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第1章 水の研究者、異世界へ
第2話 言葉が通じない
しおりを挟む「おい、まじか……」
俺は薄暗い森の中にいた。
もちろん近くに学生たちの姿はない。
「これって、俺が異世界召喚に巻き込まれたってことだよな?」
言葉に出して、自身の置かれた状況を整理しようとしていた。
異世界系の物語はWeb漫画などで読んでいる。話自体は夢があって面白いが、研究者である俺はそんな非現実的なこと絶対にありえないと思っていた。
でも今は俺が置かれたこの状況こそが現実。
見たこともない植物が周りに生い茂っている。俺は植物の専門家じゃないが、重力に逆らって種子を付ける植物や、謎の光の輪を茎に纏った植物たちが、ここは俺の元居た世界ではないということを主張していた。
得体のしれない植物を見て、高校生たちのことが心配になる。こんな意味の分からない世界で、子ども4人で何ができるというのか。彼らを元の世界に戻してあげなくちゃいけない。それが彼らの一番そばにいた大人である俺の責任だ。
とはいえあの子たちは、自分は神だという存在から勇者と呼ばれていた。きっと神から何らかの特殊能力を貰えるのだろう。異世界転生転移ものの漫画ではほとんどの場合そうなっている。それに女神は大人である俺にはスキルを与えられないと言っていた。逆に言えば、まだ子どもである彼らにはスキルが付与される可能性が高い。
彼らは神にとっても貴重な存在であるはず。俺のように、いきなり森の中に放置するような措置は取られないだろう。きっと大丈夫。今の俺にはそうだと信じる他ないんだ。
とすれば、直近の問題は神とやらが言っていた魔族が蔓延る世界で何のスキルも貰えず、かつ人の気配が全くない森の中にひとりでいる俺だ。高校生たちを無事に元の世界に還すためにも、まずは俺が無事にどこかの街まで行って魔族とやらと戦うための武器などを調達しなくては。
こんな“いかにも出ます”って感じの森、さっさと脱出したい。
ガサッ!
「──っ!?」
近くの茂みから何かの気配を感じて身構えた。
「う、うさぎ?」
兎がいた。見た目はほとんど兎なんだが、その額に深紅の角が生えている。
「なんだよ、ビビらせやがって」
角が生えていると言っても所詮は兎。人間に襲い掛かってくるなんて──
「い゛っ、でぇぇぇええええ!」
兎が右足の脛に突進してきやがった。
角が深く突き刺さってヤバいくらい痛い。
攻撃してくるわけないと油断していたこともあったが、突進の瞬間その姿を見失うほど兎の攻撃は素早く、避けることができなかった。
「くっ、そが!」
一旦俺から離れてこちらを威嚇していた兎に小石を投げて反撃する。いくつか投げた小石のうちひとつが兎に当たり、そいつは茂みの中へ逃げていった。
「痛い。いてぇ」
まさか兎に襲われて怪我するなんて。
異世界って、怖い。
でもこの時の俺は、これから地獄が始まるなんてまだ思ってもいなかった。角兎に突かれて血が少し出たくらいで悲鳴を上げていたこの時は、まだまだなんてことないこの世界の日常だったんだ。
俺はこれから、この世界の住人でもなかなか経験することのない“最底辺”を嫌というほど味わうことになる。
「מה?」
「ひ、人? 良かった、助けてください!!」
背後からの声に反応して振り返ると、ひとりの男がいた。彼は胸当てと肩や腕など部分的に守るような装備を身に着けている。ライトアーマー、とでもいうのかな?
でも俺は、助かったと思った。
ちょっと強面だが、同じ人間なんだ。
人間を襲うような兎がいる森にひとりじゃなくなったことで、心にかなり余裕ができた。
「יש כאן רק קאקוטו,אלת מכה?」
「あ、あの。なんておっしゃっているのか分かりません」
まさか異世界って、言葉通じないんですか?
普通に考えればそうなのだが、俺が読んでいた異世界物の漫画では異世界転移した主人公たちは何の問題もなく現地人たちと会話していた。だから言葉の壁があるなんて考えてもいなかった。
「אר שלא וב. צפוי להר גבוה」
男が笑顔で手を差し出してきた。
良かった。言葉は通じないが、助けてくれるみたいだ。見た目は少し怖いけど、良い人みたいだな。
「うぐっ」
手を借りて立ち上がろうとしたが、痛みがひどくてまた倒れてしまう。
「ריפתשתמש ב .זה בשבילך.」
軽鎧の男は怪我した方の俺の足を布できつく結んだ後、手を引いて立たせてくれた。相変わらずなんて言ってるのかは全く分からないが、彼はこのまま俺の移動を手助けしてくれるみたいだ。
手荒な応急処置だが、幸いなことに出血は止まった。支えてもらえれば、痛いけどなんとか歩くことは出来ると思う。
「す、すみません。本当に、ありがとうございます」
「ה כאילואומר ת ודה, אידיוט.」
俺はその後、軽鎧の男に支えられながらこの薄暗い森を脱出することができた。
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