あの日、北京の街角で4 大連デイズ

ゆまは なお

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 そして週明けの火曜日、二人は会社帰りに春餅店に行った。おいしい店を知らないかと中国人同僚に尋ねてお勧めされた店だ。

 数人がいくつかの店舗を上げたので、全部行ってみようと孝弘は思っている。北京ではほとんど見ない専門店だが、東北地方ではすでに行事食ではなく一般的な食べ物となっているので専門店がいくつもあるのだ。孝弘にとっては嬉しいことだ。

「誕生日おめでとう」
「ありがとう」

 くすぐったそうな顔で祐樹がうれしそうに笑うから、孝弘は抱きしめたくなる衝動をどうにか抑えた。…ここは食堂。そんなかわいく笑っちゃって。

 冷たいビールで乾杯したらすぐに料理が運ばれてきた。

「へえ、皮も熱々」

 北京ダックの皮みたいなものだと以前、孝弘が説明したとおり、丸い皮が皿に重ねられている。表面にうすく焼き色がついていて、それだけでもおいしそうだ。

「あとは好きに巻いて食べるだけだから」

 この餅《ビン》と呼ぶ皮に好きな菜《ツァイ》(おかず)を包んで食べるのだ。2枚がくっついた状態の餅をそっとはがして、二人で分ける。


 テーブルの上にはおかずが5皿並んでいる。祐樹の好きなものと孝弘のおすすめを頼んだ。。孝弘が注文するのを聞いて祐樹は多すぎるんじゃない?と言ったが、料理はハーフサイズが選べたのでそれほどボリュームはない。

「単品でも2、3種類の菜《ツァイ》を一緒に入れてもおいしいよ」

 モヤシと玉子炒めと豚肉とニンニクの芽のオースター炒めをくるりと巻いて孝弘が勧めると、祐樹は素直に受け取って口に運んだ。

「あ、ホントだ。単品よりおいしいかも」
 もぐもぐと食べる様子がかわいい。 

「これ皮のもちもち感がくせになるね。おいしい」
「うん。店によってこの餅の味が意外と違って、それで好みがわかれたりするんだ」

「ふーん。孝弘がハマるのわかる。おれも好きだな」
「だろ? でも日本にないんだよなー」

「中華料理は多いのにね。なんでだろ?」
「日本は小麦文化じゃないから? でもうどん屋とかラーメン屋はいっぱいあるよな」

「麺類は小麦ものにカウントされてないんじゃない?」
「ああ、そうかも」

「粉もんって関西では多いっていうけど、関西にもないのかな」
「どうだろ? 関西ってあんまり行ったことないなー」

「この餅《ビン》を作るのが難しいとか?」
「北京ダックとあんま変わらないんじゃね? 2枚重ねになってるとこが違うけど、そんな難しそうでもないよな」

 確かに包子《パオズ》や小龍包《シャオロンパオ》のほうが難しそうだ。


「じゃあ単に地方の食べ物だから知られてないだけ?」
「そうだろうな。うまいのにな」

「だけど日本にできても孝弘食べに行けないじゃん」
「そっか、そうだよな。大連でいっぱい食っとこ」

 他愛ない日常の話をしながら料理を分け合って食べるだけで幸せなんて、本当にお手軽だと思うけれど、恋人と一緒の食事はおいしくて楽しい。

 祐樹とつき合い始めて5カ月近く経つ。と言っても、最初の1ヶ月は孝弘は北京勤務、祐樹は東京で会えなくて、それまで出張、香港旅行とかなりべったり過ごしたのでとても寂しかった。

 自分はそんなに恋人と一緒にいたがるタイプじゃないと思っていたのに、自分でも意外で驚いている。

 7月に先に北京に赴任した時は、仕事で必要だからと言い訳しながら、事務所から些細な用事でも東京本社の祐樹に電話をして、毎日声を聞いてしまったほどだった。

 祐樹と離れていた5年間、つき合った相手は数人いた。

 日本人もいたし外国人留学生だったりこっちで起業した人だったりだが、どの相手に対しても孝弘は束縛なんかしなかった。というよりも、孝弘自身がとても忙しく過ごしていたので、そこまで恋愛にのめり込む暇がなかった。

 つき合う相手も比較的ドライな性格が多くて、会えるときに会おうよという感じで、別れる時もさっぱりしたものだった。帰国や転勤やすれ違いがきっかけで揉めることなく離れて行った。

 だけど祐樹と一緒にいると、孝弘はものすごく一緒にいたくて構いたくて構われたくてしょうがない。

 こういう気持ちはつき合い初めだからなのか、もう少し時間が経てば落ち着いてくるんだろうか。テンションが高いのは今だけのこと?

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