【完結】君は話なんか聞かない

ぽぽよ

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 ジュリアスの家にセシリアがやってきたのは5年前だ。

 平民に落ちたセシリアを、レイヴンクロフト家が引き取った。セシリアは善意と信じているが、そうではない。ジュリアスがセシリアを欲しいと父に頼み込んだのだ。セシリアは知らないが、会ったのはたった一度だけ。

 礼拝堂の祈祷席で、セシリアと隣になったことがあった。

 低く響く司祭の祝詞を聞きながら、セシリアは一心不乱に神に祈りを捧げていた。

 手を組み目を伏せる姿はとても真摯で、ジュリアスは一瞬で心を掴まれたのだ。

 肩が触れそうな距離で、彼女の息づかいをずっと聞いていた。

 洗礼式が終わった後も、彼女のことが忘れられなくて、好きでもない教会に足繁く通った。

 少しずつ彼女の情報を仕入れた。

 名前とか、年齢とか、普段どこに座るのかとか。

 あの日以来会えなかったが、彼女が不遇な事態に陥ると分かったときは、我を忘れて父に拝み倒したのを覚えている。

 自分しか助けられないのだと、本気で思ったのだ。

 そうして彼女は家に来た。

 後で知った話だが、あの時、彼女は祈っていたのではなく、ただ司祭の声に聞き惚れていただけだった。彼女らしいと思いつつ、ジュリアスは真実に心底がっかりした。

 あの頃から、セシリアは何も変わっていない。

 声に夢中で、他のことには無頓着。

 それが彼女なのだ。

 分かっていたはずだがーー

 ジュリアスは自室の扉を閉めて、ため息をついた。

 胸の中には、焼け付くような後味の悪さが残っていた。意趣返しのつもりだったが、言ったジュリアス自身も傷ついた。

 近づいても遠ざかっても、結局苦しいのはジュリアスだけだ。

 浮ついて、沈んで。

 いい加減、疲れていた。

 いくら態度で示しても、セシリアは気付かない。

 だったらいっそのこと、気持ちを叩きつけてみようか。

 そう考えてジュリアスは頭を振った。

 告白するだけなら簡単だ。

 ただ一言「好き」と伝えるだけでいい。

 だが、求めているのはその先だ。

 好き同士になれなければ意味はない。

 しかし、告白を受け入れるセシリアが想像できない。

「ありがとうございます」といつもの笑顔で流されるか、「私なんかが」と困惑するか。

 どちらにしても、今の関係は崩れてしまう。

 生真面目なセシリアは、きっとジュリアスの側から離れていく。

 それだけは容易に想像できた。

 ジュリアスは顔を覆った。

 拒絶されるのは怖い。

 きっとこのまま何も言わずにいれば、彼女はジュリアスの側にいてくれるだろう。

 しかし、それは絶対ではない。いつか必ず終わりは来る。

 セシリア以外の女を娶って、ジュリアス以外の男がセシリアの隣に立つ未来。

 想像したとたん、心臓がひやりとした。

 ジュリアスは顔を上げた。

 明日、セシリアに伝えよう。

 この気持ちを、ちゃんと言葉にする。

 どっちに転んでも、ケジメをつける。

 ジュリアスは、覚悟を決めた。
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