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第1章 水の研究者、異世界へ

第17話 自動防御魔法と旅立ち

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 奴隷身分から解放されて2週間ほど経過していたが、俺とミーナはまだコロッセオがある街から移動していない。

 というのも目的地が決まらないからだ。この世界では情報通信技術がほとんど発達しておらず、他の大陸の状況などがほとんど伝わってこない。そのため、俺の目的である高校生たちの所在や現状というのが全くわからなかった。

 コロッセオの統治者ができるだけ情報を集めてくれるというので、俺たちはその結果を待っている。ちなみにこの2週間で5回ほど夜襲されたが、その全てを返り討ちにしてやった。魔力を含ませた水を常に持ち歩くようにして、夜寝る時は部屋への侵入者を自動で高速する水魔法を生み出したことで安全に過ごせている。

 ただ、まったく問題が無いというわけではない。

 拠点としている部屋の扉が開き、暗い顔のミーナが入ってきた。

「トール。地下室に拘束してた襲撃者だけど、また殺されてたにゃ」

「……そうか」

 俺たちを襲わせている黒幕を聞き出そうとしているのだが、やっぱり暗殺に来るような奴らは口が堅い。俺もミーナも拷問なんてしたことないから、色々と脅してみるけど上手くいっていなかった。そして仕方なく宿屋の地下室を借りて拘束しているのだが、3日もしないうちに別の暗殺者によって殺されてしまう。

 襲撃者を自動で拘束する水魔法は、俺から数メートル離れると1時間くらいで効果がなくなってしまう。だから拘束している者を守れないんだ。かといって俺たちを殺しに来た奴と同じ部屋で寝るなんて絶対に無理。

 ていうか、暗殺に失敗しても生きてるんだから、そのまま連れて帰ればいいのに。なんで殺すんだよ。一度失敗したら、絶対に死ななきゃいけないルールなんだろうか。闇の世界に生きてる人たちって怖いな。かわいそうなのは暗殺者の死体を片付けることになる宿の従業員さんたち。何度もごめんなさい。

「そろそろこの街、出た方がよくないかニャ?」

「んー、そうだね。統治者のオッサンが情報集めてくれるって言うからこうして待ってるけど、あの人が黒幕の可能性もあるんだよな」

 協力的な感じで接してくれるが、あの人は俺たちが子の街にいることで支配力を弱めている。彼は圧倒的な戦力の私兵団を保有して街の治安を維持し、コロッセオの運営をしていた。しかしその私兵団が全員でかかっても俺を倒せないだろうと住人が思い始め、街のいたるところで私兵団と住人の衝突が起きているみたい。

 だから俺たちには早く出ていって欲しいはず。

 たぶん、3回目くらいまでは統治者が差し向けた暗殺者だったんじゃないかと思う。隠し持ってた暗器の質が良かったし、暗殺者を拘束した日に統治者の所に会いに行ったら俺の来訪にかなり驚いていたから。

 彼が黒幕だという確信はなかったけど、“次があったら、容赦しないよ”って脅しておいた。当然統治者は何のことか分からないと言ったが、金を要求したらすぐに持ってきてくれた。それで一応許したことにして、彼にも暗殺を諦めてもらおうとした。

 それでも4回目と、昨晩5回目の夜襲があった。ちなみに水が自動で侵入者を拘束するので、その水から逃れて撤退した奴もいるかもしれない。

「ウチら、結構お金持ってるってバレてるからニャ」

「うん。その金を狙った盗賊かもしれないし、俺が殺した騎兵たちの仲間って可能性もあるな。とにかく俺ら、ここで敵を作りすぎた」

 ここに留まって暗殺者を撃退し続けながら情報が入ってくるのを待つのもいいけど、撃退が今後もずっと上手くいくとは限らない。俺の水魔法に関する情報が少しづつ敵に把握されていけば、いつかは自動防御の隙を突かれるかもしれない。食事に毒を混ぜられる可能性もある。

 目立ってしまうと、良いことなんてほとんどない。

「よし、決めた。今からこの街を出よう」

「トールは思い切りが良いニャ」

「なにか問題あるかな? 旅に必要なものは一通り買い揃えてるし」

「ウチは大丈夫にゃ。トールについてくニャ」

「ありがと。それじゃ、最後にオッサンのとこに顔出して出発だ」


 ──***──

「そんなわけで、俺たち今からこの街を出ますね。お世話になりました」

לצאת. טיפלו בי今日街を出る、と言ってます

 俺の言葉を統治者の付き人が翻訳してくれる。ちなみにミーナが俺の旅に同行してくれることになり、半ば強制的に連行されないと知った時、彼は涙を流して喜んでいた。そんなに俺についてくるの嫌だったんだと、少しショックだった。

הזדרז. לאן אתה הולךきゅ、急ですね。どこへ行くのです?

「俺と一緒にこの世界に来た子どもたちを探します」

 まだ完璧ではないものの、短い言葉であれば言っていることを理解できるようになった。話すのは厳しいので、ここ以外ではミーナにお願いするつもり。

「でもまだ彼らがどこにいるかは分からないので、とりあえず先に彼女の傷を治せるような薬を探しに行こうかなと」

「傷って、ウチの身体の?」

「そう。今朝も気にしてただろ、ミーナ」

 鏡の前で、身体に残った小さな傷に触れながら溜息をつく彼女を見てしまった。俺は気にしないが、女の子が傷だらけの身体ってのも良くないだろう。

「み、見てたのかニャ」

「ごめんね。でも古傷が治せるような強い薬はこれから役に立つはず。ミーナのためでもあるけど、俺が目的を果たすためにも入手しておきたいんだ」

לשדון י ,ש ה הסםエルフの薬なら、過去の傷も治る

「エルフの……。そうですか、ありがとうございます!」

 良いことを聞いた。
 そして目的地が決定した。

 その後、統治者が用意してくれた馬に乗り、俺たちはコロッセオの街を出た。


「いざ、エルフの薬を求めて。エルフの国、ミスティナスへ!!」
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