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しおりを挟む変化の激しい時代だから、こういう風景もいつまで見られるかわからない。北京でも胡道と呼ばれる小さな裏通りや路上の屋台や食べ物屋がかなり少なくなった。
大連だってそうなって行くだろう。
小学生くらいの子供が寄って行って糖胡蘆を一本選んでいる後姿を、周辺の風景と一緒にカメラに収めた。
「だな。そう思うと写真撮っとけば面白かったのかな」
カメラを持ち歩かない孝弘は滅多に写真を撮らない。だから7年間の中国生活で持っている写真は、ほとんどが友人が撮ってくれたものだ。
「かもね。とりあえずこのまま市内ぶらぶらして、何枚か撮ってみようかな。文章は後で考えるよ」
久しぶりに予定がない日曜日だったから、散歩がてら街に出るにはちょうどよかった。夜はかなり冷えるが、晴れた昼間は暖かい上着を着ればそこまで辛くない。
「わかった。ていうか、誰向けに書く文章なんだ?」
「あれ、言わなかった? 社内報に載せるコラムみたいなもの」
「社内報? そんなのあった?」
「うん、毎月本社から送って来てるよ」
「そうなんだ、見たことなかった」
「その中に各国駐在員レポートっていって、色んな国の色んな街を紹介するコーナーがあるんだ」
名物料理だったり世界遺産だったり無名だけど面白い風景などが毎月掲載されている。駐在員自身が撮った写真と文章は意外と面白く、各国の習慣の違いや食文化の違いで戸惑う駐在員の苦労話や笑い話が多い。
祐樹もさらっと読んでいたが、自分に声がかかるとは思っていなかった。
広報からの依頼メールには「その街らしさが伝わる楽しい写真と文章をお願いします」とあって、大連らしい風景を祐樹は撮りに来たのだが、何が大連らしいのか正直言ってあまりピンと来ない。
基本的に職場と自宅と近くのスーパーや食堂と言った狭い範囲で祐樹の生活が成り立っているからだ。
「一般の人が想像する中国ってどんな感じだっけ?」
「やっぱ万里の長城とか天安門広場じゃないか? あとは雑技とか自転車とか?」
「だよね…。でも意外と自転車って走ってないよね」
大連では自転車はあまり見かけない。
「場所によるよな。あの自転車道は天安門前の中継で必ず映るから…。北京のイメージなんだろうな」
「広州ではものすごい数のバイクだったけど」
「ああ、あれ怖いよな。道路いっぱいになるし」
車よりもバイクの数が多いくらいで、ラッシュ時などは路上一杯に埋め尽くされる時もある。
「事故が多いんだよね。信号少ないしあっても守らないし」
大きな道路はロータリーになっていて信号がないこともよくある。譲り合うなんてことはしないから、歩行者は隙をついて渡るしかない。そんな状況なので交通事故がとても多い。
「スピードそんなに出てないから死亡事故は少ないけどな」
「確かに」
広場から何枚か写真を撮って、祐樹は思案気な顔になる。
「旧日本人街とか面白いかな…?」
「ああ、意外と観光客来てるよな」
当時の日本人街には年配の日本人が旧満州国ツアーと冠した旅行で訪れていることがけっこうある。満州生まれや満州育ちの日本人には懐かしい風景がまだ残っているらしい。
老朽化が進んでいるから、そのうち取り壊されて再開発されてしまうだろう。写真に残すなら今のうちと思うのか、日本人の写真家が撮りに来たりもするようだ。
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