あの日、北京の街角で4 大連デイズ

ゆまは なお

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 祐樹もそういう場面に何度も遭遇しては、何とか折り合いをつけてきた。通訳を通じて言葉は理解できても、そもそも常識が違うからその意味や感覚を理解できないことも多々ある。

 職場で接する孝弘は、現場がトラブル続きであっても平然としているように見せるし、実際、通訳が落ち着いていると周囲もあまり焦らない。青木が孝弘を信頼しているのはその態度によるところも大きい。

 孝弘より年齢が上で経験豊富な通訳だってたくさんいるが、若いけれど中国人の生活習慣に通じている孝弘は安心感がある。そう言ったら「こっちに何年も住んでて、あわててもどうにもならないって思ってるからだろ」と笑っていた。

 櫻花公司の折衝でトラブルに慣れている孝弘は、たいていのことは「そうですか」と淡々と処理している。でもプライベートな場所では、結構キレて大声を出したりぼすぼすとクッションを蹴り飛ばしたりもしているのだ。

 理不尽な要求や横暴な役人に当たってしまうと、それを回避したり懐柔するのは何かと大変だ。相当ストレスが溜まるだろうし、誰かに当たりたくもなるだろう。

 それ用のサンドバックが櫻花公司の北京事務所には置いてあったくらいだ。そういう姿を祐樹は身近に暮らすようになって初めて知った。そしてそんな姿を見てほっとしたような安心したような気分になった。

 交渉上手と言われている祐樹だって、時には取引先の二枚舌に振り回されて腹が立ってしょうがないときがある。仕事場では我慢しているけれど不満も愚痴も当然あって、それでも頑張っている孝弘がすごいと思うし、とても好きだと思う。

 ふっと沈黙が落ちて、寝転んでいた孝弘がソファに座っている祐樹をやわらかく引き寄せた。引っ張る力に任せて上体を倒してキスをする。ちゅ、ちゅと触れるだけのキスを何度かして、はーっとため息をついた。

「何でまだ水曜なんだ……」
「どうしたの?」

「すっげーセックスしたいのに、したら明日起きれない気がする」
「結構酔ってる?」

「うーん、どうだろ。そんなに飲んでない気もするけど、久々の日本酒が効いたかなー」
 酔ってもあまり顔に出ない孝弘だが、普段はビールだから酔いが回っているのかもしれない。


「じゃあ、きょうはもう寝ちゃえば?」
「いやだー。抱きたい」

 子供みたいに駄々をこねるのがかわいくて鼻先に口づけたら、むうっとした顔になる。

「ほら、そうやって煽るし」
「煽ってないよ、おやすみのキスだって」

「そんなの求めてない。もっとエロいのがいい」
 今日は誕生日だし、ここはリクエストに応えるべきところ?

 そっと唇を甘噛みして、舌を差入れる。すぐに孝弘の舌が絡められて、お互いを煽りあうキスになった。

「朝、祐樹が起こして」

 それほど寝起きが悪くない孝弘がこう言うのだから、本当に眠いのかもしれない。でも祐樹の体をたどる手は止まらなかった。

「わかった。ベッド行く?」
「うん」

 素直にうなずいて身を起こし、寝室に行く。寝室に入ると歩きながら部屋着の長袖Tシャツとズボンを脱いでベッドに乗った。

「なんか眠い……」

 ビールで酔ったときにはそんなことは言わないが、日本酒だと眠くなるタイプなのかもしれない。子供みたいにあくびするのがかわいいと思いながら、祐樹は孝弘の上にまたがった。

 考えてみれば、あまりないシチュエーションだ。

「おれがしてあげるから、寝てていいよ」
「えー、いちゃいちゃしたいのに」

 そう言いながらもベッドにごろりと横になって、祐樹がかぶさると大人しく腕を回してくる。あ、こういうのも新鮮でいいな。

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