あの日、北京の街角で4 大連デイズ

ゆまは なお

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 町の名前と日付が入った写真を見て、彼らが歩き回った成果がこの店や櫻花珈琲なのかと、祐樹はなんだか目まいがするような、感動するような、胸の奥がちりちりするような気分になる。

 大手企業に勤めて何千万の仕事をしているという優越感などはなく、仕事の規模の違いを侮るということでもなく、ただその情熱と言うか熱量に圧倒される。

 会社も取引先も何もないところから立ち上げて、人脈を作って商品を売り込んで取引をして、じょじょに大きくしてきたのだ。

 目的も目標もなく内定をもらえたから入社して、興味もない海外事業部に配属されて何とか仕事をこなしてきた自分とは根本から違うんだなと改めて思う。

 幸い祐樹は与えられた場所でやりがいを見出すことができて、それなりに成果を出して、仕事ができると評価されている。

 だがアグレッシブな孝弘やぞぞむを見ていると、仕事ができるってこういうことじゃないと気づかされる。

 自分で仕事を作り出せる、ゼロからスタートしても収益を上げるまで持って行けるのが仕事が出来るってことじゃないんだろうか。孝弘たちを見ているとそんなふうに思えてくる。

 胸の奥がちりちりするのは何故だろう。自分でもわからないままファイルを閉じた。

「今日はどうするのー?」

 カバンを三つ並べて迷っていた客の相手を終えて松本がやって来た。昨日とはまた模様と色の違うワンピースを着ている。薄い抹茶色の染めがきれいだった。

「観光しようかと思って。せっかく大理まで来たからな」
「国慶節だから混んでるよ、掏りに気をつけてね」

「ああ。また寄るよ。晩めしは一緒に食おうぜ」
「はーい。楽しんで来てね」

 松本の明るい声に送られて店を出た。

 でもタクシーに乗って行ってみた観光地は本当に混んでいて、あまりの人の多さに面倒になってしまった。さすがに連れてきてくれた孝弘に悪いと思って黙っていたのだけど、入場券を買う行列を見て「やめておく?」と孝弘から訊いてくれたので素直に頷いた。

「じゃ、やめとこう」
「わざわざ来たのにごめん」

「いいよ。そもそも塔とか湖、見に来たわけじゃないし」

 古い時代の塔やら名所を近くで見たいとか思わない自分は観光には向いてないのだ。申し訳ないような気になったが、孝弘は怒りもせずにそう言ってくれた。

「国慶節のせいもあるけど、かなり中国人が増えたな」
「観光客?」

「ああ、前はもっと西洋人が多かった印象だけど、中国人のツアーがすっごい増えてる」
「それだけ一般民衆にも余裕ができたってことかな」

「だろうな。国内旅行なら行ける程度の富裕層が増えたんだろ」

 観光はあきらめて、松本が教えてくれた過橋米線の店で昼食を食べて、のんびり散歩することにした。

「みやげ物、見てもいい?」
「いいよ。その方がおれも楽しい」

 二人でぶらぶら歩いて通りに並ぶ店を回る。孝弘はもちろん買い物ではなく、他店の商品チェックだ。いくつかの小物や服を買って、店主にさりげなくどこで仕入れているかも訊いていた。

「なんか不思議な町だね」

 英語が飛び交う旅行者が集うカフェで休憩しながら、通りを歩く人たちを眺めていると自分がどこにいるのかわからなくなる。

 大連で仕事をしているのが幻のようだ。
 歩き疲れて宿に戻った。


 その宿には池のある中庭やソファやテレビを置いたリビング的な共用スペースがあって、昼も夜もそこでコーヒーや酒を飲んだり本を読んだりだらだらとしゃべったりしている旅人が何人もいた。

 シャワーを浴びたあとにそのリビングでお茶をいれた。

 それを飲みながら話してみたらヨーロッパや北米などから来た長期滞在者たちが多く、休暇を使って3ヵ月ほどかけてアジアを旅しているとか、夫婦で1ヶ月かけてネパールからチベットを抜けてここに来たとか、祐樹が想像したこともないような旅をしている人たちだった。
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