紡ぐ者

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【第18章 《王》の影】

第1節 暗闇の中の銀

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 椿は少女が放つ攻撃を避けながら反撃の隙を伺う。しかし、攻撃が激しすぎて隙を見つけるのがかなり難しい。
(目にもの食らわせようと思ったけど……これだと中々厳しいわね。それにこの魔法……黒い炎の類かしら?)
煙幕が晴れた瞬間、少女の攻撃が瞬時に飛んでくる。息つく暇もない攻撃の嵐に椿は防戦一方だ。
(必ずどこかで隙ができるはず。魔力がいつまでも保つとは思えない。)
椿は攻撃をいなしながら冷静に分析する。少女は容赦なく攻撃を連発する。椿の目にはあることが映る。
(連発したあとに数秒だけ隙がある。そこを叩けば……)
しかしそれは非常に困難なことであった。少女の攻撃は今までにない以上に激しく、近づくことは愚か、詠唱する余裕すらない。
「一か八か……」
椿は走りながら詠唱を始める。体勢が安定しないため詠唱が行いづらい。少女は攻撃の手を緩めない。それどころかよりいっそう激しさを増す。椿は結界で攻撃を防ぐ。
(これで煙幕が作れた。今なら……)
煙幕の中から椿の分身が飛び出して少女に攻撃を仕掛ける。しかし少女は分身のほうを見ない。よく見ると、手に持っている錫杖の先端が後ろを向いている。
(まさか……)
少女は視線を後ろに向けると、椿に向かって魔法を放つ。
「くっ……」
椿はゴロゴロトと地面を転がる。少女は分身が消えるのを確認すると、すぐに次の攻撃の態勢に入る。
(分身も簡単に目抜かれる……操るのは苦手でも分身としての出来は相当なはずよ。それを一瞬で……)
椿の作る分身は歴戦の魔道士でも見抜くことが困難なほど出来がよい。それを一瞬で見抜いた。これは、少女の実力がそれらとは比べものにならないほど強大だということである。
「でも、これでわかった。」
椿はあるとこに確信を持つ。
(あいつは私の格上じゃない。おそらく同等。でもそれは、今ある情報だけを踏まえての事。あいつの手持ち次第ではどうなるか分からない。)
椿は間合いを取って慎重に見定める。少女は錫杖の先端をこちらに向ける。
(来る……)
椿が瞬きをした瞬間、少女の魔法が目前に迫る。椿は持ち前の反応速度でなんとか回避して反撃に転ずる。少女は近づいてきた椿に錫杖を向けてすぐに魔法を放つ。しかし近距離では魔法を当てるのは非常に難しい。椿は背後にまわって薙刀を少女に向けて突き出す。
「これでどう?」
少女の胸から薙刀が突き出る。しかし少女はなんの反応も見せず、平然と立っている。
「効いて……ない?」
椿が唖然としていると錫杖から魔法が放たれる。
「いっ………?!」
魔法は椿の左肩に傷を負わせる。椿は急いで離れて傷口を押さえる。
(しまった、完全に油断した。だが武器での攻撃が効かないということは、あいつは肉体を持っていない。)
「なら、霊撃か魔法なら通じる!」
椿は攻撃の合間を縫って確実に接近する。少女は椿の薙刀を見た瞬間、魔法の威力を上げる。霊撃を明確に敵視している。
(へぇ、意地でも喰らいたくないのね。だったら当ててあげるわ!)
椿は薙刀を振り下ろして霊撃の斬撃を飛ばす。少女は魔法でかき消そうとすぐに連発するが、椿の斬撃は全てを断ち切る。そのまま少女は地面に倒れる。
「効いた?」
少女は体を錫杖で支えながらゆっくりと立ち上がる。効いてはいるが致命傷にはならないようだ。
「とんだタフネスね。」
椿は薙刀を構えて様子を伺う。少女は錫杖を振る。すると魔力が集まりだして巨大なトラバサミになる。魔力で錫杖と繋がっている。
「物体を作った……」
少女はトラバサミを椿目掛けて振り回す。振り回した時、トラバサミがガチンッと刃がぶつかる音を鳴らす。
「あんなに挟まれたら一発で終わりね……」
椿がトラバサミに気を取られていると、上から無数の剣が降り注ぐ。椿は一つ一つを弾きながら駆ける。
(やっぱり……あいつは禁術が使える。おそらく創造魔法。生物以外で想像した物を好き放題作ることができる。)
椿は薙刀を翻してトラバサミを弾き返す。
(日常生活においても自由に使えるうえに、戦闘となればあらゆる武器を思うがままに使える。そんな我儘を極めたみたいな魔法を使えるなんて……その上この魔力。とんでもない化け物ね、あいつは。)
少女は再び剣を作り出した。しかし作ったのは一本だけ。少女は作った剣を手に取る。椿は攻撃に備える。少女は剣を横に振る。すると剣から黒い炎が吹き出る。
(黒い炎?!なんで……)
少女は剣を空中に投げる。剣は空中に浮かぶと、左右に次々とレプリカが作られる。
(こいつ、複製魔法まで使えるの?!)
無数の剣は一気に椿に降り注ぐ。椿は剣の雨をなんとか凌ぎ切る。
「創造した物をいくらでも複製できる………最悪の組み合わせね。2つの禁術が合わさるとこうも厄介になるとは……」
椿に休む暇はない。再び剣の雨が襲い来る。そのうえ黒い炎を纏っているため、1つに被弾しただけで致命傷になりかねない。
(こんなの理不尽でしかないんだけど………いつ攻撃できるわけ?)
椿は再び反撃の機会を失ってしまう。
(この剣を消すためには本体の剣を破壊しないといけない。あそこまで辿り着け……いや、1人じゃ無理。美桜が来るまで持ち堪えれれば……)
椿は隙を作らないよう立ち回る。少女は淡々と剣を飛ばしてくる。見た感じ、魔力を消費している気配はない。
(魔力が無限……なんてことはないはず。でも、得体が知れなさすぎて有り得なくもない。)
少女は突如、剣を飛ばすのをやめて椿に近づく。少女に見つめられた椿は体が麻痺したかのように動かなくなる。
「何?」
少女からは異質な不気味さを感じる。まるでこの世の者とは思えない感覚だ。
「あなた………どこかで………あったことある?」
(喋れるの?)
「……ない。」
少女の言葉から威圧感が滲み出る。
「そっ……か………私が………うろ憶えなだけか……」
少女は椿から離れる。同時に椿は体を動かせるようになる。
「なんで今殺さなかったの?」
「私は………戦い………たくない。けど………邪魔を………する人は………許さない。」
少女の雰囲気が変わる。椿は武器を地面に落としてしまう。
(手が震えている。これは本能からくる恐怖。無意識の内に体が反応している。)
椿は深呼吸をして武器を拾う。
(やっぱり、死ぬのは怖いのかな。格上を前にしたら、私でも恐怖心を持ってしまう。それが生きてるってことだけど。)
椿は目を閉じて薙刀を構える。そのまま静止する。少女は椿に向かって八方から魔法を放つ。魔法が命中する直前、椿は地面を蹴って少女に急接近する。
(この速さなら追いつけるわけない。)
少女は魔法を放とうとするが反応が遅れる。薙刀が少女の胸を貫く。その直後に霊撃が発動する。
「あぁ…………うぅ……」
少女はそのまま地面に倒れる。しかし椿は霊撃の威力を強める。
(こいつは……この程度じゃ死なない!もっと……もっと………もっと強く!)
霊撃を更に強める。衝撃で地面がくぼみ始める。
「と………」
「と?」
椿は猛烈に嫌な予感がしたため霊撃を更に強める。
「トート……ル………ティ……」
椿はすぐにその場から離れる。しかし何も起こらない。椿は呼吸を荒くする。
「はぁ……はぁ……なぜ……その魔法を……知っている?」
しかし魔法は発動しない。少女は起き上がって錫杖を持つ。
(トートルティ……こいつは今そう言った。もし発動していたら………私は確実に死んでいた。距離をとったけど意味なかったかもしれない。)
椿は歯を食いしばって目を見開く。少女から絶対に目を離さない。
「来たよ!」
空間の中に美桜が飛び込んでくる。
「失敗……した。それに……また……人……」
「何あれ……人間?」
「いや、人間じゃないわ。化け物よ。」
椿の顔には焦りが滲み出ていた。
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