紡ぐ者

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【第17章 海上の闘争】

第1節 戦場 衝突

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「魔獣が動き出した。行くぞ。」
椿率いる先頭部隊は最前線に向けて出陣する。その後ろを中立部隊、後方部隊の順に出動する。天気は晴れ。天候による弊害はない。
(本当に海を歩ける……青の力って底が知れないわね……)
「当然だ。我は龍神だからな。」
「なんでわかるの?」
「なんとなくだ。」
青は美桜から出てくる。
「おい気をつけろ!前から来てるぞ!」
前から魔獣の群れが突撃してくる。
「ふっ、雑魚が群れたところで……」
椿は薙刀を構えると、前方に向かって大きく薙ぎ払う。刃から斬撃が放たれ、前方の魔獣の群れの大半を処理する。
「久々に椿の攻撃を見たが……全く衰えていないな。」
「たった一振りであの数を仕留めるとは……」
ガレジストは椿の人間離れした攻撃に称賛の声を送る。
「見えたぞ。」
6人の前にニグレードが立ちはだかる。
「来たか……ふむ……俺が知らない奴もいるな。どうだぁ、調子は?俺は絶好調だ。2年の間にこの体にだいぶ馴染んだからな。今の俺は前回の比じゃねえぞ。」
ニグレードは不気味な笑い声を発しながら上空に飛び上がる。
「すぐ壊れるんじゃねえぞ?」
ニグレードは海面に向かって黒い炎を放つ。その攻撃は魔力砲に似たものであった。黒い炎は海面でドーム状に爆発する。
「おいおい、これぐらいで吹っ飛んだか?」
爆風が晴れると、椿が結界を張って全員を守っていた。
「今のはなんだ?俺には詠唱をしていないように見えたが。」
「天垣、お前の言う通りだ。奴は詠唱していなかった。もはや奴は、力の極地に達していると言っていいだろう。おそらく連続での使用も可能だ。」
「あの威力の攻撃を詠唱なしで連発できるのか。これは中々に苦しい戦いになりそうだ。」
春蘭は刀を抜くと、魔力を全身に纏わせる。
「今度はこちらから仕掛けさせてもらっ……」
椿の襟をディファラスが掴む。
「ニグレード様。あなた様の言う通り、こいつの相手は私がします。」
ディファラスは椿をどこかへ連れ去る。
「椿!」
「あいつは死んだかな。流石に相手が悪すぎた。」
ニグレードは不敵な笑みを浮かべる。
「おそらく大丈夫よ。あの人と話したときから、そんな気がする。」
美桜は天垣の後ろで小さな声で呟く。
「で、どうくるんだ?正義の味方共!」
「決まっているだろ。真正面から突っ走るまでだ!」
天垣は大剣をニグレードに向けると、海面を蹴ってニグレードに向かって跳躍する。同時にガレジストも天垣を追う。
「玖羽、乗って!」
玖羽は青に飛び乗る。青はニグレードの上空へと飛ぶ。
「僕も連れて行って欲しかったけど……まあ、僕には地上のほうが向いてるね。」
春蘭は海面を走ってニグレードの真下に向かう。
「2人ががり押せるというその考えが甘い!」
ニグレードは2人の攻撃を受け止め、そのまま海面へと押し返す。
「2人に気を取られてる場合か、よ!」
玖羽が落下しながらニグレードの体を短剣で何度も斬り裂く。
「貴様……まだ生きていたのか?」
「あんなんで俺を殺せると思うな!」
玖羽はニグレードの足を掴んで海面へと引っ張る。
「邪魔だ!」
ニグレードは玖羽を振り払うと、首を上へと向ける。
「あの龍か。」
ニグレードは黒い炎を弾丸のようにして青に放つ。青はお構いなしでニグレード向かって突撃する。
「そうか、ならこれはどうだ!」
「青避けて!」
美桜が警告する前に、ニグレードは腕を下から振り上げる。黒い炎が巨大な柱となって青の体を貫く。海面には大きな穴が開き、そこに周りから海水が流れ込む。
「ぐあぁっ?!」
青は美桜の中に戻り一命を取り留める。美桜は海面に勢いよく落下する。
「痛てて……」
「おい大丈夫か?」
「なんとかね。青の加護があってよかった。でも、しばらく青は動けない。」
「2人共気をつけろ!」
春蘭の声に反応して上を見ると、ニグレードがこちら目掛けて急降下してくる。
「うおっ?!」
ニグレードが着地すると同時に激しい水しぶきが起こる。
「ちょろちょろと……実に目障りだ。」
ニグレードは2人に黒い炎を放つ。最初に放ったものと同じで、海面を大きく抉るほどの勢いだ。
「お前の攻撃ってワンパターンだな!」
「貴様こそ、俺の攻撃ばかりに気を取られてていいのか?」
ニグレードは玖羽を威圧するように睨む。
「あー、あ?」
玖羽は言っている意味が分からなかった。
「敵はお前しかいないはず………」
玖羽の足元が突然爆発する。
「へ?何が……起きた?」
「水中を爆破しただけだ。」
春蘭はその光景と言葉に困惑する。
(爆破しただと?できるものは……黒い炎ぐらいだ。でも、どうやって?炎は水で消えるはずだ。)
「何を考えてんだ?」
春蘭の右隣からニグレードが話しかける。
「しまっ……」
ニグレードは春蘭の脇腹に手を突き出して黒い炎を放つ。
「あぁ?」
2人の間に天垣が割って入り攻撃を防ぐ。
「俺がいる限り、誰も死なせはしない!」
「へぇ、やってみろよ。」
ニグレードは後ろに下がると、海面を指でなぞる。
「これぐらいなら使えるな。」
「何をブツブツ言っている!」
天垣と玖羽は左右から攻撃を仕掛ける。ニグレードは海面を蹴り、宙へと高く跳ぶ。
「これはどうだ!」
ニグレードが腕を振ると、黒い炎が海面に大きな亀裂を作る。
「っ?!」
「おいおい冗談はやめてくれよ………」
亀裂は海底に到達するほど深かった。亀裂に海水が流れ込み、すぐに元に戻る。
「さてと、どこまで耐えれるかな!」
ニグレードは黒い炎の斬撃を縦横無尽に放つ。斬撃は海面を抉り、無数の亀裂を作り出す。
「くそっ、近づくことすらできねえ!」
玖羽は斬撃を避けるので精一杯だ。
「鶴城、跳べ!」
ガレジストの言葉に、玖羽は海面を強く踏み込んで高く跳ぶ。それに合わせてガレジストは海面から無数の氷の足場を生成する。
「そのまま行け!足場は間に合わせる!」
玖羽は足場を飛び移りながらニグレードに接近する。
「お前たち!これで少しは動けるようになったはずだ。氷の後ろなら攻撃を防げる。だが何回も保つとは思うな。」
「盾があるだけマシさ。」
春蘭は氷の裏に隠れながら確実に距離を縮める。
「散らばりやがったか。面倒でしかない。」
「よそ見している余裕があるようだな!」
天垣はニグレードの隙を見て大剣を振り下ろす。ニグレードは大剣を片手で受け止める。
「確かに、余裕はあるな。」
「ならその余裕を潰してやろう。」
2人は互いの目を見て睨み合う。
「ちっ、背後ばかり狙いやがって………」
ニグレードは天垣を蹴り飛ばすと、後ろを向いて美桜の攻撃を防ぐ。
「お前は不意打ちしかしねえのか?」
「それが一番確実な方法だからに決まってるでしょ。それぐらいわかりなさい。」
「調子に乗りやがって……」
ニグレードは薙刀を離すと手に魔力を集める。
「なら、こいつの力を使って叩きのめすまでだ。」
集まった魔力は徐々に広がり、ニグレードの全身を膜のように覆う。
「魔纏………ロビンの力を使ったか。」
美桜は距離をとると、薙刀を構えて防御の体勢に入る。
「魔纏を使ったところで、たいして変わらな……い?」
ニグレードは一瞬で美桜との間合いを詰める。
(速……)
ニグレードの拳が美桜の目前に迫る。突然、ニグレードは美桜から離れて体勢を変える。
「危なかったね。油断は最大の敵だよ。」
春蘭が2人の間に入って攻撃を防ぐ。
「お前も魔纏を使えるのか。少しは戦えそうだな。」
「おい、あいつは黒い炎だけ使えるというわけではないようだな。あの感じ、お前の兄とも似たいる。部位ごとに別々の魔力をかけれるのかもしれない。」
青はそう言い残して静かになる。
(寝た……まあ助言を残してくれただけいいか。)
「はぁ……お前らが先客かよ。まあそんなことは関係ないか。」
玖羽とガレジストが遠くから駆けつける。
「マズイぞ。中立部隊が機能していない。上を見ろ。」
春蘭は上を見上げると、その光景に息を呑む。上空には大量の魔獣がおり、その処理を中立部隊が行っていた。
「道理で中立部隊の支援がなかったわけか。この感じだと、後方部隊も同じ目に遭ってそうだね。」
「残念だが、話し合いの時間は与えていない。」
ニグレードは上空に黒い炎を放つと、黒い炎が雨のように降ってくる。
「そんなのありかよー!」
「お前たち!俺のところに集まれ!」
ガレジストは頭上に氷の壁を作る。氷の壁は炎の雨を完璧に防いだ。
「防いだからなんだ?」
ニグレードは指を鳴らす。
「全員離れろ!」
「砕けろ!」
ニグレードが叫ぶと、海中で無数の爆発が起こる。爆風で海面が破裂して、辺りに海水が降り注ぐ。
「くっ………」
「うぅ……」
「はぁ……はぁ……何が起こったんだ?」
5人は爆風で飛ばされ海面に打ち付けられる。
「言っただろう。敵は俺だけではないと。」
ニグレードは海面に降り立つ。
「俺がなんで炎ばかり使っていたかわかるか?答えは海中に俺の魔力を蓄積させるためだ。」
(そうだ。こいつは……魔力を操れるんだ。これじゃあ、2年前と同じ。)
美桜は力を振り絞って体を起こす。
「もはや俺が手を下す必要もないか。こい。」
ニグレードは指で魔獣に指示を出す。が、いつまで経っても魔獣は来ない。
「ん?」
ニグレードが空を見上げると、魔獣の姿がなかった。
「群れはどこに……」
その直後、ニグレードは凄まじい圧力を感じる。
「どうしたの?戦意喪失した?」
美桜は少し煽る。
「黙れ。」
美桜はニグレードの威圧に押し負ける。ニグレードは5人のことに目もくれず、どこに向かって歩く。立ち止まると上を見上げる。何かを警戒しているかのようだ。
「来る。」
上空から2人の人影が海面に降り立つ。
「化け物め……」
「化け物で悪かったわね。」
人影の正体は椿だった。隣にはコンパルゴもいる。
「お前……なぜ生きている?ディファラスはどうした?」
「あー、あいつ?ディファラスなら"殺した"。」
辺りに一時の静寂が走る。
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