5 / 5
Episode1「別れ」
第5話
しおりを挟む
『時間は、午前中の9時頃どうかな?』
私は「大丈夫ですよ」とそばに置いてあったメモ帳に「6/3 午前9時お姉さんと外出」とだけメモした。
その、高校時代に仲が良くなかったという明里さんの姿、顔が、バタバタという足音が響いた後に玄関の扉が開いて見えると、千奈津さんは背後にいる私にすら分かるくらい、ぎこちない口調で「……よっ、久しぶり」と声をかけていた。
彼女、明里さんは「うん…久しぶりだね。元気にしてた?」と、どうしてか千奈津さん同様にぎこちなく、しかし親しげに声をかけてくる。私は扉の閉まった玄関でシューズを脱ぎながら、既に先に廊下へと上がっている千奈津さんの姿と彼女を見上げていた。
「うん、まぁ。明里は?」
「元気だった」
「…そっか」
それ以上、話は盛り上がらなかった。どこか親しげに聞こえる会話のトーン。でも内容はほとんど空っぽだ。社交辞令的で、でもどこか懐かしい関係を伺わせる口調。この関係は、二人は一体どういう仲なんだろう。確か千奈津さんは、『高校時代の知り合いがね、私に学生時代ぶりに連絡よこして来てね?相談したいことがあるらしいんだけど、その子と……その、あんまり仲良くなくてね?でも何か断りにくかったんだ。』と言っていなかっただろうか。目を激しく瞬き、もう一方のシューズに右手をかけて脱ぎながら、私は考えた。
―――この……関係は?
さして賢くもない頭で考える。学生時代ぶりの電話をかける人物…。明里は?と言う呼び会える仲。でも社交辞令的な会話しかしない関係…。どういうこと?
だが、その時だった。
―――何か、あったんだよ。
脳裏に、勝手に考えてもいなかった言葉が現れた。星がさらさらと煌きながら流れていくように。鮮明なトーンで脳裏に流れ出た『話し口調』の思考的な言葉に、私は思わず右手に掴んで脱いでいたシューズを、身体の動きをピタリと止めて床にポタッと言う音を立てて落としていた。その音が聞こえたのか、千奈津さんが振り向いて私に、なっちゃん?と声を投げる。え、と声を漏らすと私はふたりを見上げた。やがて、キョトンとこちらを見ている二人を見上げ。あ……はは…、などと奇妙な作り笑顔を見せて慌てて落としたシューズを拾うと、左右に揃えて二人が立つ廊下へと上がった。
玄関から伸びた廊下は、まっすぐ奥に向かう。右側には旦那さんの書斎があり、左側にキッチンやリビングに進む廊下の枝葉があるようだ。まっすぐ廊下を進んだ突き当りに、洗面所があり、彼女、明里さんは、リビングに案内する際私達に「ここにトイレがあるから、好きに使って下さい」と言ってくれた。
彼女、明里さんはリビングの私のシューズと同じグレーカラーのソファに、私と千奈津さんを座らせた。明里さんはそんな私達の座る場所から、よく見えるリビングに繋がったキッチンへと向かった。
私は「大丈夫ですよ」とそばに置いてあったメモ帳に「6/3 午前9時お姉さんと外出」とだけメモした。
その、高校時代に仲が良くなかったという明里さんの姿、顔が、バタバタという足音が響いた後に玄関の扉が開いて見えると、千奈津さんは背後にいる私にすら分かるくらい、ぎこちない口調で「……よっ、久しぶり」と声をかけていた。
彼女、明里さんは「うん…久しぶりだね。元気にしてた?」と、どうしてか千奈津さん同様にぎこちなく、しかし親しげに声をかけてくる。私は扉の閉まった玄関でシューズを脱ぎながら、既に先に廊下へと上がっている千奈津さんの姿と彼女を見上げていた。
「うん、まぁ。明里は?」
「元気だった」
「…そっか」
それ以上、話は盛り上がらなかった。どこか親しげに聞こえる会話のトーン。でも内容はほとんど空っぽだ。社交辞令的で、でもどこか懐かしい関係を伺わせる口調。この関係は、二人は一体どういう仲なんだろう。確か千奈津さんは、『高校時代の知り合いがね、私に学生時代ぶりに連絡よこして来てね?相談したいことがあるらしいんだけど、その子と……その、あんまり仲良くなくてね?でも何か断りにくかったんだ。』と言っていなかっただろうか。目を激しく瞬き、もう一方のシューズに右手をかけて脱ぎながら、私は考えた。
―――この……関係は?
さして賢くもない頭で考える。学生時代ぶりの電話をかける人物…。明里は?と言う呼び会える仲。でも社交辞令的な会話しかしない関係…。どういうこと?
だが、その時だった。
―――何か、あったんだよ。
脳裏に、勝手に考えてもいなかった言葉が現れた。星がさらさらと煌きながら流れていくように。鮮明なトーンで脳裏に流れ出た『話し口調』の思考的な言葉に、私は思わず右手に掴んで脱いでいたシューズを、身体の動きをピタリと止めて床にポタッと言う音を立てて落としていた。その音が聞こえたのか、千奈津さんが振り向いて私に、なっちゃん?と声を投げる。え、と声を漏らすと私はふたりを見上げた。やがて、キョトンとこちらを見ている二人を見上げ。あ……はは…、などと奇妙な作り笑顔を見せて慌てて落としたシューズを拾うと、左右に揃えて二人が立つ廊下へと上がった。
玄関から伸びた廊下は、まっすぐ奥に向かう。右側には旦那さんの書斎があり、左側にキッチンやリビングに進む廊下の枝葉があるようだ。まっすぐ廊下を進んだ突き当りに、洗面所があり、彼女、明里さんは、リビングに案内する際私達に「ここにトイレがあるから、好きに使って下さい」と言ってくれた。
彼女、明里さんはリビングの私のシューズと同じグレーカラーのソファに、私と千奈津さんを座らせた。明里さんはそんな私達の座る場所から、よく見えるリビングに繋がったキッチンへと向かった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる