あの日、北京の街角で4 大連デイズ

ゆまは なお

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 日本の長期休みの時期ではないから数は少なかったが、日本人バックパッカーにも出会った。

 ここからさらに南下してベトナムやラオスに抜けるという者もいれば、バスルートでチベットに向かうと言う強者もいた。反対ルートからここへ来た旅行者に情報をもらって行くらしい。

 チベット自治区のラサへ入るために外国人に開放されているのは成都から飛行機で入るルートが一般的だが、ゴルムドからのバスのほうが格段に安いのでバックパッカー達はそちらを選ぶ。

 高山を越えるバスはきれいでも安全でもなく、何より道路事情が相当悪い。報道規制のある中国では報道されないが、崖のような道を通るから転落しているバスもかなりあると聞く。

 自分なら金を払ってでも飛行機で行くなと内心思う。一度、土砂崩れを経験して入院したこともあるから、それは身に沁みてそう思うのだ。

 金で買えるなら安全なほうがいいと。でもそんな余計なことは口に出さずに話を聞きながら紅茶を飲む。

「今、鉄道も建設中らしいけど」
「ああ、西寧からラサまでだっけ? まだ5年くらいは先だろ」

「でもできたら乗ってみたいよな。4000m級の山の上を走る鉄道だろ」

 そんな高地に鉄道を通す計画があるのか。祐樹は興味がないから知らなかったが、かなり有名な話らしい。数人が加わって、チベットに入るルートで盛り上がっている。

「これにガイドブックにない最新情報あるから、見ておくといいですよ」

 まだ若い、学生だろう旅行者が机の上の籠を指した。松本が言ってた情報ノートってこれか。おれはそんな所には行く気はないけど…と思いながらノートをめくった。

 安くておいしい食堂とかヒッチハイクにいいルートとかどこどこのガイドはぼったくるので要注意だとか、バスのチケットや国境越えのビザの取り方だとか、そういう生きた旅の情報が色んな言語でたくさん書いてあった。

 祐樹は海外に興味を持たないタイプだったのでこういう旅もしたことがなく、しようと思ったこともなく、そのノートを読んだ感想はごく単純に「すごいな」だった。

 祐樹ならさっさと旅行社に頼んでチケットと宿を手配してしまう。たとえ手数料を取られても快適に安全に行きたい。

 もっともあまり辺境に行くと旅行社もタクシーもなくて自力で手配(というか情報ノートによるとそういう場合の手段はヒッチハイクらしい)するしかないのは分かるけれど、そもそもそんな地域には行かなくてもいいと思ってしまう。

 こんな面倒なことをして何ヶ月も旅をしている人たちがいるんだ、と驚きの目で目の前のバックパッカー達を眺めた。地球を半周ほどしてここに辿りついた人もいるのだ。

 中には中国語はおろか英語もろくに話せない若者もいて、その勇気と無謀さに呆れるような感心するような…。

「あと都市部なら最近はインターネットが使えるから、そっちもチェックしたほうがいいですよ」
「へえ、そうなんだ」

「洋人街にパソコンが使えるカフェありますから。30元以上のメニューを頼んだら30分使わせてくれますよ」

 若者は何も知らない祐樹に親切に教えたつもりなのだろう。どこか得意げな彼に素直に礼を言っておいた。

「うん、ありがとう」

 そこまでして辺境を旅する彼らの情熱は一体どういうものなんだろう? 孝弘には彼らの気持ちがわかるんだろうか。

 孝弘も似たような旅をして買付けに行くから、わかるのかもしれない。いや、買付けに行くのはぞぞむのほうか。孝弘はつき合いで行くけれど、望んで行くわけではないようだし。

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