紡ぐ者

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【第16章 災いに蝕まれて】

第2節 《王》を破る計画

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「……ここ…は?」
春蘭は真っ暗な空間で目を覚ます。周りに人の気配はない。
「ここが天国かな?思ったより暗いね。まぁ、死者の居場所だから明るかったらおかしいか。」
「天国、か。」
春蘭は背後から聞こえた声に警戒する。
「そう警戒するな。」
「誰だ君は?こんな場所で会う人なんて警戒しないわけないだろ?」
「確かにな、私の理解不足だったか。」
暗闇から1人の女性が姿を現す。
「お前は私のことを知っているはずだ。神宮寺 春蘭。」
「なぜ僕の名前を?」
春蘭は警戒しながら女性を観察する。その姿はどこか記憶にあるものだった。
(似ている。神社にある板絵に描かれた女性と特徴が酷似している。まさかとは思うが……)
「君は、神宮寺 椿か?」
女性は口角を上げる。
「ほら、知っているではないか。私は神宮寺 椿。お前たちの先祖にあたる存在だ。」
春蘭は息を呑む。
(神宮寺 椿……200年前にこの地に存在した。人物のはず。なぜ今ここにいるんだ?)
「君がいるってことは、ここはやはり天国か。」
「ここは天国ではない。青の腹の中だ。」
「青……あの龍のことか。」
椿は背を向ける。「来い。」と言わんばかりに手招きしている。
「座って茶でも飲みながら話そう。」
春蘭は椿の左斜に座る。
「聞きたいことが山程あるはずだ。いくらでも聞け。」
椿は湯呑みを手に取りお茶を飲む。
「腹の中とはどういうことだい?他の生物に食われたら死ぬのが普通だと思うけど?」
「噛み砕かれなければ体内だろうと生命を維持することができる。こいつの場合は丸呑みするタイプだから生存するのは容易だ。」
「じゃあ、君はどうやって200年もここで生き延びたんだ?」
椿は指で自身の髪をいじりながら考え込む。
「なんと説明すればいいのやら……まぁ、この結界の効力だ。」
「結界?」
春蘭は周囲を見渡す。目を凝らすとぼんやりと膜のようなものが見えた。
「どういう結界だ?このタイプのものは見たことがない。」
「この結界は生物の成長と身体の劣化を妨害するものだ。成長しなければ歳をとらないし、劣化しなければ死ぬことはない。簡単に言えば、生物を不老不死にする結界だ。」
春蘭は息を呑む。しばらくは言葉を発することができなかった。
(不老不死………結界の効力はわかったけど、問題はなんで龍の腹の中にいるのかだ。)
「私がなぜここにいるか、だろ?」
春蘭は驚いて開いた口が塞がらない。
「答えは簡単、私の気配を隠すためだ。ついでに青を弱体化させるために赤も一緒にいる。」
椿の服の袖から赤い龍が顔を出す。
「龍?!」
「こいつは赤だ。青とは一対の存在だ。」
春蘭は本殿にあった書物に記されていたことを思い出す。
「一対の龍。記録と同じだな。」
「ほう。こんなことまでしっかりと残されているのか。あの時代の人々は思っていたよりも優秀だったようだな。」
椿は春蘭を頭から爪先まで見つめると、手を差し伸べる。
「"そいつ"を私に渡せ。」
「"そいつ"とは?」
「タンザナイトだ。」
春蘭ほ懐からタンザナイトを取り出す。椿は奪うようにして受け取る。
「これがなければ話にならない。私の計画に支障がでるところだった。」
「計画?何を考えているんだ?」
椿は立ったまま黙り込む。
「不覚だ。その言葉を漏らしてしまうとは……」
椿は額に手を当てる。
「まあいい。久しく内容を口にしていなかったからな、復習のつもりで話すか。」
椿は椅子に腰掛けると、机に肘をついて話し始める。
「率直に言おう。私の計画は《王》を倒すためのものだ。」
「《王》?なんだそれは?」
「遥か昔に存在した、全ての魔獣を統べる者だ。」
「この名前は古い文献に記されていたものだ。」
椿はどこからか古い本を持ってくる。
「かなり古い物だね。」
春蘭は受け取ると本を開く。中には見たことのない字がつづられていた。
「……ふぅ……読めない。なんて書いてあるんだ?」
「本当に読めないのか?よく字を見てみろ。何かに似ているだろ?」
春蘭は字をよく観察する。
「これは……アルファベットか?」
「そう思ったのなら照らし合わせて読んでみたら?」
春蘭は本を読む。読み終えるのには小一時間ほどかかった。
「何が書かれていた?」
「君は知っているだろ?」
「私とお前の解釈が同じかを確かめるためだ。」
春蘭は本の内容を整理する。
「この本には《王》に関することが書かれていた。《王》。それは遥か昔より存在する災厄。《王》が扱う黒い炎は、生物の命を簡単に奪い去る禁術の一種。しかし黒い炎に関する記録はほとんどが抹消されている。」
「うん?それだけか?」
「いやまだあるよ。」
春蘭は一旦お茶を飲む。
「《王》は自身の感情を具現化することができる。それにより生まれた生物は、後に魔獣と呼ばれることになる。魔獣は《王》に対して絶対の忠誠を持っている。《王》が存在する限り、魔獣が絶滅することはない。僕が読めたのはここまでだ。」
「うん、上出来だな。解釈も私と一致している。」
椿は本を開く。
「お前の分からぬところは私が答えよう。」
「最初から君が説明すればよかったのに。」
「私の翻訳も、個人の解釈に過ぎない。他の者の解釈と照らし合わせたかっただけだ。」
椿は立ち上がって本のとあるページを開く。
「要点だけ話す。《王》は肉体を持たない。故に不死身と言える存在だ。しかし、流石の《王》にも弱点はある。それは"青い炎"、もしくは霊に干渉する攻撃だ。霊に対しての攻撃は有効ではあるが効果は薄い。"青い炎"は《王》に対して唯一致命傷を与えることができる。だが、"青い炎"を扱える人間は非常に稀な存在だ。《王》が復活した場合、"青い炎"を扱える者がいなければ死を待つしかないのかもしれない。」
「つまり、現状では《王》を倒す手段はないと?」
椿は本を元の場所に戻すと、椅子に腰掛ける。
「"青い炎"を使える奴がいれば勝てる。そして、私もお前も、そいつを知っている。」
「君が知っていても僕は知らないだろう。僕は君よりも未来の人間なんだ。」
「ロビンを知らないのか?」
「っ?!なんで……その名前を?」
「話を戻そう。このロビンという奴こそ、唯一《王》に致命傷を与えることができる。」
春蘭の頭に疑問が浮かぶ。
「でもロビンは"青い炎"を使うことはできない。」
「いいや、できる。結果にはそう書いてある。」
「結果?」
春蘭は椿の言葉に違和感を感じる。
「君は何を知っているんだ?結果という言葉を使うなんて、未来を知っていない限り出てこないだろ。」
「ほう……意外と頭が回る奴だな。お前は未来視を知っているか?」
「未来視?」
春蘭は椿から放たれる聞いたことない言葉に処理が追いつかない。
「私が扱う魔法で、禁術の1つだ。この魔法はある条件で分岐した複数の未来を見ることができる。」
椿は立ち上がって春蘭に近づいて話す。
「私は青に食われる少し前に、未来視を使って未来の歴史を見た。すると《王》が復活して世界が滅ぶという結果に至った。それ以降、私はいくつもの結果を見てきた。しかしほとんどが滅亡という結果に至った。だが、1つだけ滅亡を免れる結果を見つけた。」
「その結果を目指すために、青に食われたという訳かい?」
「その通りだ。本来ならばお前の妹を食わせるつもりだったが……まあ結果に支障は出ないから問題はない。」
「つまり君は、これから何が起こるかもわかっているんだろ?」
「あぁ。そして、このまま進めば《王》を確実に討伐できる。しかしこの計画にはかなり致命的な欠点がある。」
「欠点?未来を見れるのなら関係ないと思うけど?」
「確かに一見万能に見える未来視だが、唯一の欠点がある。それは決められた条件下での未来しか見ることができないということだ。つまり、予想外のことが起きた場合は計画の大半が破綻する。」
春蘭は「なるほど。」と呟いた次には、疑問をぶつけていた。
「予想外のことが起きたらどうするんだ?」
「それは私がなんとかしよう。」
椿は自身有りげに答える。
「即答か。それだけ自身があるということなんだろう。」
「私は今までの人生において、戦闘で負けたことはない。」
椿はどこからか細長い包を取り出す。
「しばらくお前を鍛えてやろう。《王》との決戦に備えるぞ。」
「その感じ……ここから出れるってことだね。望むところさ。」
春蘭は武器がないことに気づく。
「悪いけど武器を貸してくれないかい?刀だと嬉しいんだけど。」
「ほら。」
椿は春蘭の足下に刀を落とす。
「助かるよ。」
春蘭は刀を抜いて戦闘態勢に入る。
「始めるぞ。どこからでもかかってこい。」




「そんなことが……」
「お前たちからすればかなり悪いように見えるが、計画は順調に進んでいる。」
椿は立ち上がると部屋の外に向かう。
「どこに行くの?」
「他の者を呼びに行く。これから作戦について話すからな。」
椿は扉を静かに開けて外に出た。
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