あの日、北京の街角で4 大連デイズ

ゆまは なお

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 ぞぞむもレオンも日本向けには今後の展開をどうするか、検討しているところだ。間野が少数民族の布を使ったワンピースやアクセサリーなんかをデザインしていたから、日本向けにはアパレルメインで売る計画を立てているのだ。

 縫製工場はもう見つけてあって先日契約を済ませたはずだ。

 本業である中国雑貨の卸もかなり好調で、レオンは今期の売り上げがすでに前年比200%を達成したと言っていた。

 ぞぞむは自分好みの手工芸品ばかり仕入れているわけではなく、ちゃんと普通の商品の取引もしているのだ。レオンがしっかり手綱を握っていると言うべきだろうか。

 それに今後は櫻花珈琲店の店舗展開もかなりの速度で進むだろう。現在の経済発展の波は都市部から急速に地方に広がっていて、沿岸部だけでなく内陸部の都市にも波及している。

 歩きながらそんなことを話したら、祐樹がため息をついた。

「すごいね」
「何が?」

「何ていうか、商品仕入れるだけじゃなく、デザインしたり作ったりして、売り方を考えて。ネット販売だったり実店舗だったり、すべて自分たちで企画して計画を実行してるってことがすごいと思う」

 大手企業の駐在員が何言ってんだかと思いながら祐樹を見たら、意外と真剣な表情だった。本気らしい。

「うちは零細企業だから。何でも自分たちでやらないと」
 苦笑めいた笑みを見せると、祐樹は首を横に振った。

「企業規模の話じゃないよ。企画力とか行動力というか洞察力っていうのかな。孝弘たちはそれがすごいと思うんだ」

「何千万の仕事してる祐樹がそれ言う?」

「言うよ。駐在員だから確かに億単位の取引もするけど、金額は大きくてもしょせんは会社の金っていうか。口座から口座に移るだけで、全然現金なんか触らないし、売り上げに対する実感てないよね。もちろん自分の考えやアイディアで仕事してるし、やりがいもあるけど、時々孝弘たちがすごく羨ましいと思う」

 祐樹の言いたいことは分かる気がした。

 大手企業の一社員として大連に赴任したら、楽な部分とものすごく不自由な部分とがあることに気がついた。

 事前にある程度わかっていたことだが、予想していた以上に日本企業の慎重ぶりに身動きが取れないと感じる時がある。

 たった3人で立ち上げた会社で何でもアリで自由に仕事をしてきた孝弘は、それはとても強く感じる。

 祐樹の言うとおり、櫻花公司の商談は即断即決ということが多いし、現金を持ち歩いてその場で決済などということもよくある。

 契約書や仕様書があてにならないから、工場に行って商品を直接確認して現金で買い取り、それを繰り返して信頼関係ができてから契約書を交わすことも何度もあった。大手企業では考えられないやり方だろう。

 今は企業の駒として本社の方針で動くのである意味楽な部分もある。自分で考えなくても売上目標や期日管理が設定されていて、それをクリアできるようにサポートするのが孝弘の仕事だ。

 もちろんうまく行くときばかりじゃないし、アクシデントはつねに起こる。通訳という職務範囲を飛び越えて仕事をすることも多い。

 それでも自分で選んで企業の中に入ったから、今の状況に不満を言うつもりはなく、実際、仕事は面白い。

 ただ祐樹は孝弘を櫻花公司から遠ざけたことを申し訳なく思っているらしい。そんなことを思う必要はないのに。孝弘自身は今の状況を楽しんでいる。

 新しい仕事、新しい人間関係の中で揉まれて、それもいい経験だ。日本にいたら入社できなかったはずの大手企業で仕事ができるチャンスはそうそうない。

 契約満了後には櫻花公司に戻るつもりでいるから、積極的にコネクションを作っておくつもりで、呼ばれればあちこちの交流会などにも顔を出している。

 だから今回の孝弘のチャレンジは、収支としてはプラスだと櫻花公司の三人は思っているのだ。

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