あの日、北京の街角で4 大連デイズ

ゆまは なお

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「カフェや宿にある情報ノートとか見て来る人も多いみたいよ」
「へえ、そういうのでちゃんと客が来るんだ」

 祐樹はちょっと驚いた。口コミが大きい力を持つのは知っているが、情報ノートなんてアナログなものがそこまで影響を与えるとは思っていなかったのだ。

「そうなんですよ。最近は日本人バックパッカーが増えてるから、口コミは侮れないんです」
「日本人が増えてる? 中国って旅行先として日本人にそんなに人気ないでしょう?」

「中国と言うよりアジア全体に日本人バックパッカーが増えてるみたい。テレビ番組の影響で」

 96年4月に始まった日本のテレビ番組で、芸人が香港からロンドンまでヒッチハイクで旅をするという企画が大ヒットして、バックパッカースタイルの旅が広く知られることになった。
 
 その影響でバックパッカーが増えたのだ。陸の国境を越えて東南アジア各地を旅する者も多いらしい。その気持ちはちょっとわからなくもない。祐樹が越えたことのある陸の国境は深センから香港しかないけれど。

「へえ、テレビの力ってすごいな」
「本当ですよね。でもおかげで今のところ売り上げは順調です。うちは女性客も多いし」

「そのワンピースすごくかわいいですね」

「ありがとう。こういう藍染商品は大理にはたくさんあるけど、うちは桜の模様をメインに出してて。縫製もよそより丁寧だし。これ着て昆明とか歩いてると声掛けられるんです。どこで買ったのって」

「そっか。自分が広告になるんだ」
「そうそう。このバックもそうだけど、うちの商品けっこういいですよ」

「そのうちガイドブックに載るかもな? 大理で安心して買い物できる店って」
「あるかも。だってあれ、投稿者の情報を元に作ってるんでしょ」

「ああ。松本の写真入りで紹介されるように頑張れ」
「美人看板娘って?」

「…ちょっと飲み足りないみたいだな、白酒《バイジュウ》いっとくか?」
「いいわよ、でもつぶれるのは上野だからね?」

「うわ、出たよ。酒豪はこれだからなー」
「いえいえ私が酒豪なんておこがましいです~」

 孝弘が嫌そうに顔をしかめる。どうやら松本はかなり飲めるらしい。和やかな笑い声に、学生時代の友人っていいなと祐樹は思う。

 孝弘が仕事上で女性と接する時はかなり礼儀正しい態度でいる。仕事はきちんとするが、馴れあうような隙は見せない。余計な好意を持たれないようにふるまっていることを祐樹は知っている。

 でも今は力の抜けたリラックスした顔をしていて、気軽に軽口をたたいている。こういう雰囲気の孝弘も好きだ。友人に見せる顔はこうなのか。

 二人共通の友人はぞぞむとレオンくらいしかいない。だから留学生時代を除いて、孝弘がこんなふうに気を使わない態度でいる姿を見るのはほぼ初めてだった。

 松本にそれだけ気を許しているとも言えるし、女性としては見ていないという意味になるんだろうか。留学生時代からと言うなら祐樹より長いつき合いかもしれない。

 その間に恋愛関係になったことはないのかな……。何、考えてんだか。

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