あの日、北京の街角で4 大連デイズ

ゆまは なお

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 翌日、遅めの朝食を食べに町に出た。

 道行く人々はよく日焼けしていて民族衣装が多く、全体的に背が小さい。東北地方はすらりと背が高く細身の人が多いので、骨格からもう別民族だ。

 路上の屋台や食堂に並ぶ食べ物も馴染みのない物がけっこう並んでいる。その中から刀削麺を選んで朝ごはんにした。もっちりした麺がおいしい。

 松本が任されている雑貨他屋の店内には藍染や色鮮やかな刺繍の商品がたくさん並んでいた。社名に合わせて桜モチーフの商品も多い。すぐ着られるTシャツやタンクトップ、紐釦のブラウスなども置いている。路上でそんな服を着てる西洋人を何人も見かけた。

 着替えは持たず現地で買って着たらいいと孝弘が言っていたのはこういう物かと祐樹は手に取ってみる。確かにみやげにもなるし着易そうだし荷物も少なくて済む。

 店の奥には小さな事務所があり、そこで参考資料として撮って来た市場の写真を見せてもらった。いくつもの民族が入り混じった市場なのは、衣装の色やスタイルや頭の飾りなどが違うことから見てとれた。

 女性たちは小さな椅子に座っていて、シートの上で籠や食べ物や手提げ袋など色々な物を売っている。その雑多なものの中から商品になりそうなものを探したという。

「それいつごろの話?」
「んー、2年半くらい前。会社興して1年くらい経って、本業の雑貨の卸がけっこう落ち着いた頃だな。ぞぞむがもうすぐ開放地区になるから、人が増える前に雲南行こうぜって言いだして」

 開放地区とは外国人が行ってもいいエリアを言う。それまでも昆明や大理、西双版納《シーシュワンパンナ》などの一部の都市は開放されていたが、雲南省全域が開放されたのは1997年のことだ。

 開放前の雲南省にぞぞむが誘ったのは単なる旅行ではなく、少数民族の雑貨の買付けのためだった。結局、最初に雲南入りしてから1年近くかけて、ぞぞむと孝弘は仕事の合間を縫っては雲南省入りしてあちこちで地道な買付け交渉を続けた。

 継続的な商品確保がなかなか難しくて、こちらの要求する商品を作れる職人を探すのに時間がかかったらしい。

 彼らは今まで日用品として漫然と作っていたので出来映えや大きさにバラつきがあるし、体調や農作業の進行次第で作る数も適当だったのだ。

 それを一定の水準を保った商品にするために、ぞぞむにいたっては年の半分くらい雲南省を巡って過ごしたほどだった。でもそうやって職人を育てただけあって、丁寧な手仕事の商品は人気商品となっている。

 それがとても嬉しいようで、昨日訪ねたイ族の娘は櫻花珈琲北京店の店内写真を自慢げに見せて「ほら、これがあたしが作ったバッグなの」と誇らしく笑っていた。

 孝弘の話を聞きながら祐樹は彼らの仕事のやり方に改めて驚いていた。

 自分たちで何でもしているのは知っていたが、こんなふうに具体的な話を聞いたのは初めてだ。ここまで手間暇をかけて商品開発していたのか。

 日本の企業が合弁会社や現地法人を立ち上げるのとは全く違うアプローチで孝弘たちは自分の会社を作り上げて来たのだ。きっと最初の売り上げなんか数千円、いやこれだけの手間をかけた経費を考えたら赤字だったはずだ。

 本業は雑貨の卸だからこれだけで会社を回しているわけじゃない。それなりに収益はちゃんと上げた上で、ぞぞむは自分がやりたい手工芸品を取り扱って商業ベースに持って来たのだ。


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