紡ぐ者

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【第23章 変革の時】

第3節 竜を従えし悪魔

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「なんか久々ね。」
美桜は青の背中から飛び降りる。
「あまり時間がない。急ぐぞ。」
青は小さくなり、美桜の隣を飛行する。しばらくして、セレストのいる遺跡が見えてきた。岩の上で、セレストが何かをしている。
「何して……」
セレストはあぐらを組んで目を閉じ、精神を研ぎ澄ましている。それを見た美桜は、青を遺跡の隅に連れて行く。
「瞑想してるかも……。」
「なら、触れないのが吉だな。」
「そうは言っても……こっちは彼女に用があるんだし。」
2人が話し合っていると、セレストが岩から降りてこちらを覗き込む。
「なにをコソコソしてるんだお前らは?」
「いやー、瞑想の邪魔をするのはどうかと思って……。」
「ふぅん、まあいいわ。で、なんの用?」
「ちょっと様子を見に来ただけ。それと、外の状況は知ってる?」
「まったく。」
「はぁ……だと思った。」
美桜は額に手を当ててため息をつく。
「簡単に言うと、闘争が起きてる。悪魔と人間の闘争が。」
「悪魔か……。つまり、私に戦ってほしいと?」
「ただ伝えに来ただけなんだけど……。逆に聞くけど、戦ってくれるの?」
「黙って見ているわけにもいかないだろ?それに、悪魔側が勝つと面倒なことになる気がするんだ。」
セレストは手を握りしめる。
「私の中の竜も我慢の限界だ。ひと暴れするのに丁度いい。」
「なら、早く行こ。」
「まあ待て。少し準備をしてくる。」
そう言って、セレストは遺跡の中に入っていく。
「準備って……何をするの?」
「我に聞くな。」
青は呆れたようにため息をすると、美桜の中に戻る。辺りは恐ろしいほどに静かになった。
「………っ?!」
美桜は薙刀に手をかける。自身の心臓の鼓動が激しくなっていることを感じる。
(何……?何がいるの……?)
「見ぃつけた。」
1人の少女の声が聞こえてきた次の瞬間、美桜の背後から魔力の刃が飛んでくる。美桜は薙刀で刃を防ぐ。防ぐことはできたが、威力が高く、かなり遠くまで吹き飛ばされる。
(この威力………魔獣の代物じゃない。まさか……悪魔?!)
美桜が周囲を警戒していると、山道のほうから強大な存在の気配を感じる。美桜は薙刀を構え、自然と唾を飲み込む。
(来るっ………悪魔が……!)
山道から悪魔がゆっくりと姿を現す。その姿は、頭部や胴体に竜の特徴を持つ少女だった。
「初めまして、というべきかしら。」
その声は、先程聞こえてきた少女の声とまったく同じものだった。
「あんたが……悪魔……?」
「その通り。私こそが、全ての竜の力を扱い、あらゆる龍、ドラゴンを従える悪魔。ひと呼んで、竜の悪魔………クエレブレ。」
「竜の……悪魔……。」
(ちょっと待って…。全ての龍を従えるって言った?)
(ねぇ、あんたたちは大丈夫なの?)
(知らん。)
(右に同じく。)
(嘘でしょー?!)
美桜は薙刀を強く握りしめる。クエレブレは美桜に手を伸ばす。
「あなた……龍神を従えているのね……。1つ、取引をしないかしら?とても、魅力的な取引を。」
「……一応、話だけは聞いてあげる。」
「ふふっ、心優しい人は大好きよ…。」
クエレブレは手を戻したあと、不敵な笑みを浮かべながら取引を持ちかける。
「龍神を置いてこの場から去りなさい。そうすれば、あなたの命は永遠に守ってあげる。どう?いい取引でしょ?」
美桜は無性に腹が立った。
「どこが?」
クエレブレは美桜の声色が変わったことに少々驚く。
「あら?もしかして、怒ってるの?」
「仲間を置いていく?できると思ってるの?それとも、悪魔だからそういった感情がないの?」
クエレブレはため息をついて表情を険しくする。
「やれやれ、これだから人間は……。龍神2体を捨てるだけで自分の命が助かるというのに……。龍神を置いて立ち去るのであれば、私からハデスに話をつけてあげようと思ったけど、取引はやめね。なら……」
クエレブレが目を見開くと、おぞましいほどの恐怖が全身を襲う。
「実力行使しかないわね!」
次の瞬間、美桜に向かって無数の竜の尻尾が襲いかかる。
「危ないなぁ……。」
セレストは美桜を抱えて安全な場所に着地する。
「あれが悪魔か……。確かに、私レベルじゃないとまともに相手にできない。何かあいつに関する情報はある?」
「全ての竜の力が使えて、全てのドラゴンと龍を従えれる、って言ってた。」
「なるほどね……。」
セレストは少し考え込むように目を瞑る。
「わかった。私が引き受ける。お前は………、逃げろ。」
「え?」
美桜はセレストの言葉に目を丸くする。
「私のことはどうなってもいい。ただ、お前だけはどうあがいても守らなければならない。これが私と、最初の紡ぎ人との約束だからな。」
そう言ってセレストは、美桜を山道に向かって投げる。クエレブレは美桜を目で追うが、すぐにセレストのほうを見る。
「ふふっ、やっと2人きりになれたわね。竜の血統ちゃん?」
「ちっ、気持ち悪いわね。悪魔って全員そうなの?」
「まさか。私は龍やドラゴンを見ると興奮しちゃうのよ……。なんてったって、新しい駒が増えるわけだからね。」
(こいつ……竜を駒としか見ていないのか?仮にも最強の生物だぞ?)
セレストは妙にクエレブレに怒りを覚え、爪を竜のものに変える。
「本当に癪に障る。お前は生かしてはおけない。」
「あら、怒らせちゃった?だったら、私にも考えがあるの。」
そう言って、クエレブレは目を見開いてセレストを見る。その直後、セレストは体が固まるような感覚に襲われるが、すぐに振り払ってクエレブレに腕を振り下ろす。クエレブレは尻尾で爪を防ぐ。
「思ったより精神が強いのね。……まっ、弱らせればいいか。」
セレストはクエレブレの尻尾を掴み、クエレブレを地面に叩きつける。
「その力……、更に欲しくなったわ♪」
「ちっ……気持ち悪いっ!」
セレストはクエレブレに爪を振り下ろす。クエレブレはセレストの腕を掴む。セレストは腕を引き離すが、クエレブレはセレストを蹴り飛ばし、翼を広げてセレストに覆いかぶさる。セレストはクエレブレの頭部を掴み、思い切り殴り飛ばす。
「はぁ……女性の顔を殴るって、どういう神経をしてるんだか……。」
しかし、クエレブレに効いているようには見えない。
(再生力が高いから?それとも頑丈すぎるから?)
クエレブレは土を払い、翼を広げる。翼には異様な模様が描かれている。
「今度は私が、あなたをいたぶる番よ。」
クエレブレの翼の模様が不気味に光だし、模様に魔力が集まりだす。セレストは攻撃を妨害しようと、クエレブレに飛びかかる。
「ふふっ、元気なのは良いことよ。だけど……、あなたは元気すぎる。もう少し大人しかったらよかったのに……。」
セレストの体にクエレブレの尻尾が巻き付く。
「いつの間にっ……?!」
クエレブレはセレストを地面に向かって投げ、翼の模様から集めた魔力を放出する。
(しまっ……)
放出された魔力は周囲に広がり、やがて大爆発を巻き起こす。
「はぁ、体まで吹き飛んじゃった?だとしたら、少しもったいないことをしたわねぇ。」
「誰が、吹き飛んだんだ?!」
セレストは背後からクエレブレの頭を掴む。
「へぇ、まだ本気じゃなかったんだ。竜の力を使うのが怖いから?」
「お前には関係ない!」
セレストはクエレブレの腹部を思い切り殴る。クエレブレが怯んだ瞬間、頭部に蹴りを入れる。クエレブレの体は後ろに倒れ、地面に向かって落下しだす。セレストは落下するクエレブレを掴み、地面に向かって勢いよく打ちつける。
「これで……」
セレストが拳を構えた時、クエレブレと目が合う。その瞬間、セレストは直感でクエレブレから離れる。
「ふふっ……。」
クエレブレは右手を頭上に上げて指を鳴らす。セレストの頭に雨粒が落ちてくる。その後、すぐに周囲に大粒の雨が降り出した。セレストは雨粒に違和感を感じた。
「この雨……」
「気づいたかしら?この雨は魔力でできているの。これが何を意味するか、頭のいいあなたならわかるんじゃない?」
「ようするに、さっさとケリをつけろ、ってことでしょ?!」
セレストはクエレブレに躊躇なく殴りかかる。次の瞬間、クエレブレの周囲の地面から巨大な岩の棘が飛び出す。セレストは岩の棘に頬を抉られる。
「さぁ、私のターンは、まだ終わっていない!」
クエレブレが手をかざすと、雨粒がセレストに向かって針のように鋭利になって飛んでくる。セレストは爪と尻尾で雨粒をかき消すが、全てをかき消すことは不可能だった。いくつもの雨粒がセレストの体に刺さる。セレストは体中に針で刺されたような痛みを感じる。
「痛いでしょ?降参したら楽になるわよ~。」
「誰が降参なんか……。」
セレストは地面に爪を突き立てて、クエレブレに向かって振り上げる。爪から溢れた魔力がガラス片のようになってクエレブレに飛んでいく。
「こんなもので私を傷つけられるわけ……」
「終わりだと思うな!」
セレストが手を握ると、魔力から光線が放たれ、屈折しながらクエレブレの体を貫く。
(へぇ、そんな使い方が……。)
クエレブレが関心している最中、セレストはクエレブレの背後に回る。セレストはクエレブレに向かって爪から魔力の刃を放つ。
「あなたが私にしたこと、そのまま返してあげる。」
次の瞬間、セレストの周囲の雨粒が凍りつき、セレストの体を貫く。衝撃でセレストは地面に倒れる。
「あらあら、もう壊れちゃったの?もう少し骨があると思ったのに……。」
クエレブレはセレストの頭に足を乗せる。
「…す……。」
「ん?」
クエレブレはセレストに顔を近づける。
「殺すっ!」
セレストはクエレブレの頭部を掴み、姿勢を低くさせると、正面からクエレブレの体を爪で貫く。しかしクエレブレは何事もないようにセレストの頭部の右角に触れる。
「残念だけど、あなたを従えることはできないみたいね。予想よりも弱い。竜の力を使ってくれるのならよかったけど、それができないんじゃ、あなたを従えたところで意味はない。……その代わり、これはもらっていくね。」
そう言ってセレストの腕を引き抜いた途端、セレストを地面に叩きつけてセレストの右角をへし折る。
「………っっっ?!!!」
クエレブレは角を回収すると、その場で悶絶しているセレストを横目にその場から立ち去る。
(殺す………あいつを……あのクソ女を……絶対に殺す……!)
「ふぅ、怖いねぇ。そんなに恨まなくてもいいのに。」



「はぁ……大丈夫かな…。」
美桜は山道を降りながらセレストの事を心配する。
「あいつなら多少は大丈夫だとは思う。だがその前に、ここから抜け出す方法を考えるのが優先だ。」
美桜は山道に投げられはしたが、山道ががらっと変わってしまって道に迷っている。
「だがら、あんたが乗せてくれればいいでしょ?」
「あんな悪魔がいる状態では外をうろつきたくない。」
そう言って、青は美桜の中に戻る。
(確かに、あの悪魔に青と赤が奪われたら大変なことになる。……自力で抜け出すしかないか。)
美桜は枝を拾って木に印をつける。
「あらあら、そんなことをする必要はないわよ。」
美桜は背筋が凍る。あの悪魔が自分のすぐ後ろにいて、自分の背後から頬に触れているのだ。美桜はしばらく固まってしまう。
「あらぁ?ビックリして声が出ないのかな?」
美桜は咄嗟に薙刀を振ってクエレブレを振り払う。
「おっとっと、危ない危ない。そんなに警戒しなくていいから。ほら、リラックスリラックス♪」
(こいつ……何この気持ち悪さは……。)
「……セレストは……どうしたの?」
美桜は恐る恐るセレストについて聞く。クエレブレはしばらく考えた後、ハッとして口を開く。
「あの子なら生きてるよ。でもね……」
クエレブレは美桜にあるものを見せる。
「それは……!」
美桜は驚いて息を呑む。クエレブレの手にはセレストの角が握ってあった。
「ほらほら、あの子に勝った証の戦利品。ほんっと、竜の血統はいい角を持ってるわねぇ♪」
美桜は無意識にクエレブレに斬りかかる。しかし、クエレブレの尻尾に簡単に吹き飛ばされる。
「はいはい、そんなに怒らない。怒ると折角の可愛い顔が台無しだよ~。」
(こいつ、こっちのことを完全に舐め腐ってる。)
美桜は青と赤を使おうとするが、すぐにやめる。
(だめ、呼んだらその時点で負ける。どうすればいいわけ……。)
戸惑う美桜に、クエレブレはゆっくりと近づく。
(どうすれば……どうすれば………)
焦る美桜のことなど気にもせず、クエレブレは美桜の顔に手を伸ばす。
「はぁ……私、あなたと仲良くなれたらいいのに……。」
「誰があんたなんかと……」
「そうだよねぇ~。あなたが私と仲良くなってくれるわけないよねぇ~。あなたと大切なお仲間を傷つけて、しまいにはあなたから龍神を奪おうとする。……仲良くなれるわけないよねぇ~。でもね……」
クエレブレは美桜と視線を合わせる。
「私、気づいちゃったの。龍神が奪えないなら、あなたを服従させればいいって。」
「何を言って……」
「簡単な話、今からあなたを拷問するの。ふふっ、楽しくなりそうね。」
クエレブレは不気味な笑みを浮かべると、美桜に向かって手を伸ばす。美桜は薙刀でクエレブレの手を斬り落とす。
「あ………、そんなことするんだ。」
切断面から新しい手が生えてくる。美桜は薙刀で斬りかかるが、クエレブレの尻尾が横から美桜を吹き飛ばす。美桜は受け身をとってすぐに態勢を整える。
「はぁ……、素直じゃない子は嫌いなの。大人しくしてくれる?」
クエレブレの雰囲気が代わり、いくつもの尻尾が木々をへし折りながら美桜に襲いかかる。美桜は木々の隙間を通りながら尻尾から逃げる。
(無茶苦茶でしょ……。)
クエレブレは美桜を見失ったのか、尻尾を追従してこなくなった。
(……逃げ切れた?今なら逃げられる!)
美桜はこの隙にクエレブレから距離をとるため走り出す。しかし、クエレブレは美桜を見失っていなかった。前方の木々の間から無数の尻尾が飛び出してくる。
「嘘でしょ?!」
美桜は咄嗟に茂みの中に飛び込む。尻尾は美桜の片足に巻き付き、美桜を空中に引き上げる。
「残念ね。私が追跡をやめたのは、あなたの場所を特定するためよ。あなたが動けば、必ず魔力が残る。なんせその身に龍神が存在しているのだから、当然のことよ。」
美桜は尻尾を振り払おうと、足で蹴り続ける。尻尾は美桜の足を強く締め付ける。
「あっ……あぁぁぁっ?!」
「ふふっ、あまり抵抗しないほうがいいわよ。足を引きちぎられるよ。」
クエレブレは美桜の頬を指でなぞる。
「どう?頭に血が上ってきたんじゃないかしら?」
「拷問って……宙吊りにするだけ?」
「まさか、ここからが本番よ。」
クエレブレは雨粒を美桜に見せる。
「これは私の魔力で生み出した雨粒。私の意思で、好きなように性質を変えることができる。例えばこのように……」
クエレブレは雨粒を美桜の腕に飛ばす。雨粒は美桜の腕に刺さる。
「あっ……」
美桜は咄嗟に腕を押さえる。
「針のように鋭利にできる。その上、刺したあとは雨水になるから誰も凶器だとは思わない。ではでは……、一体何本まで耐えられるのかな?」
クエレブレの雰囲気が最初に戻る。
(こいつっ、人をいたぶることに抵抗がないの?悪魔……。)
「うーん、ここはどうかしら?」
「いっ………?!」
「あらあら、いい反応をするわね~♪じゃ~あ~、こことかどう?」
「つあっ?!」
「あら……、ここはよく効くみたいね。もう1本、いや、あと100本は刺してあげるわね。」
美桜は薙刀に手をかけるが、尻尾に手の自由を奪われる。
「だーめ、抵抗はなしよ。あなたが逃げるのが悪いんだから。」
「ふぅ………悪魔め…。」
「実際、私は悪魔よ。」
クエレブレはそう言って、雨粒を針に変える。



(………動け。)
セレストは自分に言い聞かせる。
(………守れ。)
セレストは手を握りしめる。
(………希望の花を、失うわけにはいかない。)
「希望の……花……。お前は美桜のことをそう呼んでいたな。名前に桜が入っているからか?」
セレストはゆっくりと体を起こす。角を折られた場所がズキズキと痛む。その上、体中を刺されたため動かすたびに痛みが走る。
「それでも………あいつを守る。」
セレストは美桜とクエレブレの気配を感じる。 「そこか……。」


「はいはーい、我慢しましょうねぇ。まだ57本は残ってますよ~♪」
美桜は針を刺されるたびに、体が悲鳴をあげていることを感じる。しかし、自分ではどうすることもできない。青と赤を呼び出すことはできるが、そうすれば相手の思う壺だ。美桜には、ただ痛みを耐えることしかできない。
(早く我を呼べ、お前の体が保たない!)
「大……丈夫っ……。死には、しないから……。」
美桜は苦しそうに呼吸をしながら青の声に答える。クエレブレは針を刺すのをやめる。
「う~ん、これだけ刺しても反応なしかぁ……。もういいや、殺しちゃお。」
クエレブレは美桜の胸に指を当てる。美桜は指の先端に魔力が集まっていることに気づく。
(まずい……なんとかしないと……。)
美桜は腕を動かそうとするが、尻尾はそれを許さない。尻尾は美桜の腕を締め付ける。
(くそっ……こんなときに…)
「させ……るかっ!」
美桜が歯を覚悟した時、セレストがクエレブレの首を切り裂く。尻尾は美桜を離す。
「痛っ……」
美桜は地面に頭を打つ。セレストはすぐに美桜を起き上がらせ、遠くに投げ飛ばす。
「早くしろ!」
美桜は逃げるのを躊躇する。見かねたセレストは、美桜を気絶させる。
「早く連れて行け!」
セレストはクエレブレを掴み、できる限り遠くに引き離す。
「くっ……、悪く思うなよ…。」
青は美桜を掴んで街中に向かって飛び去る。



「このあと、私は街の一角で目を覚ました。」
「まさか、俺たちが魔獣の相手をしているときにそんなことがあったとはな。そのセレストという女性は大丈夫なのか?」
「さぁ……。でも、怪我はかなり酷い状態だった。それに……、どうなっても私を守るみたい。まさか……、私を守るために命を捨てるつもり……?!」
「……とりあえず、支部に戻るぞ。」
美桜たちが外に出た直後、街の中央から爆発音が響き渡る。
(嘘でしょ……)
美桜は一心不乱に街中に向かって走り出す。
「おい待て!」
ガレジストは美桜を追う。


「ふふっ、早く降参しなさい。」
「そのつもりはない。」
ソールはクエレブレに向かって魔力砲を放つ。クエレブレは翼を盾にして魔力砲を受け切る。
「そんなものなの?龍だから?ドラゴンじゃないから?」
「そうかもしれないな。」
「う~ん、もっと喋ってほしいなぁ…。つまんないから、殺しちゃお。」
クエレブレは雨を降らせる。美桜はクエレブレの姿を捉える。
(雨……、まずい状況ね。)
駆けつけたガレジストもクエレブレの姿を視界に収める。
「なんだあれは……。」
「あれが悪魔。竜の悪魔、クエレブレ。」
(セレストの気配がない。まさか……もう……、いや、変な想像はしないほうがいい。)
「なんという……禍々しい気配だ。」
「……行こう。」
「俺はともかく、お前は大丈夫なのか?」
「青と赤は呼ばなければ大丈夫……、たぶん。」
「無理はするなよ。違和感を感じたらすぐに撤退しろ。龍神を従えられては、こちらは手も足も出ない。」
2人は街路地から飛び出す。クエレブレは美桜の姿を見つけるやいなや、嬉しそうに地面に降りてくる。
「あなた……、また会ったわね。やっと……、龍神を渡してくれる気になった?」
「そんなわけないでしょ。……あんたを倒す。そのためにここにいる。」
美桜は薙刀をクエレブレに向ける。
「はぁ……、残念。あの竜の女の子も、結局は私の下僕のドラゴンの餌になっちゃったし、あなたは龍神を渡す気はない。私だけ成果なしは嫌なんだけど……。」
「私だけ?つまり、他の悪魔も何かしら行動をしているのか?」
「当たり前よ。私だけなんて……重労働にも程があるでしょ~。……まぁっ、私は失敗してもいいんだけど。」
ガレジストは手に魔力を集める。ソールはクエレブレに向かって無数の魔力の光線を放つ。美桜は光線に隠れるようにしてクエレブレに接近する。ソールの光線がクエレブレに命中し、爆発を巻き起こす。その隙にガレジストは集めた魔力を放出する。魔力はクエレブレを覆い尽くす。魔力が晴れたとき、美桜はクエレブレに向かって薙刀を振る。薙刀には青と赤の魔力が込められており、その威力は2人の攻撃とは桁違いの威力を誇っている。クエレブレの姿が、光の中に飲み込まれる。
「ふぅ…」
美桜は光の中から勢いよく飛び出して地面に着地する。
「倒したか?!」
「いや……、効いてはいるけど……」
爆風の中から、クエレブレは傷を拭いながらゆっくりと姿を現す。
「致命傷にはなってない。」
クエレブレは頬に付着した血液を払いながら、美桜を見て笑みを浮かべる。
「君。よくもやってくれたねぇ…。だけど、私からの仕返しはどうかな?」
美桜の背中には大きな引っ掻き傷がある。
「ふんっ、このくらいなら戦闘に支障はない。」
「あっそ。なら、もっと傷をつけてあげる!」
クエレブレが手を振りかざすと、雨粒が針となって3人に降り注ぐ。
「うおぉぉぉっ!」
ガレジストは地盤を隆起させて雨粒を防ぐ。
「ちっ、壁なんか作って……、そんなものは、私がぶっ壊す!」
クエレブレの尻尾が地盤に向かって打ち付けられると、周囲の地面が激しく揺れ始める。
「地震?!」
「違う……これは……?!」
揺れはどんどん激しくなり、地盤にヒビが入って断裂する。
「まさか……地殻変動か?!」
「うっさいわね!とっとと死になさい!」
クエレブレは鉄骨を尻尾で掴み、こちらに向かって何度も叩きつける。
「うわあっ?!」
鉄骨が叩きつける度に、地面に亀裂が入っていく。尻尾から鉄骨が投げ捨てられると、鉄骨は地面に打ち付けれて粉々に砕けてしまう。
(どんな力で扱ったわけ?!普通そうはならないでしょ!)
「あー、しつこい。ほんっとにしつこい。私の時間も有限だってのにさぁ?さっさと針で逝けばよかったのに。」
(なんか態度変わった?)
クエレブレの性格が変わったのか、合わせるように雨は勢いを増す。
「お前らは雨粒程度で十分だと思っていたが……どうやら、絶望を味わいたいようだな!」
クエレブレが頭上で指を鳴らすと、周囲に猛烈な冷気が発生する。
「寒っ?!」
美桜は思わず体を縮める。
「上だ!」
美桜は咄嗟にその場から退避する。空から巨大な氷柱が落下してくる。
「えっ?」
「全員、氷漬けにでもしてやる!」
クエレブレが腕を振り下ろすと、空から無数の氷柱が街全体に向かって降り注ぐ。
「くそっ……」
3人はすぐに瓦礫等の下に避難する。
(まずい……。まともに攻撃ができない。これも竜の力なの?)
「聞こえるか?俺が道を作る。その間にソールは氷柱の破壊、神宮寺 美桜は悪魔への攻撃を頼む。」
「承知した。だが正直に言う。私でも全ての氷柱を処理するのは難しい。」
「わかっている。ある程度のカバーは行うつもりだ。」
「攻めるとは言っても……、まともに戦えるかどうか……。」
「瞬間的に最も火力が高いのはこの3人ではお前だ。」
「でも、決定打にはならなかった。」
「流石に2発与えれば何かしらの変化はあるだろう。」
「……わかった。私のフォローは任せたよ。」
美桜は氷柱のタイミングを見計って建物から飛び出す。クエレブレは美桜に向かって氷柱を飛ばす。美桜は前方の氷柱を薙刀で打ち落としながら突き進む。
「ちっ、煩わしい……。」
美桜の左右から氷柱が飛んでくるが、ソールは光線で氷柱を破壊する。ガレジストは美桜の前方の地盤を隆起させる。美桜は地盤を踏み台にしてクエレブレに向かって高く跳ぶ。
(この一撃が、効きますように!)
美桜は瞬時に薙刀に魔力を集める。クエレブレは尻尾を美桜に向ける。
「邪魔はさせない!」
ガレジストは建物の上から尻尾に向かって拳を下ろす。尻尾はすぐにガレジストを振り払うが、美桜にとっては十分な時間稼ぎだ。そのまま薙刀はクエレブレに強烈な一撃を与える。美桜はビルの壁を伝いながら地面に着地する。
(威力が上がった?連発したのにか?)
爆風が晴れ、クエレブレの姿があらわになる。
「くっ……本当に、とんでもないやつだ。」
クエレブレは翼で自身を覆って攻撃から身を守ったのだ。
(しかし、あれほどの攻撃を翼だけで防げるものなのか?)
美桜はクエレブレの体を見てすぐに違和感にがあることに気づく。
「あんた……まさか、硬質化?」
「………正解。……じゃあ、死んで。」
クエレブレの威圧的な声が響いた直後、美桜に向かって雷が落ちる。美桜は薙刀を投げて避雷針代わりにして難を逃れる。
「ちっ、本当にしつこい。」
(硬質化……。面倒なことこの上ないな。)
クエレブレは尻尾を何度も地面に擦り付けている。よく見ると、尻尾はすでに硬質化している。尻尾からはわずかに火花が散っている。
「お前たちは、寒いのが好きか?それとも、熱いのが好きか?」
クエレブレは尻尾を勢いよく地面に擦り付ける。火花が飛び散って巨大な炎の渦が3人に襲いかかる。
「はあっ!」
ソールは結界を張って炎を防ぐ。
「まさか、尻尾が1つだと思ってる?」
クエレブレの背後から更に2本の尻尾が現れ、同じように火花を散らして炎の渦を巻き起こす。
(こいつ、もはや竜の力とか関係ないじゃん!)
「守ってるだけか?だったら、お前たちの足をすくってやるよ!」
3人の周囲に不規則な風が発生し始める。風は徐々に強くなり、竜巻となって3人を巻き上げる。竜巻は同時に火花も巻き込み、炎の竜巻となる。
(熱い……)
美桜は竜巻の中で飛ばされないよう、必死に体を支えているが、体中が焼けるような痛みに襲われる。
「立て!」
見かねた赤は炎の竜巻をかき消す。竜巻が完全に消える前に、赤は美桜の中に戻る。
「ちっ、惜しかったな。あと少しで服従させれたのに。」
クエレブレは赤を狙っていたようだ。
(少し呼び出すだけでも奪われる可能性があるのか……。これは厄介だな。)
「もういいわ。食ってしまいなさい。」
クエレブレは竜を呼び出そうとする。
(食うって何?!)
しかし、いつになっても竜は現れない。
「は?まさか、あの女を食って満腹で寝てる?!そんなわけ……」
クエレブレが戸惑っていると、クエレブレは咄嗟に尻尾で奇襲を防ぐ。美桜は驚いて奇襲した者の名前を叫ぶ。
「セレスト……!」
「へへっ、心配かけたな。」
セレストは笑顔を見せる。しかし、セレストは右腕を失っており、至る所から出血している。
「ほんとに大丈夫なの?」
「……大丈夫、とは言えないな。」
クエレブレはセレストの姿を見て怒りを露わにする。
「お前ぇ……まさか、私の下僕を殺したな?」
「そうだけど?先に仕掛けたのはそっちなんだから、恨まれても困るな。」
クエレブレは歯を食いしばって翼を大きく広げる。
「うん……、お前たちに言いたいことがある。」
「まさか……、また……」
「あぁ……、逃げるんだ。逃げて万全を期すんだ。それが、悪魔を倒せる唯一の可能性。」
「……承知した。行くぞ、2人とも。」
「なんで……そんなに決断が早いの?」
美桜はソールに問いかける。
「私は……彼女と最も長い時間を過ごしている。彼女は、すでに覚悟を決めている。この覚悟は、誰にも曲げることはできない。」
「ソールにも何か考えがあるはずだ。今は従うしかない。」
美桜は躊躇いながらも、2人のあとを追ってその場から走り去る。セレストは美桜が見えなくなるのを確認すると、クエレブレに視線を向ける。
「ふんっ。その状態でも、手の内を明かさないのだろう?だったら、さっさと私に殺されろ。もしくは服従しろ。」
「……服従はしないさ。ただ、私はお前に殺されるだろう。それがわかっているのであれば……」
セレストの体から魔力がどんどん溢れ出てくる。
「私は、お前に深手を負わせるまで!」
セレストの背中から翼が生え、体の至る所に鱗が現れる。セレストの姿は、人の体に竜の部位を混ぜたような見た目へと変わる。
「ようやく、竜の力を解放したか……。」
(ふぅ……美桜。あとは、任せる……!)
クエレブレはセレストに3本の尻尾で攻撃を仕掛ける。セレストは自身の爪で尻尾を切り刻み、クエレブレの首を掴んで地面に思い切り押し付ける。



「むっ……?って、何をしている?!」
支部の入口では、ボロボロの状態で動くカトラリーをマールドが押さえていた。
「離……せぇ……。」
「離すわけ無いでしょぉ……。怪我人は安静にしててくださいぃ……!」
(いや……、どういう状態?)
美桜は状態を理解できずに呆然としている。
「彼女は、カトラリーは魔獣の襲撃の際にかなり消耗したのだ。マールドが彼女を病室に連れ戻そうとしているのだろう。」
「わかるような分からないような……。」
マールドは美桜を見つけると目配せしながら声を発する。
「ちょっと美桜~!見てるだけなら手伝ってえぇぇ~!」
「えぇ……。」
美桜は困惑しながらもカトラリーに近づく。
「てめっ……近づいたらぶっ殺す!」
(なんでそうなるのぉ?!)
「あなたは今貧血でしょうがぁぁ……!」
カトラリーはマールドに引っ張られて徐々に建物内に引きずられる。カトラリーは扉の縁を掴んで体を引っ張るが、手が滑ってマールドと一緒に後ろに転倒する。
「ふぎゃっ?!」
「ってぇ?!」
(マールドの「ふぎゃっ?!」って声……どこから出たの?)
「まったく、大丈夫か2人とも?」
マールドは埃を払いながら立ち上がるが、カトラリーは床に座り込んだまま動こうとしない。
「立てないの?」
「いや、立てる……」
しかし、カトラリーは立ち上がってもすぐに転んでしまう。
「相当の呪いの影響が残っているようだな。病室で安静にしていろ。下手に体を壊されては面倒だ。」
カトラリーはマールドに支えられながら病室に向かう。美桜はカトラリーが足を引きずっているのが目に映る。
「呪いって?」
「あぁ……。実は、少し前に魔獣の襲撃があったんだ。そのとき、カトラリーは呪いを使った。いつから使えたのかは分からないがな。」
「つまり、さっきの状態は呪いの代償でそうなったの?」
「あぁ。カトラリーが使っていた呪いがどういうものかは分からんが、おそらく、自身の血を失うのだろう。マールドが貧血だと言っていたしな。」
(血を失う呪い。死ぬよりかはマシか……。)

「くっそ……、お前がいなければすぐにでも抜け出せていたのにな……。」
「別に、私がいなくても他の人が止めていたと思いますよ。」
マールドはカトラリーの首筋を観察する。血月の刻印がしっかりと刻まれている。
「一体いつから呪いを扱っていたんですか?」
「いや……、呪いを使う事自体は今日が初めてだ。」
「え?でも、今日見つけたなんてことはないですよね?」
「使用したのも、契約したのも今日が初めてだ。見つけたのは……私がこいつを持って帰った日だ。」
「持って帰った日……、って、このノコギリ、道端で拾ったって言ってましたよね?!まさか、嘘ついたんですか?!」
「でなけりゃ、上層部が管理するんだろ?あの日、私は血迷って嘘の報告をしたんだ。それ以降、私は頭の中に流れてくる呪いの声に散々苦しめられた。」
「だからいっつもイライラしてたんですか?なんで言ってくれないんですか?!」
「言ったらこいつが呪いだってのがバレるだろ?それに、私は元々、呪いと契約するつもりはなかった。だが、なんでだろうな……。こいつを使っているうちに、段々と魅了されていったんだ。」
カトラリーはノコギリを手に取る。
「こいつの切れ味、耐久性、使用感。こいつの全てが私にピッタリだった。そうこうしているうちに、私は契約を結んでもいいのでは?と思えるようになった。その結果がこれだ。」
(だから自分を弱いと言っていたんですね……。)
マールドはカトラリーの手に手を添える。
「でも、私はあなたが弱いとは思いません。確かに、人間とては弱いですが……」
カトラリーは心に傷を負う。
「あなたの実力は、あの場にいた人たちはみんなわかっています。心の弱さはあっても、誰よりも強い意思を持っている。だから私は、あなたが弱いなんて思いません。」
カトラリーはノコギリを立てかけ、マールドから手を離す。
「はぁ……、少しは楽になったな。」
カトラリーはベットに横になり、頭まで布団をかぶる。マールドは扉の前で小声で囁く。
「ゆっくり休んでください。あなたを失うのことは、こちらにとって大きな痛手です。」
部屋から出ると、美桜と鉢合わせる。
「今は入らないほうが彼女のためですよ。」
「いや、あんたを探してたんだけど。」
「私に用ですか?」
「そ。私は日本に戻る。竜の悪魔の近くにいるのは危険だからね。」
「そうですか……。気をつけてください。何が起きるか分からない以上、一瞬の油断が命取りになります。」
「わかってる。じゃっ。」
「あ、ちょっと待ってください。少し確かめたいことが……。」
マールドは美桜を呼び止める。美桜はマールドに言われてついていき、診察室に入る。
「何を確かめるわけ?」
「ちょっとあなたの魔力を確認したくて……。」
美桜はキョトンとしながらマールドの言われる通りに動く。
「ふむ……、やっぱり……。」
マールドは診察結果を美桜に見せる。
「魔力の流れが乱れています。それに……、わずかですが、時間が経つにつれて魔力量が増えています。」
「なんで?魔力が乱れるって、何かあるってことでしょ?それに……、魔力量が増えるって何?増えるのは嬉しいけど、私自身、強くなってる感覚はない。」
「それは我も感じたぞ。」
青は顔を出して診察結果に目を通す。
「我の感覚は間違っていなかったな。美桜、お前の魔力は間違いなく増えている。我はその原因に心当たりがある。」
「心当たりって何?」
「……お前、セレストに鍛えられただろ?その頃からお前の魔力は徐々に増えている。」
「なんで教えてくれないの?」
「あのときは一時的なものかと思っていたが、今は鍛えられたことによる影響だと我は思う。」
「でも、そんなに強くなった感覚はないけど……。」
「それもそうだろうな。これはお前の深くを流れる魔力だ。本来、お前は体表近くの魔力しか使っていない。そのため、お前の体の奥深くの魔力をまだ使っていない。」
「……一応聞くけど、私がいつも使ってる魔力は総量のどのくらなの?」
「おおよそ4割程度だろう。」
「………それ、本気で言ってる?」
「本気だ。」
美桜は言葉を失う。
「えっと……、つまり、美桜は本来ならもっと強いってことですか?」
「そういうことだ。ただ、深層にある魔力を使うとなると、それ相応の技術が必要になる。お前が悪魔と戦うためには、その魔力を使えるようにならなければいけない。」
美桜は魔力の扱い方を考えるが、答えが見つからない。そんな美桜に、青は助言を与える。
「椿かお前の兄に手伝ってもらうというのはどうだ?」
「そのほうがいいかも。兄さんの場所ならわかる。」
「頑張ってね~。」
マールドは小さく手を振りながら美桜を見送る。



「ふぅ………、玖羽、いるか?」
「いるぜ。……出発前に呼ぶなよ。」
「悪かったわね。」
玖羽は剣の状態を確認する。
「魔力の扱いにはだいぶ慣れたようね。その剣の強度はどれほどかしら?」
「金属程度なら簡単に切れる。」
「はいはい。もう行っていいわよ。」
「たくっ、人使いが荒いな。」
椿が後ろを向いた頃には、玖羽の姿はなくなっていた。椿は机のティーカップを手に取ると、隠れている人に声をかける。
「何をコソコソしてるわけ?まさか、私が怖いの?」
柱の陰から、1人の少女が姿を見せる。
「あんたは確か……」
「はい、砂城 凛です。」
「玖羽が言ってわね。それで、私になんのよう?」
「えっと……、あなたが実験で作った魔力を暴走させる薬。あれを私にくれませんか?」
椿は予想外の言葉に少し驚く。
「なんで?暴走を克服すれば力が手に入るけど、あの薬は使い方を間違えれば死に至る劇毒よ。」
「わかっています。ですが……」
凛は椿の威圧感に言葉が詰まる。
「はぁ…、なにやら深刻な理由があるみたいね。」
椿は凛を観察する。すると、椿は凛の何かに気づいて瞳孔が大きくなる。
「……なるほどね。あんたになら……。」
「え…?」
「なんでもない。あの薬が欲しいんでしょ?」
椿は薬を取り出して凛に渡す。
「先に言うけど、使いどころは気をつけるように。」
「あ、ありがとうございます。」
凛は怯えながら椿から離れる。椿は夜空に浮かぶ月を見上げる。
「ふふっ、面白い……、面白い……!これだから、覚悟が決まった人間というものは……。」
その日、椿は久々に腹の底から笑い声をあげた。
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