【神とも魔神とも呼ばれた男】

初心TARO

文字の大きさ
13 / 124
第1章(序章)絶望の果て

第12話 再会と別れ

しおりを挟む
「私の事を覚えてる?」

 少女は、笑顔で俺に尋ねた。


「魔法の門に入った俺を …。 あの時、命を救ってくれたご恩は一生忘れません。 ビクトリア様」


「そうよ。 あなたは、イースよね」

 彼女が俺の事を覚えていてくれて嬉しくなり、つい笑顔になってしまう。


「それにしても、随分と背も伸びて男らしくなったわね。 正直、最初は女の子だと思ったのよ。 男の名前だったのと、自分の事を俺と言ったから男子だと分かったけど、あの時は驚いちゃったわ」


「ナーゼ …。 いや、ナーゼ様にも女の子と間違えられたんです」

 チラッとナーゼを見ると、彼女は手のひらを見せて、俺の話に割り込んできた。


「イース、いつもの呼び捨てで良いのよ。 ビクトリアには、話してあるから」


「そうよ、聞いてるわ。 ナーゼに代わって、イースの事は、私が責任を持って守るから」

 2人の話しを聞いて、俺は何を言っているのか分からず、唖然とした。

 しかし、ナーゼは続けた。


「ありがとう、ビクトリア。 イースは私に取って、弟のような存在なの。 彼は十分に強くなったけど、私が目をかけた分、逆恨みや嫉妬心を抱く者が大勢いる。 それにAクラスの、後任のボスとなるジダンは、イースの事を目の敵にしてる。 イースに万が一の事があったりしたら …。 それだけが心残りなの。 でも、ビクトリアが付いていれば安心だわ」

 ナーゼは笑顔だが、目に涙を溜めていた。俺は、凄く心配になった。


「ナーゼ、どういう事?」

 俺は、ナーゼの事が心配になり聞いた。


「実は、1週間後にムートを卒業して、戦地に赴く事になったの。 急な話しだったから前もって言えなくてごめんね。 ビクトリアにイースの事をお願するしかなかった」

 ナーゼの、こんなに落ち込んだ姿を初めて見た。それだけに、俺も辛くなってしまった。


「ナーゼはAクラスでトップじゃないか。 Aクラスの上位3名は、高等クラスを飛び越えて17歳で卒業し、子爵の爵位が与えられ 、1年の中隊長経験を経て大隊長になるんだろ。 皆んな知ってる事だ。 それが、まだ16歳なのに戦地に赴くって何だよ? おかしいだろ!」

 俺は、自分の事のように心配した。


「そうね。 でも、辺境の村の狩人の娘には、子爵は適用外だった見たい …。 それとも、貴族に逆らった報いなのかな?」

 ナーゼは、呟くように答えた。


「ナーゼは、本来であればSクラスに入るべき天才なの。 それを貴族達は、実力と関係のない素性で差別して認めなかった。 だから彼女は、その悔しさから、魔法使いと騎士の両方を極めた。 そんな人、他に居ないわ。 貴族達が、この国を歪めてる」

 そう言うと、ビクトリアは悔しそうに唇を噛んだ。


「私が赴任するのは、サイヤ王国との国境なの。 そこで、小隊長として戦う事になる。 それは、私の故郷のパル村を守る事にも繋がる。 だから頑張れる」

 ナーゼは、全てを吹っ切ったように笑った。それは、いつもの美しい笑顔だった。


◇◇◇


 ナーゼがいなくなると、直ぐに周りが騒ぎ出した。そして、俺への批判や攻撃が始まった。

 これでも、俺はBクラスのボスだから、自分より下位の連中は抑えられる。しかし、上位のAクラスの連中には、とても敵わない。
 厄介なのは、上位クラスと結託して迫る連中だ。俺は、ついに脅しに屈し、ボスの座を明け渡した。

 Bクラスの新しいボスは、ソニアという女子で、Aクラスのボスであるジダンと仲が良い。まるで、恋人のようだ。俺は、ジダンに完膚なきまでに叩きのめされたが、その事を言われる度に惨めになる。

 Sクラスのビクトリアが、ナーゼの代わりに俺を守ると言ったが、魔法使い修練場からでは目が届かない。それに、こちらから連絡したくても方法が分からなかった。Sクラスは、一般の修習生から見ると、雲の上の存在だった。
 いや、それ以上に、彼女に頼る事など、俺のプライドが許さなかった。

 対立は、最初はボスをかけた争いだったが、俺がボスの座を追われると、次第にエスカレートして行き、今ではソニアを中心とした集団イジメに発展している。
 そのせいで、俺の居場所は無くなりつつあった。

 そんな俺でも、話し相手はいた。Cクラスのベアスだ。
 俺といると、彼までイジメられると思うが、気にせずに来てくれる。

 ベアスは、昔は臆病で隠れてばかりいたが、今は違う。心身の成長とともに陽気も充実し、精神も鍛えられたのだ。それは、俺も同じだった。

 そんな中、2人に取って、最大の危機が迫っていた。


「なあ、イース。 ナーゼがいなくなって、周りに良いようにされてるが、仲間を増やさないと潰されるぞ。 Cクラスの俺が加勢しても、戦力外なのが辛いぜ」


「ベアスが、そう言ってくれるだけで励みになる。 ありがとう。 集団で来られた場合、ボスを倒すのがセオリーだが、さすがにAクラスのジダンには敵わない。 実は、一度、奴に半殺しにされたんだ。 それからは、Bクラスのソニアにやられっぱなしさ。 恐らくジダンはソニアの恋人だ。 彼女は強くないのに、まるで、虎の威を借る狐だよな」


「それを、イースが言うのか?」


「違いない! ナーゼがいたらな …」

 俺とベアスは、腹を抱えて笑った。
 
 とっ、その時である。


「楽しそうだな!」

 そこには、屈強な大男が仁王立ちしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...