紡ぐ者

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【第19章 蒼黒の炎】

第2節 生物を超越す

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 ニグレードはゆっくりと地面に足をつく。手に握られた剣が怪しく光る。
「あの剣に気をつけろよ。他の武器に変形してくる。」
「変形ねぇ……」
椿はニグレードの剣に視線を移す。
(魔力の流れからして黒い炎と青い炎で作られている。今あいつが纏っている炎と同じか。)
天垣は先頭に立ってニグレードに大剣を向ける。
「俺たちを見くびるなよ?」
「過小評価するつもりはない。だが少々過剰に評価はする。そのほうが油断が生まれにくいだろ?」
天垣はニグレードと目が合う。天垣が瞬きした次の瞬間、背後からニグレードが攻撃を仕掛ける。
(……速い?!)
天垣は大剣で身を隠す。ニグレードはすぐに反対側へと回り込む。
(なんという身のこなしだ。一切の無駄がない。)
天垣は大剣を振りかぶってニグレードに振り下ろす。ニグレードは剣で受け流す。
「そんな単調な攻撃を受けるわけないだろっ!」
ニグレードは大剣を押しのけて剣の形を槍へと変える。そのまま槍を天垣に突き出す。槍が刺さる直前、イザナミノミコトが現れて天垣を守る。
「神霊の加護か。」
天垣はその隙に大剣を薙ぎ払う。ニグレードは槍で弾いて距離を取る。
「まさに、鉄壁の守りだろう?お前だろうと、イザナミの結界を破ることはできない!」
「確かにそうだな。この結界を破るのは俺でも不可能に近いだろう。だがそれは、過去の話だ。」
ニグレードは手に蒼黒の炎を集める。
「お前は知らなかったな。この炎は蒼黒の炎と言う。この炎の前ではたとえ、神霊の結界でも意味をなさない。」
「ほう、やってみるか?」
「何?」
天垣は強気な姿勢を取る。イザナミノミコトは天垣の耳元で何かを呟く。
「お前が止めるとは、相当な力を持っているんだろうな。安心しろ、何も俺も無策な訳では無い。少し試したいことがあるだけだ。」
天垣は武器を構えて力を集める。
「あんた、馬鹿みたいな真似をする気ではないでしょうね?」
「丁度いい、力を貸してくれ。力を溜める時間が欲しい。」
椿はため息をつきながら前へ出る。
「今度はお前か。いや、もう2人か。」
椿の背後に美桜とガーネットの姿がある。
「なぜお前たちは当たり前のように神を従えている?お前たちは俺を化け物と呼ぶが、本当の化け物はお前たちのほうじゃないのか?」
「この2人を化け物と呼ぶのはちょっと聞き捨てならないわね。私のことはどう呼んだっていいけど、この2人を化け物呼ばわりするのは流石にねぇ。」
「お前……自分を化け物と名乗るのか?」
「実際、私がしてきたことは人知を超えることばかりよ。むしろ褒め言葉として捉えれるわ。」
美桜は青に椿が化け物か聞いてみる。
「実際そうだろ。我と赤を1人で蹂躙したんだぞ。それに加えて神霊までも召喚している。そのうえ、とんでもなく膨大な魔力までも兼ね備えているときた。化け物じゃない要素を探すほうが難しいだろ?」
美桜は妙に納得する。
「まあいい。化け物だろうとなんだろうと、今の俺の敵ではない。かかってこい。」
ニグレードは指を動かして挑発する。
「へぇ、挑発する余裕があるんだ。時間をかけるほど、不利になるのはあんたのほうよ。その辺りわかってる?」
「それも含めての余裕だ。」
椿は薙刀に魔力を集める。
「まあどっちでも容赦はしないけど。」
椿は薙刀を構えると、ニグレードに向かって思い切り投げる。ニグレードは剣で薙刀を弾く。薙刀は地面へと落下する。椿はその隙にニグレードに殴りかかる。
「丸腰で来るとは……気でも狂ったか?」
ニグレードは椿に向かって剣を振り下ろす。椿は剣をギリギリで躱してニグレードの脇腹目掛けて拳を繰り出す。
「ぐっ?!」
ニグレードの体がぐらつく。椿はもう一度脇腹にお見舞いする。
「どう?私の霊撃は。」
ニグレードは椿を突き飛ばして距離を取る。椿はすぐに体勢を整える。
「確かに、今の俺にはかなり痛い。青い炎の次くらいには有効だろう。」
「自分から弱点を公表しちゃうんだ。まあそのほうが助かるんだけど。」
椿は薙刀を回収する。薙刀を構えてニグレードに向かって走る。椿は薙刀を振り下ろす。ニグレードは避けて隙を狙う。
「美桜、援護して!」
美桜はニグレードの腕に向かって刀を突き出す。ニグレードは剣で薙刀を防ぐ。
「2体1か。いいだろう。」
ニグレードは剣の形を変える。剣は細身になり、2本に増える。
「行くぞ。」
ニグレードは2人に向かって地面を踏み込んで駆け出す。
「ふっ!」
椿はニグレードの剣を受け止める。ニグレードはもう片方の剣で椿に斬りかかる。美桜が背後から武器を振る。
「その手が通じると思うな!」
ニグレードは2本の剣を円状に振り回す。2人は後退りする。
「俺と戦え!」
ニグレードの上空からロビンが刀を振り下ろす。ニグレードは2本の剣で器用に受け止める。
「少しは気配を消すのが上手くなったんじゃないか?直前まで気づかなかったぞ。」
「お前が、疲れてるだけだろっ!」
ロビンはニグレードの剣を払って首に目掛けて刀を振る。ニグレードは2本の剣を槍に変える。槍をロビンの腹部目掛けて突き出す。
「あっ……ぶねえ!」
ロビンは体を回転させて槍を躱す。ニグレードは槍を足で蹴り上げて空中で斧に変える。斧の柄を持ってそのまま振り下ろす。
「うおっと!」
ロビンは刀で斧を受け流す。ガーネットはロビンの前に出てニグレードを振り払う。
「ロビンは下がって。あの人に力を貸して!」
ガーネットは天垣を指差す。
「俺がいないと、あいつの炎を防げないぞ。お前を低く見てるわけじゃないが……大丈夫か?」
「心配しすぎよ。私たちは簡単に殺られたりしない。」
ガーネットはロビンの肩を叩くとニグレードと睨み合う。
「あいつらに対する信頼はそんなものではないはずだ。」
ロビンは九尾の言葉に諭される。
「……わかった、あいつらを信じる。」
ロビンは天垣の元へ向かう。天垣の大剣にはありったけの力が込められている。
(この力……まともにくらって耐えられる奴なんかいない。でも、ニグレードを倒すには至らないな。)
天垣はロビンに気づく。
「見ろ。俺が出せる限界の力だ。奴とタイマンをはったお前に聞くが、これで奴を倒せると思うか?」
ロビンは恐る恐る口を開く。
「たぶん無理だ。」
「そうか。ならお前の青い炎も合わせよう。」
「確かに、それなら可能性は高くなる。」
ロビンは天垣の大剣に手を触れる。天垣は大剣に炎が集まるのを肌で感じる。
「どれくらいで終わりそうだ?」
「3分くらいだ。それまであいつらが持ち堪えれることを願うぜ。」
「それは俺もだ。」
ニグレードと椿は武器で交戦する。ニグレードが離れた隙をガーネットが狙う。ニグレードは炎でガーネットの攻撃をかき消す。
(私の魔法じゃだめかも………)
炎を放った隙を美桜が叩く。ニグレードは薙刀を槍で弾いて美桜の体勢を崩す。その隙を庇うように椿が間に入る。
「またか………」
ニグレードは距離を取る前にガーネットの位置を確認する。
(あいつのせいで距離を置くことができない。優先すべきはあいつだが、こっちにはもっと危険なやつがいる。)
ニグレードは地面を思い切り踏みつける。踏んだ場所が怪しくひかり、ニグレードの周りから蒼黒の炎が噴き出る。
「離れて!」
椿は美桜の手を引っ張っりながらその場から離れる。ガーネットは上から状況を観察している。
(あの炎、なんて魔力量なの………あの少量でこれは異常としか言えないわ。)
ガーネットはニグレードと目が合う。すぐにガーネットはその場から動く。地上からニグレードが蒼黒の炎を剣状にして飛ばしてくる。ガーネットは鎌で弾きながら攻撃を躱す。
(多い多い多い!こんなに使ってなんで魔力が保つの?!憑依してなかったら避けられないわよ!)
ガーネットは空中では避けられないと判断し、地上に急降下する。炎は地上まで追ってくる。
「はあぁぁぁっ!」
ガーネットは鎌を薙ぎ払って炎を一掃する。死神の力が体に馴染むのを感じる。
「あんたの相手は私よ!」
椿の薙刀がニグレードの背中に振り下ろされる。
「ちっ、邪魔だ!」
ニグレードは薙刀を振り払って椿に炎を放つ。椿は空中で体を回転させて確実に距離を取る。その後ろから美桜が飛び出す。美桜に合わせてガーネットは鎌でニグレードに向かって薙ぎ払う。
「次から次へと………」
ニグレードは2人の攻撃を2本の剣で受け止める。
「………鬱陶しい!」
ニグレードは魔力を解き放つ。2人の体が吹き飛ばされる。
(まだ力が残ってるの?!)
椿は薙刀を構える。しかし、武器を構えた瞬間にはニグレードが目の前にいた。椿が次に見た景色は、自分と垂直になった地面だった。
「完全に油断したな。」
ニグレードがこちらに歩いてくる。椿は体を起こそうとするが身動きが取れない。よく見ると、自身の手首と足首が地面に繋がれている。視界の中ではニグレードが剣を振り上げている。
「ふん、先に死にたいのはお前のようだな。」
ニグレードは剣を横に振る。美桜は咄嗟に武器で剣を防ぐが、力で押し倒される。
「死ね。」
「させない!」
ニグレードが剣を振り下ろそうとしたとき、ガーネットが背後からニグレードの首に向かって鎌を振る。鎌はニグレードの首を捉える。
「当たっ………」
「残念だ。俺にその攻撃は通用しない。」
ガーネットは背筋が凍る。次の瞬間には、自身の腹部に痛みを感じる。ガーネットは恐る恐る視線を下ろす。
「あ……しまっ……」
ガーネットの腹部をニグレードの槍が貫く。ニグレードは槍を遠くの岩礁目掛けて投げる。
「かはっ………」
ガーネットの下の地面に赤い液体がゆっくりと広がる。
「ふーん、面白いな。まさか自力で抜け出すとは。」
拘束から抜け出した椿はニグレードに向かって薙刀を振り下ろす。ニグレードは槍を剣に変えて薙刀を受け流す。
「悪いな。強くなるのはお前たちだけではない。俺も同じように強くなっている。」
ニグレードの剣が椿に迫る。
「こんなところで、殺られるわけないでしょ!」
椿は剣を弾き飛ばす。ニグレードは衝撃で右腕が痺れる。椿の体から赤いオーラが溢れている。
「この力は疲れるから使いたくなかったけど、もうそんなことを言ってられる状況じゃないわね。惜しみなく使わせてもらうわ。」
「その力……人間技ではないな。これは……神の力か?」
「どうやら、あらゆる面が強化されてるみたいね。戦うたびに強くなるって……どういう構造してるわけ?」
椿は美桜のほうを見る。
「あんたは下がってなさい。今のこいつは、あんたたちでなんとかできるレベルじゃない。時間稼ぎも無理よ。今このときも、あいつは少しずつ強くなっている。今の時点では私のほうが優勢だけど、どうせすぐに追い抜かれる。」
椿はガーネットのほうを指差す。
「彼女を連れて一旦拠点に戻って。赤も渡しておく。だからすぐに戻ってきて。」
美桜は青を外に出すとすぐにガーネットの元に向かう。ニグレードは美桜に手出ししなかった。
「お前は俺を化け物と呼ぶが、お前も同じだな。」
「そう、私たちは同類よ。さあ決めましょう。どちらが優れた、化け物かを。」
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