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第22話 黒髪少女のキスと罠
しおりを挟む「ここです! 東雲さん、本当にありがとうございました!!」
中央都市ほどではないが、それなりに大きな建物がいくつもある地域の一角。7階建てのビルがアリスの目的地だったようだ。つまりここが俺の目的地、レジスタンスのアジトであるということ。
で、合ってるよね?
(えぇ。私が掴んだ情報では、間違いなくここがレジスタンスの拠点です。政府が唯一所在を把握していないレジスタンスたち。ここの幹部を味方につけられるかどうかが、政府の施設に捕らえられた人々を救うための重大要素となるでしょう)
やっぱりそうだよね。
良し、ここからが本番だ!
「アリス!!」
建物の中からアリスより小さな女の子が飛び出してきた。たぶん、10歳くらいかな。綺麗な黒髪をツインテールにしているその子は、飛び出してきた勢いのままアリスの腰に抱き着いた。
「帰りが遅いから心配したじゃない! なんで定期連絡しなかったの!? なにが──って、あたな服がボロボロじゃない!!」
俺がアリスに着せたシャツを捲り、その下の穴が開いた服を見て少女が悲鳴に近い声を上げた。それを聞いて、建物から何人か男たちが出てきた。
「小津ちゃん。なんかあったの?」
「おい、なに騒いでるんだ」
「アリス、おかえり。あれ、買物は?」
ツインテールの少女は小津というらしい。
「男は寄るな! 私のアリスがボロボロにされたんだ!!」
キッ、っと鋭い目で俺を見てくる小津。
可愛い見た目に反して言葉がキツい。
もしかして、俺がアリスを襲ったとか思ってます?
「お前が。お前がやったのか!?」
「いや、俺はアリスを助けて──」
「嘘をつくなぁぁ!!!」
頭に血が上っているのか、俺の言い分を聞いてくれない。小津はその小さな手で俺の首を締め上げようとしてくる。でも背が足りなくて、全然できていない。
「小津っち、落ち着いて! 東雲さんは、黄龍会に捕まった私を助けてくれたんです。悪い人じゃありません」
「……えっ」
黄龍会ってのが、あの桐生が幹部の犯罪組織の名前らしい。
「みんなに伝えてください! いつものルートは黄龍会にバレてるって。あそこには罠が仕掛けられてます」
「マジかよ」
「あの通路が使えねーと、今後は大変になるぞ」
「と、とりあえず俺、清水さんに伝えてくる!」
「俺は他の班長たちのところに行く」
ふたりの男と小津、アリスを残して他は全員建物の中に走っていった。
「あの。え、えっと……。ご、ごめんなさい。それからアリスを助けてくれて、本当にありがとうございます」
小津が俺の服から手を放し、頭を下げた。
「良いよ。助けられたのは運が良かっただけなので」
この後、どうすれば仲間に入れてもらえるかな? 貴女たちレジスタンスですよね? 俺も仲間に入れてください! って言うのは流石にバカだよね。
(それは止めた方が良いでしょう。彼らの上下関係や心情を知るためにも、もう少し会話が必要です。あと10分程度、会話をするようにしてください)
10分かぁ……。
コミュ力低い俺には難関だぞ。
どうしようか考えていると、小津に話しかけられた。
「アリスを助けてくれたお礼がしたいので、ちょっとしゃがんでいただけます?」
「お礼なんて良いですよ」
「ちょっとだけです。お願いします」
小津に手を引かれ、あまり強く断るのも良くないと思って言われるがままにしゃがんだ。すると小津が俺に近づいてきて俺の首に手を回し──
頬に軽くキスされた。
「え、えっ!?」
「えへへ。私からのお礼です」
(……祐樹様。なんだか嫌な感じがします)
ほら! アーティが不機嫌になった!!
俺のせいじゃないのに!!
(違います。嫉妬とかではなく、単純にその少女が危険な感じがしたのです)
この子が?
こんな小さな子、危険も何もないだろ。
(問題は彼女の素性が分からないことです。レジスタンスの一員なのですから、政府のデータベースから個人情報を消している者も何人かいると考えていました。しかし私が調べた限り、個人情報がヒットしないのはアリスと小津の2名だけでした。それに彼女がキスしてきた時──)
はいはい、アーティの考えすぎだって。この子たちがレジスタンス幹部の子どもとかなんでしょ。だから危険な目に合わないよう、情報を隠してるとかだよ。
(それなら良いのですが)
「ねぇ、東雲さん。もっとちゃんとおもてなしをしたいので、私についてきてもらっていいですか?」
ほら、なんだかんだで建物に入れそうだよ!
(私は止めておいた方が良いと思います)
アーティが弱腰だった。
なんでだろう。でも彼女の判断がはっきりしないことも初めてだから、こーゆー時は俺の意志を示すのも大事なんじゃないかって思った。
ついていこうよ! そしたら10分ぐらい会話できるでしょ。それでアーティが危険だって判断したら、すぐに逃げよう。
(そう、ですね。そうしましょうか)
はい、決定。
レジスタンスの拠点潜入作戦、開始だ!
「ここまで歩いてきてちょっと疲れたので、少し休憩させてくれると嬉しいです」
「うん、喜んで! ゆっくりしていってください」
「東雲さん、こっちですよ」
小津が先導し、アリスに手を引かれて建物に向かう。
建物の入口にはゲートがあった。
「これは?」
「金属探知機です。この辺りの地域って、たまに武器を隠し持った黄龍会のメンバーが潜入しようとしてくるので、それの対策なんです」
「そ、そうなんだ」
マズいと思った。俺は脳内にアーティのチップが埋め込まれているし、腕も義手だ。金属探知機が反応してしまうと、きっと説明を求められる。
ドキドキしながらゲートを通過した。
「……鳴らないな」
予想に反してゲートは鳴らなかった。
「金属を持っていたんですか? スマホとかには反応しないので安心してください」
スマホに反応しないとしてもおかしい。
(私のチップは金属探知機に反応しないような特殊ケースで保護されています。またヴァリビヤナ粒子収束型戦闘義手には特殊合金が使用されており、こちらは軍用の高性能金属探知機であっても金属だと識別できません)
そうなら事前に教えてほしかった。
心臓に悪い。
(申し訳ありません。この施設のコンピューターに侵入しようと試みており、反応が遅れてしまいました。やはりここのセキュリティ担当者は、只者ではありません)
中央政府のデータベースを2秒でクラッキングするアーティが苦戦するレベルなんだ。それってかなり凄いんじゃないかな。
「こっちに来て!」
「はーい」
ゲートを見ていて、少しボーっとしてしまった。少し離れた場所まで進んでいた小津に手招きされたので急いで向かう。
「小津っち。なんでこっちなの?」
「いいからいいから。東雲さん、ここに入ってください」
通路の真ん中ほどにあった部屋に入れと言われる。
「お茶とか用意するから、中で待ってて」
「はい」
指示された通りに部屋に入った。
(──っ!? 祐樹様! ここは危険です!!)
「えっ」
アーティの緊迫した声が脳内に響いた直後、俺の足元にあった床が消えた。
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