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3祖父と孫娘
しおりを挟むフランシーヌが12歳になった年。
父も母も不在で、フランシーヌと祖父の二人きりで夕食を食べている時だった。
黙々と食事をしていた祖父が、突然何の前置きもなく「茶会に出ろ」と言いだした。
茶会と一口に言っても様々で、様式によっては衣服の用意から考えねばならない場合もある。いつどこで催されるのか。
フランシーヌは祖父の言葉の続きを待ったのだが、話は終わったとばかりに祖父は食事を再開してしまった。
フランシーヌは、ナイフとフォークを握りしめ、顔を歪めた。
(何なのよ。詳しく言わないくせに、出ろだなんて)
カチンときた。だが、すぐに気を取り直す。
(……いや、言わないなら知らないわよ)
詳しく聞く気もなかった。どうせ行きたくないし、聞いたところで逃げるつもりだ。
だが、その一瞬の苛立ちを目ざとく見つけた祖父は、口端を上げて嫌味ったらしく言った。
「顔に出すぎだ。馬鹿者が。もう一度はじめから淑女教育を学び直した方が良さそうだな」
祖父は、小馬鹿にしたように、ふん、と鼻を鳴らした。
今度こそカチンときた。フランシーヌはじろりと祖父を睨み負けじと、はん、と鼻で笑った。
「わざとです、お祖父様。使い分けるべき相手は見極めております」
「なんだと!? お前、誰に向かって口を利いている」
「誰だなんて、お祖父様に決まっているではありませんか。他に誰がいるのですか?」
語尾を上げて言うと、祖父の顔はみるみる赤くなった。
「減らず口を叩くな! こんな性悪に育って……お前の顔はヴェロニカに似て美しいのに、性格はエレナに似て最悪だ!! お前のような性悪は嫁に行けんぞ!!」
「またお祖母様ですか?」
うんざりした顔でフランシーヌは言った。
愛妻家の祖父は、亡き祖母ヴェロニカをよく引き合いに出す。
フランシーヌは、祖父の執務室に飾られている肖像画の中の祖母とよく似ていた。
肖像画の祖母は、燃えるような赤い髪に、猫を思わせるくりっとした目をしている。肖像画は、まるでフランシーヌの未来の姿を描いたようだった。もしフランシーヌが碧眼ではなく、祖母と同じブラウンの瞳であったなら、祖父は大層喜んだことだろう。
祖父が「美しい」と言うのも、恐らくは亡き妻の面影を重ねているからだ。しかし、肖像画でしか知らない人間と似ていると言われても、フランシーヌは特に嬉しくもなかった。
「お祖母様のことは存じませんが、性悪なのは、どう考えたってお祖父様でしょう? お祖父様に似ているから私は性悪なのです。だから、私が嫁に行けないのであれば、それはお祖父様のせいですわ」
フランシーヌは、わざとらしくほほほと笑った。
祖父の横に控えている執事のロバートが、くすりと笑う声が聞こえた。
祖父は顔を引き攣らせたが、閉口してそれ以上何も言わなかった。
フランシーヌは、ふん、と鼻を鳴らして目の前の料理に意識を戻した。
茶会の話は、結局それきりだった。フランシーヌは内心ほくそ笑んだ。祖父が詳細を言わないのなら、こちらから聞く必要はない。うまく話を逸らせたと思った。
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