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二人の馴れ初め 上
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「なんでおばあちゃんは、おじいちゃんと結婚したのかなって思って。だって、おじいちゃんの顔ってこわいじゃん」
鈴香はロールケーキを口に運びながら、質問をする。
孫だからこそ許される歯に衣着せぬ物言いに、宏は口を結んで天を仰ぐ。
「ブフゥッ!」
正は宏の顔を見て、堪らず吹き出してしまう。
「おい」
それを注意する源だが、正と同様に堪えきれずに笑っている。
「いや、だってよ、あの顔をされたら堪んねぇよ」
「そうだけどよ、なあ?」
「お前さんだって笑ってるじゃねぇか」
「お前が笑ったから、つられただけだ」
「どうだがな」
正は笑いながら酒を口にする。そうは言いつつも源も笑いながら、宏のグラスにトングで氷を入れる。
それから阿吽の呼吸で、正が焼酎を注ぐと源が水を注ぎ足す。宏はそれに掻き混ぜ棒を突っ込み、荒っぽく掻き回す。マサゲンの二人は、おっと、と顔を作ってそれぞれのグラスを手に持つ。宏は「ふん」と鼻を鳴らしてグラスを持つと、三人はグラスを合わせる。
鈴香はなぜそのような状況になったのが分からないのか、キョトンとしてその様子を眺める。佳子はそれを見て、クスリと笑う。
「正直言うとね、初めておじいちゃんと会った時に、おばあちゃんも同じことを思ったの」
「やっぱり」
鈴香はフォークを口にして笑う。
「それに、おじいちゃんて無口っていうよりまったく喋らないでしょ? 初めて会った時にいくら話しかけたって何も答えてくれなくて、ただ頷くだけだったの」
「えー、おじいちゃんひどい。初めて会った時ってことは、お見合いの時だったんでしょ?」
鈴香は腕を斜めにして振り、『カコーン』と、ししおどしの真似をする。
「そうよ。おばあちゃんはその時そんなこと知らなかったから、嫌われちゃったんだなと思ったの」
「えーーー、サイテー」
宏はマサゲンから見つめられて何か仕返しをしたいが、愛する孫からも見つめられているため少しだけ表情を変える。
「あらあら、おじいちゃんが困ってるから、この辺でやめにしましょうか」
「えー、やだー」
「そうだ、そうだ。鈴ちゃんもっと言え、なあ?」
「おうさ、こんなにも良い酒の肴があるかってんだ」
「ちょっと、お二人さん。静香をそそのかさないで」
普段とは違う、乙女めいた雰囲気が佳子から漂う。
それに気が付いたマサゲンがニヤニヤと笑い合うと、厨房から「トン」と、包丁の背でまな板を叩く音が聞こえる。
笑い合っていた二人は同時に眉毛を上にあげて小さく仰け反り、源は「おー、こわいこわい」と肩を竦めて隠れるように小さくなって酒を飲み、正の方は小さく顎を振って鈴香に合図を送る。
小さくウィンクをして、鈴香はそれ応える。
「おばあちゃん知ってる? 乙女にとっての恋バナは、甘いものの肴なんだよ」
鈴香は顔の前でフォークを小刻みに振り、学校の先生みたいに『この世の理』を佳子に説いてみせる。
「そりゃあ良い」
源はパンッと手を叩き、すぐさまその言葉に飛びつく。
「鈴ちゃん、その通りだ。なあ?」
「おうよ、これには神や仏もびっくりだ」
鈴香は、ふふんと鼻を高くする。
「もう、しょうがないわね。どこで覚えたのよ、そんな言葉」
「今、考えた」
「もう、でもおばあちゃんはお婆ちゃんで、乙女じゃないわよ」
「おいおい、何を言ってんだ。勘違いをしてもらっちゃぁ困る。女の人はいくつになっても乙女のまんまだ、なあ?」
「そうさ、酒を飲んでもねぇのに頬を赤らめるのは、好きな人に思いを寄せる乙女にしかてきねぇ芸当だ」
源は正を見る。
「おい、何だか今日は調子が良いな」
「おうさ、この店の初代と三代目の看板娘がここにいるんだ。腕が鳴らあぜ」
正は腕をL字にして、力こぶの辺りをパンッと叩く。すぐさま厨房からドン! と、音がして、正はビクッと肩を上げてから、そーっと振り向く。
「冗談じゃねぇか」
正はグラスを差し出すが、宏はフン! と顎をしゃくる。
「この世で一番怒らしちゃいけない相手を怒らせたみてぇだな」
源は正の肩をバシバシと叩く。
宏は源のことをギロリと睨む。
「おっと」
源はその身を大袈裟に反らす。
「お前さんも同罪らしいな」
正は、くっくっくっと、肩を揺らす。
佳子はそのやりとりを見て、呆れながらも笑顔を浮かべる。
「ねぇ、お婆ちゃん。お見合いって『あとは若い二人で』ってやつは本当にあるの?」
「今はどうだか分からないけれど、おばあちゃんの時はあったわよ」
「そうなんだー」
鈴香は目を輝かせる。
「服は着物だったの?」
「そこまでじゃないわ。綺麗な格好はしていったけれど、着物を着るほどかしこまった雰囲気のものじゃなかったわ」
「カコーンは?」
「あったわよ」
ロールケーキを食べ終えた佳子は、両手で湯呑みを持って鈴香に笑い掛ける。
「気になるの?」
「だってお見合いって聞いたことあるけれど、見た時ないんだもん」
「そうよね。おばあちゃんの時でさえ恋愛結婚が主流になっていて、周りの人達はお付き合いをしてから結婚というのが多かったからね」
「それなら何でお見合いをしたの?」
「えー、ちょっと恥ずかしいな」
「何でー、聞かせてよー」
テーブル席では、乙女が恋バナに花を咲かせ始めている。カウンター席に座る二人は、厨房からの厳しい視線を躱しつつ、その話に耳を傾ける。
「しょうがないわね」
佳子は両手に包まれている湯呑みを見つめて、あの日の時を思い出す。
鈴香はロールケーキを口に運びながら、質問をする。
孫だからこそ許される歯に衣着せぬ物言いに、宏は口を結んで天を仰ぐ。
「ブフゥッ!」
正は宏の顔を見て、堪らず吹き出してしまう。
「おい」
それを注意する源だが、正と同様に堪えきれずに笑っている。
「いや、だってよ、あの顔をされたら堪んねぇよ」
「そうだけどよ、なあ?」
「お前さんだって笑ってるじゃねぇか」
「お前が笑ったから、つられただけだ」
「どうだがな」
正は笑いながら酒を口にする。そうは言いつつも源も笑いながら、宏のグラスにトングで氷を入れる。
それから阿吽の呼吸で、正が焼酎を注ぐと源が水を注ぎ足す。宏はそれに掻き混ぜ棒を突っ込み、荒っぽく掻き回す。マサゲンの二人は、おっと、と顔を作ってそれぞれのグラスを手に持つ。宏は「ふん」と鼻を鳴らしてグラスを持つと、三人はグラスを合わせる。
鈴香はなぜそのような状況になったのが分からないのか、キョトンとしてその様子を眺める。佳子はそれを見て、クスリと笑う。
「正直言うとね、初めておじいちゃんと会った時に、おばあちゃんも同じことを思ったの」
「やっぱり」
鈴香はフォークを口にして笑う。
「それに、おじいちゃんて無口っていうよりまったく喋らないでしょ? 初めて会った時にいくら話しかけたって何も答えてくれなくて、ただ頷くだけだったの」
「えー、おじいちゃんひどい。初めて会った時ってことは、お見合いの時だったんでしょ?」
鈴香は腕を斜めにして振り、『カコーン』と、ししおどしの真似をする。
「そうよ。おばあちゃんはその時そんなこと知らなかったから、嫌われちゃったんだなと思ったの」
「えーーー、サイテー」
宏はマサゲンから見つめられて何か仕返しをしたいが、愛する孫からも見つめられているため少しだけ表情を変える。
「あらあら、おじいちゃんが困ってるから、この辺でやめにしましょうか」
「えー、やだー」
「そうだ、そうだ。鈴ちゃんもっと言え、なあ?」
「おうさ、こんなにも良い酒の肴があるかってんだ」
「ちょっと、お二人さん。静香をそそのかさないで」
普段とは違う、乙女めいた雰囲気が佳子から漂う。
それに気が付いたマサゲンがニヤニヤと笑い合うと、厨房から「トン」と、包丁の背でまな板を叩く音が聞こえる。
笑い合っていた二人は同時に眉毛を上にあげて小さく仰け反り、源は「おー、こわいこわい」と肩を竦めて隠れるように小さくなって酒を飲み、正の方は小さく顎を振って鈴香に合図を送る。
小さくウィンクをして、鈴香はそれ応える。
「おばあちゃん知ってる? 乙女にとっての恋バナは、甘いものの肴なんだよ」
鈴香は顔の前でフォークを小刻みに振り、学校の先生みたいに『この世の理』を佳子に説いてみせる。
「そりゃあ良い」
源はパンッと手を叩き、すぐさまその言葉に飛びつく。
「鈴ちゃん、その通りだ。なあ?」
「おうよ、これには神や仏もびっくりだ」
鈴香は、ふふんと鼻を高くする。
「もう、しょうがないわね。どこで覚えたのよ、そんな言葉」
「今、考えた」
「もう、でもおばあちゃんはお婆ちゃんで、乙女じゃないわよ」
「おいおい、何を言ってんだ。勘違いをしてもらっちゃぁ困る。女の人はいくつになっても乙女のまんまだ、なあ?」
「そうさ、酒を飲んでもねぇのに頬を赤らめるのは、好きな人に思いを寄せる乙女にしかてきねぇ芸当だ」
源は正を見る。
「おい、何だか今日は調子が良いな」
「おうさ、この店の初代と三代目の看板娘がここにいるんだ。腕が鳴らあぜ」
正は腕をL字にして、力こぶの辺りをパンッと叩く。すぐさま厨房からドン! と、音がして、正はビクッと肩を上げてから、そーっと振り向く。
「冗談じゃねぇか」
正はグラスを差し出すが、宏はフン! と顎をしゃくる。
「この世で一番怒らしちゃいけない相手を怒らせたみてぇだな」
源は正の肩をバシバシと叩く。
宏は源のことをギロリと睨む。
「おっと」
源はその身を大袈裟に反らす。
「お前さんも同罪らしいな」
正は、くっくっくっと、肩を揺らす。
佳子はそのやりとりを見て、呆れながらも笑顔を浮かべる。
「ねぇ、お婆ちゃん。お見合いって『あとは若い二人で』ってやつは本当にあるの?」
「今はどうだか分からないけれど、おばあちゃんの時はあったわよ」
「そうなんだー」
鈴香は目を輝かせる。
「服は着物だったの?」
「そこまでじゃないわ。綺麗な格好はしていったけれど、着物を着るほどかしこまった雰囲気のものじゃなかったわ」
「カコーンは?」
「あったわよ」
ロールケーキを食べ終えた佳子は、両手で湯呑みを持って鈴香に笑い掛ける。
「気になるの?」
「だってお見合いって聞いたことあるけれど、見た時ないんだもん」
「そうよね。おばあちゃんの時でさえ恋愛結婚が主流になっていて、周りの人達はお付き合いをしてから結婚というのが多かったからね」
「それなら何でお見合いをしたの?」
「えー、ちょっと恥ずかしいな」
「何でー、聞かせてよー」
テーブル席では、乙女が恋バナに花を咲かせ始めている。カウンター席に座る二人は、厨房からの厳しい視線を躱しつつ、その話に耳を傾ける。
「しょうがないわね」
佳子は両手に包まれている湯呑みを見つめて、あの日の時を思い出す。
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