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1巻
1-3
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* * *
もくもくと真っ白な湯気が浴室を満たしている。
たっぷりの湯を入れて、僕は広々とした浴槽に身を沈めた。
「はあ~。お風呂の時間だけは最高だな~」
ベルデ領に来てから早くも一週間が経った。
推しの性格は分かっていたから甘い生活なんて期待していなかった……と言うのは、嘘だ。
少なくとも毎日顔くらいは見られるのではないかと思っていた。
だが現実は厳しいもので……
加えて、僕は快適とは言いがたい生活を送っていた。
まず、ここに来た日、屋敷には必要最低限の使用人しかいないと告げられた。
要するに、僕に使用人をつける余裕はないと言いたいのだ。「基本的に自分のことは自分でお願いします」と言われた時はさすがに驚いたね。
──獣人国の王子なのに?
と、真っ先に浮かんだ言葉を口にしなかっただけ偉い。
だって僕、獣人国の王子だよ? 賓客なんだよ? 現時点では婚約者候補だよ⁉
なのに、使用人を一人もつけないってそんなの── 大公の仕業に決まっているじゃないか。
初日の様子からして、大公は僕を早く追い返したいのだろう。
僕を世間知らずの箱入り王子だと決めつけ、一人で生活できず音を上げるはずと目論んでいるのだろうが、甘い!
そもそも獣人は、たとえ王侯貴族であれど、基本的な生活力ぐらいは身につけている。戦場で自分の身ひとつ守れない者には上に立つ資格はないという考えのもと、自分のことは自分でできるように育てられるのだ。
考えてもみてほしい。戦場で、一人では着替えもできない、食料の調達や調理もできない、治療もできない、ないない尽くしの人など邪魔なだけだ。
王侯貴族は優雅であるべきだと、獣人国の考え方を批判されることもある。しかし、危機が迫った時に民を守るのは、上に立つ者の当然の役目。当然の義務を放棄するほうがよっぽど恥ずかしい。
とはいえ、僕が箱入りであることは間違いないのだけれど……
でも、僕だって、ここまで観光のつもりで来たわけではないのだ。
何よりも尊い使命――それは、大公、貴方を幸せにするという使命だ!
冷遇すれば泣いて出て行くと考えているのだろうけど、僕は純粋なヒロインではないんだよ?
これまでやられたら倍にしてやり返してきたわがまま王子の僕を相手に、この程度では生ぬるい。この件はいつか大公にたっぷりと返してやるつもりだ。
そう、大公と結婚できたあかつきには、その鍛え抜かれた胸に甘えて、思う存分イチャイチャするのだ……
だから今は、耐える時なのである。
たとえどんなに最悪な環境でも、魔物が闊歩していようとも、推しがいる。
ただそれだけで、オタクは強くなれるのさ──!
「まあ、でもこういう生活も気楽でいいものだね」
祖国では、どこに行くにも何をするにも過保護なまでに監視の目がついていた。
それを思い返すと、今はむしろ自由でいい。瘴気に汚染された空気はよろしくないが、毎朝欠かさず部屋の中を浄化しているため特に問題もない。
では唯一、何が慣れないのかと言うと。
それは食事が、……食べ物が口に合わないことだ。
僕は美味しいものが大好きだ。一週間寝るなと言われても気にもしないが、一食でも抜けと言われたらそいつをボコボコにしてやるくらい、食べることが好きだ。
だが残念ながら、ここには祖国で毎日食べていた生クリームたっぷりのふわふわなケーキも、肉汁が溢れるステーキもない。
そもそも、「美味しい」という概念があるのかさえ疑問だ。
この一週間、僕が安心して食べられたのはふかした芋だけ。
僕が特別わがままだとか美食家だとか、そういうわけではないと思う。濃い味つけが苦手な獣人にとって、塩に漬け込んだ肉や、色々な香辛料を使用した食べ物は苦痛なのだ。
肉は塩をかじったみたいに辛くて飲み込むのがやっとだし、スープは香辛料が強すぎて噎せそうになったほど。
極めつけは、こちらからお願いしないと、いつまでも食事が用意されないことだ。
切ない。切なすぎる。もしや「自分のことは自分で」というのは、食料の調達から調理までも含まれているのだろうか?
これが嫌がらせなら呆れたものである。人間と獣人の仲が悪いことは理解しているが、こんな小さな嫌がらせまでするとはな。
「それにしたって、せめて大公には美味しいものを食べさせてあげたいよなー」
ここでは瘴気のせいでまともに作物が育たないし、肉が稀少であることも理解している。だからこの僕が……好き勝手に生きてきた僕でさえ、何も言わずに我慢しているのだ。
己の辞書に「我慢」という文字など存在しないと思っていた。けれど、推しのためならばこんな暮らしだって耐えられそうである。
冷遇されるであろうことも分かっていて、ここに来たのだし。
ベルデ領は常に財政が逼迫しており、その中で貴重な食糧を提供してくれている。だから、どれほど口に合わずとも料理を残すなど許されない。貧しい思いをしている領民や大公に申し訳ないからだ。
「ん~、でもその貴重な食糧だからこそ、美味しく食べたいとは思わないのかな~?」
口元までお湯に沈み込み、ぶくぶくと泡を立てながらぼやく。
「……もしくは、お父様に頼んで食糧を提供してもらう?」
いやいや、半ば強引に婚約話を許可させたのに、生活に不満があるだなんて言えるものか。
「ああっ! 自分でなんとかするしかないか!」
目標は半年。
それまでなんとしてでもここにいられるように、頑張らなくちゃ。
僕を置いておくほうが利益があると分かってもらうためにも。
そうしてお風呂から出ると、ガウンを身にまとい、自分で髪を乾かした。
居室の窓の外を覗くと、曇天から絶えず灰色の雪が降っている。これは本当の雪ではなく、瘴気によるものだ。
現に今のベルデ領は寒くもなく、春から夏へと移り変わる心地いい季節。
それなのに、窓の外は一面が灰色に染まっている。広い庭にはこれからが盛りの美しい花々もなく、枯れた枝木や、乾いた土、見ていると憂鬱になるような景色だ。
早々に視線を逸らそうとしたところで、僕は小さく声を上げた。
「あ、ベルデ大公っ」
屋敷から門に向かい、ベルデ大公と数人の騎士が歩いていくのが見えたのだ。
窓を開け、彼に聞こえるように大きな声で呼びかける。
「おーい! ベルデ大公ー!」
憂鬱な空に似つかわしくない、明るい声が響き渡った。
どうやら僕の声が届いたようで、ベルデ大公の歩みがわずかに遅くなる。しかし振り返ることはなく、またすぐに行ってしまった。
「あぁっ、も~。少しぐらいこっちを見てくれてもいいじゃんか」
ぶつくさ文句を言いながら、開けっ放しの窓の縁に腕を乗せて、もたれかかる。
どんどん小さくなっていく大公の背中を見ているだけなのに、僕の心は満たされていた。
本当なら創作の世界にしか存在していなかった推しが、僕と同じ世界にいて、僕に見えるところで動いているのだ。これを喜ばずして何を喜べと言うのか。
だらしなく口元を緩め、もうじき見えなくなる大公の背中を目で追っていた時、背後で荒々しく部屋の扉が開かれた。
「ジョシュア様! 何をされているのですかッ」
キンキン声で怒鳴りながら無遠慮に部屋に入ってきたのは使用人だった。わずかな乱れもなくきっちりと纏められた髪や、糸で吊られたようにぴんと伸びた背筋。
こちらを睨みつけるようなきつい切れ長の目に、「あ、なんか嫌いなタイプかも」と胸中で呟いた。
たった今抱いた失礼な感想を誤魔化すように、ヘラッと笑う。
「ごめんなさい。僕、何かいけないことでも──」
いきなり、使用人の手が僕の肩を思い切り押した。
最後まで紡ぐことのできなかった言葉が、驚きと痛みにより小さな呻きへと変わる。
突然のことでろくに踏ん張ることもできなかった僕の体は、音を立てて後ろに倒れ込んだ。
「信じられませんッ! 魔雪が降っているにもかかわらず、窓を開け放つなど! 瘴気が入ってきたらどうするのです⁉」
「……ああ。それなら心配しないでよ。ほら」
ぱっと顔の高さに持ち上げた手を振るう。
刹那、部屋の中を薄い青色の光がたゆたい、やがて収束した。
「心配せずとも浄化魔法できちんと綺麗にするから」
だから、僕を突き飛ばしたことをまずは謝罪しようか?
ニコニコしながら座り込んだままの僕は、いつ彼女が現状に気づくのかと待っていた。
だが、頭上から聞こえてきたのは欠片も想像しない言葉であった。
「はっ、いつまでそこに座っているおつもりで? 獣人国では、一人で立つことも教わらないのですか」
「……」
返ってきたのは鼻を鳴らしながらの嘲笑。
ちょっと待って。これは僕、貶されているのか?
ふつふつと湧き上がった怒りが喉元まで達する。だが、同時に冷静な僕もいて、落ち着こうと理性が稼働した。
僕は大公に気に入られたい……。それはつまり、騒ぎを起こすなどもっての外。
ぐっ、と口元に力を込めて笑みを深めると、立ち上がり、ぺこりと頭を下げる。
「は、ははは……びっくりしちゃって……」
「……ふっ。見た目の通り、王子は少々鈍くいらっしゃるのですね」
……おい、いい加減にしろよ?
喉元を越えて舌先まで込み上げてきた言葉を、ゆっくりと、じっくりと呑み込む。
さわやかにお淑やかに。間違っても「鈍く」ではなく、お淑やかに、僕は笑った。
そもそも鈍く見えるのは眠たげな二重のせいであって、中身までどん臭くはないんだからな!
「気をつけるよ。あ、そうだ。少し遅れちゃったけど昼食を用意してもらえる?」
「……かしこまりました」
「ありがとう」
使用人はとんでもなく盛大なため息をついた。どう見てもかしこまっていない。今にも唾を吐きそうな嫌悪感に満ちた顔をしている。
使用人は最後までうるさくドタバタと足音を立てて消えていった。
「あ~、疲れる」
誰もいなくなった部屋でソファにどっかり座り、天井を見上げる。
今、僕が滞在している部屋は客室らしく、それなりに広い。でも、掃除は僕がしなくちゃならないし、ベッドのシーツだって自分で取り替えるのだ。その労力を考えたら、必要最低限の場所でしか生活したくなくなるというもの。
確かに、急に押しかけてきたのは僕だ。
想い人がいる相手に婚約を申し込んでいるのも僕。
断られているのに意地を張って居座っているのも僕。
要するに、迷惑をかけている大元は僕!
「うん、迷惑極まりないね。……でもさ、だからってこれも我慢しなきゃならないのか?」
童話に登場する不憫な主人公でもあるまいし。
再びぶつくさ文句を言いながら、机に置いてある水差しから水をコップに注ぎ、口に含んだ。
「……水もまずい」
前途多難だ。
それでも、予言した日まであと一週間。
その日さえ迎えれば、大公やその周囲の人たちも少しは考えが変わるだろう。
今はそれを祈るしかなかった。
ゆらゆら尻尾を揺らしながら、大公と仲良くなったらやりたいことリストを、指折り数えていく。
あれこれと妄想していたら、扉が小さくノックされ、昼食が運ばれてきた。
今日もお皿に載っているのは変わらず、わずかな干し肉と芋。あと、小さなパンと香辛料たっぷりのスープだった。
でもこれが、ここの領民たちが毎日苦労して手に入れているご馳走なのだ。
食べることが好きだからこそ、食事にだけは絶対に文句を言うつもりはない。
「ねえ、君。毎日ありがとうね」
僕がここに来てからいつも食事を運んできてくれる使用人にお礼を言う。
大きな丸メガネをかけた彼は、少年特有の幼い雰囲気を漂わせている。僕とそんなに背丈も変わらないだろうし、何より仕草にほっこりするのだ。
今だって、急に話しかけられて戸惑ったのか、おどおどしながらも小さく頭を下げて、逃げるように部屋を出て行ってしまった。
「ふっ。ここで一番可愛いかも?」
この屋敷で見てきた使用人の中で、唯一悪意のない少年。食事の度に背中を丸めてちょこちょことやって来て、逃げるように去ってしまう。
いつか彼とも仲良くできたら、ここでの生活も少しは楽しくなりそうだ。
翌日の朝、僕は緊張しながらも期待を胸に、玄関ホールにやってきた。
昨日、窓の外からお見送りした大公が先ほど帰宅したのだ。どうやら泊まりがけで魔物の討伐に出ていたらしい。
瘴気の根源が肥大化するまであと六日。
瘴気の臭いが日を追うごとに濃くなっている。魔力に疎い人間には分からないだろうが、僕たち獣人にとっては酷い臭いがしていた。例えるなら、前世で言うところの下水みたいな臭いだ。
瘴気が濃くなれば魔物の動きも活発になるし力も強まる。
つまり、大公は今、大変お疲れであるに違いない。
ということは、ここでこそ、僕の出番ではないか?
魔法を得意とする獣人の僕が、大公を浄化し、ついでに癒してあげるのだ!
仕方なしに、一緒に討伐へ行った他の騎士さんたちも癒してあげる予定だ。騎士さんはその恩を胸に刻み、是非とも僕の恋路を応援してくれ。
思案している間にも、玄関の外が騒がしくなる。
重たそうな観音開きの扉が開かれると、待ちに待った人の姿を見つけた。
「大公!」
屋敷に入ってきた大公は、ピリピリとした雰囲気を纏っていた。
先ほどまで少しも油断できない状況で戦っていたのだ。そりゃあ、人を三人ほど始末してきたような相貌にもなるのだろう……
今なら前世で大公を推していたファンたちも、彼を悪役だと認めそうである。
それほど凶悪で、息苦しい雰囲気だった。
「……あ」
こちらへやってくる大公を前にして、話しかけることにわずかな躊躇いが生まれる。
だが、すれ違い様に頬の擦り傷が見えて、僕は足を踏み出した。
通り過ぎていってしまう大公を慌てて追いかける。隣にくっつくように並んで歩きながら問いかけた。
「大公、怪我は大丈夫ですか?」
「……」
「痛いところがあったら治療しますから遠慮なく言ってくださいね! それから、皆さんの浄化は僕がします。……あ! あと他にも何かできることが──」
大公が歩みを止めた瞬間。
鍛え抜かれた腕が、僕の肩をわし掴みにする。
一瞬の間に壁に押し付けられた僕は、背中を走り抜けた痛みに言葉を詰まらせた。
「魔物狩りも、この領地も、お前が考えているほど易しくはない」
「え?」
「皆が命懸けで討伐に出ているんだ。お遊びだと思っているなら国へ帰れ。……ヘラヘラと笑って目障りだ」
大公は堪えきれない怒りを瞳に乗せるかのように、僕を睨めつけていた。
肩を押さえる手は強ばり、力を増していく。骨がきしむ痛みに、思わず顔を歪めた。
「た、大公……痛い、です」
「……はっ。この程度でか。ろくに鍛えてもいない体で何ができる。魔法に長けていれば、喜んでお前を迎え入れるとでも思ったのか」
「……で、でも魔法が使えたら役立つでしょう? 少なくとも瘴気の問題は解決できますし」
体に走る痛みよりも、心に生まれた痛みのほうが苦しいものだ。
軽蔑と嘲笑を浮かべた冷たい大公の表情を前に、うまく言葉を紡ぐことができない。
僕の存在がこれほどまでに彼を苛立たせ苦しめているのだと、まざまざと見せつけられた。
いっそのこと、言われた通りに彼から離れたほうがいいのかもしれない。
ふとそんな考えが浮かんだ。
けれど、それをかき消すようにこみ上げた思いは、やはり彼の傍にいたいという欲だった。
「……こんなことで僕が諦めると思っているなら甘いですよ」
「なにを──」
僕は伸び上がって大公の襟をわし掴みにすると、こちらへ引き寄せた。わずかに見開いた瞳には、ふてぶてしく笑みを浮かべた僕が映っている。
「僕は絶対に貴方との婚約を諦めない。もし、本当に僕が嫌なら──死ねと、そう命令すればいい」
「お前……ッ!」
驚愕した様子の大公が僕の腕を振り払い、後ろに下がって距離をとる。
僕はそれを冷めた思いで見つめ、視線を自分の肩に移した。
「あーあ、これじゃあ後で肩が腫れるじゃないか」
「お前、いったい何を考えているんだ?」
「え?」
シャツをずらして肩の状態を確認していた僕は、再び大公に視線を戻した。そして、わざとらしく首を傾げて緩慢に微笑む。
「大公との婚約ですよ」
「そんなものは――」
「とりあえず二週間。そう約束しましたよね? その日まであと数日ですし、今ここで揉めなくてもいいじゃないですか」
大公の言葉を遮り、僕は肩をすくめた。
彼が僕に対して抱いている気持ちは察している。何を企んでいるのかと警戒するのも理解できた。
誰だって、これまで敵対していた種族から婚約を申し込まれたらそう思うだろう。それこそ自分の命を狙っているのかと疑われてもしょうがない話だ。
「それに大公だって滞在する許可をくれたじゃないですか。ね?」
「勘違いするな。仮に二週間が経とうとも、お前と婚約するつもりはない」
酷いなー。
そう言って笑い飛ばそうとした僕に、大公は少しも付け入る隙もなく、冷たく言葉を突きつける。
「──お前を好きになることもだ」
「……」
知っているさ。
貴方が僕を好きになることはないことなど。
どんなに好きだと告げても、奇跡が起きて彼の心に近づけたとしても、僕たちが本当の意味で婚約する日なんて来ない。それは、彼が──大公が愛し、生涯を捧げると誓うのは、主人公だけだから。
「知っていますよ」
落ちてしまいそうになる視線を堪えて、真っ直ぐと前を向いた。意地だった。
傷ついていると悟られるのも、痛々しいと思われるのも、僕の矜持が許さない。
今にも引き攣りそうな頬を持ち上げて完璧に微笑むと、空気を切るように手を振って浄化魔法を放つ。
「それでも──僕は貴方が好きですから」
指先を追うように、僕たちの間を寒々しい青色の光が駆けていく。
まるで、決して交わることのない運命だと告げるかのように。
僕の魔法は二人を別つようだった。
「あ~、僕の大馬鹿野郎」
大公が去り、一人取り残された僕はその場でうずくまった。
頭を抱え、すぐに挑発してしまう己の性格の悪さに辟易する。
もっと真っ直ぐで素直で純真な奴だったら、大公だって少しは信用してくれたかもしれない。よりにもよって「死ねと命令しろ」だなんて、本当に僕は大馬鹿者だ。
大公にとって「死」とは、言葉だけの抽象的な概念ではない。
とても身近で生々しいものだ。
僕が彼を、いや──ノクティス・ジェア・ベルデを好きになったのは、見た目が好みだからなんて理由じゃない。愛を知らないくせに一途に思い続け、命さえ捧げた馬鹿な男が眩しくて、かっこいいと思ってしまったからだ。
だから、彼には幸せになってほしくて、勝手だと分かっていても僕はここに来た。それなのに自分から大公の傷を抉るような言葉を口にするなど、馬鹿げている。
「はあ。……謝って済む話じゃないよな」
大公が忌み子として扱われたのは、双子だからという理由だけではない。大公が捨てられた本当の理由と、皇帝の双子の兄だという真実が明るみに出るのは、もう少し先で起きるイベント──星夏祭である。
ただ、大公自身は既にそれらの真実を知っている。「死」がどれほど生々しく惨たらしいものであるのかを彼の心に刻みつけた、あの事件の時に知ったのだ。
どんなに魔法が得意でも過去に戻ることはできない。戻れるのなら、幼い大公を抱きしめて、全ての悲しみや絶望から守ってあげたかった。
彼に罪はないのに。それでもこの帝国では、大公がどれほど美しい魂を持っていようとも、穢れていると拒絶するのだろう。
受け入れられないからと、認めたくないからと、全てを消し去るため。
──大公を殺そうとしたあの事件のように。
柔らかで純粋な心を冷たい暗闇へと突き落としたのだ。
事件が起きたのは、大公がまだ四歳の頃。
前皇后付きの侍女は、前皇帝陛下の子を身籠った役として、大公の母となり彼を育ててくれた。突然血の繋がらない子を託され、嘘の策略に乗せられた彼女にとって、大公の存在は不幸そのものだったかもしれない。
それでも、大公は彼女を本当の母と信じ、愛していた。
小説内で侍女の胸中が語られたことはない。けれど幼い頃の大公が温かく純心でいられたのは、すぐ傍で彼女が愛を教えてくれたからではないのだろうか。
それが、親という役目によるものか、憐れみによるものかは分からない。
いずれにしても大公は彼女を慕い、だからこそ、目の前で散る姿に絶望したのだ。
大公の存在を消そうとした皇家は、まだ四歳という幼い少年を殺そうとした。全てを察した侍女は大公を庇い、そして少年の目の前で暗殺者に殺されたのだ。
薄暗い部屋の中。大公は母と信じていた存在が偽物であると知らされ、足元に迫る赤黒い液体を、ただ黙って見つめることしかできなかった。
それからだ。
大公が心から笑わなくなったのは。
誰も寄せ付けず、偽物の甘い笑みを浮かべて、周囲に壁を作った。全てを諦め、全てを受け入れ、まるで罪を償うように生きるようになった、惨たらしい事件。
小説で読んだ時にはただ可哀想だと、悲惨すぎると、他人事のように泣いていた。
でも今は……彼が目の前で存在して生きていることを知った今では、他人事とは思えない。空虚な紫色の瞳を思い返すたびに胸が苦しくなる。彼は悲しみや痛みさえ分からなくなるほど傷ついたのだ。
どれほど恐ろしく、絶望し、それでも……それでも愛を欲したのだろうか。
「……僕なら愛するのに」
他の誰でもなく僕ならば。
貴方のどんなわがままだって受け入れるのに。
でも、大公は……
「……あー! もう、やめやめ!」
僕まで暗くなって、いいことなんてあるものか。
最初からうまく行きっこないことは、承知で来たのだろう?
ならば、うじうじと考え込んでいる暇はないのだ。
僕は立ち上がると、騎士たちの宿舎へ歩き出した。大公の浄化はできたが、彼らにはまだ何もしてあげていないからだ。
「こうしてコツコツと恩を売って周囲の好意を得る作戦も悪くないな」
独りごちて、歩みを早めながら目的の場所に向かう。
たどり着いた宿舎は、いい意味で無骨、悪い意味ではむさ苦しい場所だった。年がら年中、体を鍛えている男たちが集まる場なのだ。そりゃあ、熱気でムンムンとしていても不思議じゃない。
魔雪のせいで外では長く鍛錬できないため、広々とした室内鍛錬場があり、宿舎が隣接している。
おかげでなおさら男臭くて、僕はげんなりとした。
獣人はこういう時に不便だ。鼻が良すぎて、人間には普通に感じるにおいにも敏感になってしまう。
「あ、そこの君。大公と一緒に魔物の討伐に出ていた騎士を呼んできてくれる? ちゃちゃっと浄化しちゃうから」
まだ一般兵なのだろう、簡易な装いをした兵士に呼びかけると、「お、王子⁉」と慌てて礼をとり頭を下げる。
「うんうん。これが普通の反応だよね~」
僕は彼に頭を上げるよう伝えて、再度騎士を呼んできてほしいとお願いした。
兵士は頭を上げ、キョロキョロと目を動かして、気まずそうにこちらを見る。
「なに?」
「……あの、えっと」
「何か言いたいのなら言えば? 悪口でも見逃してあげるよ?」
「いえっ! 悪口ではなく」
再び兵士が口を閉ざす。
そこまで言ったからには最後まで言ってほしい。まどろっこしいなあ、とイライラしてきた。
張り付けた笑みがぴくりと痙攣すると、それに気づいた兵士が慌てて口を開く。
「ベルデ大公のことですが」
「うん?」
「どうか嫌わないでください……!」
「ん……?」
まるで悪いことでも告げたかのように、兵士は勢いよく頭を下げた。酷く息切れしている様子は、酸素を求めて水からあがった直後みたいだ。
意図が分からずに首を傾げると、兵士は腰を折ったまま恐る恐る僕を見上げた。
「……さ、先ほどの口論を偶然見かけてしまい」
「ああ。なるほどね」
「立ち聞きして申し訳ありません! でもこれだけはお伝えしたくて……」
「いいよ、言ってごらん」
「ベルデ大公は確かに血も涙もない、冷たいお人です! 表面上は優しそうですが、実際のところ人の気持ちを考えたことなどないと思います!」
……ちょっと待て。僕の悪口は良くても、推しの悪口は許されない。
というか、そこまで言われちゃう大公も大公だ。
大丈夫なのだろうか、この屋敷は。もしや大公の周囲は敵だらけなのでは……
だが、そんな新たな疑問と不安は浮上してすぐに霧散した。僕を見る兵士の瞳があまりにも真っ直ぐで、温かったからだ。
「ですが、大公はそれほど酷い人ではないです。本当はきっと人の痛みを知っている方です。特に──誰かを失う恐ろしさをよく知っている方だと思います」
そう訴えかける兵士の言葉が胸を揺さぶる。
「どうしてそう思うの?」
「オレは平民です。本当ならこんな立派なお屋敷で、見習い兵として雇われることなんて有り得ません。ですが大公は、オレに剣を授けてくださいました。家族や、恋……じゃなくて、友人を守るための剣です」
「……」
「それに大公自ら指導してくださります。嫌がらせかと思うほど容赦はないですが、それでもオレのように、誰かを守りたいと足掻く者に手を差し伸べてくれます。だからきっと、大公は優しいお方のはずです」
彼の声音に迷いや悪意はなかった。直感のままに、ただその人を信じている。利害関係や下心などなく、シンプルでいて強い気持ち。
僕は兵士を見上げ、日焼けした額にデコピンする。
「知ってるよそんなの。僕が惚れた大公だぞ? いい人に決まっているだろ」
「えっ、え?」
「……口論はしたし意地悪もしちゃったけど、僕は本当に大公が好きなんだ」
「そ、それじゃあ陰謀論は……大公の命を狙っているという噂は⁉」
「は? 有り得ないね。君が信じるかどうかは別問題だけど」
「しっ、信じます!」
兵士はパッと目を輝かせると、いきなり僕を抱きしめた。
「良かった! オレてっきり大公を――」
「……僕を抱きしめていいのは大公だけなんだけど」
半眼で注意すると、飛び跳ねるようにして後退する。
まるで嵐のように騒がしい男だ。
「とにかく。君が大公を好きなように、僕も大公が好きだから安心しなよ」
「はい!」
「あと、早く騎士さんたちを呼んできてね」
「はいっ!」
やはり騒々しい。けれど真っ直ぐで気のいい青年だ。
彼のことは仮に、「アラシ君」とでも呼ぶかな。
ドタバタと元気よく駆けていく後ろ姿を見送りながら、久しぶりに心から安堵の笑みを浮かべた。
「やっぱり一人ぼっちじゃないじゃん」
大公は気づいてないかもしれないけどさ。
どれだけ遠ざけたつもりでいても、僕たちは必ず誰かと繋がっている。
こうして、小さな優しさを掬いとってくれる人が、一人でも傍にいることが嬉しかった。
もくもくと真っ白な湯気が浴室を満たしている。
たっぷりの湯を入れて、僕は広々とした浴槽に身を沈めた。
「はあ~。お風呂の時間だけは最高だな~」
ベルデ領に来てから早くも一週間が経った。
推しの性格は分かっていたから甘い生活なんて期待していなかった……と言うのは、嘘だ。
少なくとも毎日顔くらいは見られるのではないかと思っていた。
だが現実は厳しいもので……
加えて、僕は快適とは言いがたい生活を送っていた。
まず、ここに来た日、屋敷には必要最低限の使用人しかいないと告げられた。
要するに、僕に使用人をつける余裕はないと言いたいのだ。「基本的に自分のことは自分でお願いします」と言われた時はさすがに驚いたね。
──獣人国の王子なのに?
と、真っ先に浮かんだ言葉を口にしなかっただけ偉い。
だって僕、獣人国の王子だよ? 賓客なんだよ? 現時点では婚約者候補だよ⁉
なのに、使用人を一人もつけないってそんなの── 大公の仕業に決まっているじゃないか。
初日の様子からして、大公は僕を早く追い返したいのだろう。
僕を世間知らずの箱入り王子だと決めつけ、一人で生活できず音を上げるはずと目論んでいるのだろうが、甘い!
そもそも獣人は、たとえ王侯貴族であれど、基本的な生活力ぐらいは身につけている。戦場で自分の身ひとつ守れない者には上に立つ資格はないという考えのもと、自分のことは自分でできるように育てられるのだ。
考えてもみてほしい。戦場で、一人では着替えもできない、食料の調達や調理もできない、治療もできない、ないない尽くしの人など邪魔なだけだ。
王侯貴族は優雅であるべきだと、獣人国の考え方を批判されることもある。しかし、危機が迫った時に民を守るのは、上に立つ者の当然の役目。当然の義務を放棄するほうがよっぽど恥ずかしい。
とはいえ、僕が箱入りであることは間違いないのだけれど……
でも、僕だって、ここまで観光のつもりで来たわけではないのだ。
何よりも尊い使命――それは、大公、貴方を幸せにするという使命だ!
冷遇すれば泣いて出て行くと考えているのだろうけど、僕は純粋なヒロインではないんだよ?
これまでやられたら倍にしてやり返してきたわがまま王子の僕を相手に、この程度では生ぬるい。この件はいつか大公にたっぷりと返してやるつもりだ。
そう、大公と結婚できたあかつきには、その鍛え抜かれた胸に甘えて、思う存分イチャイチャするのだ……
だから今は、耐える時なのである。
たとえどんなに最悪な環境でも、魔物が闊歩していようとも、推しがいる。
ただそれだけで、オタクは強くなれるのさ──!
「まあ、でもこういう生活も気楽でいいものだね」
祖国では、どこに行くにも何をするにも過保護なまでに監視の目がついていた。
それを思い返すと、今はむしろ自由でいい。瘴気に汚染された空気はよろしくないが、毎朝欠かさず部屋の中を浄化しているため特に問題もない。
では唯一、何が慣れないのかと言うと。
それは食事が、……食べ物が口に合わないことだ。
僕は美味しいものが大好きだ。一週間寝るなと言われても気にもしないが、一食でも抜けと言われたらそいつをボコボコにしてやるくらい、食べることが好きだ。
だが残念ながら、ここには祖国で毎日食べていた生クリームたっぷりのふわふわなケーキも、肉汁が溢れるステーキもない。
そもそも、「美味しい」という概念があるのかさえ疑問だ。
この一週間、僕が安心して食べられたのはふかした芋だけ。
僕が特別わがままだとか美食家だとか、そういうわけではないと思う。濃い味つけが苦手な獣人にとって、塩に漬け込んだ肉や、色々な香辛料を使用した食べ物は苦痛なのだ。
肉は塩をかじったみたいに辛くて飲み込むのがやっとだし、スープは香辛料が強すぎて噎せそうになったほど。
極めつけは、こちらからお願いしないと、いつまでも食事が用意されないことだ。
切ない。切なすぎる。もしや「自分のことは自分で」というのは、食料の調達から調理までも含まれているのだろうか?
これが嫌がらせなら呆れたものである。人間と獣人の仲が悪いことは理解しているが、こんな小さな嫌がらせまでするとはな。
「それにしたって、せめて大公には美味しいものを食べさせてあげたいよなー」
ここでは瘴気のせいでまともに作物が育たないし、肉が稀少であることも理解している。だからこの僕が……好き勝手に生きてきた僕でさえ、何も言わずに我慢しているのだ。
己の辞書に「我慢」という文字など存在しないと思っていた。けれど、推しのためならばこんな暮らしだって耐えられそうである。
冷遇されるであろうことも分かっていて、ここに来たのだし。
ベルデ領は常に財政が逼迫しており、その中で貴重な食糧を提供してくれている。だから、どれほど口に合わずとも料理を残すなど許されない。貧しい思いをしている領民や大公に申し訳ないからだ。
「ん~、でもその貴重な食糧だからこそ、美味しく食べたいとは思わないのかな~?」
口元までお湯に沈み込み、ぶくぶくと泡を立てながらぼやく。
「……もしくは、お父様に頼んで食糧を提供してもらう?」
いやいや、半ば強引に婚約話を許可させたのに、生活に不満があるだなんて言えるものか。
「ああっ! 自分でなんとかするしかないか!」
目標は半年。
それまでなんとしてでもここにいられるように、頑張らなくちゃ。
僕を置いておくほうが利益があると分かってもらうためにも。
そうしてお風呂から出ると、ガウンを身にまとい、自分で髪を乾かした。
居室の窓の外を覗くと、曇天から絶えず灰色の雪が降っている。これは本当の雪ではなく、瘴気によるものだ。
現に今のベルデ領は寒くもなく、春から夏へと移り変わる心地いい季節。
それなのに、窓の外は一面が灰色に染まっている。広い庭にはこれからが盛りの美しい花々もなく、枯れた枝木や、乾いた土、見ていると憂鬱になるような景色だ。
早々に視線を逸らそうとしたところで、僕は小さく声を上げた。
「あ、ベルデ大公っ」
屋敷から門に向かい、ベルデ大公と数人の騎士が歩いていくのが見えたのだ。
窓を開け、彼に聞こえるように大きな声で呼びかける。
「おーい! ベルデ大公ー!」
憂鬱な空に似つかわしくない、明るい声が響き渡った。
どうやら僕の声が届いたようで、ベルデ大公の歩みがわずかに遅くなる。しかし振り返ることはなく、またすぐに行ってしまった。
「あぁっ、も~。少しぐらいこっちを見てくれてもいいじゃんか」
ぶつくさ文句を言いながら、開けっ放しの窓の縁に腕を乗せて、もたれかかる。
どんどん小さくなっていく大公の背中を見ているだけなのに、僕の心は満たされていた。
本当なら創作の世界にしか存在していなかった推しが、僕と同じ世界にいて、僕に見えるところで動いているのだ。これを喜ばずして何を喜べと言うのか。
だらしなく口元を緩め、もうじき見えなくなる大公の背中を目で追っていた時、背後で荒々しく部屋の扉が開かれた。
「ジョシュア様! 何をされているのですかッ」
キンキン声で怒鳴りながら無遠慮に部屋に入ってきたのは使用人だった。わずかな乱れもなくきっちりと纏められた髪や、糸で吊られたようにぴんと伸びた背筋。
こちらを睨みつけるようなきつい切れ長の目に、「あ、なんか嫌いなタイプかも」と胸中で呟いた。
たった今抱いた失礼な感想を誤魔化すように、ヘラッと笑う。
「ごめんなさい。僕、何かいけないことでも──」
いきなり、使用人の手が僕の肩を思い切り押した。
最後まで紡ぐことのできなかった言葉が、驚きと痛みにより小さな呻きへと変わる。
突然のことでろくに踏ん張ることもできなかった僕の体は、音を立てて後ろに倒れ込んだ。
「信じられませんッ! 魔雪が降っているにもかかわらず、窓を開け放つなど! 瘴気が入ってきたらどうするのです⁉」
「……ああ。それなら心配しないでよ。ほら」
ぱっと顔の高さに持ち上げた手を振るう。
刹那、部屋の中を薄い青色の光がたゆたい、やがて収束した。
「心配せずとも浄化魔法できちんと綺麗にするから」
だから、僕を突き飛ばしたことをまずは謝罪しようか?
ニコニコしながら座り込んだままの僕は、いつ彼女が現状に気づくのかと待っていた。
だが、頭上から聞こえてきたのは欠片も想像しない言葉であった。
「はっ、いつまでそこに座っているおつもりで? 獣人国では、一人で立つことも教わらないのですか」
「……」
返ってきたのは鼻を鳴らしながらの嘲笑。
ちょっと待って。これは僕、貶されているのか?
ふつふつと湧き上がった怒りが喉元まで達する。だが、同時に冷静な僕もいて、落ち着こうと理性が稼働した。
僕は大公に気に入られたい……。それはつまり、騒ぎを起こすなどもっての外。
ぐっ、と口元に力を込めて笑みを深めると、立ち上がり、ぺこりと頭を下げる。
「は、ははは……びっくりしちゃって……」
「……ふっ。見た目の通り、王子は少々鈍くいらっしゃるのですね」
……おい、いい加減にしろよ?
喉元を越えて舌先まで込み上げてきた言葉を、ゆっくりと、じっくりと呑み込む。
さわやかにお淑やかに。間違っても「鈍く」ではなく、お淑やかに、僕は笑った。
そもそも鈍く見えるのは眠たげな二重のせいであって、中身までどん臭くはないんだからな!
「気をつけるよ。あ、そうだ。少し遅れちゃったけど昼食を用意してもらえる?」
「……かしこまりました」
「ありがとう」
使用人はとんでもなく盛大なため息をついた。どう見てもかしこまっていない。今にも唾を吐きそうな嫌悪感に満ちた顔をしている。
使用人は最後までうるさくドタバタと足音を立てて消えていった。
「あ~、疲れる」
誰もいなくなった部屋でソファにどっかり座り、天井を見上げる。
今、僕が滞在している部屋は客室らしく、それなりに広い。でも、掃除は僕がしなくちゃならないし、ベッドのシーツだって自分で取り替えるのだ。その労力を考えたら、必要最低限の場所でしか生活したくなくなるというもの。
確かに、急に押しかけてきたのは僕だ。
想い人がいる相手に婚約を申し込んでいるのも僕。
断られているのに意地を張って居座っているのも僕。
要するに、迷惑をかけている大元は僕!
「うん、迷惑極まりないね。……でもさ、だからってこれも我慢しなきゃならないのか?」
童話に登場する不憫な主人公でもあるまいし。
再びぶつくさ文句を言いながら、机に置いてある水差しから水をコップに注ぎ、口に含んだ。
「……水もまずい」
前途多難だ。
それでも、予言した日まであと一週間。
その日さえ迎えれば、大公やその周囲の人たちも少しは考えが変わるだろう。
今はそれを祈るしかなかった。
ゆらゆら尻尾を揺らしながら、大公と仲良くなったらやりたいことリストを、指折り数えていく。
あれこれと妄想していたら、扉が小さくノックされ、昼食が運ばれてきた。
今日もお皿に載っているのは変わらず、わずかな干し肉と芋。あと、小さなパンと香辛料たっぷりのスープだった。
でもこれが、ここの領民たちが毎日苦労して手に入れているご馳走なのだ。
食べることが好きだからこそ、食事にだけは絶対に文句を言うつもりはない。
「ねえ、君。毎日ありがとうね」
僕がここに来てからいつも食事を運んできてくれる使用人にお礼を言う。
大きな丸メガネをかけた彼は、少年特有の幼い雰囲気を漂わせている。僕とそんなに背丈も変わらないだろうし、何より仕草にほっこりするのだ。
今だって、急に話しかけられて戸惑ったのか、おどおどしながらも小さく頭を下げて、逃げるように部屋を出て行ってしまった。
「ふっ。ここで一番可愛いかも?」
この屋敷で見てきた使用人の中で、唯一悪意のない少年。食事の度に背中を丸めてちょこちょことやって来て、逃げるように去ってしまう。
いつか彼とも仲良くできたら、ここでの生活も少しは楽しくなりそうだ。
翌日の朝、僕は緊張しながらも期待を胸に、玄関ホールにやってきた。
昨日、窓の外からお見送りした大公が先ほど帰宅したのだ。どうやら泊まりがけで魔物の討伐に出ていたらしい。
瘴気の根源が肥大化するまであと六日。
瘴気の臭いが日を追うごとに濃くなっている。魔力に疎い人間には分からないだろうが、僕たち獣人にとっては酷い臭いがしていた。例えるなら、前世で言うところの下水みたいな臭いだ。
瘴気が濃くなれば魔物の動きも活発になるし力も強まる。
つまり、大公は今、大変お疲れであるに違いない。
ということは、ここでこそ、僕の出番ではないか?
魔法を得意とする獣人の僕が、大公を浄化し、ついでに癒してあげるのだ!
仕方なしに、一緒に討伐へ行った他の騎士さんたちも癒してあげる予定だ。騎士さんはその恩を胸に刻み、是非とも僕の恋路を応援してくれ。
思案している間にも、玄関の外が騒がしくなる。
重たそうな観音開きの扉が開かれると、待ちに待った人の姿を見つけた。
「大公!」
屋敷に入ってきた大公は、ピリピリとした雰囲気を纏っていた。
先ほどまで少しも油断できない状況で戦っていたのだ。そりゃあ、人を三人ほど始末してきたような相貌にもなるのだろう……
今なら前世で大公を推していたファンたちも、彼を悪役だと認めそうである。
それほど凶悪で、息苦しい雰囲気だった。
「……あ」
こちらへやってくる大公を前にして、話しかけることにわずかな躊躇いが生まれる。
だが、すれ違い様に頬の擦り傷が見えて、僕は足を踏み出した。
通り過ぎていってしまう大公を慌てて追いかける。隣にくっつくように並んで歩きながら問いかけた。
「大公、怪我は大丈夫ですか?」
「……」
「痛いところがあったら治療しますから遠慮なく言ってくださいね! それから、皆さんの浄化は僕がします。……あ! あと他にも何かできることが──」
大公が歩みを止めた瞬間。
鍛え抜かれた腕が、僕の肩をわし掴みにする。
一瞬の間に壁に押し付けられた僕は、背中を走り抜けた痛みに言葉を詰まらせた。
「魔物狩りも、この領地も、お前が考えているほど易しくはない」
「え?」
「皆が命懸けで討伐に出ているんだ。お遊びだと思っているなら国へ帰れ。……ヘラヘラと笑って目障りだ」
大公は堪えきれない怒りを瞳に乗せるかのように、僕を睨めつけていた。
肩を押さえる手は強ばり、力を増していく。骨がきしむ痛みに、思わず顔を歪めた。
「た、大公……痛い、です」
「……はっ。この程度でか。ろくに鍛えてもいない体で何ができる。魔法に長けていれば、喜んでお前を迎え入れるとでも思ったのか」
「……で、でも魔法が使えたら役立つでしょう? 少なくとも瘴気の問題は解決できますし」
体に走る痛みよりも、心に生まれた痛みのほうが苦しいものだ。
軽蔑と嘲笑を浮かべた冷たい大公の表情を前に、うまく言葉を紡ぐことができない。
僕の存在がこれほどまでに彼を苛立たせ苦しめているのだと、まざまざと見せつけられた。
いっそのこと、言われた通りに彼から離れたほうがいいのかもしれない。
ふとそんな考えが浮かんだ。
けれど、それをかき消すようにこみ上げた思いは、やはり彼の傍にいたいという欲だった。
「……こんなことで僕が諦めると思っているなら甘いですよ」
「なにを──」
僕は伸び上がって大公の襟をわし掴みにすると、こちらへ引き寄せた。わずかに見開いた瞳には、ふてぶてしく笑みを浮かべた僕が映っている。
「僕は絶対に貴方との婚約を諦めない。もし、本当に僕が嫌なら──死ねと、そう命令すればいい」
「お前……ッ!」
驚愕した様子の大公が僕の腕を振り払い、後ろに下がって距離をとる。
僕はそれを冷めた思いで見つめ、視線を自分の肩に移した。
「あーあ、これじゃあ後で肩が腫れるじゃないか」
「お前、いったい何を考えているんだ?」
「え?」
シャツをずらして肩の状態を確認していた僕は、再び大公に視線を戻した。そして、わざとらしく首を傾げて緩慢に微笑む。
「大公との婚約ですよ」
「そんなものは――」
「とりあえず二週間。そう約束しましたよね? その日まであと数日ですし、今ここで揉めなくてもいいじゃないですか」
大公の言葉を遮り、僕は肩をすくめた。
彼が僕に対して抱いている気持ちは察している。何を企んでいるのかと警戒するのも理解できた。
誰だって、これまで敵対していた種族から婚約を申し込まれたらそう思うだろう。それこそ自分の命を狙っているのかと疑われてもしょうがない話だ。
「それに大公だって滞在する許可をくれたじゃないですか。ね?」
「勘違いするな。仮に二週間が経とうとも、お前と婚約するつもりはない」
酷いなー。
そう言って笑い飛ばそうとした僕に、大公は少しも付け入る隙もなく、冷たく言葉を突きつける。
「──お前を好きになることもだ」
「……」
知っているさ。
貴方が僕を好きになることはないことなど。
どんなに好きだと告げても、奇跡が起きて彼の心に近づけたとしても、僕たちが本当の意味で婚約する日なんて来ない。それは、彼が──大公が愛し、生涯を捧げると誓うのは、主人公だけだから。
「知っていますよ」
落ちてしまいそうになる視線を堪えて、真っ直ぐと前を向いた。意地だった。
傷ついていると悟られるのも、痛々しいと思われるのも、僕の矜持が許さない。
今にも引き攣りそうな頬を持ち上げて完璧に微笑むと、空気を切るように手を振って浄化魔法を放つ。
「それでも──僕は貴方が好きですから」
指先を追うように、僕たちの間を寒々しい青色の光が駆けていく。
まるで、決して交わることのない運命だと告げるかのように。
僕の魔法は二人を別つようだった。
「あ~、僕の大馬鹿野郎」
大公が去り、一人取り残された僕はその場でうずくまった。
頭を抱え、すぐに挑発してしまう己の性格の悪さに辟易する。
もっと真っ直ぐで素直で純真な奴だったら、大公だって少しは信用してくれたかもしれない。よりにもよって「死ねと命令しろ」だなんて、本当に僕は大馬鹿者だ。
大公にとって「死」とは、言葉だけの抽象的な概念ではない。
とても身近で生々しいものだ。
僕が彼を、いや──ノクティス・ジェア・ベルデを好きになったのは、見た目が好みだからなんて理由じゃない。愛を知らないくせに一途に思い続け、命さえ捧げた馬鹿な男が眩しくて、かっこいいと思ってしまったからだ。
だから、彼には幸せになってほしくて、勝手だと分かっていても僕はここに来た。それなのに自分から大公の傷を抉るような言葉を口にするなど、馬鹿げている。
「はあ。……謝って済む話じゃないよな」
大公が忌み子として扱われたのは、双子だからという理由だけではない。大公が捨てられた本当の理由と、皇帝の双子の兄だという真実が明るみに出るのは、もう少し先で起きるイベント──星夏祭である。
ただ、大公自身は既にそれらの真実を知っている。「死」がどれほど生々しく惨たらしいものであるのかを彼の心に刻みつけた、あの事件の時に知ったのだ。
どんなに魔法が得意でも過去に戻ることはできない。戻れるのなら、幼い大公を抱きしめて、全ての悲しみや絶望から守ってあげたかった。
彼に罪はないのに。それでもこの帝国では、大公がどれほど美しい魂を持っていようとも、穢れていると拒絶するのだろう。
受け入れられないからと、認めたくないからと、全てを消し去るため。
──大公を殺そうとしたあの事件のように。
柔らかで純粋な心を冷たい暗闇へと突き落としたのだ。
事件が起きたのは、大公がまだ四歳の頃。
前皇后付きの侍女は、前皇帝陛下の子を身籠った役として、大公の母となり彼を育ててくれた。突然血の繋がらない子を託され、嘘の策略に乗せられた彼女にとって、大公の存在は不幸そのものだったかもしれない。
それでも、大公は彼女を本当の母と信じ、愛していた。
小説内で侍女の胸中が語られたことはない。けれど幼い頃の大公が温かく純心でいられたのは、すぐ傍で彼女が愛を教えてくれたからではないのだろうか。
それが、親という役目によるものか、憐れみによるものかは分からない。
いずれにしても大公は彼女を慕い、だからこそ、目の前で散る姿に絶望したのだ。
大公の存在を消そうとした皇家は、まだ四歳という幼い少年を殺そうとした。全てを察した侍女は大公を庇い、そして少年の目の前で暗殺者に殺されたのだ。
薄暗い部屋の中。大公は母と信じていた存在が偽物であると知らされ、足元に迫る赤黒い液体を、ただ黙って見つめることしかできなかった。
それからだ。
大公が心から笑わなくなったのは。
誰も寄せ付けず、偽物の甘い笑みを浮かべて、周囲に壁を作った。全てを諦め、全てを受け入れ、まるで罪を償うように生きるようになった、惨たらしい事件。
小説で読んだ時にはただ可哀想だと、悲惨すぎると、他人事のように泣いていた。
でも今は……彼が目の前で存在して生きていることを知った今では、他人事とは思えない。空虚な紫色の瞳を思い返すたびに胸が苦しくなる。彼は悲しみや痛みさえ分からなくなるほど傷ついたのだ。
どれほど恐ろしく、絶望し、それでも……それでも愛を欲したのだろうか。
「……僕なら愛するのに」
他の誰でもなく僕ならば。
貴方のどんなわがままだって受け入れるのに。
でも、大公は……
「……あー! もう、やめやめ!」
僕まで暗くなって、いいことなんてあるものか。
最初からうまく行きっこないことは、承知で来たのだろう?
ならば、うじうじと考え込んでいる暇はないのだ。
僕は立ち上がると、騎士たちの宿舎へ歩き出した。大公の浄化はできたが、彼らにはまだ何もしてあげていないからだ。
「こうしてコツコツと恩を売って周囲の好意を得る作戦も悪くないな」
独りごちて、歩みを早めながら目的の場所に向かう。
たどり着いた宿舎は、いい意味で無骨、悪い意味ではむさ苦しい場所だった。年がら年中、体を鍛えている男たちが集まる場なのだ。そりゃあ、熱気でムンムンとしていても不思議じゃない。
魔雪のせいで外では長く鍛錬できないため、広々とした室内鍛錬場があり、宿舎が隣接している。
おかげでなおさら男臭くて、僕はげんなりとした。
獣人はこういう時に不便だ。鼻が良すぎて、人間には普通に感じるにおいにも敏感になってしまう。
「あ、そこの君。大公と一緒に魔物の討伐に出ていた騎士を呼んできてくれる? ちゃちゃっと浄化しちゃうから」
まだ一般兵なのだろう、簡易な装いをした兵士に呼びかけると、「お、王子⁉」と慌てて礼をとり頭を下げる。
「うんうん。これが普通の反応だよね~」
僕は彼に頭を上げるよう伝えて、再度騎士を呼んできてほしいとお願いした。
兵士は頭を上げ、キョロキョロと目を動かして、気まずそうにこちらを見る。
「なに?」
「……あの、えっと」
「何か言いたいのなら言えば? 悪口でも見逃してあげるよ?」
「いえっ! 悪口ではなく」
再び兵士が口を閉ざす。
そこまで言ったからには最後まで言ってほしい。まどろっこしいなあ、とイライラしてきた。
張り付けた笑みがぴくりと痙攣すると、それに気づいた兵士が慌てて口を開く。
「ベルデ大公のことですが」
「うん?」
「どうか嫌わないでください……!」
「ん……?」
まるで悪いことでも告げたかのように、兵士は勢いよく頭を下げた。酷く息切れしている様子は、酸素を求めて水からあがった直後みたいだ。
意図が分からずに首を傾げると、兵士は腰を折ったまま恐る恐る僕を見上げた。
「……さ、先ほどの口論を偶然見かけてしまい」
「ああ。なるほどね」
「立ち聞きして申し訳ありません! でもこれだけはお伝えしたくて……」
「いいよ、言ってごらん」
「ベルデ大公は確かに血も涙もない、冷たいお人です! 表面上は優しそうですが、実際のところ人の気持ちを考えたことなどないと思います!」
……ちょっと待て。僕の悪口は良くても、推しの悪口は許されない。
というか、そこまで言われちゃう大公も大公だ。
大丈夫なのだろうか、この屋敷は。もしや大公の周囲は敵だらけなのでは……
だが、そんな新たな疑問と不安は浮上してすぐに霧散した。僕を見る兵士の瞳があまりにも真っ直ぐで、温かったからだ。
「ですが、大公はそれほど酷い人ではないです。本当はきっと人の痛みを知っている方です。特に──誰かを失う恐ろしさをよく知っている方だと思います」
そう訴えかける兵士の言葉が胸を揺さぶる。
「どうしてそう思うの?」
「オレは平民です。本当ならこんな立派なお屋敷で、見習い兵として雇われることなんて有り得ません。ですが大公は、オレに剣を授けてくださいました。家族や、恋……じゃなくて、友人を守るための剣です」
「……」
「それに大公自ら指導してくださります。嫌がらせかと思うほど容赦はないですが、それでもオレのように、誰かを守りたいと足掻く者に手を差し伸べてくれます。だからきっと、大公は優しいお方のはずです」
彼の声音に迷いや悪意はなかった。直感のままに、ただその人を信じている。利害関係や下心などなく、シンプルでいて強い気持ち。
僕は兵士を見上げ、日焼けした額にデコピンする。
「知ってるよそんなの。僕が惚れた大公だぞ? いい人に決まっているだろ」
「えっ、え?」
「……口論はしたし意地悪もしちゃったけど、僕は本当に大公が好きなんだ」
「そ、それじゃあ陰謀論は……大公の命を狙っているという噂は⁉」
「は? 有り得ないね。君が信じるかどうかは別問題だけど」
「しっ、信じます!」
兵士はパッと目を輝かせると、いきなり僕を抱きしめた。
「良かった! オレてっきり大公を――」
「……僕を抱きしめていいのは大公だけなんだけど」
半眼で注意すると、飛び跳ねるようにして後退する。
まるで嵐のように騒がしい男だ。
「とにかく。君が大公を好きなように、僕も大公が好きだから安心しなよ」
「はい!」
「あと、早く騎士さんたちを呼んできてね」
「はいっ!」
やはり騒々しい。けれど真っ直ぐで気のいい青年だ。
彼のことは仮に、「アラシ君」とでも呼ぶかな。
ドタバタと元気よく駆けていく後ろ姿を見送りながら、久しぶりに心から安堵の笑みを浮かべた。
「やっぱり一人ぼっちじゃないじゃん」
大公は気づいてないかもしれないけどさ。
どれだけ遠ざけたつもりでいても、僕たちは必ず誰かと繋がっている。
こうして、小さな優しさを掬いとってくれる人が、一人でも傍にいることが嬉しかった。
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―――
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