あの日、北京の街角で4 大連デイズ

ゆまは なお

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「いろいろ管理が大変でしょ、人も増えただろうし」
「まあな。店長の采配にかなり任せてるけど、現場はもっと大変だろうな。やっぱマネージャークラスのしっかりした人材が必要になってくるよな」

「人材育成は時間がかかるからね。スカウトしてるの?」
「そこそこ。あちこちから紹介とか推薦は来るけどピンきりだな」

 信頼できる人材の確保がなかなか難しくてと孝弘は小さくため息をつく。祐樹はよくわかるという顔で「そうだよね」とうなずいた。

 大連支社のマネージメントをしている祐樹が管理するスタッフ数は軽く200人を超える。そして扱うのは数千万単位の取引だ。櫻花公司がどれだけ数量を増やしても、雑貨の売上などたかが知れているし、自社でその規模の工場を持つことなどない。

「でも祐樹から見たら、工場も小規模だし単価も小さくてびっくりしただろ?」

 孝弘は取引先の新規開拓や商談が好きで櫻花公司の仕事を楽しんでいるけれど、会社は吹けば飛ぶような規模で、その取引方法は本当に原始的なやり方で現金決済もまだ多い。

 そんなことで祐樹が孝弘の仕事を見下したりしないと知っているけれど、企業の駐在員の中には、中国で起業した留学生や現地法人をあからさまにバカにする者もけっこういる。

 有名企業のブランド志向で選んだ会社じゃないのは聞いているが、だからと言って櫻花公司に入りたいかと訊けばおそらく否という気がする。

 以前、ぞぞむとレオンには祐樹をスカウトしたいと話したことがあるが、現実的な話としておそらく無理だろう。安定した企業勤めを辞めて、こんな賭けのような仕事に乗り換える必要はどこにもないのだ。

 給与にしても中国で暮らしていくのに不自由ない程度の額は出るが、日本企業の駐在員の給与には程遠い。待遇面での差は言うまでもない。

 だから無理に引きこむつもりはないけれど、祐樹には自分の仕事を知っていて欲しい。特にこうして会社が大きく躍進している現状を見せておきたい。

 以前、北京事務所の安藤に言われた通り、自分が背伸びして伸びて行くタイプなのは自覚があるが、恋人に自分の仕事をわかってもらいたいと思うのはわがままだろうか。

 祐樹は孝弘の問いにちょっと首を傾げて、ふわっと笑って答えた。

「確かにびっくりしたけど、驚いたのは規模とか単価じゃなくて、なんていうのかな。こういう仕事のやり方があるんだっていうか、それを思いついて実行できる行動力っていうか……」

 少し言葉を切って祐樹は考え込む顔になり、うんとうなずく。

「そういう熱量に驚いた。会社を起ち上げる人たちって、やっぱりそういうエネルギーっていうかバイタリティが違うっていうか。あんな田舎まで買付けに行って売り物になるまで持っていくその手間とか熱意がすごいと思った」

「商社マンだってたいがいだけどな。すっごい辺境で会う日本人ってまず日商小岩か角紅のどっちかだもんな」

 新疆の砂漠の奥地で出会ったスーツ姿の日本人に驚いたことを思い出す。

「確かに。でも孝弘たちも大概じゃない」
「それって誉め言葉?」

 後ろからかかった声に振り向くと黒いダウンコート姿のレオンが立っていた。
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