くする。
「ふぅ……貴様は確か……ディファラス、といったか?」
「名を憶えて頂けるとは、身に余るお言葉です。」
「貴様が我……俺の復活に協力してくれたことは知っている。こいつらを阻止してくれたことに感謝しよう。褒美に願いを1つ、いや、2つほど叶えてやろう。今は気分がいい。」
ニグレードは手のひらに黒い炎を出す。
「では、お言葉に甘えて。1つ目の願いは、こちらをご覧ください。」
ディファラスはニグレードに何かを見せる。
「ふむ……。了解した。」
「そして2つ目ですが……あなたのお力を拝見させていただきたいのです。」
「ほう、俺の力を見たいと言うのか。誰にぶっ放せばいいんだ?」
「そうですね。この場と、外に魔道士にはどうでしょうか?」
「なっ…?!」
玖羽は目を丸くする。
「こやつらは貴方様の復活を邪魔しようとした者たちです。この場で皆殺しにしたほうがよろしいかと思います。」
「お前の言うことには一理あるな。その願い、俺が叶えてやろう。」
ニグレードは天に向かって黒い光を放つ。
「おお……素晴らしい。」
ディファラスは手を広げて目を輝かせる。
「美桜。」
「何?」
「逃げろ。」
玖羽は美桜の目を見ながら真剣に話す。
「俺のことは気にするな。お前だけでも助かれ。外の奴らにも伝えろ。《王》が復活して、ロビンの体を乗っ取ったと。」
「そんなこと………」
「今の俺らは後手にまわっている。早くしろ。」
「言われてもしないわよ!」
美桜は玖羽に怒鳴る。
「仲間を裏切ったらあいつ(ディファラス)と同族じゃない!そんな勇気が私にあると思う?それに!ここで逃げたら世界がどうなるかもわかったもんじゃないわよ!」
美桜は玖羽に叫びながら治療魔法をかける。
「ハァ……そうだな。俺が間違ってた。それに、さっきの光で外の奴らも気づいてるだろ。すぐに応援が来る。それまで耐えるぞ。」
玖羽は短剣を手にして立ち上がる。
「最後まで抵抗するのか。俺も見習うべき根性だな。」
ディファラスはそう言い残して姿を消す。
「………。」
「どうしたニグレードさん。俺らにビビってるのか?」
「そのようなことがあるわけないだろう。ただ、かつての人間達を思い出しただけだ。彼らも、無謀わかっていながら最後まで俺に抗った。お前たちは彼らに似ている。なぜ人間はこうも諦めが悪い?」
玖羽は腕を組んでため息をつく。
「それは少し前に言っただろ。生きてるからだし……生きたいからだよ。」
ニグレードは地面に降りてくる。
「人間は寿命が短い生物だ。ただでさえ短いというのに、戦死すれば尚更だ。お前の発言は矛盾している。」
「じゃあお前に聞くぜ。人間が1番恐れてるものってなんだと思う?」
「………。」
「まあ知らないか。死だ。」
ニグレードは黙って玖羽の話を聞く。
「人間は死を恐れている。生き物だから当然っちゃ当然だな。」
「だけど人間ってのはな、死の淵に立つととんでもない力を発揮するんだ。火事場の馬鹿力、とは少し違うが似たようなものだ。」
「……何が言いたい?」
ニグレードは静かに聞く。
「生き物全員に言えることだが、防衛本能ってやつかな。死を逃れるために力を発揮する。人間も例外じゃなねえ。だから、俺たちは最後まで抵抗するぜ。どんなに強い奴であってもな!」
玖羽は短剣をニグレードに向ける。
「やはり気に入らない。」
ニグレードは2人にむかって黒い炎を放つ。その威力は凄まじく、遺跡の壁を破壊して外に溢れる。
(こんなん喰らったら即死だろ……炎が岩を破壊するってどゆこと?)
玖羽はその威力に唖然とする。
「ふぅ……上々だな。今まで制限されていた力を思う存分扱うことができる。」
ニグレードは遺跡の天井を破壊する。
「真の絶望をその身に焼き付けろ!」
ニグレードは上空に黒い炎を放つ。黒い炎は上空で爆発すると、分裂して隕石のように地面に降り注ぐ。
「美桜、物陰に隠れろ!一発一発の威力が爆弾の比じゃねえぞ!」
「わかってる!」
美桜の頭上に巨大な岩が落ちてくる。天井の残骸だろう。
「美桜!」
「くっ…………あれ?」
岩は粉々に破壊される。美桜から少し離れた場所に天垣が降り立つ。
「大丈夫か?」
「やっっっと来たか。他に誰がいる?」
「いや、来れたのは俺だけだ。」
「え?」
「他の団員はほとんどが負傷している。戦うふりをして退くぞ。」
「ロビンはどうするの?」
天垣は額に手を当てる。
「……今の段階では分からん。だが、絶対に助ける。見殺しにはしない。」
美桜は静かに頷く。
「行くぞ。お前たちは戦いの隙を見て逃げるんだ。」
ニグレードが上空からこちらを見下ろす。
「3人か。少なすぎないか?」
「お前こそ、俺たちを舐めすぎないほうがいい。」
天垣はニグレードの威圧感に気圧されない。
「へぇ……なら、本気でやってもぶっ壊れるんじゃねぇぞ!」
ニグレードが腕を振り上げると、合わせるようにして地面から黒い炎が立ち昇る。
「おわっ?!」
「―、―!」
イザナミが天垣の耳元で囁く。
「……わかった、あの炎には気をつける。」
(あの神霊ってそこまでわかるんだ……)
「つまり青のほうが格下ってわけか。」
「なんだそれは?嫌味か?」
「出てくるな。」
美桜は青を押し戻す。
「呑気だなぁ。」
美桜の目の前にニグレードが現れる。一瞬の出来事に美桜の頭が追いつかない。
「っ?!」
「ふぅん。てめぇ、こんな奴に守られてるぐらいじゃあ俺に勝つなんて夢のまた夢だ。身の程を知れ!」
ニグレードは美桜の胸ぐらを掴むと、地面へと叩きつける。
「うぁっ……」
美桜はめまいを起こす。
「させるかっ!」
天垣は頭上から大剣を振り下ろし、光の斬撃を放つ。
「神霊に頼り切ってんじゃねえ、ぞ!」
ニグレードは刀を抜くと、頭上から勢いよく振り下ろす。刀から黒い炎の斬撃が放たれ、光の斬撃を簡単に打ち破る。
「くっ………」
天垣はイザナミの加護で事なきを得る。
「中々使え…」
刀はニグレードの手を振り払って地面に落ちる。
「へぇ……この中の奴は自立して動けるのか。封印されているみたいだが、憑依と変わらねえのか。」
「ふん…貴様に従う義理はない。」
九尾はそそくさとどこかに逃げる。ニグレードの腰から鞘も消えていた。
「鞘も含めて1つの刀なのか……まあいい。」
ニグレードは上空に向かって飛び立つ。
「もう飽きた。お前らでは弱すぎる。」
ニグレードは手のひらを上に向ける。ニグレードの頭上に黒い炎が集まり、巨大な球体を作り出す。
「まさか……魔力弾か?なんという大きさだ。」
天垣はその光景に圧倒される。しかし、すぐに我に返る。
「鶴城、俺の後ろ!」
「あいつはどうするんだ!」
「こいつは我に任せろ。」
青は美桜に覆いかぶさる。その直後に、ニグレードは魔力弾を地面に向かって叩き落とす。
「……違う……魔力弾じゃない?!」
球体は地面に着弾すると、一点に収束し始める。次の瞬間には、辺りに凄まじい衝撃波が走っていた。その衝撃波は砂漠全体に及ぶものだった。


「ふっふっふっふっ、はっはっはっはっはっはっ!」
ニグレードは上空から地上を見下ろしながら笑い声をあげていた。
「見たことか!俺に抗うからこうなるんだ。最後まで物わかりの悪い奴らだったなぁ!」
ニグレードは砂漠をあとにしてどこかに飛び去る。砂漠の遺跡は跡形もなく消えている。砂漠の地形は先程の衝撃波でいびつに変わってしまった。至るところに魔獣が蔓延っている。その光景は、まるで地獄そのものだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...