あの日、北京の街角で4 大連デイズ

ゆまは なお

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 あの出張の時、精一杯頑張る気でいたけれど、正直に言うなら祐樹を口説き落とせる自信はなかった。

 年下は好みじゃないときっぱり言われてはっきり断られていたし、ゲイの感覚はわからないがきっと祐樹はモテるだろう。現在進行形の恋人がいるかもしれないし、またフラれることになるかもしれない。

 それでも5年前の唐突な別れを納得できなくて、いつまでも引きずるのが嫌で、広州の展示会をきっかけに本気で祐樹を追うことにした。これでダメだったらきちんと気持ちにけりをつけようと思ってとにかく必死だった。

 もしかしたら無理かもしれないと覚悟していたのに、思いがけず「最初から一目ぼれだった」と打明けられて、本気であっけに取られた。そして猛然と怒りのような喜びのような泣きたいような混乱した感情が湧いてきた。

 それを聞かされたのが祐樹の部屋で二人だけという状況だったので、気持ちをセーブできずに朝まで抱きつぶしてしまったほどだ。

「そう言えば、西単店どうなったの?」
 櫻花珈琲店の話だ。

 先週初め、孝弘は北京出張に行っていた。ちょうど西単店の開店直前で、いまだに書類が通らないとレオンに泣きつかれて孝弘が役所に行ったのだ。でも書類は通らなかった。

 事務所(と呼んでるぞぞむのマンション)で孝弘が融通の利かない役所にブチ切れるという場面に、たまたま後を追いかける形で急に出張してきた祐樹が遭遇したのだ。

 そんな自分を見せたのが初めてだったので、一瞬かなり動揺したし決まり悪かった。祐樹は目を真ん丸にして孝弘を見ていて、どうフォローしようかとちょっとうろたえながら「どうした?」と声を掛けたら、二人の様子をうかがっていたレオンに大爆笑された。

「ああ、あれ、許可下りて何とか開店できたって」
「そう、よかったね」

「ごめんな、気にしてくれてた?」
「まあね。でもホントよかったね」

「ああ。今度、北京出張行ったら西単店にコーヒー飲みに行こう」
「うん、楽しみ」

 先週も王府井店に行きたいと言われていたが、時間がなくてそこまで足を延ばせなかった。出張メインだから仕方ないが、夜も関係者と宴会があったりしてなかなか自由になる時間がないのだ。

 二人で追加料理を3皿頼んで、餅の追加も2皿頼んだ。

「これ、おいしいけど後からお腹にくるね」
「小麦粉だからな。おいしいと思って食べてるうちに、腹いっぱいになってるんだよな」

 包んで食べるのに忙しくて、ビールは一瓶飲んだだけだった。

「〆は粥なの?」
 中国人客の多くが小豆粥やトウモロコシ粥を頼んでいる。

「あれ、俺は苦手なんだよな。祐樹、食べてみる?」
「ううん、もうお腹いっぱい」

 ぽんぽんとお腹を叩いて笑う。かわいいなとまた思う。普段、職場で見る祐樹はスーツ姿が格好よくて見惚れてしまうのに、プライベートの笑顔は本当にかわいい。

「ありがとう、すごくおいしかった。ごちそうさま」
「どういたしまして。…夜はだいぶ冷えるようになったな」

 外に出るともう冬の気配が濃くなっている。もうすぐ初雪も降るだろう。

「今時期で広州の冬くらい? 広州のほうがもっと暖かい?」
「そうだね。真冬でも東京よりあったかいよ」

 もう一軒どこか飲みに行くか訊いたが、お腹いっぱいと祐樹が首を横に振ったのですぐにタクシーを拾って家に帰った。


 外にいるより家のほうが何かと落ち着く。大連に来てから祐樹は家にいるのが好きになった。

 広州や深センに赴任していた頃は、毎日外食して飲み歩いたりしていたのに、今はできるだけ家で食事もするし部屋でのんびりすることが多い。 

 理由は孝弘と同じマンションの同フロアの部屋を社宅として割り当てられたからだ。間に二つ部屋を挟んでいるが、ほとんど一緒に暮らしている状態だ。

 基本的に祐樹の部屋で過ごすことが多いが、孝弘の部屋にも祐樹用の部屋着やカップは置いてある。

 仕事終わりの都合で自分の部屋へ帰ることもあれば、孝弘が部屋を訪ねてくることもあり、いい感じの距離感でつき合いができていると思う。



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