あの日、北京の街角で4 大連デイズ

ゆまは なお

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 食後は早速、大理へと移動した。

「国慶節で多少道は混んでるけど、のんびり行きましょう」
「ええ、急いでないから大丈夫です」

 大理へ向かう途中で白族とイ族の二か所の村へ寄った。祐樹が工房を見たいと言ったからちゃんと話をしておいてくれたのだ。田舎の素朴な民家がぽつぽつと点在する農村だ。

 カラフルな民族衣装を着た女性が迎えに出て、休みの日に押し掛けたのに嫌な顔をすることなく「遠くからまあまあようこそ」と歓迎してくれた。

 そこで自宅工房という表現がぴったりの、昔ながらの機織り機が2台置かれた小さな部屋で、白族のお母さんが布を織るところや、その娘がおり上がった布でバッグを作る作業を見せてもらった。

「ほら、この模様が白族独特のものなの」
 それぞれの民族にそれぞれの模様があり意味を持っているのだ。

 孝弘がお土産に持ってきた白酒と紹興酒を渡すと嬉しそうに礼を言って、食事に誘ってくれた。親戚などが集まってこれから宴会だという。食事は食べてきたと言ったがどうぞどうぞと勧められて席についた。

 いくつものほうろうの洗面器におかずがどんと入って、テーブルいっぱいに並んでいる。一般家庭のよくある宴会風景だと知識で知っていたが、農村の一般家庭にお邪魔したのが初めてなので現物を見るのは初めてだ。

 15人ほどの親戚が集まって中国式の乾杯で宴会が始まり、礼儀として祐樹も含め3人が盃を空にするとみんなにこにこと笑顔になった。

 料理は正直あまり口に合わず「お腹いっぱいなのですみません」とそこそこで遠慮した。

「こういう村の人って、ぞぞむが見つけて来るの?」

「そう。市場で声かけて。あいつは元々こういう手工芸品が好きっていうか、民芸品好きっていうか。それで中国雑貨の卸なんか始めたし。見た目からは想像できないけどな」

 ぞぞむは大柄な体つきで顔も精悍な感じだ。いわゆるハンサムではないが、人好きのする笑顔が魅力的で、何よりパワーあふれる雰囲気が人を惹きつける。そんな男は意外にも雑貨や民芸品が大好きなのだ。

「おー、ぞぞむ。元気?」
 ぞぞむの名前にお母さんが反応した。

「元気元気。今、新疆《シンジャン》に行ってて、絨毯と葡萄酒買い付けてる」
「新疆! そりゃまたえらく遠いところに行ってるねえ」

「ウイグル族の手織り絨毯が欲しいんだって」
「相変わらずだね。ぞぞむ、厳しいから絨毯織りの子たちも大変だ」

「ぞぞむは厳しいんですか?」
「いやいや優しいよ。でも厳しい。縫い目が揃わないと買ってもらえない」

 祐樹の質問にお母さんは破顔した。そんなことまで気にかけて作っていなかったから、ぞぞむの要求に最初は戸惑ったらしい。

 だが雑貨好きなだけあってぞぞむの情熱が相手に伝わるのだろう。最初は縫い目が不揃いでほつれかけていたりと適当だったが、丁寧に根気よく説明して商品として出せるまで改善させてきた。

 日本人の目から見て商品として出せる水準になるまでには、お互い色々ぶつかりあったりもしたが、継続的に仕事をくれてきちんと金を支払うことを繰り返していくうちに、信頼関係ができ上がって行ったのだ。

「松本《ソンベン》も厳しいよ。でもかわいいね」
「松本、厳しい?」 

「でも新しい商品を教えてくれる。ぞぞむの彼女って訊いたら違うって」
「松本のほうで嫌がりそうだな」

「どうして? ぞぞむ、いい男でしょ。優しいしよく働くし」
 お母さんはぞぞむがお気に入りのようだ。

「松本の好みはイケメンなんだって」
「イケメンかあ。…ぞぞむも悪くないよ」

「ぞぞむはいい奴だけど、私の理想は張学友《ジャンシュエヨウ》なの」
 笑いながら聞いていた松本が口を開いた。

「ほおお、張学友」
 今人気の男性歌手の名前を出されて、その場は笑いに包まれた。

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