死にたがりの悪役令嬢はバッドエンドを突き進む。

采火

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死にたがりの悪役令嬢は

手料理で悩殺する3(side.エルバート)

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 夜、エレに涙目で「あんまり激しくしないで?」と言われたのにも関わらず、そんなお願いをするエレがあまりにも可愛かったのでいつも以上に可愛がってしまった。

 無理をさせ過ぎたのが祟ったのか、朝食の時間になっても深く寝入ってしまったので、今日は朝の挨拶もなしに出勤した。一日半以上、エレと会話が出来ないことに気がつき、次からはさすがに加減しようと心に決める。ただし、守れるかは自信がない。

「……エルバート様、今絶対にろくなこと考えてないですよね」
「おや心外な。僕は至っていつも真面目に物事にあたる主義だよ」
「腹黒い顔をして何を言ってるんですか」

 僕の言葉を一ミリも信用してないとばかりにばっさりと切り捨ててくるシンシア嬢。ひどいなぁ、腹黒い顔なんてしていないというのに。人好きのする笑顔だとそれなりに評判なんだけれど。

 シンシア嬢は本日、花屋の運営だ。こういう日はだいたいチェルノとアイザックがたむろっているが、今日は二人ともいなかった。珍しいこともあるなと思いつつ、シンシア嬢の手伝いをしながら護衛の任務につく。

「そういえばエルバート様、スーエレン様はどうされています?」
「エレは今日ちょっと体調を崩していてね」

 主に僕のせいでエレが朝だけ体調を崩しているのはいつものことだ。できるだけ神妙に答えてみせるけど、シンシア嬢は察しがいいのか軽蔑の目で見られてしまう。

 なんだろう、エレと結婚してからシンシア嬢が僕に対して遠慮がなくなっている気がする。今みたいにエレに関する話題は大概軽蔑の目を向けられている気がしてならない。

「どうせエルバート様がスーに無理をさせたんでしょうに、白々しいです」
「それは偏見というものだよ、シンシア嬢」
「それじゃあ言わせてもらいますが」

 チョキン、とシンシア嬢は花の茎を水を張ったバケツの中で斜めに切っていく。切り戻しというらしいこの作業は、花を長持ちさせるために定期的に行う作業だ。

 切り戻しをしながら僕の方へと視線を向けることなく、シンシア嬢は僕へと言葉を投げてくる。

「先日スーとお茶をした時、夜の営みが激しいって言われたんですけど」
「……」

 ヂョキン。

 水の中で切られているはずの鋏の音がやけに大きく響いた。
 一瞬、枯れかけた花の選別をする手が止まったけれど、何事もなかったかのようにすぐに動かした。

「エルバート様が抱き潰すから本を読む時間すら取れないと嘆いていましたよ」
「……」

 僕はシンシア嬢の言葉を右から左へと聞き流す。

 まったく、エレは直接僕に言えばいいものをこうやって遠回しに伝えてくるなんて……今晩はシンシア嬢の所で泊まりがけだから、明日の夜、お仕置きが必要だろうか。

 本を読む時間が欲しいなんて思わないくらい、僕で一杯に満たされればいいんだ。いつも以上に丁寧に愛して、僕のこと以外を考えられないようにしてあげなくては。

「駄目ですよ」
「……」
「駄目ですよ」

 一言も、何も言っていないのに、シンシア嬢から駄目出しをされてしまう。しかも二度。そんなに僕は信用がないのだろうか。

「……そもそも、シンシア嬢はまだ未成年だったよね。エレは少し世間とズレている事があるけれど、君に閨事について話したのかい?」
「詳細は聞いてないから問題ないでしょ?」

 詳細、ね。
 詳細は伝えていないとはいえ、未成年にそういったことを匂わすのはあまりよろしくない。はは、エレにお仕置きをする理由が増えてしまった。

 明日の楽しみが増えたので笑顔で作業をしていたら、シンシア嬢にさらに追加で釘を刺されてしまった。

「あんまりヤりすぎると嫌われますからね。ほどほどにしてくださいね」
「君は結構真っ直ぐにものを言うね」
「スーが言ってもエルバート様が聞かないなら私から言うしかないでしょ。未成年だってわかってるなら、スーが私にそう言うことを言わないように努力してください」

 シンシア嬢は友人になったエレを気遣ってくれているらしい。拗ねたように文句を言ってくるけれど、こればっかりは……

「無理かな。エレが可愛いのが悪い」
「色ボケ騎士め……」

 ヂョキン。

 また一際大きく鋏の音が聞こえた。
 シンシア嬢が何やら呟いた気もするが、鋏の音に気をとられて聞こえなかった。

 シンシア嬢が手を止めて、顔を上げる気配がした。

「……ま、私はまだ未成年ですし、お二人のことをとやかく言う立場でもないですけど。友人としてスーには幸せに過ごしてほしいので、あんまり無理はさせないでくださいね。暴走は絶対駄目です」

 偏見もそこまで行くと呆れるというものだ。シンシア嬢は僕を野獣か何かだと思っているのだろうか。

 そもそも僕がエレを抱くのは、できるだけ早く子供が欲しいからというれっきとした理由がある。

 僕は侯爵家の一人息子だから、当然後継ぎというものが必要だ。
 だから周囲は僕がエレと子作りするのは、その為だけだと思っている。

 実際に、シンシア嬢に付いている護衛騎士以外は、没落したクラドック侯爵家の娘と婚姻した事に対して後継ぎ問題の解消程度だと思われているようだ。エレを第二夫人にして、自分の娘を正妻にと企む馬鹿が後を断たない。

 だけど僕は後継ぎ以上に、「僕の子」じゃなくて「エレの子」が欲しい。

 僕が思うに、エレが死に対して拒絶感がないのはこの世に未練がないからだと思う。
 子供が生まれたら、その子が育つまで離れられないだろう。その子がエレの未練になってくれるんじゃないかと期待をしているんだ。

 エレが、少しでも生きるための理由が増えるように、僕はエレとの子供がほしい。エレの子が、欲しい。

 その過程で、僕がエレの可愛さにあてられて抱き潰してしまうのも多目に見てほしいのだけれど……。

「そんなに念を押されるほど、エレは僕の事について話していたのかい?」
「いや、一言二言だけでしたけど、明日のことを考えると釘を差しておかないとな、と」
「明日?」

 訝しげに思い、僕も作業の手を止めて顔を上げると、にっこり笑ったシンシア嬢と目があった。

「おっとうっかり。ほら、明日はスーとのお茶会なので。最近忙しいから、スーとのお茶会は私の癒しなんですよね……」
「エレは僕のだよ」
「男の嫉妬は醜いですよー。羨ましかったらちゃんと仕事を終わらせて帰ってくればいいじゃないですか」

 シンシア嬢に言われなくとも、勿論そうするつもりだ。
 分かりきった事を言うシンシア嬢を不審に思う。けれどシンシア嬢はそれ以上を話す気が無いようで、口を閉ざしてしまった。聞き出そうとしても、シンシア嬢と僕では互いに腹の探りあいで終わるのがせいぜい。ここは引くしかないか……。

 シンシア嬢の口ぶりでは、明日何かが確実にあるらしいことは分かる。
 シンシア嬢が何を企んでいるのか気がかりだ。明日はいつも以上に素早く帰宅を目指そうと決めた。

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