勇者召喚に巻き込まれた水の研究者。言葉が通じず奴隷にされても、水魔法を極めて無双する

木塚麻弥

文字の大きさ
13 / 101
第1章 水の研究者、異世界へ

第13話 覚醒

しおりを挟む

מים קְפִיצָהマイン クフィツァ!」
גיאה!ぎゃっ!

 水弾を放ち、ふたりめの騎兵を倒した。
 敵は残り8人。

אשף הושא!あいつが魔法使いだ!

「ミーナ、少し下がろう」
「わかったニャ」

 騎兵の何人か奴隷剣闘士の守りを突破して俺たちに向かってきたので、ミーナに下がってもらう。獣人の身体能力は凄まじく、俺を抱えた状態にもかかわらず敵の手から逃れることができた。ただし急加速したため、身体がバラバラになるかと思うほどの激痛が全身に走った。

「トール!? ご、ごめんニャ」

 痛みで呻く俺をミーナが心配してくれる。

「いや、大丈夫……。それより俺の手を」

 全然大丈夫なんかじゃないが、敵が迫って来ていることの方が問題だ。

מים תסתוマイン ディスドーヴ!」

 1回目のモノより小さな水の輪をまっすく俺たちに向かってくる騎兵のルート上に配置する。小さくしたので、十分な回転数にするまでの時間を短縮することができた。その高速回転する水の輪を騎兵が素通りした。

גוו,אう、ぐはっ
גושかはっ──

 素通りしたと錯覚するほど、水の輪は抵抗なく騎兵ふたりの首と胸を切り裂いた。

 敵は残り6人。

אל תיגע בזה!アレに触れるな!

 水の輪に騎兵の血が付いたせいで、存在がバレてしまった。どの道もう威力を維持できない。あと俺にできるのは水弾を数発放つことぐらいだろう。

 ここまでやって敵の闘志が折れないというのは想定外だった。

 意味の分からない攻撃で仲間が死んだのであれば、警戒して近寄ってこなくなるだろうと考えていたんだ。そうなることを望んでいた。そのタイミングで俺が魔法を使えることに気付いた運営側がこの戦いを止めてくれることも期待していた。

 しかしそうはならず、今もこうして敵は俺たちに迫ってくる。


「──っ! ミーナ、右だ!!」
「えっ」

 前方から迫る騎兵に意識を集中しすぎたせいで、別の方向から忍び寄ってきた敵に気付けなかった。そいつは馬を降り、逃げ惑う奴隷剣闘士に紛れて俺たちに襲い掛かってきたんだ。

לָמוּת死ねぇ!」
「ミーナ!!」

 敵がミーナに刺突を放つ。

「てやっ!」
גוהאぐはっ

 ミーナは後ろ蹴りで敵を吹き飛ばした。人族の数倍の脚力があるという獣人の本気の蹴りにより、襲い掛かってきた敵は地面に倒れたまま起き上がらない。

 仲間の奴隷剣闘士は十数人やられたが、敵もこれで半分に減った。俺の魔法であとふたりくらい倒せれば、ミーナと他の奴隷剣闘士たちの協力次第で勝てるかもしれない。そんな希望を見出した時──


「と、トール。ごめんニャ」
「ミーナ?」

 俺を支えてくれていたミーナが地面に倒れた。当然俺も立っていられず、彼女の上に倒れてしまう。

「ウチ、避けられなかったニャ」
「ま、まさか、さっきの攻撃で!?」

 身体の痛みなど無視して上半身を起こし、ミーナの身体を確認する。

 右脇腹から激しく血が流れていた。

 刺突を避けて反撃したかと思っていたが、敵の攻撃は当たっていたらしい。いや、彼女の運動能力であれば十分回避できたはず。回避できなかったのは俺のせいだ。

「ミーナ。俺を、守ってくれたのか」

「当然ニャ。トールが死んだら、この戦いに希望は無くなるニャ」

 そう思っているのは彼女だけではなかったらしく、何人かの奴隷剣闘士たちが集まり、騎兵と俺たちの間に立って盾となってくれている。騎兵はというと、ひとりを残して4騎は逃げた奴隷剣闘士を仕留めに行った。

 ここに残った騎兵はおそらく、俺の行動を監視するのが目的なのだろう。俺さえ自由にさせなければ、奴隷剣闘士側に勝利の可能性はないと理解している。ミーナという機動力を失い、自力で動けなくなった俺など脅威とみなされないようだ。

「トール。あなたは絶対に、死んじゃダメニャ。ここから外に出て、自由に生きてほしいニャ。元の世界にも、帰れると良いニャ」

 ミーナが息も絶え絶えに訴えかけてくる。
 その姿が実に儚く、とても美しく見えた。

「ダメだ! 君も一緒にここから出るんだよ!」

 必死に彼女の傷口を抑えるが、あふれ出す血が止まらない。

「奴隷になって死ぬなんて、最低だと思ってたけど……。トールとお話しできて、良かったニャ。あとはトールさえ、生き延びてくれれば」

「いやだ、諦めないでくれ! 俺が何とかするから!! 絶対に助けるから!!」

「あっ……。もしかしたらウチの、水として使えるんじゃないかニャ。トールに全部使ってもらえるなら、ウチは幸せニャ」

 ミーナが震える手で差し出してきたのは、したたり落ちる彼女の血液。

 俺がその手を取ると、ミーナは満足したかのような表情を見せて意識を失った。まだ脈はあるが、かなり出血しているため猶予はない。

 俺はこの絶望的状況で、一筋の希望を見出していた。

 ミーナの言葉で気づいてしまった。確かに血液の約90%は水分だ。水操作で動かせるかもしれない。血液のままでは動かせないとしても、“分離せよ”というこの世界の言葉は昨晩、彼女に教えてもらった。

 試してみる価値はある!


מים להפריד לִרְקוֹד!マイン レファフィリード リクォード!」


 血液が分離し、周囲を透明な水が舞う。

 俺は賭けに勝ったんだ。
 この瞬間、俺は水魔法の真の力に覚醒した。

מים תתמוך ביマイン デトゥモート!」

 水が俺の身体を支え、イメージ通りに動かしてくれる。

 水魔法の欠点は、強制結露によって水を集めるのに非常に多くの魔力を消費してしまうというもの。仮に魔力が十分に含まれた水が存在すれば、それを水操作で動かすのにほとんど魔力を消費しない。

 そして血液は、だった。


 この世界の仕組みと俺の知識が適合した。
 もう俺に恐れるものなど何もない。


עניבה מיםマイン アニヴァ

 ミーナの傷を水分量を調整した血液で止血。それと同時に破れた臓器の細胞同士を強制的に結合させた。動物細胞の60%くらいは水なんだ。一部でも目視できれば、俺はそれを自在に操れる。

 ただ、完全に怪我を治癒できたわけじゃない。一時的に細胞同士をくっつけて、正常に近い状態にしただけ。なんとか死は免れるはずだから、後ほどちゃんとした医者に診てもらおう。

「……これできっと大丈夫。少し待っててね、ミーナ」

 ちょうどその時、逃げていた奴隷剣闘士を殺し終えた騎兵たちが集まってきた。俺とミーナを守ってくれていた数人の奴隷剣闘士たちは恐怖で身体を震わせている。

 もう大丈夫だ。

 人体の約60%が水で出来ている。
 俺はそれを操る術を得たんだ。

 ミーナがくれた血を使う必要もない。
 闘うための血液は敵が用意してくれた。

 仲間だった奴隷剣闘士たちの亡骸から大量の血が流れ出ている。これら全てを操れるという確信があった。ミーナの血液を少し操らせてもらったから、その感覚を身に着けることができたみたい。



 さぁ、反撃の時間だ。



מים להפריד קְפִיצָה!マイン レファフィリード クフィツァ!」

 騎兵たちの周囲に転がる死体の血液を分離し、水を調達する。その水を弾丸にして騎兵たちを攻撃した。

גווうぎゃ
גוהאぐはっ
כְּאֵב痛ってぇ!
 
 ひとりは太ももに被弾し、落馬した。それ以外の4人は多少の血を流したものの、戦闘の意志は消えていない。それでも問題はない。

「俺の攻撃は、ここからだ」

 今の水弾は本攻撃の前の準備に過ぎない。
 敵に流血させることが目的だった。

 これで敵全員の血液を目視できるようになった。

 つまり、彼らの肉体の6割は俺が好きにできるということ。

 情けなどかけない。
 ここでは敵を憐れむ感情など不要だ。

 騎兵たちに向けて手を掲げる。
 何人かは避ける素振りを見せたがもう遅い。


מים להלְהִתְ פּוֹצֵץ!マイン レファフィリード ラツォート!」

 詠唱と同時に開いた手のひらをギュッと握る。

 5人の騎兵たちがまるで水風船を握り潰した時のように膨らみ、そして大量の血しぶきと共に弾けた。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

処理中です...