【完結】負けず嫌いが過ぎて、王子と婚約することになりました〜ただ言い返してただけなのに、どういう訳か気にいられてます〜

ぽぽよ

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12虫箱事件を経て深まる友情

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※虫事件の後日談です。虫の詳細描写はありませんが、話題として出てきます。文字で見るのも嫌な方はやめておいた方が安全です。

※次話であらすじを載せます。
2話を飛ばした方も、次話から読んでいただけると嬉しいです。









「なあ、嘘だろ? 嘘だって言ってくれよ」

 久しぶりに王宮に呼ばれて行ってみれば、エドワードが青い顔でフランシーヌを出迎えた。問われるままに件の報復を話して聞かせると、エドワードはさらに顔を青くした。

「嘘だと言ってあげてもいいけれど、起こったことは変えられないわよ」

「それはもう本当だって言ってるじゃないか!」

 だから、先ほどから本当のことしか言っていないのだが?
 フランシーヌは片眉を上げた。エドワードの反応は予想通りだったが、ここまで動揺するとは思わなかった。エドワードがソファに座ったまま頭を抱えていた。

「もっと詳しく聞きたい?」

「絶対いらない、遠慮する」

 エドワードが掌をフランシーヌに突きつけて、全力で拒絶した。その仕草があまりに必死で、少し可笑しい。
 だよね、とフランシーヌは頷いた。
 フランシーヌは、あの後食欲が落ちた。世の中、知らない方がいいこともある。事実を知ってしまうと、純粋に食事を楽しめなくなるのだと知った。
 目の前に並べられた茶菓子を見た。王宮の菓子職人が作った逸品ばかりだ。色とりどりのマカロン、繊細な細工のタルト、そして――
 赤いジャムののったクッキーが目に入り、思わず顔をしかめた。
 あのクッキーは、もうしばらく食べられそうにない。いや、一生無理かもしれない。

「どうかした?」

 エドワードが不思議そうに尋ねてきた。

「言っていいの?」

「やめてくれ」

 即答だった。
 じゃあ、聞かないでよ。
 エドワードが大きなため息をついて、クッキーの皿を遠ざけた。

「それはそうと、ホワイト家だっけ? フランに虫を食わされたって騒いでるらしいけど」

 エドワードが話題を変えた。その声には、呆れと困惑が混じっていた。

「ああ、それね」

 フランシーヌもその話は聞いていた。社交界では、もう持ちきりだ。
 何でもローレン家がホワイト家への嫌がらせで無理やり虫を食べさせたとか。最初に嫌がらせで虫を送ってきたのは誰かと言ってやりたいが、他の人間はそんなことを知らない。真実より、より面白おかしい話を好むのが貴族社会というものだ。
 デボラが送ってきた虫箱のことなど、誰も知らない。知っているのは当事者だけ。

「母様ので懲りたと思ったんだけどね」

 フランシーヌは小さく呟いた。

「また母様の特大パンチが飛び出す前に片付けたいわね」

 エレナの苛烈さを考えると、父のハンスも巻き込んで物理的にホワイト家を潰しにいきそうで怖い。それは避けたい。さすがに、やりすぎだ。

「ああ……それなんだが……」

 エドワードが言葉を詰まらせた。大変言いづらそうにこちらをチラリと見て、視線を泳がせた。

「母上がな、その……面白がってしまって……」

「ん?」

 嫌な予感がした。フランシーヌは姿勢を正した。

「一枚、噛みたいと……」

「は?」

「何でも…そのデボラ嬢のお母上とお父上とは、学生時代に面識があって……その……すごく嫌な思い出があるとかで……」

 エドワードの声がどんどん小さくなっていった。
 つまりは、過去に嫌がらせをされて大層な恨みがある、と。そして今、絶好の復讐の機会が訪れたというわけだ。

「これを機に私刑したいってこと?」

「まあ……有り体に言えばそう……なる」

 エドワードが申し訳なさそうに頷いた。
 フランシーヌは盛大なため息を吐いた。
 大変な大事になってきた。エレナのパンチどころか、王妃の必殺パンチが炸裂してしまう。王妃が動けば、それはもう国家権力の介入だ。ホワイト家に勝ち目などない。

「止められは――」

「止められると思うか?」

 エドワードが真顔で問い返した。

 (無理ね)

 フランシーヌは即座に諦めた。
 王妃とはエドワードを通じて付き合いがあったので、人となりはそれなり理解出来たつもりだ。
 気の良い方で、フランシーヌにもとても良くしてくれるが、怒らせると怖いことも、意外と根に持つ性格であることも分かっていた。
 そして、そこは王妃という職業柄か意思が大変お強い。言い出したら聞かないというのはそういうところから来ているのだろう。

 その後、エドワードから王妃の過去を詳しく聞いた。話を大分まろやかにしてまとめると、王妃は学生時代、デボラの父にしつこく口説かれ、それを妬んだデボラの母に執拗に嫌がらせを受けたのだとか。
 話を聞いてフランシーヌは顔が引きつった。
 子が子なら、親も親であった。王妃に恨まれて当然だ。

「……ご随意に、とお伝えして」

「……すまない」

 エドワードが頭を下げた。エドワードは悪くない。むしろ、わざわざ教えてくれただけ良心的だ。何も知らされずに巻き込まれるよりは、ずっといい。

「なんというか、お互い苦労するわね」

「……本当にな」

 エドワードが深く頷いた。
 苛烈な母を持つ者同士、奇妙な連帯感が生まれる。二人とも、母親の恐ろしさを骨身にしみて理解している。
 友情が、また一つ深まった瞬間だった。



 さてさて、その後は言わずもがな。
 ホワイト家は完全に口を閉じることになった。
 王妃が用意したのは、「飢餓対策推進局」という新設部署。その局長にホワイト家のデボラの父が任命されたそうだ。
 発表は華々しかったらしい。

「ホワイト侯爵は、食料問題に対する先進的な見識と、新たな食文化への深い理解を持っておられます。その功績を称え、ここに表彰いたします」

 そう王妃が述べて、満面の笑みでホワイト侯爵に勲章を授与したらしい。
 飢餓に対する危機意識と、革新的な食文化への理解に感服したとかなんとか言って、遠方の国に大使として送り出したのだそうだ。

 ちなみに、この国には今のところ飢餓の心配はまったくない。
 つまりは、名誉ある左遷だった。
 表向きは栄転。実際は、二度と帰ってこられない僻地への追放。茶会や夜会など華やかな貴族社会で生きることこそが生き甲斐のような人たちにとっては、どんな罰よりもつらかろう。
 というのがフランシーヌがハンスから聞いた事の顛末だった。

 フランシーヌから見て、王妃の復讐は、完璧だった。
 王妃から直々の任命だ。ホワイト家が断れたはずがない。あそこまで対外的に追い詰められれば、泣く泣く従わざるを得ないだろう。

 辞令を受けて一週間後、ホワイト家は静かに王都を去ったそうだ。
 これは実質的に追放だ。それと同時に、見せしめでもあるだろう。
 王妃はしばらく上機嫌だったという。


「僕は母上が恐ろしいよ」

 後日、執務室でエドワードと二人きりになった時、彼が珍しく弱音を吐いた。

「うちの母様も負けず劣らず恐ろしいわ」

 フランシーヌも深く頷いた。あのクッキー事件は、まだ記憶に新しい。

「子供を傷つけられた親はオーガにもなるそうよ」

「悪魔の間違いじゃないか? いや、どちらもか……」

 エドワードが深いため息をついた。
 母親というのは、時に最強の味方であり、最も恐ろしい存在でもあるのだ。

「僕たちは幸運だよな」

 エドワードが静かに言った。

「そうね。敵じゃなくて、味方でいてくれるのだもの」

 フランシーヌも同意した。
 もしエレナや王妃が敵だったら、と想像するだけで背筋が寒くなる。

「絶対に、母上を怒らせないようにしよう」

「私も、母様の機嫌を損ねないように気をつけるわ」


 フランシーヌはエドワードと顔を見合わせ、同時に深くため息をついた。
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