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5堪忍袋が破裂した
しおりを挟む王城へ着くと、父は客間に、フランシーヌは庭園へ案内された。親と子では会場が異なるらしい。
案内された庭園は、すでに到着していた令嬢達で賑やかだった。令嬢ばかりで、令息はいない。
やはりこの茶会は王家が令嬢を品定めする場なのだと、フランシーヌは改めて納得した。年の頃が似たような令嬢ばかりなのが、その証拠だ。
侍女に促されるまま席につき、茶会の開始を待つ。話をしながら待つ令嬢達もいたが、フランシーヌに友はいないためそれはできない。仕方なく、隅の方のテーブルにひとりで座っていると、急に声をかけられた。
「あなた、ローレン公爵令嬢でしょ」
勝ち誇った顔で、茶髪の令嬢が話しかけてきた。腰に手を当てた令嬢が、小馬鹿にしたようにフランシーヌを見下ろして笑う。
「あなた、元平民なんですって?山猿がここに何しに来たの?」
にやにやと嘲るような目でこちらを見る。色々な令嬢と会ってきたが、出会って早々に言葉で殴ってきた令嬢は初めてだった。フランシーヌは一瞬呆気に取られた。
「何とかおっしゃいよ!山猿女」
大きな声で令嬢が更に煽った。
我に返ったフランシーヌは、呆れて令嬢を見た。
大勢の人間がいる場で、何と愚かなことか。まともに構うのも馬鹿らしい。無視をしようかとも思ったが、
「無視するんじゃないわよ!」
令嬢がフランシーヌの脚をつま先で蹴った。
腹は立ったがぐっと堪えた。
このままほっておいてもよかったが、この令嬢はいつまでも絡んできそうだ。フランシーヌは、嫌々ながらも令嬢の要望を叶えてやることにした。
「なんとか、これで満足?」
必殺減らず口である。
言い切り、ふんと鼻で笑うと、みるみるうちに令嬢の顔は真っ赤に染まった。目をつり上げた令嬢は、突然手を振り上げると、フランシーヌの頬を張った。ぺチン、と乾いた音が響く。
「山猿のくせに生意気なのよ!!」
賑やかな会場内に令嬢の怒声が響いた。
来たくもない場所に来て、暴言を吐かれ、殴られた。
表面張力で保たれていたフランシーヌの怒りが、トドメの一押しで、どっと溢れた。
瞬間的に怒りを燃やしたフランシーヌは、椅子から立ち上がると、令嬢のドレスを掴み、思い切り頬をひっぱたいた。
勢いよく振り抜いたため、先ほどとは違い今度は「バチン」と重みのある音が響いた。
令嬢は、叩かれた勢いで横へ倒れこんだ。
一部始終を見ていた周りの令嬢から上擦った悲鳴があがった。先ほどまでの賑やかさが嘘のように、辺りは静寂に包まれた。
その場で、フランシーヌと令嬢はさぞ浮いて見えたことだろう。
分かっていても止められなかった。
怒りに飲まれた視界の端で、茶会の準備をしていた侍女がひとり、慌ててどこかへ走り去るのが見えた。
フランシーヌは、鋭い目で令嬢を見下ろした。
「お前、爵位は?」
問われた令嬢は答えない。
頬を抑えた令嬢が目を釣り上げて叫んだ。
「なんて無礼なの!?人の頬を叩くなんて!!腕を切り落としてやる!!」
「先に叩いたのは、あなたなのだけれど。で、爵位は?」
「元平民の癖に私の頬を叩くなんて、あなたなんてお父様に頼んで奴隷に落としてやるんだから!!」
フランシーヌは爵位を聞いているというのに話が通じない。
「頭だけじゃなくて、耳まで悪いのね。まぁいいわ、そこの」
と、フランシーヌは、会場にいた侍女のひとりを指差した。
「この娘の名と、爵位を言いなさい」
指名された侍女は一瞬、驚いた表情を見せたが瞬時に体勢を整えて、落ち着いた声で応えた。
「ミラリア・ブレイ伯爵令嬢でございます」
フランシーヌの脳裏に、穏やかに微笑む小太りの男性の姿が浮かんだ。目の前の苛烈な令嬢の肉親とは思えぬほど、ブレイ伯爵は人が良さそうであったのだが。
「なんとまぁ…ずいぶんと育て方を間違えられたのね」
「なんですって!!」
「だってそうでしょう。自分より位の高い人間を侮辱して、頬を張るのだもの。阿呆としか言いようがないわ」
「あなたは元平民でしょうが!!」
令嬢はまだ理解できないらしくうるさく喚く。もう育て方云々の問題ではなく、単純に令嬢の頭の出来が悪いのだろう。
フランシーヌは盛大にため息を吐いた。
「貴方…元って何回も自分で言ってるじゃない。元って意味分かってないの?確かに私は元平民だったけれど、それは以前の話であって、今は、私、公爵令嬢なのよ?それでもまだ分からないなら、分かるようになるまで、頬を張って差し上げましょうか?」
そこまで言われて、ようやく気がついたらしい。ミラリアの顔色が変わった。
「私を奴隷に?やれるもんならやってみなさい」
フランシーヌは不敵に笑ってみせる。
「でも、言っておくけれど、私、わりと家族に愛されてるの。あなたの思うようにはならないし、私がどうにかなる前に、あなたの家がどうにかなると思うわよ」
言い終えると、ミラリアは顔を青ざめたまま俯いた。それでもまだ怒りが収まらないのか、ミラリアの地についた手は芝を掴みながら硬く握り込まれている。
まだやりあう気があるらしいミラリアにため息をつき、辺りを見渡す。どう終わらせるべきか考えていると、フランシーヌの名を呼ぶ、ハンスの声が聞こえた。
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