愛したいと獣がなくとき。

あじ/Jio

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一章

05

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 自宅に戻るといつもと同じように狼に夕食を振る舞う。
 アダムは椅子に腰掛けると狼を眺めた。獣のくせにやけに上品に食べるものだ。
 魔の森の皆はご飯を出すなりガツガツと貪り食うのに。
 そんなことを考えながら、一方では昼間の宰相を思い返していた。
 指先が肌に触れただけで湧き上がった震え。
 あの時の熱が未だに燻っている。アダムはふと脳裏に浮上した言葉が恐ろしくて頭を振るった。
 すると、さきほどまでニコニコしていたサミーが振り返り、とてとてと此方にやってくる。

「おかあしゃーん。だっこー。サミーちゃんとおるすばん、したでしょ?」
「うん。そうだな。お留守番ありがとう」

 小さな手を懸命に伸ばす我が子を抱き上げる。
 昼間は使用人の子供を預ける場所に、サミーもお願いして預けていた。
 一緒に居られるのは夜のあいだだけだ。
 サミーはぎゅうっと大好きな母親の首に顔を埋める。そして、嬉しそうにぐりぐりと額を押し付けた。
 応えるようにアダムがサミーの耳をぱくりと咥える。すると、きゃっきゃと身を捩りサミーが笑った。

「僕。おかあしゃん、だーいすき」
「俺もだよ。俺もサミーが大大大好きだ」
「じゃあ僕は、だいだいだいだい……? とにかく、だぁいすきなの!」

 アダムよりも濃い紫の瞳は宝石より何よりも美しい輝きを放つ。
 サミーがいる限り、アダムは息ができる。
 たとえ、番った相手に捨てられようとも。
 その時アダムとしての己が死んでも、サミーの親として自分は息を吹き返した。
 抱きしめ合う親子を狼が見つめる。
 アダムは胸に去来する不安から、逃れるように我が子を抱きしめた。

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