81 / 117
【第17章 海上の闘争】
第4節 戦場 不穏
しおりを挟む
「帰ってこない?椿に何をしたんですか?」
「俺は何もしてないぜ。あいつが勝手にそうなったんだ。」
ニグレードは欠伸をしながら言葉を返す。
「そうですか、返すつもりはないのですね。」
アーロンドが指を鳴らすと、周囲に無数の魔法陣が生成される。
「ちっ、お前の実力も大概だな。なぜこうも化け物じみた人間が多いんだ……」
ニグレードは黒い炎で魔法陣をかき消す。アーロンドはすぐさま魔法陣を修復する。
「魔法陣の修復にはかなりの魔力を消耗するはずだ。はたして、お前の魔力はいつまで保つのやら……」
「ふっふっふっ………攻撃は任せますよ。」
ニグレードの背後から玖羽が奇襲を仕掛ける。ニグレードは玖羽に気づいて黒い炎を手に集める。
(霊撃か。今の俺には通用しない。攻撃を終えたところに合わせてこいつを打つ。)
「おぉうらあぁぁ!」
ニグレードは玖羽の攻撃を体で受け止める。
「消し飛べ。」
ニグレードは手に集めた黒い炎を放とうとする。その直後、ニグレードを凄まじい衝撃が襲う。
「ぐっ?!」
「っらあぁぁ!」
ニグレードが怯んだ隙を逃さず、玖羽は腹部を殴りつける。
「今です!」
アーロンドはニグレードに向かって無数の魔法陣から光線を放つ。他の団員も合わせるように魔法で攻撃する。
「やったか?」
玖羽は立ち昇る煙幕の中からニグレードを探す。
「あれは……」
アーロンドが何かを言いかけた直後、煙幕を中心に広範囲が凄まじいに衝撃波に襲われる。
「ぐあぁっ?!」
「うおぉぉ?!」
衝撃波の影響でこちらは大きな痛手を負う。結界を張ったのにも関わらず、多くの団員が負傷する。
「くっ…うぅぅ……」
「美桜!大丈夫か?」
春蘭は美桜を庇うように立つ。
「まさか……まだ……生きているのか?」
赤は上空に向かい海面を見下ろす。海面には大きな穴が開いており海底を見下ろすことができる。
(一体どこにこれほどの力が?あいつの力に限界はないのか?)
海底にニグレードの姿を捉える。まだ生きている。
「負傷した者はすぐに治療を受けなさい。動ける者は前に。」
前にでてきたのはガーネット、春蘭、美桜、疾風コンパルゴの5人だけだ。
「おや?ガレジストが負傷したのは意外ですね。」
「あの人は私を庇って怪我をしたわ。ソールさんも他の団員を庇って……」
「わかりました。天垣はしばらくしたら復帰するかもしれません。」
「それより、あいつはどうするんだ?」
コンパルゴは海底にいるニグレードを指差す。
「水が流れてこない……あいつの結界の影響かしら。」
「しかし、まだ力を隠していたなんて……奴は相当底が知れないみたいだ。」
(彼の言う通りだ。奴はこれほどの力をまだ隠して持っていた。私たちを殺すことなど奴からすれば簡単なはず。何かが邪魔をしているのか?)
アーロンドは顎に手を当ててしばらく考える。しかし答えはでない。
「確かにそうだな。これ以上、何もないことを願うが。ちなみにお前の魔力はあとどれくらい保つ?」
疾風は魔纏を使いっぱなしの春蘭を気にかける。
「まだ保つね。具体的な時間は分からないけど。」
「皆さん行きますよ。腹は括りましたか?」
「とっくにできている。」
「あいつを殺せたから関係ねえ。」
「いつでもできてます。」
「僕は問題ないよ。」
「問題ないわ。」
5人は息を合わせるように返事をする。
「では、最後のあがきといきましょうか。」
アーロンドに続いて5人は穴に飛び込む。穴の底ではニグレードが1人で立ち尽くしていた。纏っていた黒い炎が消えている。
「はぁ………はぁ………ふぅ…」
ニグレードはこちらに気づくが手を出してこない。どこか苦しそうに胸を押さえている。
「……早く失せろ。いつまでそうやって抗うつもりだ?お前の意思はすでにこの肉体(からだ)に反映されていない。諦めろ。」
ニグレードがそう言うと、体が青い炎に包まれる。
「ぐっ…?!あ…ぁぁぁぁ!」
ニグレードは苦しそうに唸り声をあげる。
「あれは……どうなっているんだ?」
「おそらく、ロビン君の意思がニグレードの行動を阻害していると思われます。」
「なぜそう言い切れる?」
「ニグレードの力を持ってすれば私たちを全滅させるのは容易なはず。今この状況からこれは確定でしょう。しかし奴は中々殺そうとしなかった。いや、殺すことがでかなかったのですよ。あのように阻害されてね。」
ニグレードは青い炎を払おうと黒い炎を自身に浴びせる。しかし青い炎がそれを打ち消す。
「私たちがここまで戦えたのも、ロビン君の意思があったからだと私は思います。だからこそ、やるべきことは1つ。」
アーロンドは全員に防御魔法をかける。
「ここでニグレードを確実に仕留める。同時に、ロビン君を早急に救出する。」
6人はニグレードから黒い炎が消えた瞬間をついて一気に攻撃を仕掛ける。
「ちっ……まだ生きていたか。こいつと同じでしつこい奴らだ!」
ニグレードは地面から黒い炎を放つ。しかし、それをかき消すように青い炎が覆いかぶさる。
(そうか。黒い炎は水でも問題ないが、青い炎は水で消える。だが今は水がない。つまり、こいつに俺の全てを邪魔される!)
ニグレードの腕をガーネットの魔法が貫く。
「ちっ……妨害されていることを良いことに。調子に乗るな!」
ニグレードは地面を殴りつけて黒い炎を噴出させる。それに合わせるように青い炎がニグレードの周りを囲う。
「そこ!」
美桜が上から斬りつける。ニグレードは振り払おうとしたが、青い炎に阻まれて反応できない。
「くっ……」
薙刀がニグレードの胸に傷をつける。すかさず春蘭が背後から追撃を行う。
(ダメだ……青い炎に阻まれる。こうなったら仕方ない……)
「はぁ!」
ニグレードは自信の胸を思いっきり叩く。そして手からありったけの黒い炎を放つ。衝撃でニグレードの体がふらつく。
「何をしている?!」
「自分で隙を作るとはな!」
コンパルゴがニグレードに殴りかかる。
「待ちなさい!」
アーロンドはコンパルゴを止める。しかし、アーロンドの声が届く前にニグレードの拳がコンパルゴの腹部に命中する。
「がはっ?!」
コンパルゴは吹き飛ばされて地面に打ち付けられる。ニグレードは体に再び黒い炎を纏う。
「やっと大人しくなったか。だがこれで俺に敵はない。覚悟しろよ?」
ニグレードは勝ち誇ったような顔をする。
「これはマズイな。」
「ここから勝てる方法ってあるのか?」
ニグレードの体から青い炎が消える。それはロビンの意思が消えたことでもある。
「全員、消し炭となれ。」
ニグレードは黒い炎を辺りに蔓延らせる。
「ここは地獄なの?」
ガーネットは上から地面を見下ろす。
「立てるか?」
「平気。」
美桜は瓦礫をどかしてすぐに立ち上がる。
「俺に考えがある。俺の力をお前に貸す。それであいつに決定打を与えてくれ。」
「おい赤、こいつで大丈夫なのか?耐えれなくて死ぬんじゃねえのか?」
「大丈夫だろう。でなければ椿が探すはずがない。」
青は一本取られたと言っているような顔をする。美桜はガーネットの元に跳躍する。
「……援護して。」
ガーネットの耳元で美桜が言葉を残す。美桜はそのままニグレードに向かう。
「あ、ちょっと!」
ガーネットは美桜の後を追う。美桜の周りには赤と青が漂っている。
「一対の龍の加護を持っているのか。俺の炎が効きづらくなるが、特に問題はないな。」
美桜は黙ってニグレードに攻撃を仕掛ける。ニグレードは腕で攻撃を止める。しかし、赤に力を貸してもらった美桜の攻撃はニグレードを簡単に怯ませる。
「くっ……なんだ、この力は?!」
「どうだ、俺の力が加わったこいつの力は?」
赤は煽るようにニグレードの周りを一周する。
「すこし予想外なだけだ。すぐに殺してやる。」
ニグレードは反対の手で殴りかかる。美桜は軽やかに攻撃を避ける。
(体が軽い。いつもより動ける。)
そのままニグレードの背後から攻撃を行う。
「おのれ……こしゃくな!」
「っん?」
「やっと起きた。」
玖羽はベッドの上で目を覚ます。ベッドの端に奏美が座っている。
「あんたはニグレードの攻撃で負傷したの。その怪我では戦えないから私が監視してるわけ。あんたなら下手に動きかねないからね。」
玖羽は自分の体を見る。左腕の肘下から下がない。
「まじか……」
玖羽はため息をついて大人しい声で喋りだす。
「なんで俺、生きてんだろ。」
「急にどうしたの?」
「俺が昔、世界的に有名な殺人鬼ってこと知ってるだろ?そんな堕ちきった俺がなんで生還してるのかが疑問なんだ。」
玖羽は左腕に視線を落とす。
「失ったのは腕一本。こんなんじゃあ、俺が今まで奪ってきた命の償いにならないだろ……」
「……飲み物を取ってくる。動かないでよ。」
奏美は部屋から出る。玖羽は窓の外を見る。外には団員が少ない。それにこの部屋の場所はそれほど高くない。
(抜け出せるか?)
玖羽は立ち上がる。不思議なことに痛みはない。
「傷は完全に治ってるか。医療班の技術はやっぱ相当だな。」
玖羽は武器を腰に備えて窓を開ける。
「悪いな奏美。自殺行為だろうと、そんなことは関係ねえ。俺は俺の道を行く。正しければそれでいい。」
玖羽は窓から飛び降りて海面に開いた穴に向かう。その直後に部屋に3人ほど人が入ってくる。
「やっぱり逃げた。」
「大丈夫でしょうか……」
「彼のことだから大丈夫……とは言い切れない。流石に心配だ。」
奏美は飲み物を机に置いて外を見る。
「この戦いが終わったら四人で食べに行きましょうよ。」
凛が奏美を慰めるように声をかける。
「凛、その発言はやめといたほうがいいと思うよ。」
「え?どうしてですか?」
琉の言葉に凛は首を傾げる。
「ほらあれだよ、言ったら大変なことになるやつ。」
凛には理解できないようだ。頭上にハテナマークが見える。
「はぁ!」
「あまい!」
ニグレードは薙刀を掴んで美桜を引き寄せる。そのまま美桜を地面に押し倒す。
「くっ……青!」
青はニグレードに噛みつく。その隙に逃げ出すが、ニグレードは青を簡単に振り払いすぐに追いつく。
(やばい……赤の力が少なくなってきた。)
美桜はニグレードの攻撃を受け流すが、次の攻撃に対しての反応が遅くなりつつある。ニグレードの攻撃が頬をかする。
「そこだ!」
ニグレードの攻撃が美桜に迫る。
(しまった!これは避けられ……)
「うっ……?!」
春蘭が飛び出してきて美桜を庇う。そのまま吹き飛ばされる。
「兄さん!」
美桜は思わず素が表に出る。
「僕のことは……気にするな。……早く……そいつを…」
春蘭は意識を失ってしまう。
「まだ戦うのか?仲間がボロボロになってるっていうのに。」
「当たり前でしょ!あんたを倒すつもりでここにいるんだから。」
美桜はニグレードに勢いよく斬りかかる。
「はぁ……うっとおしい。」
ニグレードは美桜の攻撃をわざと受けると、美桜を殴り飛ばす。美桜は吐血しながらも体を起こす。青の加護で致命傷にはなっていない。
「解せない。なぜそこまで抗おうとする?瀕死になってまで戦おうとする?」
「私だって知らないわよ。というか、誰も知るわけないでしょ。」
「意味が分からない……知らなのになぜ行動できる?」
「さあ?本能じゃない?」
美桜は薙刀を手に取るが武器としては使えなくなってしまっている。
「武器はないぞ。それでもまだ戦うのか?」
「まだ……魔力が残ってる。」
美桜は怪我を治すと青を外に出す。
「まあいい……死にたいのなら、最後まで付き合ってやろう。」
「寝てるの?」
女性の声が聞こえる。ゆっくりと目蓋を開ける。目の前には1人の女性がいた。
「あ、起きた。手、動かせる?」
言われた通り手を動かす。女性に手を握られるが温もりを感じない。
「このまま休んでていいの?」
女性の言っていることが分からない。考えることができない。
「このままだと皆死んじゃうよ?私みたいに。」
女性の言葉に体がピクリと反応する。
「それどころか、世界も死んじゃうよ?住むところもなくなっちゃうよ?美味しいものだって、楽しいことだって。全部なくなっちゃうよ?それでいいの?」
口を動かす。しかし思うように声が出ない。
(失いたくない……だから、俺は……)
「俺は……あいつを……倒す!」
ニグレードは首に違和感を感じる。まさかと思い、恐る恐る視線を左に移動する。左手には自身の血が大量に付着していた。足元には血が垂れて水たまりのようになっている。ニグレードは全てを察する。
「こいつ?!……やりやがったな!」
それと同時にニグレードの体が青い炎に包まれる。
「ぐあぁぁぁ!」
(マズイ……このままだと、俺の魂が保たない!)
ニグレードはたまらずロビンの肉体(からだ)から抜け出す。ロビンは地面に手をついてゆっくりと目蓋を上げる。
「よくも散々暴れてくれたな。そこにいるんだろ?隠れてないで……とっとと出てこい!」
ロビンは岩陰に向かって青い炎を放つ。ニグレードの炎が岩陰が溢れる。ロビンはそれを確認すると美桜の元に歩いていく。
「ロビン……あんた、平気なの?」
「そんなこと言ってる時間はない気がするぜ。それに、お前の魔力が切れたら面倒な気がするんだ。」
ロビンは刀を受け取ると岩陰のほうを見る。ニグレードが岩陰から出てきて何かをしようとしている。
「青い炎の扱いにもかなり慣れた。しばらくは大丈夫だ。」
ロビンはそう言って駆け出す。
「ここはあいつに任せるしかない。不安しかないだろうが仕方ない。椿がどうなっているか分からんしな。」
「そうだった……うん、行こう。」
美桜は壁となっている海の中に入って赤について行く。
「俺は何もしてないぜ。あいつが勝手にそうなったんだ。」
ニグレードは欠伸をしながら言葉を返す。
「そうですか、返すつもりはないのですね。」
アーロンドが指を鳴らすと、周囲に無数の魔法陣が生成される。
「ちっ、お前の実力も大概だな。なぜこうも化け物じみた人間が多いんだ……」
ニグレードは黒い炎で魔法陣をかき消す。アーロンドはすぐさま魔法陣を修復する。
「魔法陣の修復にはかなりの魔力を消耗するはずだ。はたして、お前の魔力はいつまで保つのやら……」
「ふっふっふっ………攻撃は任せますよ。」
ニグレードの背後から玖羽が奇襲を仕掛ける。ニグレードは玖羽に気づいて黒い炎を手に集める。
(霊撃か。今の俺には通用しない。攻撃を終えたところに合わせてこいつを打つ。)
「おぉうらあぁぁ!」
ニグレードは玖羽の攻撃を体で受け止める。
「消し飛べ。」
ニグレードは手に集めた黒い炎を放とうとする。その直後、ニグレードを凄まじい衝撃が襲う。
「ぐっ?!」
「っらあぁぁ!」
ニグレードが怯んだ隙を逃さず、玖羽は腹部を殴りつける。
「今です!」
アーロンドはニグレードに向かって無数の魔法陣から光線を放つ。他の団員も合わせるように魔法で攻撃する。
「やったか?」
玖羽は立ち昇る煙幕の中からニグレードを探す。
「あれは……」
アーロンドが何かを言いかけた直後、煙幕を中心に広範囲が凄まじいに衝撃波に襲われる。
「ぐあぁっ?!」
「うおぉぉ?!」
衝撃波の影響でこちらは大きな痛手を負う。結界を張ったのにも関わらず、多くの団員が負傷する。
「くっ…うぅぅ……」
「美桜!大丈夫か?」
春蘭は美桜を庇うように立つ。
「まさか……まだ……生きているのか?」
赤は上空に向かい海面を見下ろす。海面には大きな穴が開いており海底を見下ろすことができる。
(一体どこにこれほどの力が?あいつの力に限界はないのか?)
海底にニグレードの姿を捉える。まだ生きている。
「負傷した者はすぐに治療を受けなさい。動ける者は前に。」
前にでてきたのはガーネット、春蘭、美桜、疾風コンパルゴの5人だけだ。
「おや?ガレジストが負傷したのは意外ですね。」
「あの人は私を庇って怪我をしたわ。ソールさんも他の団員を庇って……」
「わかりました。天垣はしばらくしたら復帰するかもしれません。」
「それより、あいつはどうするんだ?」
コンパルゴは海底にいるニグレードを指差す。
「水が流れてこない……あいつの結界の影響かしら。」
「しかし、まだ力を隠していたなんて……奴は相当底が知れないみたいだ。」
(彼の言う通りだ。奴はこれほどの力をまだ隠して持っていた。私たちを殺すことなど奴からすれば簡単なはず。何かが邪魔をしているのか?)
アーロンドは顎に手を当ててしばらく考える。しかし答えはでない。
「確かにそうだな。これ以上、何もないことを願うが。ちなみにお前の魔力はあとどれくらい保つ?」
疾風は魔纏を使いっぱなしの春蘭を気にかける。
「まだ保つね。具体的な時間は分からないけど。」
「皆さん行きますよ。腹は括りましたか?」
「とっくにできている。」
「あいつを殺せたから関係ねえ。」
「いつでもできてます。」
「僕は問題ないよ。」
「問題ないわ。」
5人は息を合わせるように返事をする。
「では、最後のあがきといきましょうか。」
アーロンドに続いて5人は穴に飛び込む。穴の底ではニグレードが1人で立ち尽くしていた。纏っていた黒い炎が消えている。
「はぁ………はぁ………ふぅ…」
ニグレードはこちらに気づくが手を出してこない。どこか苦しそうに胸を押さえている。
「……早く失せろ。いつまでそうやって抗うつもりだ?お前の意思はすでにこの肉体(からだ)に反映されていない。諦めろ。」
ニグレードがそう言うと、体が青い炎に包まれる。
「ぐっ…?!あ…ぁぁぁぁ!」
ニグレードは苦しそうに唸り声をあげる。
「あれは……どうなっているんだ?」
「おそらく、ロビン君の意思がニグレードの行動を阻害していると思われます。」
「なぜそう言い切れる?」
「ニグレードの力を持ってすれば私たちを全滅させるのは容易なはず。今この状況からこれは確定でしょう。しかし奴は中々殺そうとしなかった。いや、殺すことがでかなかったのですよ。あのように阻害されてね。」
ニグレードは青い炎を払おうと黒い炎を自身に浴びせる。しかし青い炎がそれを打ち消す。
「私たちがここまで戦えたのも、ロビン君の意思があったからだと私は思います。だからこそ、やるべきことは1つ。」
アーロンドは全員に防御魔法をかける。
「ここでニグレードを確実に仕留める。同時に、ロビン君を早急に救出する。」
6人はニグレードから黒い炎が消えた瞬間をついて一気に攻撃を仕掛ける。
「ちっ……まだ生きていたか。こいつと同じでしつこい奴らだ!」
ニグレードは地面から黒い炎を放つ。しかし、それをかき消すように青い炎が覆いかぶさる。
(そうか。黒い炎は水でも問題ないが、青い炎は水で消える。だが今は水がない。つまり、こいつに俺の全てを邪魔される!)
ニグレードの腕をガーネットの魔法が貫く。
「ちっ……妨害されていることを良いことに。調子に乗るな!」
ニグレードは地面を殴りつけて黒い炎を噴出させる。それに合わせるように青い炎がニグレードの周りを囲う。
「そこ!」
美桜が上から斬りつける。ニグレードは振り払おうとしたが、青い炎に阻まれて反応できない。
「くっ……」
薙刀がニグレードの胸に傷をつける。すかさず春蘭が背後から追撃を行う。
(ダメだ……青い炎に阻まれる。こうなったら仕方ない……)
「はぁ!」
ニグレードは自信の胸を思いっきり叩く。そして手からありったけの黒い炎を放つ。衝撃でニグレードの体がふらつく。
「何をしている?!」
「自分で隙を作るとはな!」
コンパルゴがニグレードに殴りかかる。
「待ちなさい!」
アーロンドはコンパルゴを止める。しかし、アーロンドの声が届く前にニグレードの拳がコンパルゴの腹部に命中する。
「がはっ?!」
コンパルゴは吹き飛ばされて地面に打ち付けられる。ニグレードは体に再び黒い炎を纏う。
「やっと大人しくなったか。だがこれで俺に敵はない。覚悟しろよ?」
ニグレードは勝ち誇ったような顔をする。
「これはマズイな。」
「ここから勝てる方法ってあるのか?」
ニグレードの体から青い炎が消える。それはロビンの意思が消えたことでもある。
「全員、消し炭となれ。」
ニグレードは黒い炎を辺りに蔓延らせる。
「ここは地獄なの?」
ガーネットは上から地面を見下ろす。
「立てるか?」
「平気。」
美桜は瓦礫をどかしてすぐに立ち上がる。
「俺に考えがある。俺の力をお前に貸す。それであいつに決定打を与えてくれ。」
「おい赤、こいつで大丈夫なのか?耐えれなくて死ぬんじゃねえのか?」
「大丈夫だろう。でなければ椿が探すはずがない。」
青は一本取られたと言っているような顔をする。美桜はガーネットの元に跳躍する。
「……援護して。」
ガーネットの耳元で美桜が言葉を残す。美桜はそのままニグレードに向かう。
「あ、ちょっと!」
ガーネットは美桜の後を追う。美桜の周りには赤と青が漂っている。
「一対の龍の加護を持っているのか。俺の炎が効きづらくなるが、特に問題はないな。」
美桜は黙ってニグレードに攻撃を仕掛ける。ニグレードは腕で攻撃を止める。しかし、赤に力を貸してもらった美桜の攻撃はニグレードを簡単に怯ませる。
「くっ……なんだ、この力は?!」
「どうだ、俺の力が加わったこいつの力は?」
赤は煽るようにニグレードの周りを一周する。
「すこし予想外なだけだ。すぐに殺してやる。」
ニグレードは反対の手で殴りかかる。美桜は軽やかに攻撃を避ける。
(体が軽い。いつもより動ける。)
そのままニグレードの背後から攻撃を行う。
「おのれ……こしゃくな!」
「っん?」
「やっと起きた。」
玖羽はベッドの上で目を覚ます。ベッドの端に奏美が座っている。
「あんたはニグレードの攻撃で負傷したの。その怪我では戦えないから私が監視してるわけ。あんたなら下手に動きかねないからね。」
玖羽は自分の体を見る。左腕の肘下から下がない。
「まじか……」
玖羽はため息をついて大人しい声で喋りだす。
「なんで俺、生きてんだろ。」
「急にどうしたの?」
「俺が昔、世界的に有名な殺人鬼ってこと知ってるだろ?そんな堕ちきった俺がなんで生還してるのかが疑問なんだ。」
玖羽は左腕に視線を落とす。
「失ったのは腕一本。こんなんじゃあ、俺が今まで奪ってきた命の償いにならないだろ……」
「……飲み物を取ってくる。動かないでよ。」
奏美は部屋から出る。玖羽は窓の外を見る。外には団員が少ない。それにこの部屋の場所はそれほど高くない。
(抜け出せるか?)
玖羽は立ち上がる。不思議なことに痛みはない。
「傷は完全に治ってるか。医療班の技術はやっぱ相当だな。」
玖羽は武器を腰に備えて窓を開ける。
「悪いな奏美。自殺行為だろうと、そんなことは関係ねえ。俺は俺の道を行く。正しければそれでいい。」
玖羽は窓から飛び降りて海面に開いた穴に向かう。その直後に部屋に3人ほど人が入ってくる。
「やっぱり逃げた。」
「大丈夫でしょうか……」
「彼のことだから大丈夫……とは言い切れない。流石に心配だ。」
奏美は飲み物を机に置いて外を見る。
「この戦いが終わったら四人で食べに行きましょうよ。」
凛が奏美を慰めるように声をかける。
「凛、その発言はやめといたほうがいいと思うよ。」
「え?どうしてですか?」
琉の言葉に凛は首を傾げる。
「ほらあれだよ、言ったら大変なことになるやつ。」
凛には理解できないようだ。頭上にハテナマークが見える。
「はぁ!」
「あまい!」
ニグレードは薙刀を掴んで美桜を引き寄せる。そのまま美桜を地面に押し倒す。
「くっ……青!」
青はニグレードに噛みつく。その隙に逃げ出すが、ニグレードは青を簡単に振り払いすぐに追いつく。
(やばい……赤の力が少なくなってきた。)
美桜はニグレードの攻撃を受け流すが、次の攻撃に対しての反応が遅くなりつつある。ニグレードの攻撃が頬をかする。
「そこだ!」
ニグレードの攻撃が美桜に迫る。
(しまった!これは避けられ……)
「うっ……?!」
春蘭が飛び出してきて美桜を庇う。そのまま吹き飛ばされる。
「兄さん!」
美桜は思わず素が表に出る。
「僕のことは……気にするな。……早く……そいつを…」
春蘭は意識を失ってしまう。
「まだ戦うのか?仲間がボロボロになってるっていうのに。」
「当たり前でしょ!あんたを倒すつもりでここにいるんだから。」
美桜はニグレードに勢いよく斬りかかる。
「はぁ……うっとおしい。」
ニグレードは美桜の攻撃をわざと受けると、美桜を殴り飛ばす。美桜は吐血しながらも体を起こす。青の加護で致命傷にはなっていない。
「解せない。なぜそこまで抗おうとする?瀕死になってまで戦おうとする?」
「私だって知らないわよ。というか、誰も知るわけないでしょ。」
「意味が分からない……知らなのになぜ行動できる?」
「さあ?本能じゃない?」
美桜は薙刀を手に取るが武器としては使えなくなってしまっている。
「武器はないぞ。それでもまだ戦うのか?」
「まだ……魔力が残ってる。」
美桜は怪我を治すと青を外に出す。
「まあいい……死にたいのなら、最後まで付き合ってやろう。」
「寝てるの?」
女性の声が聞こえる。ゆっくりと目蓋を開ける。目の前には1人の女性がいた。
「あ、起きた。手、動かせる?」
言われた通り手を動かす。女性に手を握られるが温もりを感じない。
「このまま休んでていいの?」
女性の言っていることが分からない。考えることができない。
「このままだと皆死んじゃうよ?私みたいに。」
女性の言葉に体がピクリと反応する。
「それどころか、世界も死んじゃうよ?住むところもなくなっちゃうよ?美味しいものだって、楽しいことだって。全部なくなっちゃうよ?それでいいの?」
口を動かす。しかし思うように声が出ない。
(失いたくない……だから、俺は……)
「俺は……あいつを……倒す!」
ニグレードは首に違和感を感じる。まさかと思い、恐る恐る視線を左に移動する。左手には自身の血が大量に付着していた。足元には血が垂れて水たまりのようになっている。ニグレードは全てを察する。
「こいつ?!……やりやがったな!」
それと同時にニグレードの体が青い炎に包まれる。
「ぐあぁぁぁ!」
(マズイ……このままだと、俺の魂が保たない!)
ニグレードはたまらずロビンの肉体(からだ)から抜け出す。ロビンは地面に手をついてゆっくりと目蓋を上げる。
「よくも散々暴れてくれたな。そこにいるんだろ?隠れてないで……とっとと出てこい!」
ロビンは岩陰に向かって青い炎を放つ。ニグレードの炎が岩陰が溢れる。ロビンはそれを確認すると美桜の元に歩いていく。
「ロビン……あんた、平気なの?」
「そんなこと言ってる時間はない気がするぜ。それに、お前の魔力が切れたら面倒な気がするんだ。」
ロビンは刀を受け取ると岩陰のほうを見る。ニグレードが岩陰から出てきて何かをしようとしている。
「青い炎の扱いにもかなり慣れた。しばらくは大丈夫だ。」
ロビンはそう言って駆け出す。
「ここはあいつに任せるしかない。不安しかないだろうが仕方ない。椿がどうなっているか分からんしな。」
「そうだった……うん、行こう。」
美桜は壁となっている海の中に入って赤について行く。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる