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短編 クリスマスSS
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1998年12月 大連
メールを読んでいた孝弘が画面を見ながらいきなり吹きだしたので、祐樹は読んでいた資料から顔を上げた。
「どうしたの?」
「瀋陽の坂本さんからのメールなんだけど」
くくくっとまだ肩を揺らして笑っている。
祐樹はソファから立ち上がって、孝弘のノートパソコンを覗いた。
画面いっぱいの写真を見て、祐樹は首をかしげた。
これは一体、どういう状況?
「ここってスーパー?」
「うん。瀋陽に新しくできた宇宙超級市場(スペーススーパーマーケット)だって」
「……なかなか斬新だね」
「いや、マジで」
写真は2枚。1枚目はスペースシャトルの絵が壁一面に描かれたスーパーマーケットの入り口に、遊園地のアトラクションのようにシャトル型と思しきちゃちな乗り物がレールの上に載っている画像。
2枚目はそれに満面の笑みで大の大人が乗って、スーパー内部で商品に手を伸ばしている画像。
「これに乗って買い物するの?」
「そう。スーパーをぐるっと1周、これで回って欲しい物を取っていくんだって」
ところが坂本によると、これがなかなか難しいらしい。
一定スピードで通り過ぎてしまうため、欲しい商品を取り損ねたり、買うかどうか考える暇がなかったり、そもそも距離がありすぎて手が届かなかったりと、思うように買い物ができないというのだ。
そしてそれをフォローするために店員が配置されているのだが、これまたなかなか思い通りの商品を持ってきてもらえないと(笑)マークでいっぱいのメールに孝弘が爆笑したのだ。
「どのくらい持つだろ」
スーパーの寿命だ。
閉店までの期間を考えたらしい。
「えー、いいとこ半年ってとこじゃないの?」
「そうだな。いくら新しいもの好きの中国人でもこんな不便なスーパーじゃなあ」
くすくす笑っていた孝弘が祐樹の顔を見て、にやっとあまりよくない笑顔になった。それを見た祐樹がちょっと身構えたところで、孝弘がなにげない口調で持ちかけた。
「じゃ、賭けようか、祐樹」
「賭けるって…」
「んー、この店が3か月持つかどうか」
「賭けるって、なにを?」
「負けたほうが勝ったほうのお願いをひとつきくっていうのは?」
何食わない顔をしているが、この手の賭けは危険だと祐樹はすでに身をもって知っていた。
「…お願いって?」
「あ、なんか警戒してる?」
前回、似たような賭けをして、負けた祐樹がベッドで孝弘のお願いを聞いたのは記憶に新しい。
身体的にそれほど無茶な要求ではなかったが、羞恥に煽られて身を焼かれるようなじりじりした快感が逆に深い悦楽をもたらして、その晩はかなり乱れてしまったのだ。
「そりゃまあ、ちょっとね」
祐樹の返事ににやりと笑う孝弘も前回のことを思い出したのだろう。獲物をまえにした獣のようにあやしく目が光る。
「でも祐樹も気持ちよかったろ。めちゃめちゃエロかわいかった」
「そういうことを言わないの!」
首筋まで赤くなった祐樹の耳に、孝弘はそそのかす声を落とした。
「ね、どっち? 3か月持つか持たないか。選ばせてあげるよ」
選択権をくれているようだが、賭けないという選択肢はないらしい。そして結局、祐樹は孝弘に押されるのに弱い。
「…持つほう」
「オッケー」
上機嫌の孝弘が頷いて、賭けは成立した。
メールが届いたのはクリスマス直前。
結局3か月ももたず、宇宙超級市場は閉店したという知らせが坂本から来た。
「聖誕老人(ションタンラオレン)(サンタクロース)も粋なプレゼントをくれるなあ」
メールを読んだ孝弘は上機嫌だ。
そして今日はクリスマスイブ。
今夜のプレゼントは祐樹となった。
ベッドの上で、孝弘のお願いに祐樹は頬を染めたが賭けなのだからと了承した。
そっと唇が重なる。
ふたりで過ごす初めてのクリスマスだ。
祐樹はふわりと幸せな笑みを浮かべて孝弘の体に腕を回した。
聖誕快楽(メリークリスマス)
完
ちなみにかつて、あのスーパーは瀋陽に実在しました(笑)
メールを読んでいた孝弘が画面を見ながらいきなり吹きだしたので、祐樹は読んでいた資料から顔を上げた。
「どうしたの?」
「瀋陽の坂本さんからのメールなんだけど」
くくくっとまだ肩を揺らして笑っている。
祐樹はソファから立ち上がって、孝弘のノートパソコンを覗いた。
画面いっぱいの写真を見て、祐樹は首をかしげた。
これは一体、どういう状況?
「ここってスーパー?」
「うん。瀋陽に新しくできた宇宙超級市場(スペーススーパーマーケット)だって」
「……なかなか斬新だね」
「いや、マジで」
写真は2枚。1枚目はスペースシャトルの絵が壁一面に描かれたスーパーマーケットの入り口に、遊園地のアトラクションのようにシャトル型と思しきちゃちな乗り物がレールの上に載っている画像。
2枚目はそれに満面の笑みで大の大人が乗って、スーパー内部で商品に手を伸ばしている画像。
「これに乗って買い物するの?」
「そう。スーパーをぐるっと1周、これで回って欲しい物を取っていくんだって」
ところが坂本によると、これがなかなか難しいらしい。
一定スピードで通り過ぎてしまうため、欲しい商品を取り損ねたり、買うかどうか考える暇がなかったり、そもそも距離がありすぎて手が届かなかったりと、思うように買い物ができないというのだ。
そしてそれをフォローするために店員が配置されているのだが、これまたなかなか思い通りの商品を持ってきてもらえないと(笑)マークでいっぱいのメールに孝弘が爆笑したのだ。
「どのくらい持つだろ」
スーパーの寿命だ。
閉店までの期間を考えたらしい。
「えー、いいとこ半年ってとこじゃないの?」
「そうだな。いくら新しいもの好きの中国人でもこんな不便なスーパーじゃなあ」
くすくす笑っていた孝弘が祐樹の顔を見て、にやっとあまりよくない笑顔になった。それを見た祐樹がちょっと身構えたところで、孝弘がなにげない口調で持ちかけた。
「じゃ、賭けようか、祐樹」
「賭けるって…」
「んー、この店が3か月持つかどうか」
「賭けるって、なにを?」
「負けたほうが勝ったほうのお願いをひとつきくっていうのは?」
何食わない顔をしているが、この手の賭けは危険だと祐樹はすでに身をもって知っていた。
「…お願いって?」
「あ、なんか警戒してる?」
前回、似たような賭けをして、負けた祐樹がベッドで孝弘のお願いを聞いたのは記憶に新しい。
身体的にそれほど無茶な要求ではなかったが、羞恥に煽られて身を焼かれるようなじりじりした快感が逆に深い悦楽をもたらして、その晩はかなり乱れてしまったのだ。
「そりゃまあ、ちょっとね」
祐樹の返事ににやりと笑う孝弘も前回のことを思い出したのだろう。獲物をまえにした獣のようにあやしく目が光る。
「でも祐樹も気持ちよかったろ。めちゃめちゃエロかわいかった」
「そういうことを言わないの!」
首筋まで赤くなった祐樹の耳に、孝弘はそそのかす声を落とした。
「ね、どっち? 3か月持つか持たないか。選ばせてあげるよ」
選択権をくれているようだが、賭けないという選択肢はないらしい。そして結局、祐樹は孝弘に押されるのに弱い。
「…持つほう」
「オッケー」
上機嫌の孝弘が頷いて、賭けは成立した。
メールが届いたのはクリスマス直前。
結局3か月ももたず、宇宙超級市場は閉店したという知らせが坂本から来た。
「聖誕老人(ションタンラオレン)(サンタクロース)も粋なプレゼントをくれるなあ」
メールを読んだ孝弘は上機嫌だ。
そして今日はクリスマスイブ。
今夜のプレゼントは祐樹となった。
ベッドの上で、孝弘のお願いに祐樹は頬を染めたが賭けなのだからと了承した。
そっと唇が重なる。
ふたりで過ごす初めてのクリスマスだ。
祐樹はふわりと幸せな笑みを浮かべて孝弘の体に腕を回した。
聖誕快楽(メリークリスマス)
完
ちなみにかつて、あのスーパーは瀋陽に実在しました(笑)
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