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第1章 水の研究者、異世界へ
第1話 巻き込まれ召喚で異世界へ
「水は通すけど、塩などの不純物は通さない逆浸透膜というのがあります。この逆浸透膜で仕切られた容器の不純物が入った側に圧力を加えると、飲み水として使えるくらいの純水が得られるんです」
社会科見学としてこの研究所へやって来た4人の高校生たちに、日頃俺がやってる研究の触り部分を更に噛み砕いて説明する。高校生ならこのくらいの説明で何とか分かってくれるだろう。たまにやって来る小学生たちにはもっと簡単な言葉を選んで説明しなくちゃならない。
てか俺はここに入って7年目ですけど……。
こーゆー対応って、新人にやらせるべきでは?
「それで海水が飲めるようになるんですか?」
「えぇ。その通りです」
「1日でどのくらいの量を真水にできますか?」
「例えばこちらにある装置。これは小型のものですが、これ1台で1日に500リットルの海水を飲み水にすることができます」
4人の高校生の内2人は女子で、俺に色々と質問をしてくれる。
「水なんて水道捻れば出てくるけどな」
「わざわざ海水を飲む必要性は感じないね」
残るふたりは男子。彼らが言うように、この国で暮らしてたら普通は水のありがたみなんて感じないよな。仮想水の問題など、知っている人の方が少ないだろう。
「この国は水に恵まれています。でも世界にはその日を生きるために必要な量の水を確保するだけで精一杯な人々もいるんです。そこで我々は大量に存在する海水から飲み水を確保するための研究をしているんです」
女の子たちは真面目にメモを取りながら俺の話を聞いてくれるから嬉しい。男子学生ふたりは少し退屈そうにしていた。きっと女子学生たちがこの研究所を社会見学先に決めて、班員である男の子らがそれに付き合わされた感じなんだろうな。
彼ら彼女らに、たいして面白くもない話をだらだらとするおっさんだと思われたくない。だから説明はこの辺にしておこうかな。とはいえ、俺はもう31だから年齢的には既におっさんか……。
「座学はここまでにして、研究所の中を案内しましょう」
人にとって水がとても大切であるということ、それから俺の研究内容である海水から飲み水を作る方法の説明を一通り終え、俺は学生たちを引き連れて研究所見学に連れていくことにした。
「あの、関谷さん。これは何ですか?」
「はい?」
女学生に声をかけられ振り返る。
彼女の前の机に人の頭くらいある水晶が置かれていた。
なんだ、それ?
「見たことないので、おそらくこの研究所のものではありません。君たちの誰かがそこに置いたんですか?」
「いえ。気付いたらここに」
「綺麗だな、コレ」
「あっ、柳くん。勝手に触っちゃ──」
柳という男子学生が水晶に触れた瞬間、俺たちがいた部屋が光に包まれた。
──***──
「こ、ここは?」
足元も周囲も全てが真っ白な空間にいた。
自分の影がない。光源がどこにあるのかも分からない。どうやったらこんなことができるのか、全く意味の分からない空間だ。
「なに、どうなってるの!?」
「私たち、もしかして死んじゃったの?」
「柳が水晶に触るから」
「お、俺のせいだっていうのか!?」
さっきまで俺と一緒に研究所の一室にいた高校生4人も同じ場所にいる。彼らも俺と同様、影が無かった。
まさか俺たち、死んだのか?
でもなんでいきなり?
あの水晶が原因なのか?
『勇者たちよ。ようこそ我が世界へ』
頭の中に女性の声が響いた。
透き通るような聞き惚れる声だ。
慌てて周りを見渡すが、俺たち以外には誰も見えない。
「ゆ、勇者?」
「貴女は誰なんですか!?」
「なにわけわかんないこと言ってんだ!」
『私はこの世界の神です。私の世界で勢力を拡大し続ける魔族を倒し、世界を救っていただくために貴方たちを召喚しました』
「世界を、救う?」
「む、無理です」
「私たちはただの高校生です」
全く状況が分からないが、この場で大人は俺ひとり。高校生たちを無事に帰らせるのが俺の役目だ。俺が取り乱しちゃいけない。落ち着いて対応せねば。
「あの」
『ん? なんです、貴方は』
自称神だという存在は、まるで俺がこの場にいることに今はじめて気付いたかのような反応を示した。
「私、関谷 徹と申します。この子たちに私が勤めている研究所の案内をしていたところでした。私には彼らを無事にそれぞれの家まで帰らせる責任があります」
『私は異世界から若い彼ら4人を召喚したのです。大人にスキルは付与できませんから。私の召喚術に勝手に入り込みましたね?』
「勝手に、って。いや、俺は──」
なんだろう。自称神だという女性は、俺の話を全く聞く気が無いように思える。
『送り還すのも神力を消費するんです。なので貴方にはしばらく私の世界で生きてもらいますね。この子たちが世界を救ってくださった後、貴方がまだ生きていれば一緒に還してあげても良いでしょう』
なんかすごくヤバい気がした。
慌てて高校生たちに近づこうとする。
彼らと離れるわけにはいかない。
しかし、神の前で俺の行為は無駄だった。
『それでは、行ってらっしゃい』
高校生たちに向けて伸ばした手の先から俺の身体は光になって消えていった。
俺は彼らの不安そうな顔を見ながら、一言も声をかけることすらできずにその場からどこかへ強制移動させられた。
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本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
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