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「俺の声のどこがいいわけ?」
ジュリアス・レイヴンクロフトは、側付き侍女セシリア・ブルーメに問うた。
ほんの少し興味を持っただけだった。
しかし、問いかけてすぐ後悔した。
「全部です!特にそのかすれた低音。一聴すると籠もって聞こえるんですが、聞き取りづらいなんてことはなく、しっかり綺麗に届きます。そして、その低音が脳みそを溶かすように響いて――」
「待て待て待て待て」
思っていたよりも数倍上を行く熱量で捲し立てられ、ジュリアスは唖然となった。
「あれ?まだ語れますが…」
小首を傾げるセシリアをジュリアスは、「もういい」と片手で制した。
「いや、でも!坊っちゃんの声帯は朝は掠れて色っぽく、昼は張りがあり、夜は少し柔らかく、時間帯で変化する一つの声帯で三度美味しいで―――」
「もういい!」
声を上げて遮るとセシリアは唇を尖らせた。
三度美味しいってなんだよ。
ジュリアスは呆れ、ため息を吐いた。
「あー、俺の声が好きだってのは良く分かった」
「あ♡いいですね、その『あー』もっとください」
神に祈るような仕草で、セシリアはジュリアスを見上げてくる。
彼女は声をせがんでいるのだが、ジュリアスには全く別のものを求めているようにしか見えない。
少し気を抜くとその唇に吸い寄せられそうになる。
ぐらつく理性を押さえ込み、ジュリアスは彼女の頭に手刀を落とした。
「あうち」とセシリアが頭を抑えた。
「俺の前でその顔をするな」
ジュリアスは凄んだ後、視線を逸らした。
好きな子に間近でそんな顔されれば触れたくなるに決まっている。
だというのに、ジュリアスの気持ちを知らないセシリアは、呆れるほど無防備だった。
都度、彼女はこうして精神攻撃を仕掛けてくる。
ジュリアスはセシリアを自業自得だと睨んだ。
「他にないのか」
「他とは?」
「俺の良いところ。もっとあるだろ」
催促するも、セシリアの反応は薄い。
「そうですねぇ。黒髪で紫目で格好いいですし、それから、顔も整っていて格好いいです。背もすらっと高くて脚も長いし格好いいと思います」
適当に言ってるのが丸わかりだ。
ジュリアスの顔が引きつった。
セシリアは、言い切ったと満足そうに頷いている。
「他は?」
「他は…お優しいです」
以上。
ジュリアスは、肺の空気を出し切る勢いで盛大なため息をついた。
「お前の俺に対する気持ちがよく分かった」
ジュリアスは苛々しながら額を押さえ、項垂れた。
事実は無情だ。
直後、セシリアが焦った声を上げた。
「本当ですよ?本当に坊っちゃんは世界一お優しい方だと思っているのです!私のような者を引き取ってくださって!」
ジュリアスは、じろりとセシリアを見た。
欲しい言葉は、そうではないのだ。
再度大きなため息を吐いた。
今に始まったことではない。
セシリア・ブルーメとはこういう女なのだ。
「もういい、戻る」
淡い期待を抱いた自分が馬鹿だった。
虚しくなったジュリアスが踵を返すと、「お待ちください」とセシリアに袖を引かれた。
「何?」
振り返った先で、彼女は期待に満ちた目で自分を見上げていた。
その表情につい期待してしまう。
彼女の唇が薄く開かれる。
「もう一度、何か話していただけませんか?」
「は?」
「坊っちゃんの声、もっと聞きたいんです」
ジュリアスは呆れた。ときめきを返せ。
「…お前、本当にうざい」
「うざい!?」
セシリアは、うわずった声を上げ、よろめいた。
「うざい。かなりうざい」
ジュリアスは、吐き捨てて腕を振り払った。
ふんと鼻を鳴らして、背を向けた。
背後から「坊っちゃん、ごめんなさい」とセシリアの情けない声が聞こえた。
胸の奥がずきりとしたが、あえて無視した。
小さな仕返しのつもりが、もう揺らいでいる自分がいる。
拗れているな、とジュリアスは自嘲した。
それでも、こうでもしないとやっていられなかった。
ジュリアス・レイヴンクロフトは、側付き侍女セシリア・ブルーメに問うた。
ほんの少し興味を持っただけだった。
しかし、問いかけてすぐ後悔した。
「全部です!特にそのかすれた低音。一聴すると籠もって聞こえるんですが、聞き取りづらいなんてことはなく、しっかり綺麗に届きます。そして、その低音が脳みそを溶かすように響いて――」
「待て待て待て待て」
思っていたよりも数倍上を行く熱量で捲し立てられ、ジュリアスは唖然となった。
「あれ?まだ語れますが…」
小首を傾げるセシリアをジュリアスは、「もういい」と片手で制した。
「いや、でも!坊っちゃんの声帯は朝は掠れて色っぽく、昼は張りがあり、夜は少し柔らかく、時間帯で変化する一つの声帯で三度美味しいで―――」
「もういい!」
声を上げて遮るとセシリアは唇を尖らせた。
三度美味しいってなんだよ。
ジュリアスは呆れ、ため息を吐いた。
「あー、俺の声が好きだってのは良く分かった」
「あ♡いいですね、その『あー』もっとください」
神に祈るような仕草で、セシリアはジュリアスを見上げてくる。
彼女は声をせがんでいるのだが、ジュリアスには全く別のものを求めているようにしか見えない。
少し気を抜くとその唇に吸い寄せられそうになる。
ぐらつく理性を押さえ込み、ジュリアスは彼女の頭に手刀を落とした。
「あうち」とセシリアが頭を抑えた。
「俺の前でその顔をするな」
ジュリアスは凄んだ後、視線を逸らした。
好きな子に間近でそんな顔されれば触れたくなるに決まっている。
だというのに、ジュリアスの気持ちを知らないセシリアは、呆れるほど無防備だった。
都度、彼女はこうして精神攻撃を仕掛けてくる。
ジュリアスはセシリアを自業自得だと睨んだ。
「他にないのか」
「他とは?」
「俺の良いところ。もっとあるだろ」
催促するも、セシリアの反応は薄い。
「そうですねぇ。黒髪で紫目で格好いいですし、それから、顔も整っていて格好いいです。背もすらっと高くて脚も長いし格好いいと思います」
適当に言ってるのが丸わかりだ。
ジュリアスの顔が引きつった。
セシリアは、言い切ったと満足そうに頷いている。
「他は?」
「他は…お優しいです」
以上。
ジュリアスは、肺の空気を出し切る勢いで盛大なため息をついた。
「お前の俺に対する気持ちがよく分かった」
ジュリアスは苛々しながら額を押さえ、項垂れた。
事実は無情だ。
直後、セシリアが焦った声を上げた。
「本当ですよ?本当に坊っちゃんは世界一お優しい方だと思っているのです!私のような者を引き取ってくださって!」
ジュリアスは、じろりとセシリアを見た。
欲しい言葉は、そうではないのだ。
再度大きなため息を吐いた。
今に始まったことではない。
セシリア・ブルーメとはこういう女なのだ。
「もういい、戻る」
淡い期待を抱いた自分が馬鹿だった。
虚しくなったジュリアスが踵を返すと、「お待ちください」とセシリアに袖を引かれた。
「何?」
振り返った先で、彼女は期待に満ちた目で自分を見上げていた。
その表情につい期待してしまう。
彼女の唇が薄く開かれる。
「もう一度、何か話していただけませんか?」
「は?」
「坊っちゃんの声、もっと聞きたいんです」
ジュリアスは呆れた。ときめきを返せ。
「…お前、本当にうざい」
「うざい!?」
セシリアは、うわずった声を上げ、よろめいた。
「うざい。かなりうざい」
ジュリアスは、吐き捨てて腕を振り払った。
ふんと鼻を鳴らして、背を向けた。
背後から「坊っちゃん、ごめんなさい」とセシリアの情けない声が聞こえた。
胸の奥がずきりとしたが、あえて無視した。
小さな仕返しのつもりが、もう揺らいでいる自分がいる。
拗れているな、とジュリアスは自嘲した。
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