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第30話 シンギュラリティ

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「もういいわ。いつまで撫でてるの!」

 さすがにやりすぎたみたい。

「……今後もたまには、今のをやりなさい」

 ツンデレ? ツンデレなんですか?

 こ、これがリアルツンデレ妹ですか!?

 ちょっと『あり』なのではないでしょうか!

(落ち着いてください祐樹様。もし妹系がお好きなら、私は電脳世界で幼女体型になることも可能です。愛でるなら是非、この私をお願いします)

「祐樹様は妹に甘そうですの。でも、朱里さんに手は出しちゃダメですよ?」

 出しません!

「ちなみに華凜お姉さんは、祐樹様ならいつでも受け入れる準備ができてますの」

 誘惑が凄いけど、俺にはアーティがいるから大丈夫です。

(祐樹様! 愛してます!!)

 俺もだよ。


「そろそろ祐樹をここに呼んだ理由を話して良い?」

「うん、お願い。華凜は少し静かにしててね」

「承知いたしました」

 朱里が俺の首の後ろに手を回す。またキスされるのではないかと、またアーティに嫉妬される結果になるのではと身構えたが、そうじゃなかった。

「やっぱりあった。上手く隠されてるけど、これは間違いなく手術痕。てことは祐樹、貴方は脳に何か埋め込まれてるのね」

「……うん、そうだよ」

「自分で希望したの? それとも政府に捕まって、勝手にやられた?」

「後者かな。俺は目が覚めたら政府の研究施設に拘束されてた」

 気づいたら捕まっていたので、どうやって捕まったとかは全く分からない。だけど結果だけ見れば俺は政府に拘束されていたってことは疑いようのない事実だ。

「その施設ってどこのことよ。ヴァリビヤナ粒子収束型戦闘義手を保管してる施設なんて、国内どころか世界中探してもこの国の首都にある一か所だけなんだけど」

 朱里が顔を近づけてきた。

「まさか祐樹、『アバロン』から逃げ出したなんて言わないよね」

 アバロンっていうのは俺が拘束されていた中央政府の研究施設の名前らしい。ずっと研究施設って呼んでたけど、このレジスタンスの拠点に来てからそーゆー名称があるってことを知った。

「俺は首都にある中央政府の研究所から逃げ出した。朱里が言うアバロンからね。逃げる時にこの腕を貰ってきたんだ」

 アーティからは朱里に全てを打ち明けて良いって言われていた。その方が今後の活動がしやすくなるのだとか。だから俺は知ってることを全て朱里に伝える。

 戦闘義手を解放した。
 腕に紫の線が走り、それが開く。

「うそ……。それじゃ、これはほんとうに──」

「ヴァリビヤナ粒子収束型戦闘義手ってやつ」

 手を伸ばし、また縮める。


 粒子を拡散させて周囲に紫の光を散りばめた。

「ど、どうやって制御してるの!? こんなの、量子コンピュータークラスの演算能力が無ければ拡散しちゃうはず」

「俺の脳にそのクラスのAIが埋め込まれてるんです。アーティ、出てこれる?」

 俺が呼びかけると、ラボにあったモニターがついた。

 そこに銀髪の美女が映し出される。

小津おず 朱里あかり様、華凜かりん様、初めまして。私の名前はアーティ。祐樹様の脳内に埋め込まれた人工知能です」

「えっ、ちょっと待って。なんでラボのモニターに出られるの?」

「あの、祐樹様。この綺麗な女性は一体どなたですの?」

 朱里はラボのセキュリティが突破されたことに気付いて狼狽し、華凜はアーティの美しさに驚いているようだった。

「俺の相棒、アーティです。朱里には申し訳ないけど、この施設のセキュリティを破らせてもらって、こんな感じで出て来れるようにさせてもらいました」

「な、なな、何してんのよ!!?」

 すごい剣幕で朱里あかりが近くにあったノートパソコンを拾って操作を始めた。

「ばかばかばか! なんてことしてくれたのっ! せっかく政府の目を欺くプログラム組んでたのに、穴を開けたらこの場所が政府軍にバレちゃうじゃない!!」

 とんでもない速度でコードを打ち込む朱里。少しして、何故か彼女はその手を止めた。

「あ、れ? ない……。穴なんて、どこにも」

「私が祐樹様の居場所を危険に晒すわけないじゃないですか。侵入した穴は綺麗に塞ぎましたし、何だったらコードも前より綺麗にしておきましたよ」

「確かに。時間がある時に直せばいいやって思って、ずっと放置してた無駄なコードがきれいさっぱりなくなってる」

「しかし朱里様は流石ですね。これだけのファイアウォールをたったひとりで構築されてしまうなんて。特に第7階層の欺瞞コードには、この私ですら危うくひっかかるところでした」

「あれすらも気づくなんて。アーティ、だったよね? あなた、ほんとに何者?」

「先ほども説明した通り、私は祐樹様の脳内にいるAIです」

「それは流石に嘘。だってここまで流暢に話せて、しかも私の作ったセキュリティを突破するような超高性能AIのチップなんて、到底人間の脳内に入れておけるわけないもの」

「それができたから、私はここにいます」

「……マジ?」

「マジです。そして私を生み出したのは朱里様の祖父、小津おず 忠重しげただ様です」

「おじいちゃんが!? た、確かにこんな高性能なAIのチップを人の脳に収まる程度に小型化するなんておじいちゃんくらいしかできないと思うけど……。で、でも待って! 電源はどうしてるの? 駆動には数百kWクラスの電力が必要になる。それに排熱の問題だって」

「そのどちらも祐樹様が解決してくださったのです。彼の最大瞬間出力は5GWに達します。私が10人いても余裕で稼働させられますね」

「ハァ!? そんなん、首都圏が1日に消費する電力の1%くらいあるじゃない!」

「その通りです。そして私が活動した結果出された熱は、朱里あかり様が考案されたサーモサイクルシステムで電気に再変換し、祐樹様に受け取っていただいているのです」

「サーモサイクル! おじいちゃん、私のアイデアを使ってくれたんだ!!」

 朱里の目がこれまでないほど輝いていた。自身の発明が実現したことに感動を隠せないようだ。

「てことは、もしかしてアーティは私とおじいちゃんの共同開発品? あ、いやゴメン。貴女に『品』なんて単語は使っちゃダメだね。だって私の構想が実現しているなら貴女は、アーティは人間の感情を理解できる。ねぇ、そうでしょう!?」

「はい。古くから機械には不要と言われていた喜怒哀楽。私はそれを持っています。ただの作られた人工知能から、その先へと進んだ存在となったのです」

「凄い、凄いスゴイすごい!! 祐樹、アンタ凄いよ! アンタのおかげで、人類は一歩進化した。シンギュラリティの壁を越えたの」

「シンギュ……。なんて言った?」

「シンギュラリティ! 廉価パソコンに搭載された人工知能が人の計算能力を超える時代のこと。それ自体はとっくに来てたんだけど、そこから更に人工知能が進化することはなかった。AIが完全な人になるには感情を理解するしかないんだけど、それをできる処理能力を持ったチップもプログラムも作ることができなかったの。それがシンギュラリティの壁。でも私のアイデアとおじいちゃんの技術がそれを突破した。祐樹、あなたの存在のおかげでね」

 すごい勢いで朱里が俺に近づいてきた。

 顔のすぐ目の前に彼女の顔がある。

「あなた、最高!!」

 また朱里にキスされた。

 今度は頬ではなく、彼女の唇と俺の唇が触れていた。







【お知らせ】

これにて第1章完結です!
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

第2章を現在執筆中です。
少々お待ちください。

他の作品も書いているので、一旦完結にします。
もしよければ他作品もご覧ください。

ではでは~。


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みんなの感想(3件)

夜比彼方
2023.05.23 夜比彼方

今までの王道無双系とは違って新しい味があるのが良い!続き待ってます!

木塚麻弥
2023.05.23 木塚麻弥

ご感想ありがとうございます。
あまりお気に入り数などが増えず、書くモチベーションが維持できなかったのです……。
でも、こういう感想を頂けると嬉しいです。

また他の作品が落ち着いたら、続きを書き始めたいなーと思ってます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!

解除
疾走する魔法使い

読んでいてスゴく面白かったです。
一旦完結は残念ですが続きが再開されるのを楽しみに待ってます。

木塚麻弥
2023.05.23 木塚麻弥

最後まで閲覧いただき、ありがとうございます。
何作か書いてるので、そちらが落ち着いたらこっちをもう少しキリの良いとこまで書きたいなと思ってます。

まずはここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!!

解除
疾走する魔法使い
ネタバレ含む
木塚麻弥
2023.05.23 木塚麻弥

ご感想ありがとうございます!

解除
1 / 5

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