紡ぐ者

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【第23章 変革の時】

第5節 悪魔の包囲網

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「とりあえず戻ってきたけど……。」
美桜は自分の家の前で立ち尽くしてしまう。
(戻ってきてよかったのかな?ちょっと雫の様子を見に来ただけだから……。)
美桜はゆっくりと扉を開ける。音に反応したのか、家の奥からドタドタと誰かが走ってくる。
「おかえりなさーいっ!!」
雫は美桜に覆いかぶさる。
「痛っ……」
「あぁっ?!ごめんなさいごめんなさい……。」
「いや、大丈夫だけど……。何をそんなに慌ててるの?」
「実は……」
雫は美桜がいない間に起きたことを話す。
「椿が帰ってこない?いつから?」
「3日ほど前からです。」
「3日前って……私が日本に日本に着いたぐらいのタイミングじゃん……。」
「とりあえず、一旦休まれたらどうですか?かなり疲れているように見えますけど…。」
美桜は急に疲労感に襲われる。道中、魔獣の被害の影響で交通機関が麻痺しており、ここまで3日かけて走ってきたのだ。
「我に乗ればよかったものを……」
「あんたの気配はでかすぎるの。もう少し抑えてくれたらいいんだけど……。」
「一応抑えてはいるのだが……。」
雫は美桜をリビングに連れて行く。
「兄さんはいないの?」
「旦那様は神社に鍛錬に向かわれました。」
「鍛錬って……」
美桜が立ち上がろとすると、雫は美桜を止める。
「その前に……、軽く食事をしたらどうですか?用意はできてますよ。」
「じゃあ……ちょうだい。」
「はいどうぞ。」
雫は机に料理を盛った皿を置く。


「ふぅ…。こんな天気の日は、気分が乗らないな。」
春蘭は空を見上げながらため息をつく。
「んなこと言って場合か?言ってる暇があったら手を動かせ。」
疾風は春蘭に木刀を向ける。
「そうだね。加減はしないでくれよ?」
「当たり前だ。」
「2人共。少しは加減しろよ?疲れて切ってもらっては、後々僕たちが鍛錬する分がなくなっしまう。」
「まぁそう警告しても、あの2人は聞かないでしょうけど。」
樫茂と純連は顔を見合わせながら頷く。2人は木刀を構えた瞬間、勢いよくぶつかり合う。木刀がぶつかり合う度に、鈍い音が辺りに響く。
「おいおいどうした?この程度が本気とか……笑わせんなよっ?!」
疾風は木刀を両手で握り、全身の力を込めて振り下ろす。春蘭は木刀で受け流し、木刀の切っ先を疾風に向かって勢いよく突き出す。疾風は木刀を蹴って切っ先をずらす。
「全身を使わなきゃ悪魔には勝てねえぞっ?!」
「やれやれ、僕も本気を出さなきゃだめみたいだ。」
春蘭は木刀に魔力を纏わせる。
「ようやく魔纏を使ったか。待ちくたびれだぞ!」
2人が本気でぶつかっている所に美桜が現れる。
(なんの音かと思えば……木刀の音か…。)
樫茂は美桜を見つけると、神社の隅に手招きする。
「あっ、美桜ちゃんじゃん。大きくなったわね~。」
純連は美桜を抱きしめながら頭を撫でる。
「ちょっ…、恥ずかしいからやめ!」
「大きくなったわね~。2年前に魔道士になったと思ったら、今では私たちと同じ階級。若いっていいわね~。今思えば、私たちってあなたが中学の頃からの付き合いね。高校までは普通だったけど、大学になったら……」
「ストーップ!そこから先は言わないで!」
「あらあら、不良になることが悪いとは思わないわよ?事実、私も大学ぐらいのときに結構悪いことをしたからね。」
「それ、フォローになってるのか……?」
3人が会話をしていると、春蘭と疾風が鍛錬をやめる。
「君も鍛錬をしに来たのかい?」
「まぁ、それもあるんだけど……椿がどこに行ったか知らない?」
春蘭は疾風の方を見る。疾風は首を横にふる。
「悪いけど、僕にも分からない。ただ、彼女の実力は君も知っているはずだ。よほどのことが起こらない限り、問題はないと思うけど…。」



「…………。」
(寒気がした……。誰かが私を噂している?)
椿は1人で湖の水面に立っていた。どこの森の中かは分からない。椿は目をつぶりながら無言で微動だにしない。落ち葉が水に落ちた瞬間、椿は水面を刀で斬る。椿は水滴を使って魔力を何度も屈折させる。
(上手く使えば一気にダメージを蓄積させれる。ただ問題なのは、大量の水を用意する方法がないことだけ。)
椿は刀を鞘に収める。
「さて……、よつやく姿を見せる気になったようね。」
椿は刀に手をかける。水中、上空、木々の隙間から大量の魔獣が姿を現す。
「ここまでの量の魔獣を用意するなんて……。よっぽど私を殺したいようね。」
「えぇ。あの時、あなたを標的から外しましたが、あなたはあの中で2番目に警戒すべき人物でした。だからこうして……、」
魔獣たちが道を開け、ハデスがゆっくりと現れる。
「あなたが1人になるタイミングを探していたのですよ。」
ハデスは威嚇する魔獣たちを静まらせる。
「あなたは完全に包囲されています。いくらあなたが強者であったとしても、この数の魔獣を相手にすればひとたまりもないでしょう。」
椿は周囲の魔獣を観察する。ほとんどが上級の強力な魔獣となっている。しかし、椿はため息をついてハデスに言葉を投げかける。
「本当にこれで足りると思ってるわけ?私の実力を過小評価し過ぎな気がするんだけど?」
「それは重々承知しています。あの時のあなたは、万全な状態ではなかった。それは私にも言えることですが……。それに、あなたを相手にするのであれば、どれだけの戦力を投入しても無意味でしょう。あくまで、あなたを倒すために必要な最低限の戦力を連れてきただけですよ。……そもそも、魔獣程度ではあなたの相手になりませんよね?」
「ふんっ、よくわかってるじゃない。魔獣が100体、いや、1000体いようが私には勝てない。」
「では、その実力を見せてもらいましょう。」
ハデスの合図で魔獣の大群が一斉に襲いかかる。椿は刀を抜き、魔力を解き放つ。魔獣は魔力の波に呑み込まれ、すぐに消えてしまう。
「これで全部?」
「あの数を一瞬で片付けるとは…。300体ほど用意したはずなのですが……。」
「さっさと……、刀の錆になれ。」
椿の刀がハデスの左腕を斬り落とす。
(速い……。こちらは不完全と言えど、まったく反応ができなかった。)
「意外と脆いのね。悪魔ってそんなものなの?」
「私は圧倒的な力を持つ代わりに、他の悪魔より体が脆い。ですが……、」
ハデスが力を込めると、腕は元通りに再生する。
「傷の回復は最も早い。あなたに、私の再生力を超えることはできますか?」
「できる、って言ったら?」
ハデスが瞬きをした瞬間、全身を椿の刀が斬り刻む。ハデスは椿に向かって雷を落とす。椿は雷を刀に集め、その刀をハデスに突き刺す。
「ふっ……、心臓を避けましたか。賢明な判断ですね。」
「その余裕……、いつまでもつかしら?」
椿は刀を逆手に持って、思い切り力を込める。刀はハデスの体を斬り裂く。
「ここでお前を殺す。」
「……やってみなさい。後悔してもしりませんよ?」
「あんたを殺せて、後悔もクソもある?」
椿はハデスの首に刀を振り下ろす。椿が刀を下ろしきった時、ハデスの姿はなかった。
「私はこちらですよ。」
「言われなくとも……」
椿はハデスの目の前に移動する。ハデスの瞳孔が徐々に小さくなる。
「あなたのターンは終わりました。今度はこちらのターンです。」
次の瞬間、椿は地面に勢いよく叩きつけられる。
(引き寄せられた?重力操作か。)
椿は立ち上がる間もなく上空に体を引っ張られ、木に向かって何度も打ち付けられる。衝撃で木が折れ、椿はそのまま地面に転がり落ちる。
「痛っ……」
椿はすぐに立ち上がり、ハデスを探す。
「そう慌てなくとも、私はここですよ。」
ハデスは上空から椿めがけて降下してくる。手に集めた魔力を、椿に触れた状態で爆発させる。
「これはかなり効いたでしょう。」
ハデスが様子を見ていると、爆風の中から巨大な斬撃が飛んでくる。ハデスは斬撃を正面から受ける。
「くっ……」
ハデスの体は2つに切断されるが、すぐに結合する。
「驚いた。ある程度予想はしていたけど、胴体を真っ二つにしても死なないか。」
「驚いたのは私ですよ。あの至近距離で爆発を受けておきながら……」
爆風を吹き飛ばして椿が現れる。
「まさか無傷でいられるとは……。ディファラスが言っていたことは正しいようですね。」
「やっぱりディファラスは生きているのか。まぁ、私の敵ではないか。」
「それはどういう意味ですか?」
ハデスの声色が変わる。
「聞きたいの?」
「本来、私以外の悪魔を侮辱する行為は断じて許さない。ですがあなたは例外。"神威人(かむいびと)"。あなたは昔、こう呼ばれていた。」
「ちっ……、古傷を抉るな。」
「あなたは神を葬った。それを讃えるため、あなたに与えられた二つ名です。それとも、神殺しのよかったですか?」
「やめろ……。」
椿はハデスに向かって刀を振り下ろす。
「これ以上、私の古傷を抉るな。」
「であれば、あなたに神を殺した実力を見せてもらいたい。」
「悪いが、今の私に、神を殺せるほどの力はない。あの頃が私の全盛期だ。全盛期の私であれば、お前くらいなら、すでにこの世にいない。」
「随分と強気ですね。神を殺したことをそれほど自慢したいのですか?」
「自慢ねぇ……。」
椿は後方に大きく跳ぶ。ハデスには椿の雰囲気が変わって見えた。
「あんたの考えとしては、人間程度は敵とは思っていない。違う?」
「……そうですね。私の心の底では、そう思っているのかもしれません。それに、他の悪魔はそれが本心でしょう。」
「はぁ……、だったら、そいつらに伝えておけ。私は、悪魔には屈しない。」
ハデスは椿の気迫に少したじろぐ。
「やはり、あなたはここで始末するべきだ。」
「あ、そう。なら……、やってみろよ!」
ハデスは反応する間もなく、両腕を斬り落とされる。椿の太刀筋がまったく見えない。気づいた頃には体のどこかしらを斬られている。
「いかに速い者でも、重力からは逃れられない。」
椿の動きが止まる。ハデスはその隙に、椿めがけて魔力の波動を放つ。波動は木々をかき消し、森林を跡形もなく破壊する。
(いけらバケモノとはいっても、人間であることに代わりはない。ただでは済まないでしょう。)
しかしハデスの考えとは裏腹に、椿はハデスの心臓を刀で貫く。
「まさか……あの攻撃をやり過ごすとは……。ですが、悪魔の心臓を貫けばどうなるか、お忘れですか?」
ハデスの体から魔力が溢れている。
「忘れるとでも?」
溢れた魔力が収束して大爆発を起こす。
「自ら爆発を受けるとは……。もはや正気の沙汰ではない。」
爆風を突き破って、椿はハデスの首を切り裂く。ハデスは咄嗟に首を押さえる。
「私の首を斬り落とそうとしましたね?」
「それ以外に何がある?」
「あなたは敵に対しては誰よりも冷酷だ。いかなる手段も選ばない。そういった戦い方はいずれ命取りになる。」
「勝てばそれでいい。それが私の信念だ。」
椿は刀を振り、巨大な斬撃をいくつも放つ。ハデスは魔力で対抗するが、斬撃はハデスの魔力を切り裂いてハデスを襲う。ハデスの体は4つに分けられ、地面に倒れる。椿はハデスの首を貫いて地面に刀を突き刺す。
「さて……、どうやってあんたを殺すべきか…。」
「まさか……、この私をここまで追い込むとは…。あっぱれです。……ですが……」
ハデスの瞳孔が不思議と小さくなる。
「時間は十分に稼げました。」
椿はその言葉に疑問を持つが、それが何を意味するかを瞬時に理解する。
「くそっ……、はめられたか。」
「まだ間に合うと思いますよ。ですがそれは、あなたのお仲間が気づいている場合です。」
椿は舌打ちをしてハデスの首を斬り落とす。その後、ハデスの脳と心臓を貫いてその場から飛び去る。



「やっぱ、雫が作る飯は美味いな。」
疾風は玉子焼きを口にする。
「ありがとうございます♪」
「はぁ…、俺の家にもこんなメイドがいれば……。でも轍が「経費の無駄遣いはやめてください。」、って言って許可をくれねぇんだ。」
「その結果、君は自炊ができるようになったんだろ?」
「そうだけどよぉ……」
疾風は春蘭の言葉を気にしながら箸を進める。
「ん?」
純連はタブレットを取り出す。本部からの緊急の動画が表示される。
「何かあったの?」
純連は全員にタブレットを見せる。そこにはアーロンドの服装を整えるアーロンドの姿があった。
「これ……LIVEか?」
「えぇ、何か相当なことがあったんじゃない?」
全員が画面に集中していると、アーロンドが咳払いをして話し始める。
「これより、魔道士の皆様に緊急任務を言い渡します。では前へ。」
アーロンドが誰かを手招きする。画面外からグレイ・ローズが歩いてくる。
「なっ……!」
「知っているとは思うが、私は呪法連合盟主、グレイ・ローズだ。明日、私は大規模な計画を行う。この計画が成功すれば、世界の運命を大きく変えることができる。」
「世界の運命を変える……?そんなことが可能なのか……。」
「最後まで聞きましょ。」
「私は計画について気になっている者しかいないと思う。簡潔に言うと、ロビンを蘇生する。それだけだ。」
「ロビンを蘇生?!」
美桜は画面に顔を近づける。
「ロビンの青い炎はこちらが扱える中で最大の攻撃手段だ。蘇生が成功すれば、悪魔に対して優位を取れるだろう。だが蘇生するにあたって、1つだけ難題がある。」
(蘇生魔法なんて……成功率は低い…。でもそれはわかりきっていること。)
「その難題とは……、悪魔が黙っているわけがない、ということだ。奴らは必ず、全勢力を持ってこちらを襲撃する。そのため、私を守る者と魔獣の大群を阻止する者が欲しい。魔獣に関しては、今からでも討伐してもらって構わない。数は少ないほうがいい。私を守る者は、明日の10時、本部に集まってくれ。」
そう言って、グレイ・ローズは画面外に消える。
「えぇ…、そういうことです。では私もこれ……」
アーロンドが動画を消そうとしたとき、天井を突き破って椿が画面内に現れる。
「こんなところにいたか……。そんなことより、早く団員を集めろ。ロビンに指一歩触れさせるな。」
「えぇと……。急に言われてもなんのことか……。まずは事情を……。」
「あぁそうだな。だが話している時間はない。さっさとしろ!」
椿は鬼気迫った声でアーロンドに命令する。
「……わかりました。」
「わかったならいい。周囲を包囲するように配置しろ。だが何が起こるかは分からないからな。」
椿は飛び上がってどこへ向かう。
「なんだったんだ今の……。」
疾風は突然の事に困惑しながらも、冷静に話をする。
「とりあえず、今日はもう休もう。」
(でもこの状況で、一番困惑しているのは美桜だろうな。)
春蘭は部屋の隅に座る美桜を見守る。



翌日……
「はぁ……、急にこんなところに召集されるなんて……。今日は溜め込んでたアニメを一気見するつもりだったんだけどなぁ……。」
「そんなに嘆く必要はないだろ…。ちゃんと給料は弾むって、団長から言われてるだろ?」
「確かにそうだけど……。」
2人の団員は厳重な警備を張られた建物の前で、そんな会話をしながら見張りにあたっていた。
「それにしても……、この建物、流石に頑丈すぎないか?一体何があるんだ……。」
「噂だと、ここは身寄りのない人たちの遺体安置所とか聞いたぞ。」
「なんだよそれ……。なんでこんなロンドンの郊外にあるんだよ?それに、なんでここに警備を置くんだ?」
「それは俺にも分からない。ただ、団長が見張れと言うんだからには、相当な"何か"があるんだろうな。」
 建物の内部では、数名の団員が徘徊していた。アーロンドの指示で見張りにあたっているようだ。
「異常は?」
「特にない。そっちはどうだ?」
「こちらも異常はない。それにしても、なんで団長は俺たちをここに召集したんだろうな。」
「上級の僕たちを見張りにしているんだから、かなりの緊急事態なんじゃないか?」
「こんな人気のないところでか?はぁ……、団長の考えにはつくづく困ったもんだぜ。」
団員は水筒の中身を飲む。
「それにしても、なんか熱くないか?」
「ここは窓が少ないからな。熱が籠もってるんだろ。」
「そうかぁ?俺は魔力の類だと思うけどな。」
「こんなところで魔力を扱ってるやつがいたらすぐにわかるだろ。」
「まぁ、そうだな。」
2人の団員は再び建物内を徘徊しだす。団員が一直線の通路に差し掛かった時、突然、建物内の警報機が作動する。
「なんだ?!」
通信機からもう1人の団員の声が聞こえてくる。
「地下室だ!地下室で火災が起きている。他の団員にも伝えるんだ!」
そう言って、通信機が切れる。
「伝令!地下室で火災が発生。団員たちは直ちに地下室に向かえ!」
建物内の様々な場所から走る音が聞こえる。団員たちと合流し、地下室の手前に辿り着く。
「ドアが開いている…。中には何が…。」
団員はドアを開け、団員たちは一斉に地下室の中に突入する。
「……っ?!……なんで……。」
気づけば、団員は意識を失っていた。
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