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第1章(序章)絶望の果て

第14話 美少女の加護

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 意識が遠のき痛みも忘れ、深い闇に沈んで行く。心地良い虚脱感とでも言おうか、何も見えない、聞こえない、意識しない、無の世界である。
 まるで、母親のお腹の中にいる胎児のような、不思議な気分だった。

 しかし、その安らぎを誰かが破った。ナーゼが、俺に陽気を発現させた時のようなチクリとした痛みだ。
 そして次の瞬間、ジダンに切り刻まれた身体の痛みが蘇った。

 意識が覚醒すると、そこには俺を抱きしめる少女がいた。


「ナーゼだ …。 来てくれたんだ」

 そこには、いるはずのないナーゼがいた。
 俺は、心底安心し、また、意識を失った。

 
◇◇◇


 次に気がつくと、俺は布団の上に寝かされていた。
 どうやら就寝場のようだが、俺のいるBクラスではない。ここは、半年前までいたCクラスの就寝場だった。
 ここのボスはサーナだが、俺が女子の振りをして騙してから険悪な関係が続いている。だから、なぜ、ここに寝かされているのか不思議だった。
 でも、直ぐに納得できた。ナーゼが来てくれたんだ。


「おっ、イース。 気が付いたか?」

 ベアスの明るい声がした。


「ナーゼは、どこにいるんだ? ムートに復帰したんだろ!」

 身体中が痛かったが、俺は、ナーゼに会える喜びで、自然と笑顔になっていた。


「何、言ってる? ナーゼ様はムートを卒業したから居るはずがないだろ」


「じゃあ、俺が感じたのは? 俺を抱きしめてくれたのは? ナーゼだったはず …」

 俺は、頭が混乱した。今、こうしているのも夢ではないかと思えた。


「イース、だいじょうぶか? おまえを抱きしめたのは、ムートの女神、つまりビクトリア様だよ。 イースが羨ましいぜ! イースを救ってから、俺のいるCクラスに寝かせてくれたんだ。 それにしても綺麗な人だったな。 14歳にしては大人びて、それでいて可憐で …。 ビクトリア様から回復魔法で抱きしめられるなら、俺もジダンに切り刻まれたいぜ」

 ベアスは、赤い顔で興奮していた。


「そうか、ビクトリア様に助けられたのか …」

 ビクトリアがナーゼに頼まれて俺を守る事になったとベアスに説明したら、かなり驚かれたが、ナーゼにそこまで気にかけてもらえる俺の事を羨ましがられた。

 その後、ベアスは事の顛末を話し始めた。


「イースが殺されると思い教官に助けを求めたんだが、修習生のトラブルには関与しないと言われてさ。 それで、トボトボと歩いていたら、どこからか美しい少女が現れて、案内するように言われたんだ。 彼女がSクラスのビクトリアなんて誰も知らないから、名乗った時のジダンの驚きようったら無かったぜ。 まあ、俺も驚いたけどな …」


「そう言えば、ジダンとソニアとトラフの3人は、どうなった?」

 ナーゼなら殺してしまうだろうが、ビクトリアがどうしたのか気になった。


「ビクトリア様が手をかざすと、不思議な光が3人を包み込み、次第に姿が薄くなり最後は消えて無くなった。 彼女に殺したのかと聞いたら、遠い場所に送ったと言ってた」

 ベアスは、興奮して話した。


「でもさ、ハッキリ言ってSクラスの修習生は、同じ人間とは思えない恐ろしい存在だ。 でも、ビクトリア様なら、命を取られても良いから友達になりたいな。 あ、そうだ。 イースに、この腕輪を渡すように言われてた」

 ベアスから、腕輪を受け取った。

 結局、ナーゼだと思ったのはビクトリアだった。
 嬉しい反面、無力な自分を見られ、惨めでもあった。


◇◇◇


 俺の身体は、至る所を剣で切られ、生きているのが不思議なくらいだったが、わずか3日で歩けるまでに回復した。今日は、リハビリがてら広い通路を歩いている。
 すると、背後から声をかけられた。


「すっかり良くなったわね。 安心したわ」

 ビクトリアだった。


「あっ、ビクトリア様。 その節は、ありがとうございました。 命を助けられるのは、これで2度目です。 何とお礼を言って良いか」


「そんな、畏まらないでよ。 ひとつしか違わないんだから …。 私は、まだ14歳なのよ。 ナーゼと同じく、呼び捨てで良いよ」

 ビクトリアは、フレンドリーに話してくれた。また、俺の歳を覚えていてくれた事が嬉しかった。
 しかし、その気持ちとは裏腹に、彼女を意識すると恥ずかしくなり、下を向いてしまった。


「イースは、シャイなのね。 魔力を与えた仲じゃない。 もう、他人じゃないかもよ!」

 ビクトリアは、悪戯っぽく笑った。


「俺に、魔力を?」


「そうよ。 あのままでは危なかったから、回復魔法をかけて、あなたに魔力を注いだの」

 
「そうか、それで早く治ったのか」

 俺は、今の状況に納得した。


「ところで、私があげた腕輪をして無いけど、届いてなかった?」


「ああ、ベアスから受け取ったよ。 大切な物だから、剣と一緒に保管してあるんだ」


「それじゃダメよ。 常に腕にはめておく事! あれは、意思を伝達するための魔道具なの。 私に会いたい時に念じると、その意思が届くのよ。 凄いでしょ」


「そうなのか。 でも、ビクトリアからの意思は届かないのか?」


「イースが、魔法を感じられないと無理よ。 だから、イースから私への一方通行なの。 あと、腕輪に魔力の補充が必要だから、会った時に入れておくね」

 俺は、魔道具の話しを聞いて、騎士より魔法使いの方が面白そうだと思ったが、魔法教官から素質がないと言われたのを思い出し、少し落ち込んでしまった。
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